Re:ゼロからやり直す異世界生活   作:草バエル

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遅かった

ー???視点ー

 

気付けば暗い所にいた。

どこを見渡しても真っ黒な世界で立っているのかどうかさえ怪しい場所で頭を整理しようとする。

なぜ、こんな場所にいる?

一体何があった?

丸一日分の記憶が抜け落ちている感覚だ。

 

……そうだ、たしか死んだのか。

どうしてかも覚えていないが自分が死んだということだけは理解した。

だとするとこの暗黒は死んだ後の世界というわけか。

 

(……なんだか疲れた、一眠りしよう。そうして消えるのを待つだけだ)

 

記憶が曖昧で思い出せないというのに、死んだとはっきり理解してからは何もかもどうでもよくなる。

もう、出来ることは何もないのだから。

 

(……あぁ、ただ……)

 

――最後に、一目見ておきたかったな。

 

そうして目を瞑る。

それがどれほど続いたのか、次第に意識を取り戻す。

 

(……まだ、意識があるのか)

 

眠っていると起きるのは生物として当然だ。

そんな当たり前のことが自分にできた。

できてしまった。

 

まだ自分という存在は消えないのか。

それとも、死後の世界とはこんなにも孤独なのか。

 

「――おい、大丈夫か?」

 

声がした。

そして突然の異変に目を開いた。

その光景は、彼を混乱させるには十分なものだった。

 

 

ールーデウス視点ー

 

この世界に来てから五日ほど経過した。

相変わらずこの屋敷にはうんざりする。

だが、そんな俺にもまだマシだと思える空間が出来た。

 

「……また来たのかしら」

「外のことに疎いからな。ただ本を読むだけだからなるべく迷惑かけないようにするさ」

 

文字を覚えることに関して初めこそどうしようか悩んでいたのだが、たまたまこの空間に入ることに成功し、それ以降コツを掴んだためこうして出入りしている。

文字は昨日で全て覚えたため、早速魔法や歴史について学んでいるのが、この世界はやはり全く原理が違う。

どんな生物にも存在しているゲートか。

俺のような異端者にもそれはあるのだろうか?

使えない可能性が高くなったが、ゲートさえあれば魔術と兼用していくことで新しい発見にも繋がるだろう。

そして、気になることがもう一つ……。

 

「……魔女サテラか」

 

封印されているということはまだ死んでいない。

それが意味するのは様々な可能性が考えられるということだ。

 

「魔女教徒……ヒトガミの使徒みたいなものか。見分ける方法はないのか……」

 

怪しいヤツには要注意ってことだろう。

……待て、もしヒトガミのように被害に遭ったものにしか分からない特徴があるとすれば……。

……それはないか。そもそも覚えがない。

 

「よし、今日はこれぐらいにしておくか。また明日も来ると思う」

「……勝手にしたらいいかしら」

 

彼女もこんな何度も来る俺を下手に扱おうとはしない。

……意外と贈り物で渡したパック人形が気に入ったのか。

ベアトリスは一度食事に来ていたのだが、パックと仲が良かったように見えたから手土産で渡したのだが、それが大好評。

以後、ベアトリスは俺が来ることも一応認めてはくれている。

 

「今日はアレを作らないのかしら?」

「魔導鎧か。……一人で作るには限界があった」

 

ベアトリスは許容してくれているものの一つ、魔導鎧。

……の形をしているだけの人形と変わらないものだ。俺が作るには何かが足りない。

クリフとザノバがいれば……。

闘気と魔導鎧を合わせればと考えてこいつを作ろうとしているが、やはり俺一人で作るのは無理なのか?

 

「……何を作ろうとしているのか分からないけれど、一回り大きくすればその術式とやらも組みやすくなるんじゃないかしら?」

「大きく、か」

 

いつだって小さいものより大きいもののほうが不格好でも作りやすいものだ。

たしかに大きいものを作ってコンパクトに出来そうなら俺サイズに小さくしていくのもありか。

ネオジ〇ングのようなものを考えてみよう。

俺が安定して作れるサイズだとザノバと作ったものより一回りもふた回りも大きくなるが、俺が作るものとしては出来は良くなるだろう。

焦らず確実にヤツを殺す準備を整えていくんだ。

 

「なんにせよ、今日はもう遅い。明日にするさ」

 

図書館を出て浴場に向かう。

ここの浴場は基本俺とナツキぐらいしか入ることがないため落ち着ける場所の一つになってきている。

 

「はぁーい、久しぶりだねぇ」

「……ちっ」

 

目の前にいる野郎がいなければ今日も平和ではあったと思えるものを……。

最近見ていなかった野郎だが、外出でもしていたのだろう。

俺自身メイド共とも極力話さないようにしていたのは失敗だったかもしれない。

 

「……まあいい、魔法のことで少し聞いておこうと思っていたところだ」

「氷の魔法使いとそんな話が出来るなんて光栄だねぇ」

 

人を小馬鹿にしたように俺の方を向くが、イライラしてはいけない。

よし、リラックスだ。

あいつのペースに乗せられないように……。

 

「俺がどの属性が得意か分かったりするのか?」

「?氷の魔法使いだから火じゃないかぁ」

「いいや、あれは独学で学んだものなんだ……実際のところ何が一番なのか分からなくてな」

「ふぅむ、その言い方だと全属性使えるような言い方だねぇ」

「信用ならんって顔されてもな……こんな感じだ」

土魔術で作った岩を投げ、落下地点に泥沼を発動させる。

砕けたものがこちらにいくつか飛んできたからそれを凍らせる。

 

「どうだ、全属性に適正があると思ってもおかしくないだろ?」

「……これはこれは。才能だけ見れば私以上かもしれない」

 

感嘆と共にロズワールの瞳がギラつく。

それはもうとてもいい人材を見つけた時のように。

こいつは使えるといった顔をしていやがる。

 

「それだけのことが出来るならわざわざ適正を確認する必要はないんじゃないかなぁ」

「それは……いや、そうだな」

 

あまりがっつきすぎても良くない。

とりあえず力を見せておくっていうことは成功したんだ、欲張らないでおこう。

そこで、俺はもう一つの疑問を解消するために行動に出る。

 

「ロズワールの魔法を見せてくれ。俺も気になっていたんだ」

「大したものは見せられないと思うが……君になら特別に少しだけ見せてあげようじゃぁないかぁ」

 

ロズワールは嬉しそうに小さな炎を出した。

それを俺に近付けて「今はこれぐらいで我慢してくれ」と言うが、それを無視して俺は火に触れた。

 

「――乱魔(ディスタブ・マジック)!」

 

火がかき消される。

成功だ。この世界でも乱魔は使えるようだ。

原理が違うものでも、魔法がどうやって発動しているのか理解できれば応用しだいで消せそうだ。

 

「騙して悪かったな。こいつも独学で学んだんだが、使えるのか不安だったんだ」

「――」

 

ロズワールはとんでもないものを見るような目で見ていた。

こういうのは初めてか?

……いや、それでも完全に余裕は消えてないってことは魔法以外も使えそうだな。

 

「……本当に、君は私を驚かせてばかりだ」

「大抵の生物なら殺せると思っているからな。それ相応の技術だけはある」

 

ロズワールが魔法だけの男じゃないとなると、闘気をもっと練習しつつ魔導鎧も完成を早めるべきか。

今の俺は強いが列強並かと言われればそうではない。

闘気を使って列強並、魔導鎧も合わせれば不老不死でもない限り殺せない相手もいないだろう。

 

 

五日目

乱魔の発動に成功した。

魔導鎧も詰まっていた部分がベアトリスの助言で少しは進展があるかもしれない。

 

転移魔法の研究に関してはまだまだこれからだ。

とりあえず明日俺の部屋とナツキの部屋を自由に転移できるか試してみることにする。

 

 

「なんせあそこには……!!」

 

日記を書いていた手が止まる。

なんだ、これ。

 

「うっ、おぇ……」

 

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。

今までに感じたこのとない寒気と苦しみに支配される。

……ロキシーも、同じ苦しみがあったのだろうか。

こんなにも、辛かったのだろうか。

 

「ぐ……くそっ……なにが、どうなって……」

 

瞬間、扉越しから殺意が向かってくる。

泥沼で動きを止め、即座に岩砲弾で吹き飛ばす。

殺しては困る、治癒魔術で体を回復させながらどうして俺を狙ったのかを聞かなければならない。

 

「答えろ、何が目的だ」

 

片手で治癒魔術を使いつつもう片方で岩砲弾で狙い殺す準備をする。

しかし、答えるはずがない。

 

「なぜ俺たちを狙った……青髪メイド」

 

レムだかラムだかニアだかメロだか知らないが、そんな感じの名前だったメイドにただ真っ直ぐな殺意を向ける。

当たりどころが悪かったのか、もうすぐ死ぬだろう相手に尚も殺意を向ける。

 

「……治癒魔術で治る気配がない……はっ、もうダメだな」

 

俺も今度こそ死ぬ。

原因もわからないまま俺は死ぬ。

どこで間違えた。どこで油断した。

分からない。原因が分からない。

ああそうだ、いつだって俺は分からないままだった。

そうして気が付くのは誰かを失った後だ。

今回は気付かないまま俺が一人死ぬだけだと考えれば少しは楽なものか。

 

そんなことを考えていると、メイドが虚ろな目で呟いた。

 

「……――」

 

俺はその時どんな顔をしたのだろうか。

だが、彼女のそれを理解した。

もしかしてと思っていたことが当たってしまった。

 

つまり、そうか……そういうことなのか。

くそ、こんな時に気付くなんて……。

ヒトガミが言っていたのは……。

 

――やはり、俺は、いつも気が付くのが遅すぎた。

 

そんな後悔ばかりが俺の心を支配していき、意識が途絶えた。

 

 

 

 

数時間後、俺は自分の部屋で目を覚ました。


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