ダンガンロンパX:行け!希望ヶ峰高絶望部 作:二階から牡丹餅
過度な期待はしないでください。
ダンガンロンパを原作にもってきている以上、人死に描写、残酷な描写、グロ表現が多数含まれますのでご注意ください。
学級裁判パートでは、皆様にも推理をしていただければと思い、捻った形をつくってみました。
くどい表現が多々ありますが、その点ご容赦いただければ幸いです。
→ PROLOGUE おいでませ、絶望ホテルへ
Chapter1 あいつ、幸運止めたってよ
Chapter2 抹殺ネレイドスター
Chapter3 絶望メイデン
Chapter4 魔法少女しにぎわ☆マジカ
Chapter5 おお、希望よ。死んでしまうとは情けない
Chapter6 絶望洋画劇場・火葬剣の女
今回から二話はプロローグとなります。
私立、希望ヶ峰学園。世界中のあらゆる分野における超一流の生徒だけを集め、その才能の塊を育て上げる場所、だと言われている。この学園を卒業することは、その時点でキャリアを認められたも同然。各分野において最前線で活躍することが約束される……のだそうだ。
だが、そうした大きい機関には、往々にして闇と呼ばれる部分が存在する。この学園にいると言われる『超高校級の絶望』を見つけ出し、逮捕すると言うのが俺に課された任務であった。希望ヶ峰学園は、言わば治外法権と言ってもよい場所だ。警察官僚や政治家、各国の国王クラス、広域指定暴力団や海外マフィアであっても『超高校級の』才能を持っていないと中に入ることすらもかなわないため、その内部は謎に包まれていた。そこで世界各国は、こぞって『超高級の』才能を持つ若者を内部調査のために希望ヶ峰学園に送り込んでいった、と言われている。
そうは言っても、どうして僕なんかがこの学園に入ることになるのだろうか。生活安全課に所属している僕にしてみれば、事件の真犯人を追う刑事とかとは違って、そんな事件とは無縁な生活を送っていたのに。田舎町でおじいちゃんおばあちゃんの安全を守っている方が向いているのだ。今年は、『超高校級の刑務官』や『超高校級の検視官』、『超高校級の鑑識課』に『超高校級のSP』、『超高級の囮捜査官』など、政府関係者が必死になって才能をかき集めた連中が入学しているため、『超高級の絶望』を探し出すのも時間の問題だろうし……僕が作戦に参加する意味はないと、思っていた。
思っていた、などと曖昧な表現しかできないのにはわけがある。希望ヶ峰学園の門戸を潜ったところまでは記憶があるのだが、何故かその後の記憶が存在しないからだ。追っていたはずの『超高校級の絶望』を探しに入った他の警察関係者がどうなったのかも全く覚えていない。気が付いたときには、何故か旅館の客室と思われる場所で寝ていたのだから。
警察手帳も、特に変化もない。どうやってこの客室に入ったのかも覚えておらず、何故かベッドの中に入ってぐっすりと眠ってしまっていたのだ。どこかで睡眠薬を混入させられたわけでもないだろう。
最後に記憶にあるのは、希望ヶ峰学園の門の前で無線を傍受したところだ。その後、何か飲料や食料を口にしたわけでもないし、注射を受けた記憶も無い。それに、薬物を摂取した跡があれば、すぐにわかると言うものだ。
そうなると、僕はどうしてこんな場所に寝ているのか、それが分からなくなる。教室の机で寝ていると言うのなら話は別だが、ここはどうみても学園の内部には見えない。超高級グレードのホテルの客室……それも、スイートルームクラスの部屋としか考えられなかった。
窓から見える景色は、僕が地上数十階の場所にいることを指し示していた。そして、ここが都心でないことも同時に指し示していたのだ。広大な敷地の先に広がっているのは、鬱蒼と茂った森林だけ。こんな場所が希望ヶ峰学園のはずがない。希望ヶ峰学園は、都心に存在する巨大教育機関なのだから。
「……じっとしていても仕方がないよね。流石にさぼるわけにはいかないし、僕も捜査を開始しようかな」
記憶がない、というのはどことなく陰謀の臭いがするものだ。特に希望ヶ峰学園においては、常人では考えられないようなことを平然とやってのけることが考えられる。『超高校級の催眠術師』でもいたとすれば、僕には全く関知できないままに眠らされているかもしれないし。どんな人間がいるのかもわからない以上、犯罪に加担されれば逮捕が難しくなると言う懸念を警察機関は常々抱えている。今回のことも事件の一つだと考えれば、得体のしれない体験をしていることにも納得がいく。誘拐事件だと言うのならば、犯人は随分とついていなかったのだろう。『超高校級の生活安全課』とは言え、警察官を誘拐してしまうとは、犯人からすれば不運に違いない。痕跡が少しでも残っていれば、それをもとに犯人を割り出すことも可能だろう。
客室を出てみれば、よくあるホテルと同じ構造らしく、この階には客室が続いている廊下とエレベーターホールしかないようだった。エレベーターホールの階層説明板によると、一階から四階には大浴場や宴会場、カラオケホールと言った娯楽室も存在するようだ。部屋の数が異常に少ないと言うのは気がかりであるが、取り敢えずはこの建物がホテルであるということは間違いない事実のようだった。
エレベーターホールに置いてあるものをあれこれ物色していると、唐突に声を掛けられた。声の高さからして女性、それも高校生くらいと言うことから、彼女も誘拐されたのだろうか。
「あー、お寝坊さんを見つけました。一部屋だけ鍵がかかっているから起きてこないから誰かと思っていたんだよ? 早く行かないと……皆、一階のレストランで待ってるよ」
彼女の口振りからすると、他にも何人か誘拐されていると考えられた。このホテルの客室の数は十八。その内一部屋だけ、つまり俺の部屋だけに鍵がかかっていたとすれば、他には最大でも十七人の被害者がいる可能性があると言うことだった。
「君も気が付いたら客室で寝ていたってところ?」
「そうなんだよねー……レストランにいる皆が、希望ヶ峰学園の入り口からの記憶をすっぽりと失っちゃっているみたいで、気が付いたらベッドだったってさ」
十五階で停止していたエレベーターに乗り込みながら、彼女と情報を交換する。彼女の言葉から、集団誘拐事件だと言う事実が浮上する。希望ヶ峰学園の入り口に差し掛かったところで無作為に誘拐したとみて良いだろう。ホテルの客室の数から、新入生が全員誘拐されたとは考えにくい。希望ヶ峰学園は世界中からの入学生の為、マンモス高校とも言えるくらいの学生数を誇る。一年間の新入生は優に三ケタを超えるはずなのだ。客室の数が二十にも満たないこのホテルには、それだけの人数を収容することはできないからだ。
そもそも、今年は警察関係者や政府関係者が多く入学している年なのだ。同時に何人も姿を消したともなれば警察本部が動くことになるはず。新入生がインターネットで公表されているわけだから、わざわざそんな危ない橋を渡ろうとする犯罪者はいないだろう。
「あのさ……考え込んでいるところ悪いんだけど、自己紹介だけでも済ませておかない?」
高速エレベーターが一階まで降りるのは、本当に短時間だ。あれこれ思考の海に溺れていた俺が黙り込んでいた時間はせいぜい二分と言ったところだろう。たかが二分だとは思うが、エレベーターの中で見知らぬ相手と二人っきりになった上、会話が一切ないと言うのは居心地が悪い。
既に一階にエレベーターが到着し、扉が開いたばかりではあったが、目の前の少女の言葉で無言空間は切り裂かれた。
「ごめん……悪かったね。僕は、『超高校級の生活安全課』である黒星端基。誘拐されてしまって不安だとは思うけど、安心してよね。これでも、地域の皆には頼りにされてるんだから」
「わー、やっぱり警察の人だったんだね。服装でなんとなく想像はついていたんだけど……それで、どうかな? 外部との連絡は取れたのかな? 多分……無理だとは思うけど」
僕が持っている無線機に目線を向けながら問いかけてくる彼女。既に彼女自身か、あるいは他の誰かが外と連絡を取ろうと試した後だと言うことだろうか。確かに山中ではあるが、どこにも連絡が通じないと言うのは少々妙なところだ。
「ま、警察とは言えここでは特別じゃないってところだね。……本当に警察が有能かって言えば、私は無能だと思うけど」
「……どういう意味? 警察を馬鹿に出来る状況ではないと思うよ?」
「私の尻尾もつかめないなんて、警察は無能だってことだよ? だって、私は『超高校級の犯罪者』、綿折斬子なんだから。犯罪者の、それも全世界的指名手配犯の情報の一つすら手に入れられない警察に頼ることなんてできないんだよね」
『超高校級の犯罪者』、綿折斬子。その姿を見たことのある目撃者は一人もいないと言われる、超世界的な犯罪者。軽いものでは詐欺に窃盗、万引きや業務妨害。重いものであれば殺人、誘拐、放火に傷害、国家転覆に政治犯罪。収賄、教唆、テロに至るまで、あらゆる犯罪を完ぺきにこなして見せる超一級の犯罪者の名前だ。
勿論警察としても彼女を捕まえようと努力をしてきた。でも、その足取りは愚かその顔や体型すらも把握できなかったのだ。完全犯罪以外の犯罪を起こしたことがない彼女を追い詰める証拠などどこにもなかったのだから。
実際、綿折斬子という名前は世界中を渡り歩き、政治的にはいがみ合うことも多い全世界の国々が共通して指名手配していると言う今世紀最大級の犯罪者だ。彼女が犯人だと言われれば、その方が現実味を帯びてくる。それぐらいの犯罪者なのだ。
「……あ、考えてることは理解できるけど、今回の私は被害者ね。まさか、この『超高校級の犯罪者』を出し抜く犯罪者が現れるなんて、驚いたってところ」
「……僕が逮捕したら、あっという間に昇進かもね」
「どこにでもいる女子高生を捕まえて逮捕だなんて、日本の警察はあてにならないのね」
確かに見た目は、人畜無害そうな女子高生だ。どこにでもありそうなセーラー服、やや色素の薄い青色のボブカットにちょこんと乗った茶色いスクール帽。一介の女子高生は身に着けないだろうが、髪の上から覗かせている猫耳と言う装飾品。日本の高校生の平均身長を随分と下回るほどの低身長。彼女が世界を騒がせている犯罪者とは、見た目だけでは誰も信じられないものだ。『超高校級の生活安全課』とは言え、一級の警察官としての勘は確かに目の前の人物を正真正銘の犯罪者だと認めていたものの、普通の警察では見抜け無いだろう。心内には有り余る狂気を内包しているのだろうが、彼女からは無害さしか感じないのだ。
現状では、希望ヶ峰学園に所属している生徒を逮捕する権限は警察にはない。『超高校級の絶望』以外の生徒は、たとえ殺し屋であろうと捕まえることが出来ないのだ。
それを知っているからこそ、目の前の少女、綿折斬子は悠然としているのだろう。権限のない僕を嘲笑いながら。
「……取り敢えず、他の被害者の元へ案内してよ。場合によっては、君の犯罪者としての才能を借りることも視野に入れなければ」
「警察官なのに、そんなこと言っちゃって大丈夫なの? 犯罪者とつるむんだよ?」
「君も、『超高校級の犯罪者』である以上、協力し合うのが望ましいでしょ? 超高校級の君や僕を誘拐するような相手に、真っ向から勝負を挑む以上、仕方ないよ」
挑発するような視線はやや面倒なことこの上ないのだが、希望ヶ峰に通うことになる超高校級の生徒を誘拐するともなれば、かなりの手練れだと言えるだろう。そんな相手と真っ向からやりあうのであれば、超高校級の才能を利用させてもらうのも一つの手だと言えた。そもそも、あらゆる犯罪に精通している『超高校級の犯罪者』を出し抜く相手など、一人で挑むのは得策ではない。恐らくはレストランにいるであろう他の捜査関係者と共に、犯人検挙に協力してもらうのが得策だ。彼女を逮捕する手立ても存在しない以上、この事件の間だけでも協力関係を築いていた方が動きやすいだろう。
「ま、私には警察の決定なんて関係ないけどね。どうせ捕まるわけがないんだし……」
「そういうのはいいからレストランへと案内してよ。他の人とも顔を合わせておきたいし」
「私は警察の秘書じゃないんだけどな。……あー、はいはい、分かったって」
やれやれと肩をすくめながら僕の先を進む綿折に、無言でついていくけば、高級ホテルの見立て通り、きらびやかな内装を誇る廊下を抜けるとやたらと大きい扉にたどり着く。エントランスで拾ったパンフレットによれば、この大きい扉の先がレストラン「花水風月」だそうだ。洋風の飾り立ての割に、名前が純和風なのが違和感しか覚えないけど、その味だけは保証されているらしい。保証している人物が、このホテルの支配人である「モノクマ」なんて不可思議で人を小馬鹿にしたかのような名前であることが信頼を揺るがせる気もするけど。
「それじゃあ、取り敢えず入ってみる? この先に誘拐された他の人がいるから」
「君は既に自己紹介は済ませたの?」
「まーね。『超高校級の犯罪者』って言ったら警戒されちゃったし、私の監視役にされちゃうかもよ?」
現在進行形で犯罪に巻き込まれていれば、誰だって犯罪者を警戒するだろう。そういう面では、目の届く範囲に超危険人物がいると言うのは悪くない現状とも言えるのかもしれない。
ちょこちょこと僕の後ろをくっついて来る綿折を無視してレストランの扉を開く。広大な敷地面積を誇る高級ホテルだからか、そのレストランの規模も洒落にはならなかった。
「あー、私を無視して勝手にご飯食べてる! 美味しいそうなものばっかり食べやがって!」
「ねぇ、ちょっと! 危険な薬品が入っている可能性もあるでしょ!」
レストラン内部では、何故か用意されているバイキングメニューに舌鼓を打っている被害者たちがいた。どうもお互いに親交を深めあっているのか、置かれている料理には疑問を持っていないようだった。
先ほどまで後ろにいた綿折が一目散に料理へと駆け寄り、大きい皿に取り分けているのを見て、僕は思わず彼女を呼び止めた。『超高級の犯罪者』たる彼女が、そのような危険な橋を渡るとは想定していなかったからだ。
だが、僕の静止に声をかけてきたのは、綿折ではなかった。皿に取り分けられたローストビーフを口に運びながら、白衣姿の男性は眼鏡の位置をずらしながら説明してきたのだ。
「ここの料理に危険物質は含まれていないぞ。三種の観点から導き出した結論だ」
「……その根拠は? 流石に根拠もなく信じることはできないんだけど」
僕の言葉に、少し目を細めながら再び眼鏡の位置を確認する白衣姿の男性。白衣を着ていると言うことは、そうした薬物関係の才能を持っているのかもしれない。
「まずは、俺が確認した。この、『超高校級の薬剤師』の薬仙粒司がな」
『超高校級の薬剤師』こと薬仙粒司。世界中の医療機関が欲してやまない極上の薬を調合する薬剤師だと噂されている存在。大富豪からの薬の注文も後をたたないほどの実力を有する彼ならば、料理の中に危険な物質が入っていないと言うことを宣言してもおかしくはない。彼が白衣を着て、白色の手袋をはめているのは、既に一度料理を確認しているからのようだ。
「……もう一つの根拠としては、綿折さんが食べたことなんだ。ちょっと騙したみたいで申し訳ないんだけど……、そういう風に相手を誘導するのは得意だから。『超高校級の心理学者』の軽戸呂衣子だよ、よろしく」
『超高校級の心理学者』こと、軽戸呂衣子。薬仙と同じく白衣に身を包んでいる彼は、無造作な髪型と着崩れた白衣から薬仙に比べてだらしなく見える。
だけど、その才能は本物だ。少しみすぼらし格好をしているが、彼を頼って世界中から患者が押し寄せる精神科医にして、専行する心理学ではあらゆる人間の心を操るかのように導く方法を提唱して、ノーベル賞を受賞するに至っているほどだ。
「……流石だね。薬剤師がしっかりと確認しているうえに、そっちの綿折さんが食べているんじゃ、安全だと認めざるを得ないよ。僕は『超高校級の生活安全課』の黒星端基、宜しくね」
「ふむ、警察官がいてくれるのはありがたい。犯罪者を野放しにしておくわけにはいかないからな、しっかりと手綱を握って欲しいものだ」
こちらを見定めるように眼鏡の位置を直しながら尋ねてくる薬仙と、何かの資料データに目を移してぶつぶつ言っている軽戸の近くから辞し、離れたところに佇んでいる異様な二人組に声をかけてみることにした。
あのまま薬仙の相手をし続けると言うのも面倒くさそうだったし、まだ自己紹介していない相手のことを知っておいた方がいいと考えたからだ。
「……さっきの話を……聞いていたの。あなたが最後の一人、『超高校級の生活安全課』ってことも……。私は、金霧小森……『超高校級の声優』……よ」
一つ一つの言葉の間に少しだけ間を置くようなしゃべり方をしてきた彼女は、『超高校級の声優』である金霧小森。僕はあまりサブカルチャーに明るくはないものの、それでも名前を聞いたことがあるくらいには有名な声優だ。ブログなどに時折書かれている通り、魔法少女を自称する不思議ちゃんと言う設定で大ブレイクのアイドル声優と言ったところだろうか。確かに、魔女帽子と黒いマントを羽織っている彼女の見た目はまさに魔法少女と言うにふさわしい見た目である。帽子から伸びている流れるような金髪も、その魔法少女と言う設定を活かすためなのだろうか。不思議な身なりをしているものの『超高校級の声優』にふさわしく、七色の声音と言われる彼女は、低音から高音、男性声から女性声まで何でも出せると言うのだから驚くべきものだ。
「ほいほい、私のマジックをまだ見ていないのは君っすか? この『超高校級の奇術師』、手妻吹雪の特別マジックショーっすよ?」
もう一人の少女は、これまたおかしな服装だった。シルクハットが似合っている彼女の衣装は、海外のカジノなどにいそうなバニーガールに他ならない。確かにマジシャンと言えばそう言ったきわどい衣装もあるのだろうが、何故バニーガールのコスチュームの上からブレザーを着ているのか。ついでに言えば、衣装に対して身長が異常に低いからあまりに会っているとは言えない。
そんなふざけた衣装の『超高校級の奇術師』、手妻吹雪と言えば一年間で百以上の公演を行っている世界一のマジシャンだ。人体切断マジックを素人でもできるレベルだと豪語する彼女は、年に数回の人体切断マジック教室を開いていることでも有名だ。
「流石に道具が少ないここだと、コインマジックしかできないんすけどね。あ、部屋にはマジック道具もあるっすよ。取り敢えず……ほら、ちょっと見ててほしいっす」
肩をすくめながら彼女が取り出したのは、青色の蓋のペットボトルと五百円玉だった。どうやら五百円玉をペットボトルの中に落として見せるということだろうが、生憎ながら今の僕には時間がない。マジックのタネも分かりきっているものだし、自己紹介を優先させてもらおう。
「いや、先に他の連中との自己紹介をさせてよ。後でその腕前は見せてもらうから」
「うー、そうっすか? こんな広いホテルなんすから、今日の夜にでも宴会開いて、私がマジックみせてもいいっすよ?」
「……邪魔、しちゃダメ。この人、この……誘拐事件を、解決……しようとしてるんだから」
なら仕方ないっすね、と言う手妻の言葉を背中に受けながら、次の集団に話しかけてみることにした。随分と個性的な服装をした連中が集まったものだと、今更ながらに辟易する。バイキングメニューが並べられている配膳場所のすぐ横で何かを評価するように口を動かしている二人組も、先ほどの二人に負けず劣らずの色物達だ。
「おお、お勤めご苦労様だっぺ。わちきは『超高校級の女将』、前泉温菜だべさ」
『超高校級の女将』、前泉温菜。鳴子温泉にある超老舗旅館の現大女将として活躍している美人女将だ。海外富裕層のリピーターが絶えず、彼女が女将に就任してからと言うもの、二年先の予約を取ることさえも難しいと言われているほどだ。
老舗旅館としての体裁なのか、服装は着物であった。流れるような黒髪と相まって、まさにやまとなでしこと評しても過言ではない印象を与えている。方言が混じっているのか、特殊な喋り方も訪れる顧客には非常に喜ばれるそうだ。
「……ここの料理は、などめんけど……、べっこしょっぱいっぺ」
「ああ、全くだよ。それに、料理の切り方が大きすぎるんだ。これでは、この『超高校級の人形師』、蒼雀水翠の人形たちがご飯を食べれないんだけど」
前泉と共に食事をとっていたもう一人の男子生徒は、さも落胆したかのように置いてあった料理を眺めていた。『超高校級の人形師』、蒼雀水翠。彼の開く人形劇の人気はすさまじく、チケットはわずか三十分で売り切れるとまで言われている。インターネットでは一枚数百万円で取引されるとまで言われている、稀代の人形師なのだ。
ポケットが多いベストを着ているのは、そのポケットの中に人形を入れているからだと言う。どんなに大きい人形であろうと、手足の細かい挙動に至るまで人間と同じように見せかける彼レベルになると、常日頃から人形と一緒にいないと落ち着かないらしい。
「料理はそれを乗せる陶器との相性で受け付ける味が変わるんだよ。確かに前泉さんが言う通り、少し塩分が多いとは思うけれど、やはり美味しい料理は品のある食器に乗せてこそ。人形を動かすにも、やっぱり品がある糸を使ってこそで」
「ああ、この人スイッチが入ると止まらなくなるんだべ。まだあいさつ回りが途中みたいだべし、これは放っておいて他のところに行く方がいいっぺさ」
スイッチが入ってしまったのか途端に語りだした蒼雀の言葉を、前泉がせき止めた。確かにこうした状態の人間を相手にすることの面倒くささは取り調べなどの際に何度か経験しているため理解できる。ここは、前泉のフォローに便乗して他の人間との自己紹介を優先させてもらおう。
二人に背を向けた僕の正面で、僕を待ち受けていたかのように言葉をかけてきたのは、この場でも目立つスーツの集団だった。
「やほやほ、私は『超高校級の新体操部』舞鳥りぼんだよ。あ、スーツなのは……その、流石にここでレオタードは恥ずかしいから、だよ」
『超高校級の新体操部』、舞鳥りぼん。彼女が参加した大会は、必ず彼女が優勝するとまで言われている、超有名な新体操選手だ。オリンピックで全種目制覇などと言う驚くべき快挙を成し遂げたことは記憶に新しい。
幼くは五歳のころから新体操の実力を発揮し、競技界では珍しい満点を何度も獲得している、世界が誇る新体操選手なのだ。
桃色の髪にリボンをつけている天然そうな少女が、協議中には凛々しい顔立ちを見せるのも人気の一つのようだが、その演技は、新体操に興味のないものでも魅了すると言われている。
「この集団でレオタードであれば、ゴシップ記事に抜粋しましたのに。ややや、申し遅れましたね……私は、『超高校級の新聞記者』の朝掛絵斗樹です。以後、お見知りおきをお願いいたしますです、はい」
やけに低姿勢な癖に、どこか胡散臭さを醸し出しながら、慣れた手つきで名刺を差し出して来たのは、『超高校級の新聞記者』、朝掛絵斗樹。フリーライターと言う肩書ながら、有名な新聞社全てに彼の文を乗せる枠が存在していると言うのだから驚くべきものだろう。
政治記事、環境記事、経済記事、エンタメ記事とそのジャンルも幅広く、あらゆる知識に精通していると言える。だが、どちらかと言えば、彼の雰囲気はパパラッチに見えた。胡散臭さと言い、あまり本心を表に出さないタイプなのだろう。朗らかに笑っているようにも見えるが、どことなくこちらの真意を測ろうとしている印象を受ける辺り、あまり信用してはいけないタイプの人間かもしれない。
「……そろそろ二人とも口を閉じてくれないかね? 自慢もそうだが、媚びへつらう君も僕は気に入らないのでね。……僕は『超高校級の翻訳家』、英蘭仏だ。よろしくしてくれなくて結構だけどね」
スーツ集団の三人目は、名前だけ言ってすぐにこちらとの視線を外してしまった。『超口呼吸の翻訳家』である英蘭仏は、気難しい性格をしていると言われながらも、その的確な翻訳から仕事が殺到していると聞いている。
英語や中国語、韓国語にドイツ語、フランス語イタリア語、アラビア語にスワヒリ語……世界各国の言語と言う言語に精通し、翻訳できない言語は存在しないとさえ言われる大天才。古代ギリシャ語だろうがサンスクリット語だろうが平然と翻訳してのけるその実力と、モデルのように整った顔からか、一部の女性にはカルト的な人気すらもある。
僕からしたら、ただのとっつきにくいだけの嫌味な奴としか映らないわけだし、見た目的にもモヒカンなどと言う目立つ格好は好ましく思われない気もする。
「二人とも個性が強いからね……。えっと……ボクは『超高校級の演出家』、千賀元光だよ。こんな見てくれだけど、一応男だから、宜しくね? リハーサルしてから来たから……ちょっとおかしいかもしれないけど」
スーツ集団の中で、きっちりと女性用のリクルートスーツを着こなしているのが、『超高校級の演出家』こと、千賀元光。日本のテレビドラマはもちろんのこと、ハリウッド映画の製作も引き受ける若き実力派の演出家だ。
しかも、映像だけに限らず、音響による演出やシナリオの演出、ゲームにおけるプログラム的な演出すらも一手に引き受けることから今世紀最高の演出家とさえ言われているのだ。
そんな天才中の天才な千賀元だが、本人が以前雑誌のインタビューにすらあげるほど悩んでいるのが、ひいき目に見ても男性には見えないその容姿だ。演出のリハーサルには、彼自身が参加する為、女性キャストの部分は彼も女装して臨む。役作りに励むさまは俳優にも見えるが、そうした努力が彼を世界級の演出家に育て上げたのかもしれない。
「えっと……二人とも、協調性がないんだから。……黒星君はまだ自己紹介の途中だよね? 状況が状況だから、警察としても大変だとは思うけど……ボクもできる限り協力するから、よろしくね?」
ぺこり、と礼儀正しく一礼してから料理を取りに配膳列へと向かう千賀元。個性の強い他の連中も、これくらい協調性があってくれれば楽だと言う言葉はかろうじて口に出すことは無かった。これから協力を仰がねばならないかもしれない以上、変に波風を立てたくなかったのだ。
千賀元と別れ、次の標的を探そうとしていた僕の視界の淵にやけにおとなしい集団が映った。思い思いに話の華を咲かせている他の連中とは違い、二人は自分の世界に没頭しているようだった。
「あーっと……自己紹介だけでも、いいかな? 僕は、『超高校級の生活安全課』、黒星端基って言うんだけど……」
目の前まで言っても視線を上げない二人に、気後れしながらも声をかけてみる。流石に名前も才能も知らないままでは、日常生活にも不自由してしまうだろうからだ。
面倒くさそうに本から視界を上げ、僕に焦点を当てると、再び視線を本のページに落とす。眼鏡はかけていないようだが、本をやけに近づけて読んでいる辺り、この少女はあまり目が良くないのかもしれない。
「……ど、か……おりです。『超高校級の図書委員』の……」
「あー、えっと? 『超高校級の図書委員』の……?」
視線を一切合わせず、一枚の紙を差し出してくる少女。恐らくは、異常なまでの恥ずかしがりやなのだろう。コミュニケーション障害と言うわけではなさそうだが、人見知りが激しいと言ったところか。
彼女が差し出してくれた名刺には、彼女の肩書と名前が書かれていた。『超高校級の図書委員』、喉束栞。今までの連中に比べれば、ようやくの高校生らしい才能だと思われがちだが、彼女の才能は他の連中と比べても遜色がないものだ。
一日の半分以上を読書に捧げるとまで言われている彼女は、寝る間も惜しんで書物を読み漁っていた。その結果、国立国会図書館の書物をすべて読破し、その内容を細部にいたるまで暗記してしまうほどの狂読家なのだ。彼女に書物の名前を尋ねれば、どこの図書館の何階にあるかまで教えてくれる。ある意味では、『超高校級の司書』と言ってもいいのかもしれない。
だが、前髪で目を隠すほどの恥ずかしがりやな彼女に、本のことを尋ねるのは難しいのかもしれない。
「……俺は、『超高校級の弓道家』の虎口乙矢だ。悪いが、今は読書中でね……デートの誘いは……って、男か。なら、なおさら用は無い」
もう一人、本の虫になっていたのは『超高校級の弓道家』と呼ばれる、虎口乙矢だ。いかにも軽薄そうな若者代表という身なりの彼は、派手な紫と言う髪色に加え、ピアスとリング、ネックレスと言う過剰なまでの装飾品で占められていた。彼の言葉通り、女性陣にはこれ以上ないほどに優しい、似非フェミニストと言ったところなのだろう。
その実力はお墨付きではあるのだが、こうしたプライベートの悪癖が雑誌に度々リークされるからか、スポーツマンとしての評価はそれほど高くないらしい。大会に出れば、必ず金メダルを取ってくるとまで言われていると言うのに、性格で損をするタイプなのだろう。
実際、僕に名前だけ告げた後は、つまらない相手に自己紹介をしたとでも言いたげな、苦虫を噛み潰したような表情で読書に戻ってしまったのだから。
喉束は喉束で、こちらに度々視線を向けてきながらも、結局のところ話しかけられないと言う結果に終わっていた。
正直なところ、非常に居心地が悪いのでさっさと次の相手を探そうとその場を後にした僕は、レストランの隅で落ち込んでいる少年とそれを励ます少女を見つけた。
「どうして、『超高校級の幸運』の筈の僕がこんな誘拐事件に巻き込まれなくちゃならないのさ……」
「……実は『超高校級の不運』だったりしてね。あうあう、嘘だって……そんなに落ち込まないでよー!」
『超高校級の幸運』とは、希望ヶ峰学園に毎年必ず選考される特殊な枠の一つだと言える。特に特殊な才能を持っているわけではないそうだが、ある意味では『超高校級の幸運』と言うこれ以上ないほど特殊な才能を持っていることになる。
だが、そんな『超高校級の幸運』の才能を持っている彼が事件に巻き込まれると言うのは、なんとも不運なことだ。彼女ではないが、揶揄したくなる気持ちも分からないでもない。
「あー、お巡りさんだ! えっとね、パトリは浦白パトリって言うんだよ? 『超高校級の合唱部』って呼ばれてるらしくて、海外から来たんだよ。あ、こっちの落ち込んでるのは此指泊ちゃんで、『超高校級の幸運』なんだってさ」
おそらくはメンバー最年少なのが、『超高校級の合唱部』と呼ばれる浦白パトリだ。日本人とフランス人のハーフでもある彼女は、見た目はそのまま西洋の人間に見える。まだ中学校に通いだすかどうかと言う年齢の彼女だが、海外の音楽専門学校を飛び級で卒業し、希望ヶ峰学園に『超高校級の合唱部』として入学したのだそうだ。彼女の歌声は、ソプラノからバスまで澄み渡るように出され、洗練された歌声は聴いている人間の心まで洗い流すと言われている。
すぐにメジャーデビューしてもおかしくないほどの実力を持ちながらも、進んでデビューに動かないのは、彼女自身の謙遜さか、あるいは両親が彼女を危険な世界に飛び込ませたくないのか、そのどちらかだろう。
「パトリね、泊ちゃんを慰めてあげないといけないから、お巡りさんの相手はできないの。パトリのお手々は一つしかないのよ」
なんだか厄介払いされるような形になってしまったが、変にネガティブな空気に巻き込まれない分助かったのだろうか。
どちらにしても、残りの被害者と自己紹介をするにはあの空気と同じくらい面倒そうな空気を発している二人組に首を突っ込まなければならない。
「申し訳ありませんが、あなたのようなすけこまし野郎はきちんと神にお祈りしてくださいませ」
「どちらが下品なことを言っているのじゃろうか? そなたこそ、一度神の元に行って頭を帝王切開してもらったらどうじゃ?」
どちらも言っていることがイマイチ理解できない。若干言葉づかいと言うか、単語の選択センスが少しおかしいのではないだろうか。喧嘩をしているのか仲が悪いのは理解ができるが、会話がかみ合っているようでかみ合っていない気がする。
「えーっと……自己紹介、してもいいかな?」
こちらに飛び火しそうな気もするが、それでも声を掛けないわけにはいかない。誰が人質になっているのかはしっかりと把握しておく必要があるからだ。
当然、俺の考え通りこちらに飛び火はしたわけだが、どちらかと言えば眼中にもないと言うようなあしらい方をされることになる。
「私は、ローマ正教所属の『超高校級のシスター』、マリア・フロマージュですの。あなたにもわかりやすく役職を言うとすれば、次期エロエロファントムですわ」
『超高校級のシスター』、マリア・フロマージュ。ローマ正教に所属している敬虔なキリスト教徒で、既に次期法王の座が確定しているほどの少女だ。だからこそ、彼女は希望ヶ峰学園に『超高校級のシスター』として招聘されたのだろう。
時折テレビでも見かける通り、シスター服で顔の半分が隠れてしまっていることからあまり素顔が見られないが、声音から推察するに、少なくとも日本における高校生の年齢よりは下のようだった。彼女のどこから、おかしな言葉が導き出されるのかは謎だったが。
「妾は『超高校級の裁縫家』、櫛名田姫里じゃ。分かったら、さっさとここを立ち去るのじゃな。そうでないと、そなたを披露宴にぶち込んでしまうことになる」
言い争いをしていたもう一人の少女が、『超高校級の裁縫家』、櫛名田姫里。調べた結果によると、日本でも有数の神社における巫女の跡継ぎのようで、既にいくつかの行事に巫女として参加しているそうだ。
古風な喋り方を通り越してどこか面白おかしくなってしまっているが、巫女服姿のことを考えればタイムスリップをしてきた古来の和風令嬢とも見えなくはない。
言っている言葉さえむちゃくちゃでなければ、だけど。
そんな彼女の才能が、どんな繊細なものでも縫い付けてしまう手先の器用さと、芸術品のように洗練されたデザインの衣服を作り上げることだ。彼女の見た目からか和風のデザインの注文が殺到しているようだが、洋風デザインの注文も世界中からひっきりなしなのだそうだ。年商200億の裁縫家と言うのは伊達ではない。
性格と口調が非常に面倒なことこの上ないのが瑕と言ったところかもしれない。
しかも面倒なことにこの二人、自分の名前と肩書きだけ紹介した瞬間、こちらを無視して言い争いを再開する始末だった。正直なところ、この喧嘩には巻き込まれたくない僕としては、そっとこの場を後にするしかない。
これでようやく全員との自己紹介が終わった、と一息ついたところで他の誰の声でもない声が、レストランに響き割った。
「オマエラ! 本日は、当希望ヶ峰ホテルをご利用いただきまして、誠にありがたい限りです。我が希望ヶ峰ホテルは、由緒正しきホテルでして……」
声の主は、中央テーブルの上に立っていた。
白色と黒色のツートンカラーで出来ているクマの人形。それが声を発している正体だ。
「ご宿泊いただくからには、お題としてコロシアイを払っていただきます! うぷぷぷ……」
気持ちの悪い笑い声をあげながら、薄気味悪いクマのぬいぐるみは、唐突にそれを宣言した。本当に、唐突に。
あまりの衝撃に、レストランにいた僕達は、誰一人として言葉を発することが出来なかった。警察官である僕にも、犯罪に精通している綿折にしても、受けた衝撃は等しく大きいものだったのだ。
小説を書くのは初めて、の二階から牡丹餅です。
やっぱり、見易さ的には改行を多くした方が良いのでしょうか……。
さて、今回はダンガンロンパ特有の自己紹介会です。
小説として、登場人物の多さは致命的ですが、そのあたりはダンガンロンパを原作に選んだ以上しかたのないところです。どうせみんないなくなる、なんて絶望的なことは言いませんが。
全部オリジナルにする以上、オリジナルで書けばいいじゃないか、とも思われちゃうと思いますが、超高校級の才能、おしおき、学級裁判を取り入れてオリジナルだと言い張るのもおかしな話ですので、ダンガンロンパの名前を借りさせていただきました。
原作キャラが非常に魅力的で、裁判一つ一つに心が躍らされました。
頑張って、心躍る裁判を作り上げていきたいな、と思うので、これからよろしくお願いします。