せめて穏やかな終末を   作:おなら

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 それは奇怪な妖精だった。

 通常、レプラカーンは他者に観測されて初めて存在を許される。それまでは朝露のようなもので、誰に知られることもなく消えてしまう妖精も少なくない。

 その妖精はまるで普通の人間のように存在し、容姿も野生の妖精ではありえない10代半場程であった。しかし確かにレプラカーンとしての性質を備えていた。

 

 その妖精は、端的に言ってありえなかった。

 彼女らの存在意義ともいえる聖剣(カリヨン)への適合性は、数少ない妖精達の中から更に一握りの素質ある者。それらが調整を経て、ようやく使用可能になる兵器である。

 その妖精は生まれながらに聖剣を振るっていた。

 

 その妖精の持っていた聖剣は、この世界の歴史を否定した。

 聖剣(カリヨン)とは人類が生みだした叡智の結晶といえる。だが例の聖剣は大賢者にすら解析不能。それでいてある点において他の聖剣(カリヨン)どころかあらゆる兵器を圧倒した。

 

 総合して、それは完全に人の理解を越えていたので、臭いものには蓋ということで、通常のレプラカーンと同じように扱うということにした。

 

 

 

 以上のことを知るのは、当事者であった医者や研究員。記録として一応は目に通した真面目な軍人ぐらいであろう。

 これは一応トップシークレットなので、名義上では管理者であるナイグラートですら知らないことである。

 彼女が知るその妖精は、空を眺めていることの多い少し不思議な少女で、それでも頼れる年長さんだった。

 

「ねえ、ノーマ。少し頼まれてくれないかしら」

 

 金砂のような髪を揺らし、ノーマと呼ばれた少女はナイグラートへと向き直った。

 一瞬だけ翠の瞳を泳がせ、小さな口を緩ませ言った。

 

「まず内容が知りたいな」

 

 最もと言えば最もだ。これが体育会系の後輩先輩なら許されざるだが、幸いなことに彼女らは違った。

 

「ええ、そうね。先走っちゃったみたい。

 今日は軍から新しい管理者が来るみたいなのだけれど、もうこんな時間じゃない?」

 

 空は満天の星空模様。平地ならば問題はないだろうが、周囲を深い森にぐるりと覆われているこの倉庫に辿り着くのは初心者には難しい。

 

「だから様子を見に行って欲しいのよ、おねが~い」

 

 手と手を合わせて頂きます……ではなく。拝み倒すように言われてしまった。

 そういうことなら仕方がないと、ノーマと呼ばれた少女は快く引き受けた。

 

 さて行こうかと玄関に足を向け、――――思い出したように少女は振り返った。

 

「そういえば、クトリはどうしてる?」

 

「クトリなら、いつも通り年少組の相手をしていると思うわ」

 

 それがどうしたの?と、なんでもないように。実際に彼女にとっては何でもないことなので、特に気負うことなく答えた。

 

「なら良い」

 

 背を向けていたので表情まではナイグラートには分からなかったが、特に気になる様子は見られなかった。

 だからまあ、何の気なしに聞いたのだろう。

 青髪の少女の名を聞いて、迎えをクトリに頼む選択肢もあったなと考え、いや頼むなら最年長のノーマが適切だろうと考え直した。

 

 

 

 

 

 

 

 遂にこの日が来てしまった、というのが正直な感想である。

 ノーマはもはや漆黒といっても良い森の中を歩きながら考えた。

 

 この世界に救いをもたらさんと奮い立って、十分な力を貰ったにも関わらずこの体たらく。軍から出撃命令が来ないとか、この体が脆すぎるとか、色々思いつくが所詮は全て言い訳でしか無い。

 この地で怠惰に過ごしているうちに、一体何人の命が失われ、不幸が起こったのだろう。

 

 でも、ああ。それも今日でお終いだ。エムネトワイト最後の生き残りにして主人公ヴィレム・クメシュ。彼がようやく来るのだ。

 どうしても会えなかった大賢者と違い、彼ならばもう目と鼻の先にいる。きっと正しい力の振るい方を教えてくれる筈。

 

 盗み聞きして先回りでもしたのか、いつの間にか()()()()ずぶ濡れになっていたパニバルと彼に声を掛けた。

 

「こんばんは。そしてようこそ我らが妖精倉庫へ」




短い……
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