瀧は人生の岐路に立っていた。
高校を決めた時よりも、大学を決めた時よりも、就職先を決めた時よりも、いや、就職先はここしかなかったから選びようがなかったな。
そんなことを思い苦笑いしていると、目の前の問題を思い出し苦虫を噛み潰したような顔
に戻ってしまう。
仕事を終え、いつもなら真っ直ぐ家に帰るはずだが、今日は違う。
悩んでいるのは朝出会った彼女――宮水さんに連絡をするかということ。
今朝会ったばかりなのに、その日の夜に連絡をするのはがっついていると思われるだろうか、会って話をしたいと言ったらチャラい男と思われるだろうか――
考えれば考えるほど、不安な気持ちがふつふつと沸き上がってくる。
今日はやめておこう――そう思った時、ふと気づく。
朝、眼が覚めるとなぜか泣いている。
こういうことが俺には、時々ある。
そして、見ていたはずの夢は、いつも思い出せない。
ただ、何かが消えてしまったという感覚だけが、目覚めてからも、長く、残る。
何かを忘れているのか、何かを、いや、誰かを探しているのかは分からない。
明日も、起きた時に泣いているかもしれない。
でも、根拠も、理由もなく、もう二度起こらないだろうと思った。
頭で考えても何故なのかは分からないけれど、俺の体が、心がそう確信している。
今、彼女に会わないとまた戻ってしまう。
毎日が何か物足りなくて、何かを、誰かをずっと、ずっと探していたあの日々にまた戻ってしまう。
それに気づいた俺の手は自然に動き始めていた――
〜〜〜〜〜〜
三葉もまた、人生の岐路に立っていた。
上京するのかを決めた時よりも、大事な選択だと思っていた。
仕事終わり、同僚から飲みに行かないかと誘われたけど、今日はそんな気分じゃなかった。
彼に会いたい、会って話がしたい。
ただ、それだけだった。
仕事中は、何を話そうかとか、もう連絡しても迷惑じゃないかなとか、余裕があったのに、いざ連絡するとなると手が全く動かない。
急に連絡したら、迷惑かな、驚くかな。
彼は、いやがるかな。
今日は連絡をやめて飲みに行こう――そう思った時にふと気づく。
朝、眼が覚めるとなぜか泣いている。
こういうことが私には、時々ある。
そして、見ていたはずの夢は、いつも思い出せない。
ただ、何かが消えてしまったという感覚だけが、目覚めてからも、長く、残る。
朝起きた時に、何か大切な、とても大切なものを忘れてしまうあの感覚。
いつからだったか、もう忘れてしまったけれど、何かを、誰かを探している。
その誰かというのは彼――立花くんのことなのだろうか。
おそらく、いや間違いなくそうだろう。
頭で考えても何故なのかは分からないけれど、私の体が、心がそう確信している。
彼に連絡をしよう、そう決意した時――
ぴろり〜ん。
スマホが鳴った。
「ひゃっ!」
始めてケータイを買ってもらった小学生が、始めてのメールに驚いたような悲鳴を小さく上げる。
周りの人がちらりと見てくる。
少し顔が赤くなるのを感じながら、誰からの連絡なのかを確認する。
その差出人は――