せめて穏やかな終末を   作:おなら

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 もしも彼がもう少しだけ妖精の真実に近づくのが早ければ、果たして事態は好転していたのだろうか?

 

 

 

 

 

 

「ヴィレム・クメシュ呪器技官」

 

 呪器技官と、呼ばれ慣れない言葉を付けるのは彼女くらいだ。

 

「おー、なんだノーマか。どした?」

 

 背中から話しかけられたので振り返る、という至極当然の動作を行い向き直った。

 

 小柄(といっても子供の多いこの場所では十分大きい。あくまで大人に比べてだ)な少女が何か難しそうな顔をして立っていた。

 

 金の髪は脱色したような不自然な色合いだが、他の子に比べればまだ自然。こだわりなのか、今日も一房だけつむじから跳ねていた。

 

「今は暇ですよね?」

 

「あー、今はちょっと立て込んでいたような」

 

 ぴょこぴょこと跳ねるいわゆるアホ毛に気を取られながら答えた。

 

「いえ今日はまだ何も頼まれていない筈。そも名ばかりの呪器技官殿に職務など無いはずですからね」

 

「う、いやー、なんだ。そんなこともないぞ」

 

 この子は痛いところを突く。皮肉げな物言いは見た目不相応に大人びていて、最年長だというのにも納得だ。

 

「……何度言っても同じだ。戦い方なんて教えられない」

 

 だから正々堂々。彼女のお願いを否定した。

 

 彼女は「でしょうね」と相槌を打ち、

 

「今日は気が変わる物を見せてあげようと思ってね」

 

 そう言って、ポケットから鍵束をガチャリと取り出した。

 

「見せたいもの?」

 

 彼女に先導される道すがら、あまり良いものでは無いのだろうと思いつつ聞いた。

 

「私達が兵器だってのは聞いているよね?」

 

「…………ああ」

 

 いきなりの確信。とはいえ、未だに信じがたいのは事実だ。

 この数日、彼女たちと過ごして抱いたイメージは、ただの天真爛漫な子供たちだ。

 目の前の大人びた子供も、正直平常の外に出るものでもない。

 

「秘密というには半分だけだけど、気が変わるぐらいのものならここにあるよ」

 

 そうして足を止めた。この建物にはえらく不釣り合いな、金属製の、重圧な扉だ。

 5つもある鍵を全て開け、少女は力を込めて、……込めて、

 

「開けて」

 

 ふてくされたように、ヴェレムに懇願した。

 

 金属の、重圧な扉だ。少女では開けることすら困難なのは仕方がない。気軽に開閉できるのは、男であるヴィレムか、怪力のナイグラートくらいだろう。

 

 つまり、この扉の向こう側は、この少女が1人で立ち入ることが想定されていない領域なのではないだろうか。

 そして仮にもここは軍施設である。勝手な行動をすればどうなるか。

 

「よし、開いたぞ」

 

 だからこそ、その先には致命的な秘密があるのだと理解し、躊躇うことなく侵入した。

 

 ヴィレムは小さなランプの光を頼りに、暗闇に目を細める。そこにあったのは、

 

「――ははっ」

 

 小さく笑ったヴィレムを、ノーマは冷めた目で眺めていた。

 彼女にとっては既知の反応であり、特別感慨深いものではなかったのかもしれない。

 

「結論から述べると、私達はこの武器を扱えるから兵器として扱われる」

 

 前置きもなく言った。

 

「私達はレプラカーン。人間の代わりを務めることができる唯一の種族」

 

「戦うために生み出され、予定通り散っていく1つの弾丸」

 

「そして、獣達と戦う現代の勇者よ」

 

 彼が真実を反芻し、消化し終えるのを待ち続ける。

 鍵の管理は厳重ではなかったけれど、そろそろナイグラートが気づくかもしれない。

 

「1つ、聞きたい」

 

 絞り出したような小さな声だ。

 

「今この時も、誰かが戦ってるのか?」

 

「貴方が会っていない妖精が2人いる。彼女たちは地上へ行っている筈だから、戦っているでしょうね」

 

「そうか」

 

 彼の周りは、それなりに平穏だった。

 準勇者として戦い続けていた地上と違い、蘇ってからは灰色の景色でありながら、あるのはちょっとした小競り合いだけ。

 

 だからだろうか、いつしか勘違いしていた。

 

 “この平穏は無条件で在り続ける”

 

 そんな訳がないのだ。仮にも準勇者であった自分が、なんという勘違いをしていたのだろうか。

 

 ありえない。なんてありえない。

 

 なのに、

 

 

 

 ――――握りしめた拳は、数秒も保たずに力尽きた。

 

「――――分かった。全面的に協力する」

 

 決意を込めて――本当は自分が戦いだろうに――彼は裏方に徹すると宣言した。

 

「ありがとう。よろしくお願いしますね、先輩」朗らかな笑顔で笑い、手を差し伸べた。次に焦った様子で付け加えた。「じゃあナイグラートにバレない内に消えましょう」

 

 彼女たちが兵器なら、責任を追求されるのは果たして誰なのだろう。

 素早く握手を済ませ、努めて軽く言った。

 

「やっぱり勝手に持ってきたのかよ。食べられんぞ」

 

「私は美味しくないから……」

 

「あら、そうでもないと思うわよ?」

 

「「……」」

 

 扉の向こうに鬼が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「事情はおおよそ理解できたけどな」

 

 話し手をノーマからナイグラートへ変え、部屋も薄暗い倉庫から彼女の自室へ変更。より詳しい話を聞いた。

 

「まあ、態度は変えないつもりだぞ」

 

「そう、良かった」

 

 ナイグラートは心の底から安堵し、次いで押さえ込んでいた疑問が口から漏れた。

 

「あの子はどうしてあんなことを……」

 

 あの子とは言うまでもなくノーマのことだ。わざわざ妖精たちの秘密を晒した理由が理解できなかった。

 勿論、動機を聞いたヴィレムには理解できていたから、ぼかしながら擁護した。

 

「焦ってたんだろ。エムネトワイトが来たからカリヨン……、ダグウェポンについて教えてほしかったのさ」

 

 そういえば、どうして戦いへの教えを請いたのだろうか。エムネトワイトならば全員が戦えると勘違いしていたのかもしれない。

 そのあたりは今となってはどうでも良いかと、ヴィレムは無駄な考えを閉め切った。

 

「そう、彼女が……。最年長だから、色々と思う所があるのかしらね」

 

「最年長って、何歳ぐら、いや失言だった忘れてくれ」

 

「あら、良い心がけね。

 でも私も知らないのよ。ここに来た時にはもう居たから」

 

「私よりも年上かも」と続けて言われた冗談は曖昧に笑って誤魔化した。君子危うきに近寄らずである。

 

 紅茶を一息で飲み干した。

 

 さて、そろそろ彼女の“罰”が終わるころだろう。約束を守るため席を立った。

 

「そういえば、」

 

 一番重要であろうことを聞き忘れていた。

 本人に聞くべきかもしれないが、物によっては準備が変わってしまう。

 

「ノーマはどのダグウェポンを使うんだ?」

 

「彼女の名前はノーマ・エル・エクスカリバー。だから適合したのは、遺跡兵装(ダグウェポン)エクスカリバーね」

 

 聞いたことの無い聖剣(カリヨン)だった。

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