この世界のことを知るためには文字を覚えなくちゃいけない。
これだけ広い屋敷なら文字の本ぐらい置いてあると思っていたが見つからない。
本屋で買うしかないが、その為にはお金が必要になる。
くそ、ここまでお金に困る日が来るとは……。
……仕方ない、今日は魔術の実験をするか。
実験をした後に転移魔術を研究していこう。
俺のやろうとしたことを突き詰めればもっと安定して転移が可能になるはずだ。
だが問題もある。
失敗すればもしかすると大規模な転移事件が起きるかもしれない。
今なら仮説を立てられるが、あの転移事件は本当にナナホシが関与しているのではないか。
ナナホシがあの世界に転移するには膨大な魔力が必要になった。
俺が転移するのに体の一部を失う程度だったが、それがナナホシのような魔力のない人だった場合……。
それが転移事件の正体なのではないだろうか。
……なんて、考えてみたところで答えは分からない。
そもそもナナホシを転移させた理由がわからない。
「さて、まずは……」
遠方にいる相手と通信をする魔術は魔力の違いから使用不可能なことが分かっている。
魔力の違いだと断定できるのは通信をしようとした時に魔力がかき消される感覚があったからだ。
それも乱魔のような強制解除ではなく何とも言えない感覚の解除だった。
となると、一先ずテレポートだな。
過去転移の研究の際に原理は理解している。
「場所は庭でいいか」
正確にテレポートできるのかやってみたいが生憎地形を把握出来ていない。
今度ナツキの部屋教えてもらってそこにテレポートできるか試してみよう。
……そもそもこの世界で使えるならの話だが。
「テレポート」
一瞬世界が真っ白になり、俺の体は下に降りていく。
……この魔術は使わないでおこう。無駄に消費する魔力が大きい。
魔導鎧の10%出力程度の魔力を持っていくのは使い物にならない。
やはり転移魔術はもっと研究が必要だ。
そうして世界が白から色を取り戻した瞬間。
「いくぜエルザ――!!?」
素振りをしていたナツキの目の前にテレポートしてしまい、咄嗟に右手で受け止めた。
「適当にテレポートしたのが悪かったか。悪いな、次からは人のいない所にする」
「る、ルーデウスさんか……。ほんと同じ異世界人と思えない高スペックしてるっスよね」
「転生して長いからな。俺のいた地域の魔術は殆ど使えるぞ」
土魔術を使って久しぶりに人形を作ってみる。
作品は魔法少女。
うん、もう作れないと思っていたが随分いい感じの仕上がりになった。
「魔法少女!?何の作品か分からねえけど完成度高ぇし買ったら万は超えるんじゃねえか……」
「……それもそうか、これも売って金を儲けるのもアリだな」
これが繁盛するなら楽な仕事だ。
一度ロズワールに売ってみて反応次第では商売をしてみよう。
いや、あの野郎に売れる気がしないな。
やっぱりロズワールに売るのはなしだ。
……それにしても、相変わらずナツキは俺といると他人行儀というか、硬いな。
年上だからって見た目はナツキと変わらないからタメで話しても問題ないが……、それとも別の理由でもあるのか?
「いいなー、俺も魔法とか使ってみたいっスよ」
「異世界転移ならもしかすると魔法とか使えないかもしれないな。この世界の肉体じゃないから」
「んな!?俺の異世界生活早くも絶望的……?いや、そんな時は剣を極めて剣士として生きていくのも一つの手か」
「その時は俺が魔術師として助けてやるよ」
「それ俺いらないやつっスよね!?ルーデウスさんに寄生してるコバンザメ程度の扱いになるやつっスよね!!」
相変わらずというか、ナツキは動きがオーバーだな。
きっと日本じゃオタクだけど普通に学校生活楽しんでる系の人間だったんだろうな。
「俺は暫く魔術の研究をするつもりだけど、剣の練習をしたいなら付き合ってもいいぞ」
「そういやルーデウスさんって剣も凄かったスよね。……よく見る異世界転生ものの主人公みたいで羨ましいっス」
「……羨ましい、か」
俺はお前が思っているような勝ち組じゃない。
むしろ俺は負けたんだ。
ただ、そうだな。
守りたいものを守れて、ハーレムを作って、少々のエロいこともして……。
「……お互いそんな主人公みたいな存在になれるといいな」
「俺はこれからっスね!当面はラムとレムの仕事手伝いながら、エミリアたんを俺が守れるぐらい強くなるための稽古をルーデウスさんにつけてもらおうかなーと」
「いいぞ、もし俺から一本取れればそうだな……エミリア人形ミニサイズを作ってやろう」
「え、エミリアたん人形……!」
唾を飲む音が聞こえ、同時に木刀を持つ手が強くなっている。
握り方を見ると初心者という感じじゃなさそうだ。
剣道でも習っていたのかもしれない。
「でも、習い事と実戦は全く違う」
土魔術で作り出した短剣で木刀を受け流し、泥沼で体勢を崩す。
全くの初心者じゃない分闘気は纏えなくても数年あれば何か一つは中級の域には到達出来るだろう。
いずれはナツキがエミリアを守ることになる。
自分の惚れた女ぐらい自分で守れる力が必要だ。
「お前に教えるのは俺の知る剣術の一つ、水神流だ」
水神流という響きがカッコ良かったのか、目をキラキラさせて「よろしくお願いします!」と改めて頭を下げた。
剣神流は闘気あっての剣術だが、水神流なら自分の身を守りながらエミリアを守るための力にもなるはずだ。
剣神は初級をマスターできる程度に教えて水神をメインで教えよう。
俺だって剣術はそこそこしか扱えないしな。
「いいか、俺の動きを見てしっかりと受け流してみろ」
「お、オス!」
力強く踏み込み、闘気を纏おうと試してみる。
……ダメだ、稽古で闘気を使うのはパウロが許してくれなさそうだ。
いや、俺自身が闘気をマスターするためにもそこは使わせてくれよ……。
「俺の攻撃を連続で二回受け流せれば今日の稽古は終わりだ」
「ルーデウスさん、それは流石に甘く見すぎじゃねえっスか?二回ぐらいなら俺だって――」
「ほい」
「あだぁ!?」
無駄口を叩いている間に一撃だけ入れる。
……無駄口叩くだけの反応はできるのか。そこに早さもあれば意外と早く終わるかもしれない。
「……って、今のは初見殺しじゃねえっスか!」
「戦闘なんてそんなものだ。ゲームと違って初見殺しだからリトライとかはねえんだ」
「……まあ、それは、そうっスよね……」
それから俺も闘気を纏った剣での戦闘を想定した動きでナツキに攻撃をした。
最初の方こそ受け流せずいいとこなしだったが、日が暮れかけた頃には三度斬りかかれば一度受け流せる程度には俺の動きについてこれるようにはなっていた。
そして、俺も少しばかり熱くなっていた。
「よし、これはどうだ!」
「こんの……!」
大きく振りかぶった一撃を入れる瞬間に体勢を低くし、懐に入り込む。
これに反応できるか……。
「こういう動きにも慣れておかないとエミリアを守れないぞ!」
「う……うおぉぉ!!」
「……!!」
ナツキはあろうことか剣を右手で受け止めた。
それは、稽古だからできる行為だ。
今のは自分の手を失う行為だった。
だが、同時にこいつはエミリアを守るために自らの手を犠牲にしたという考え方もできる。
……いずれにせよ。
「――お前はバカか!次稽古で手なんか使ったら全裸にして水ぶっかけるからな!!」
「いつの時代の拷問!?てか……ルーデウスさんってそういうの」
「無詠唱でできる魔術をあえて詠唱付きでやってやろうか?」
「ごめんなさい!」
全く、人をとんでもないやつ扱いするなんてどういう教育だ。
……まあ、少し前までやってたことを思い出すと間違いじゃないが。
二日目、昼
魔術の実験と転移魔術の研究をしたかったが、ナツキとの稽古で意外と時間を使ってしまった。
こんな暇をしている場合は……と思う反面、久しぶりに楽しいと思えた。
……ノルンは今でも素振りなんかは続けているのだろうか。
もしかすると、パウロのように強い剣士になっているのかもしれない。
それにルーシーだって……。
……そうだ、どんな理由があってもヒトガミだけは、あいつだけはどんなに時間がかかっても殺さなければならない。
……殺さないと、いけないのだ。