今この場には5人居るが、内4人がダグウェポンに選ばれた者である。
クトリ、アイセア、ネフレン。そしてヴィレム。
仲間はずれの私、ノーマ・エル・エクスカリバーはしかして当然のようにここに居て、そして受け入れられている。
「えー、これから訓練を始めるわけだが」
やや緊張しているように見えるヴィレム。
慣れていないのと、相手が(見た目)か弱い私達だからの戸惑いか。
「その前に、お前らのダグウェポンを見せて欲しい」
3人の武器を知らない訳ではあるまい。
視線は私達4人に平等に注がれているが、間違いなく私へと向けられた言葉である。
「うーん、イマイチ納得できてないけど」
どこか釈然としない様子でクトリがセニオリスを構えた。
クトリと私が端に立っているので、仲間はずれがばれるのは最後になるだろう。
それまでは空でも眺めていようか。
好きなのだ。雲を眺めているのが。
「インサニアは『使い手の恐怖心を後回しにする』タレントがある。
格こそ高くないが、どんな相手とも戦える優れたダグウェポンだな」
まあ、強すぎる相手に挑めるのも問題があるが。と付け足して彼は締めくくった。
「ほーう、流石はエムネトワイト。私達よりもよっぽど詳しいっすねえ」
アイセアが小声で言った。
確かに、それが本当なら凄まじい革新だろうとクトリは自らの剣をじっと睨みつけた。
セニオリスは死を刻むという。どんなに巨大なティメレであろうと、大きな力も込めずに殺せるのなら、継戦能力が飛躍的に上昇する。
“正しい”戦い方とやらを彼が教えてくれるというのだから、至れり尽くせり過ぎて泣きそうになってくる。
「気に食わないっすか?」
……アイセアはいつも、こちらの心を見透かしてくる。
「まあ、ね」
それ以上は言葉が出なかった。言ってしまえば、次から次へと言葉が溢れてきそうで、とても口にできない。
アイセアはそれすら察したのか、「そっすか」といつもの軽い調子で会話を打ち切った。
「で、次はノーマなんだが」
彼が困った様子で口にした。
それもそのはず、彼女は手ぶらだったのだから。
ノーマは私がここに来た時にはもう居たが、戦場で肩を並べたことはなかった。
それでも彼女の武器は一度だけ見たことがある。
「分かってる。今見せるよ」
ノーマの剣は特殊だ。まず私達のようにわざわざ持ち歩く必要がない。
今のように虚空に手を伸ばし、どこからともなく呼び出せる。
「――――」
彼が息を呑んで、目を見開いた。その現象も驚きだが、最も身を引くのが剣そのものであろう。
それは私達のダグウェポンとは一線を画する剣だった。
刀身には一切の繋ぎ目はなく、銀の刀身は磨き抜かれた鉄を思わせる。
サイズは通常の長剣程度で、一見して普通の武器のように見えてしまう。
だが、それが普通などとは誰も思わないだろう。
まるで昔話にある、ドラゴンを打ち破った勇者の武器。
万人がイメージする聖剣そのものの姿である。
「この剣が私の武器。エクスカリバー」
だが彼女の言い方は、まるでイタズラを咎められたようだ。
「この剣が私の武器。エクスカリバー」
聞いたことのない
だから自分が倒れた後に生み出されたか、はたまた歴史とともに埋まっていたのを文字通り引っ張ってきたものかとヴィレムは考えていた。
だが、一目見れば分かる。これは
その性質上目に見える繋ぎ目があるはずだし、多くのタリスマンを束ねる以上巨大になりがちだ。
そのどちらの特徴も示さないそれは
だが普通の剣とはどうにも思えないのも事実である。
おそらく、これ事態が1つのタリスマンなのではないだろうか。
剣の形に加工し、戦闘に耐えうるタレントを保持させる技術を、自身が倒れてから人類の滅亡までの期間で生み出せたとも思えないので、セニオリスよりも遥かに古い。
「あー、すまんがその剣のことは知らん。逆に俺が教えて欲しいぐらいだ」
「ほー、技官殿にも知らない剣があったすねえ。
ま、あたしも良く知らないんで、詳しく教えてくれるとありがたいっす」
ネフレンが同意するように頷いた。
その所作はあまりにも控えめだったので、ノーマには届かなかったようだが。
「この聖剣のタレントは、巨大な斬撃、というかビームかな?」
イマイチ要領を得ない発言だが、広範囲を攻撃するタレントのようだ。
ヴィレムは納得したが、アイセアはまだ満足していないようだ。
「うーん、でもそれだけじゃあ、説明できない現象があるんすよね」
アイセアは貼り付けたような笑顔のまま、人差し指をノーマへと向けた。
「レプラカーンにしてはあまりにも長生きしすぎている。
そのあたりの秘訣も聞いておきたいっすね」
「ちょ、アイセア?」
見かねたようにクトリが口を挟んだ。
彼女たちのなかで、そのことに触れるのはタブーなのだろうか。
ヴィレムはレプラカーンについての詳細をしらない。
ノーマの年齢を知らない。他の妖精達だって同じだ。
知っているのは、ナイグラートが涙ながらに語った、「彼女たちは20歳の誕生日を迎えることもできない」という発言だけ。
戦士故の短命とは、どうにも違うようだった。
この辺り、ナイグラートを問い詰める必要がありそうだ。
「確かにビームじゃ長生きはできないね」
ノーマの返答は軽い口調ながら、懺悔をしているようにも見えた。
「私は『不老』だからね。寿命があるかは知らないけど、多分ないと思う。
だから『不老不死』か」
「一通り紹介は終わったし、そろそろ本題に入ろうよ」
「え、ああ、そうだな」
思ったほどの追及もなく次に進めそうだった。
彼彼女らはこの世界に疎いし、考えすぎだったかもしれない。
発見された時は検査に次ぐ検査だったらしいが、その時もこの世界の理論に上手いこと押し込められたのだろうか。
私自身はその時ずっと眠っていたので詳細は不明だ。
今度先生に会った時に聞いてみよう。
「戦い方つっても実際どうなんだ? お前らがどれくらい戦えるのか知らんのだが」
彼の疑問は教官として最もらしいと思えたが、クトリには下に見られていると思ったのだろう。険のある言い方で答えた。
「君よりは強いんじゃない?」
「まあまあ……」
このままだと「お前の力を見せてみろ」とヴィレムに戦わせるようなシチュエーションになるかもしれない。
「……」
ムッとした顔でこちらを一瞥し、クトリは顔を伏せる。
彼女からの好感度は低いと思う。小さい頃からあまり話さなかったので。
彼女がべったりだった先輩が居たが(というと彼女は怒るかもしれないが)、私はまあ、見捨てたことになるのだろうか。
助けられたとは思えないが、なんとなく話しづらい。彼女に対してはそんな小さな負い目があるのだ。
アイセアやネフレンも、理由は違えどあまり話さない。
だからさっき追及された時は、驚いた。
それはさておき。
「実際に戦っているところ見れば分かるんじゃないかな」
「あー、良いのか?」
とヴィレムが気を使ったのは、クトリに対してだろう。
私が口を開くと、アイセアが代わりに言い放った。
「良いと思うっすよ。
で、誰と誰が戦うんすか?」
こっちもこっちで随分と棘があるが、対象が違う。彼女の挑戦的な視線は私に向けられていた。
「じゃあ、私とアイセアでやろうか」
私は微笑みながら答えた。
――ならば受けて立とう。彼女には先延ばしにした問題もある。
「んじゃ、胸を借りますよ、先輩」
「ええ、全力で来なよ、後輩」
さて、どちらが本当に先輩なのか。それは分からない。
それでも――――
本当の彼女を私は知っているのだろう。