「……分かったよ。エミリア様が殺されるとなると困るからね」
「さっきも言った通り、危害を加えない限り俺はいつでも味方のつもりだ」
この男が何を企んでいるにしても、最初の方は俺を油断させるために仲間のように接してくるだろう。
同じ失敗は二度と繰り返さない。
繰り返してはいけない。
「……最後に一つだけ」
「なんだい?」
「アレのことで自分は知らなかったなんて言い訳が通じると思うな。その時も俺はエミリアを殺す」
「……はて、何のことか分からないけど手厳しいねぇ」
これで通じたならこいつは黒だ。
唯一分からないとすれば……。
「……考えるより行動か。気を付けなくちゃな」
ロズワールのいた部屋を出た。
相変わらずここは居心地が悪い。
さっさと出たいものだ。
「でも、とりあえず寝床と食事だけは確保出来たんだ。まずはここのことを学ぶか」
文字が分からないが、言語は日本語だ。
人間語が通じるなら多少は……なんて考えていたが、まさか日本語をまた使うことになるとは思わなかった。
エミリアから文字を学ぶとして、魔法はどうしようか。
ナナホシは転生者と転移者の違いとして魔力の有無を挙げていたが、俺はあの世界の魔術を使えてもこの世界の魔術は使えない可能性が高い。
そうなると試したいことが出てくる。
……が、エミリアとナツキぐらいしか頼る宛がない現状でロズワールに手の内を見せるのは得策じゃない。
一瞬で分かることだからこの疑問は後回しだ。
今日は少し出来ることだけやって明日から本格的に動いていこう。
まずは……。
気付けば、白い場所にいた。
もはや二度と見ることがないと思っていたこの場所だ。
この空間にもう一度入れた時のためにこの空間でも魔術を使える訓練はしてきたのだ、絶対に殺してやる。
殺意と憎悪を増幅させてヤツがいるであろう方向を振り向いた。
「ヒトガミ――」
絶句した。
そこにいたのはヒトガミ……なのだが、どうにも様子がおかしい。
ヘラヘラしていた笑顔はなく、俺と同じ怒りを見せていた。
それに体がバラバラで封印魔術のようなものがされてある。
なぜ?と一瞬考えるが、俺はある仮説を立てた。
ここにいるヒトガミは、過去転移で未来が変わったヒトガミではないのだろうか。
それが正しいのなら、俺はどうやってか知らないがヒトガミを追い詰めている状況なのかもしれない。
そう考えただで笑みがこぼれる。
俺の過去転移は無駄ではなかったのだと、達成感が生まれる。
「……君は、未来から来たルーデウスか」
「お前のそんなイライラした口調は初めてだな。そんなに俺が憎いか?」
「ああ憎いさ。それもこれも君が未来から来さえしなければ僕が封印されるなんてことにもならなかったんだ、君さえいなければ!!」
「そっくりそのまま返してやる!お前さえいなければ俺は何もかも失わずに済んだんだ!!今ここでお前を殺して……!」
魔術を使おうとして、止めた。
この時代の俺がなんのために封印なんて手段をとったのか理解した。
それを、俺が壊してはいけない。
「……お前が封印されるなら、多分この時代の俺は何も失わずに済んでるんだろうな」
「そうさ、君がオルステッドと手を組んだことで君の知る未来は全て変わった。その結果、君の子孫とその仲間がなぶり者にしてこうして封印したのさ」
「子孫たちが?……俺は、どうなった」
「それを君に教えるとでも?」
こいつ……。
ダメだ、ここであいつの思惑通りに動くな、考えろ。
子孫たちがこいつを封印したということは、俺はもう歳で動けないか、寿命で死んだ可能性がある。
あるいは……。
いずれにせよ、俺が死んだことで子孫たちがオルステッドと打倒ヒトガミのために戦い、勝利した。
……ん、ならどうして封印なんて手段をとったんだ?
いや待て、思い出せ、あの石碑には他にもなにか書いたはずだ。
たしか……そうだ、六面世界の崩壊だ。
あの石碑にはヒトガミを殺すということは最後に残った人界が滅ぶとか書いてあったはずだ。
やはり若い体だと記憶もはっきりしている。
その時はこんな世界滅びたってどうにも思わないとか考えていたが、たしかに皆が無事な世界なら滅んでもいいなんて思わない。
それを考えて封印という手段をとったのかもしれない。
オルステッドに関してはナナホシと話し合った結果共闘する形になったのだろう。
味方になればこれほど心強いやつもいない。
「……それにしても、君は今大変なことに巻き込まれてるみたいだね」
疲れきっているように見えるが、最後の足掻きのように笑ってみせる。
……何故だろう。あれほどまで殺したくて手が届かないと思っていた相手がいるというのに、ここまで無様で弱々しい姿を見せられると、色々な感情が込み上げてきて逆に冷静になれる。
「……俺の異世界転移はお前とは無関係みたいだな」
「当然さ、こんな状態になっててまだ何か出来るとでも?……それに、そんなモノまで連れてくる気は僕にはないよ」
そんなモノ?こいつは何のことを話しているんだ。
ここには無様な格好のお前といつも通り前世の姿の俺が……。
「――え?」
しっかりと見ていなかったというのもあるが、そこにいたのは前世の俺の姿でもなければ、ルーデウス・グレイラットの姿でもない。
もっとおぞましい異物が混ざりあったような体をしていた。
「な、なんだこれ!?」
「さあね、僕もそんなの見たことがない。……君の不幸は僕の幸せのはずなのに、未来の君が不幸でも僕をこんな姿にした君が不幸じゃないから全然面白くもないな」
自分の体の異変に気付いた途端、体が重くなり、闇の中に沈んでいく。
なんだ、何がどうなってるんだ……!
「もう二度と来ないでほしいな。……いや、どうせ誰にも会えないなら話し相手がいるだけマシか……」
「待て!俺はまだ……!!」
ヒトガミに手を伸ばそうとして、届かない。
足掻こうと足掻こうとして、最後に見たのは――。
「――ロキシー!!」
目を覚ました。
……ここはロズワール邸の俺の寝室だ。
起き上がろうとしたが、妙に体がだるい。
この現象は魔力が切れた時と同じ感覚だ。
あの空間……あの世界に転移したことで魔力を消費したのか。
「……体も問題ない」
他にも色々考えるべきことはあった。
でも、最初に出てきたのは喜びだった。
最後に見たあの光景。
オルステッドの周りにいた人の中にたしかにロキシーとエリスに似た子供がいた。
きっとシルフィの子供や子孫もいたはずだ。
あれが、もう一つの未来なのか。
未来から俺が来たっていうきっかけ一つでここまで変えることが出来たのか。
俺は、家族を、助けることができたのだ。
そう思うだけで涙が溢れる。
「……また山ほど考えることが増えたけど、そうだな」
もっと実験を繰り返していけば、過去転移も安定できるだろうし、俺の世界の地獄を変えることが出来るはずだ。
やはりヒトガミは万能ではなかったし、俺がどうするべきかも分かった。
そのためにもまずはこの世界で転移魔術の原理をしっかりと把握しよう。
無の世界に異世界から行くことが出来たのだから秘宝や秘術なしで行く方法がここならあるのかもしれない。
それとは別にもしこの世界の魔法が使えるのなら、俺の世界のものと組み合わせることで秘宝や秘術を作ることが出来るんじゃないか。
それと、今日から日記をつけるようにしよう。
未来の俺が困難にあった時、やむを得ず過去に転移するための起点を作ってやろう。
この世界に来て二日目の朝。
僅かな希望の光に元気とやる気が出た。