「なぜわからないのですかっ! この方法こそが唯一絶対の道だというのに!」
「間違っているからだ! 確かに君の方法で助かる人も増えよう。だが、同時に監視社会となりそこに自由はなくなる!」
「自由など人の迷惑にならない程度でいいのです。なによりも優先されるのは安全な安寧の社会です!」
オールマイトの速さは凄まじく、歪曲が間に合わないです。錫杖でガードするも吹き飛ばされて屋上にある給水塔に激突して埋め込まれます。間に合わないのなら、その前に配置すればいいだけのこと。
「これで大人しく……」
「まだですよ!」
「くっ!」
接近するオールマイトもとろも周りを歪曲させて下の階に落ちる。同時に諦めずに活路を見出す。意思の力で"個性"を強化する。透視能力の"個性"が限定的なな未来がみれる千里眼に相応しい力となりました。
数秒先の未来をもとに複数の回転軸を設置します。しかし、これだけではたりないので、小さな回転軸を大きな回転軸とし、さらに立体的に設置することでオールマイトの速度に対応して自動発動させます。
「これで終わりです」
オールマイトが立体式回転軸に入った瞬間、小さな回転軸が自動で発動して大きな回転軸も含めてすべて起動します。おかげで空間が軋み、威力はすさまじい破壊力になるでしょう。放置すれば空間に穴があきそうですが、同じ物を重ねて360°回転させれば問題ありません。
「これ、はっ! 400%のままでは無理だ。ならばっ、600%っ!」
更にオールマイトの筋肉が盛り上がり、速度がさらに早くなりました。こちらも数秒先から数十秒先へと瞳を酷使して限界を乗り越えていく。
「はぁああああああああああぁぁぁぁぁっ!」
回転軸を空間に設置する方法では間に合わなくなってきました。それにオールマイトの身体はどんどん巨大化していきます。こりもどんどん限界を超えていきます。そもそも私の力も最初は視界の中の物を大きくする小さなものでした。歪曲は鉛筆を捻じ曲げる程度でした。
ですが、こうあると決めれて常に発動し続ければ全てがかわりました。今も力が増しています。オールマイトが速度をあげれば私も色々な速度が跳ね上がっていきます。
「君の"個性"は目に関するものでなぜ私についてこれるのか、不思議だね」
「精神力で全ては乗り越えられます。貴方もそうでしょう、オールマイト」
「まったくだね! ならば私も更にその先へと行こうか!」
「負けませんっ! 勝つのは私ですから」
「だが、この距離は私の領域だ!」
接近され連続に殴られます。近距離戦では回転軸を作っても、オールマイトの一撃を防ぐには力が足りません。まるで拳が数百に分裂しているかのような攻撃を錫杖で必死に防ぎます。
「このまま押し切らせてもらおう!」
「まだですっ!」
錫杖から高速で抜刀し、仕込み刀で斬りかかる。しかし、オールマイトは無視してきます。普通ならオールマイトの筋肉の鎧を通過できません。ですが、私ならできます。できるはずです。いえ、必ず成功させます。
「な、にっ!?」
不正でいたオールマイトの拳が私の中に入ってすり抜けていきます。そして、身体が横に出た瞬間、オールマイトの腕の中にある仕込み刀を実態化して腕を斬り落としました。
「油断しましたね」
斬り落とした腕から大量の血が噴き出し、私の白い衣装が真っ赤になります。振り返りながら反対側にある仕込み刀も抜き二刀を構えます。オールマイトは筋肉で止血してしまいました。
「透視能力を透過能力に強化したのか」
「そうです」
これこそが閣下を目指すとき、あの放射能の能力の代わりに考えた能力です。閣下の力は防御を無視して内部から破壊します。それにかわるのは私の透視能力です。これなら相手の中までみれるのです。それを身体や身体の一部と認識している武器にも適応させてしまえば問題はありません。
互いに相手の攻撃を避けながらも、相手を殺すために動く私と相手を生かしたままで捕らえようとするオールマイトでは力の性でています。この状況では私が有利ですが、こんなところで止まるつもりはありません。流される涙を笑顔にかえるのが私の役目であるがゆえに。
「君の考え方は早急すぎる」
「私の方法で人々の慟哭は終わり、民は笑えるでしょう。何時かではなく、今です。だいたい、ここ数年待ちましたが、なにも変わっていませんでした。だからこそ、私がやるのです」
「そんなやり方では敵をますだけだ。いずれ民衆は離れて死ぬことに……」
「いいえ、人々は悲しい過去を持つ者には同情します。さらにその者が必死に世界をよくする方に自らを犠牲にして働いていたら人はついてきます」
「何を……」
「オールマイト、反響がすごいですよ」
空には多数のテレビ局のヘリが飛んでいて私達を映している。そして、その中には私の過去の情報を流しているものもあります。
「ああ、少しみてもいいですよ。休憩にしましょうか」
「じゃあ、お言葉に甘えようか」
「信じるのですか」
「ああ、君は信じられるからね。だが、これは……まさか……」
「そうです。私がされたこと、その映像をネットに流しました。大反響ですね」
閣下と同じように行動だけで人をつけることはできない。あれは戦時であることも理由の一つでしょうが、この時代では
「浅上少女は自分のことをなんだと……」
「目指す頂きに到達するためなら、何を犠牲にしても進みます。自らの恥辱くらい曝すのにどうということはありません。その程度で民衆が味方になるのなら、容易いでしょう。みてください。世論も貴方ではなく私を押しています。そもそも大男が少女を襲っている映像にしかみえませんからね」
「ああ、これじゃあ私が悪役じゃないか」
「そうですね」
私を庇護し、応援してくれる人と反対に批判してくる人は多いです。ですが、オールマイトを倒せばそれだけで問題ありません。民衆にとってどちらも正義の味方なのですから。
さて、休憩はこれで終わりとしましょう。戦いを再開するとやはり片腕がなくなり、血を失ったせいで動きが鈍く……いえ、更に強くなっています。まるで命の灯を燃え尽きさせるように身体から大量の煙をだしながら戦っていきます。
「オールマイトっ!」
「くるんじゃないっ!」
飛び出してきた人を庇おうとしてオールマイトが無謀に私に身体を曝すので、容赦なく回転軸を作ってねじ切ります。しかし、発動の瞬間に嫌な予感がして飛び退ります。
次の瞬間には私の目の前が真っ赤な炎で染まり付くしました。床も溶けています。いつの間にか軍用のヘリがあり、そこから沢山のヒーローがオールマイトの盾になっていました。
「何の用ですか。邪魔をするなら排除しますよ」
「当然、邪魔をさせてもらう」
どうやら、ヒーローの皆さんのようですね。どちらでもかまいません。邪魔をするなら排除するまでです。
「逃げるんだ!」
「遅いです」
錫杖を鳴らすと同時に回転軸を作って発動する。オールマイトとの戦いで限界を超えた私はコンマ数秒で終わりました。全員の手足を叩きおり、地獄絵図です。しかし、誰も避けられないとは最初から心臓を狙ってもよかったかもしれません。いえ、さすがに一人だけは無事ですか。
「全身を炎に変えることで塞ぎましたか」
「厄介な能力だ」
不定形の炎を歪曲しても意味がないですね。心臓すら炎にしてしまうとは驚きました。ですが、炎すら残らないように広範囲で消し飛ばせばいいだけです。
「エンデヴァー、皆を頼む」
「お前……」
「オールマイトっ!」
「緑谷少年。君は私の後継者、ヒーローになれる。いや、なるんだ。頑張ってくれよ、少年。ふんっ!」
崩壊しかけていたビルを完全に破壊して他の人と私達とでわかれました。オールマイトの表情は死を覚悟したもののそれです。私達の足場は崩れて空中にいます。瓦礫を飛んで別のビルへと移ろうとするとオールマイトが襲い掛かってきます。
二人で戦いながらビルや空気の壁を蹴って垂直に駆けあがったりして、激しい戦いを繰り広げますが、死ぬつもりで全てを出し切ってくるオールマイトは流石に強いですね。
「はぁああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!?」
ビルの屋上で放たれたオールマイトの全身全霊を受けた一撃は音を、光を置き去りして迫ってくる。これは確実に死ぬでしょう。ですが――
「まだっ、ですっ!?」
――私の視界は光に飲まれて吹き飛ばされました。
緑谷出久
浅上史奈が巻き起こした事件から一年。崩壊したビルの屋上には立ったままで拳を振りぬいたオールマイトの死体が見付かった。しかし、浅上史奈の姿はなく、あったのは彼女の片腕と刀だった。オールマイトの死は悲しいが、それよりも日本が内戦状態になったことだ。
浅上史奈が
『なぜわからない! 彼女のとった道こそが唯一絶対の道だということを!』
すぐにデモがおき、それを
「オールマイト、これからボク達はどうすればいいんでしょうか……」
オールマイトのために作られたお墓の前で手を合わせる。僕は掃除をするために綺麗にするために水を汲みに行ってもどってくると少女がオールマイトの墓の前で立っていた。その少女はオールマイトの墓に献花をささげた。
「おまえは、いきて……」
「ああ、あなたはオールマイトの弟子でしたか。私が生きていたのは不思議ですか?」
「当然だ! オールマイトが死んだのになんでお前だけっ!」
「決まっています。それが民の意思だからです。それと私は死んでいました。ですが、民の願いによって蘇っただけです」
「そんな馬鹿な……」
「どちらにしろ、私の勝ちです。オールマイトと私の一時の死によってできた空白期間は世界の不条理を知るには十分だったでしょう」
「まさか……全て計画した行動だったのか!」
「当然です。オールマイトはあの場で死ぬのはわかりきっていました。ならば次に繋がる手を打つのは当然です」
「なんでなんだよ! どれだけの人が犠牲になっていると思っているんだ!」
「必要な犠牲です。故に彼等の思いは全て私が背負っていきます。より良き未来のために」
何も変わっていない。まるでオールマイトの戦いが無駄であったように。
「史奈様。お時間です」
「これから世界を平和な停滞の時にしちゃおう」
いつの間にか彼女の背後には軍服姿の指名手配犯が集まっていた。彼女達こそ、
「前は一人でしたが、次は頼もしい仲間がいます。ですので、ここで改めて宣言しましょう。我々は平和で安寧な世界をオールマイトのかわりに作り上げてみせます。ですから、ゆっくりとおやすみください。あなたの意思も引き継いで先ヘ進みます」
「ふざけるな! オールマイトを殺しておいてっ!」
「文句があるのなら、何時でも殺しにきてください。私は逃げも隠れもしません」
「もう時間だから、私が相手をしているよ」
「では、後は頼む。お嬢様、こちらへ」
「わかりました」
浅上史奈が去ろうとして、ぼくはフルカフルを使って全力で攻撃する。だけど、赤い髪の少女が立ち塞がってその子が僕に触れると急に身体が重くなった。足元をみると無数の影が僕にへばりついていた。
「ひどいな~お姉さんを無視して別の女の子にちょっかいを出すなんて、傷付くよ?」
「っ!? はなせ!」
「どうやら、史奈ちゃんに御熱みたいだね。でも、それ私がもらっちゃおうかな」
「んんんんんっ!?」
その女の子にキスをされて口内を舐めまわされた。
「ふふふ、ごちそうさま。じゃあね、少年。次は食べちゃうからね。それとも停滞した世界でゆっくりととろとろ溶かしちゃおうか」
その少女は影に包まれて消えていった。後は誰もいなかった。しばらくして効果が溶けたのか、僕は倒れた。浅上史奈どころか、その手下にも手も足もでなくてくやしくて涙が溢れてくる。
『まあ、手ごたえが変だったから生きているとはおもっていたけれどね。これはやられてしまったね』
「え?」
『相変わらず泣き虫だな、緑谷少年』
「オールマイト?」
『そうだ。君の中に入っているワン・フォー・オールの残滓さ。そして、オール・フォー・ワンの力の一部かな。彼の執念ともいうべきかな。君にこの力を残すそうだ』
「オール・フォー・ワンの……」
『まあ、そんなものはどうでもいい。それで緑谷少年はこのままここでなげいているのかな?』
「いえ、僕はオールマイトの後継者です。だから、浅上史奈を止める!」
『では、私達もいこうか』
「はい!」
絶対に負けられない。このまま彼女のすきにはさせない! 絶対に勝つ!
「遅かったですね。何をしていたのですか」
「もうはじまりますよ」
「ふふふ、ちゃんと計画通りにしてきたよ。でもえげつないね」
「私が悪の天敵になるためには必要なことです」
「そもそも史奈様に逆らう者など死刑でかまわぬだろう」
「三日以内に日本を完全制圧し、治安を回復します。はじめますよ」
「「「「はっ!」」」」
三日後、政府は崩壊し、新しい政府がたった。日本は表向きは平和になり、反乱分子は他国に潜った。こうして日本は新時代の時を告げる。
数年後、舞い戻ってきた緑谷出久は浅上史奈にせまり、オールマイトの仇をとろうとする。復讐劇の幕が上がる……かもしれない。