学園内にある資料館、そこには様々な書物や試合記録などが収められている。
試合記録の中にはつい先日行われた食堂での試合や、開校直後のデュエル・システムの試験運転的な試合まで記録されている。
その記録媒体は機械や戦闘機が主流だった時代のものと変わらず、ディスク状のものが使用されている。
資料館の三階、それらのディスクが並べられた室内で、幾年か前のものをマリア=レイドリウスは探していた。
自らの兄と学園史上最強の風属性魔術師と名高いアナスタシア=ペンドラゴンの試合の資料、それは両者ともほぼ全ての試合を一撃で終わらせてしまうということもあって、かなり重宝されている。
なんでも聞いた話によると、そのディスクと同じものが出回ったなら、研究家と国がこぞって奪い合うような代物になるらしい。
・・・あった。本当にあったのね、これ。
一番上の段に他の膨大な試合データの中に何気なく置かれたそのディスクのケースは装飾が剥がれ、書いてあったであろう本来のタイトルさえ見えなくなっている。
この資料があること自体、噂話程度でありほとんどの生徒が信じていない上に、見ようと思ってもそもそもこの試合記録室への入室条件はかなり厳しい。
マリアが見つかったことにすこし興奮しながら手を伸ばすと、横からの手と触れ合った。
驚いてそちらを見ると、そこにはランスロート家の娘であるシャルロットさんがいた。
「・・・ごきげんよう、ランスロートさん」
「これは、レイドリウス殿。ごきげん麗しゅう」
「ところで・・・手を退けていただけないかしら?」
「はっはっは、お戯れを」
にこりとして言うマリアと、笑って答えるシャルロット。どちらの目も笑っていない。
両者ともに善をよしとする気質の持ち主であり、普段ならば譲り合うタイプではある。だが同時に彼女達はこのディスクに対し、執念に近いものを向けていた。
だからこそ気がつかなかった。
「マリアと・・・ランスロートの。ここで張り合わないでくれると助かるんだが?」
右目につけられた眼帯と真っ白なオールバックの髪。そして何より・・・大きい。
このディスクの試合の片方、マリアの兄であるシン=レイドリウスだった。
「に、兄様⁉︎どうしてここに⁉︎」
「大きな声も出すな、ここ資料館だぞ。落ち着け」
そう言ってマリアを窘めるシン。
マリアと同じく困惑した様子でシャルロットが彼に問う。
「えと・・・、『雷の覇者』殿がどうしてここに?ここへの入場制限の方はともかく、学園内へは特別行事を除き生徒と教師以外は立ち入り禁止では・・・?」
「少し気になるデータがあってな。学園長に閲覧許可ももらっているから、違反ではない。安心しろ」
シンは比較的最近のものであるディスクを手に取る。そして二人に向き合って、それからと続ける。
「ここの視聴覚室は別に2人ぐらいなら入れるだろう?」
「「・・・あ」」
そう、持ち出し禁止で視聴覚室で見る他ないとはいえ、複数人で見れるようにはなっている。
秘蔵のディスクを見つけた興奮で、二人の頭からは完全にその情報は抜け落ちてしまっていたのだった。
じゃあな、と手を振り去っていくシン。そして、苦笑いして一緒に視聴覚室へ入っていく二人だった。
『覚悟しろ、勝つのは、私だ』
『・・・こい』
『突き立ち、穿つ‼︎ロンゴミアドッ‼︎』
砂嵐混じりだった映像が、『ロンゴミアド』と『ファイ・ドラヴ』の衝突により、ついに途切れる。
再び映った画面の中では、半分消し飛んでいる隔離フィールドにアナスタシアが左目から血を流して笑っている姿だけがあった。
すごい試合だった。30分の試合果にてぶつかる互いの継承魔術。
余韻に浸るマリアの横で、シャルロットはうつむき、その体を震わせていた。
「も、も、ももも」
「・・・ランスロートさん?どうし」
マリアが心配して手を添えた瞬間だった。
「燃えぇぇぇぇぇぇぇぇっ‼︎」
「ひゃっ⁉︎」
「流石ペンドラゴン殿!燃える‼︎どちゃくそ燃えぇぇぇぇぇぇぇぇっ‼︎」
その後シャルロットとマリアの生徒手帳に静かにすること、という文字が大きな赤文字で表紙にかかれたという・・・
資料館でそんなことがあった時と同刻、他のクラスメイトのほとんどが寮へと帰った放課後の教室にて、一人の日本人の少女が机の上に自身の銃型魔法具、Glock 17二丁を並べていた。
銃型の魔法具というのは魔術師の時代においては運用にコストと手間のかかる代物だ。
Glock 17をゆっくりと解体して、掃除していく。黒っぽい燃えかすのようなものを拭き取り、綺麗にしていく。
なぜ手間とコストがかかる、とされているのか?それは単純に中〜遠距離での攻撃に関しては魔術で十分である上に、近距離における戦闘では剣や槍といった騎兵の時代の物の方が使えるからだ。
剣や槍と違い、銃に用いられる火薬は詰まることもあるため、こまめなメンテナンスが必要。外見からでは分かりにくいことも多い。
また、銃弾全てを魔力弾で代用するには連射するという行為が厳しい。なぜなら一発一発にたいする魔力の消費があるわけで、本来銃の構想としてのマガジンタイプでないと、狙撃銃でもない限り運用が難しい。
魔力で強化した弾丸を使用しようとすれば銃弾側にも触媒がすこし必要となり、さらに費用が上がる。
そんなわけで魔法銃は他の魔法具と比べて使われる頻度が減ってきている。
綺麗になった部品一つ一つを今度は丁寧に組み立てていく。
だが、デメリットばかりではない。
なぜなら銃弾そのものの殺傷能力がなくなったわけではないからだ。魔力が切れた際にも回復を待つことなく戦闘を続行することができる。魔力の消費なしに人を中距離以上で攻撃できるのは間違いなく大きなメリットだ。
組み上がったそれを見て、少女-高碕 友里は笑みを浮かべる。
だが、その時クラスに残っていた生徒達、男子も女子もその視線を机の上に引っかかって揺れる。所謂えっちいそれに向けられていた。
廊下を歩いていた一人の少女のあれは贅肉、胸のところに肉がたまっているだけ、という自己暗示めいた呟きは誰にも聞かれることなく消えた。
資料館から教室に帰ってきたマリアを見て、友里は声をかけた。
「マリア、今日資料館からそのまま寮に帰るって言ってなかったっけ?」
「ええ、そうなのだけれど。教室に忘れ物をしてしまって」
マリアは自席の引き出しを開き、ガサゴソと探っている。
そういえば、と友里は聞く。
「目当てのお兄さんの試合記録は本当にあったの?」
「あったわ。タイトル用のテープなんかも擦り切れていたけれど」
あった、と小さな鍵を取り出す彼女。
「それよりも聞いてちょうだい。一緒に見ていたランスロートさんが、映像の終わった途端に大声で感嘆符(?)を挙げたおかげで、先生からすごい注意されてしまったのよ」
生徒手帳を取り出し、赤い注意文を見せるマリア。それ見て笑う友里。
「ふふふ、あの人ペンドラゴン先生の熱烈なファンだから。きっと試合中もずっと我慢してたんじゃない?」
「違いないわね」
マリアはあいも変わらず他人を笑い話に使ってしまっている自身にすこし嫌な感じを覚えながらも、胸ポケットへ鍵と生徒手帳をなおす。
「・・・見たところメンテナンス終わったところみたいだし、一緒に帰らない?」
何気なく帰り道に彼女を誘う。
「勿論、すぐに用意するわ」
友里は笑顔で答えた。
この学園に来ているらしいあの子とも、こんな風に笑顔で話せたらなぁ、なんて。
そんなことを思う資格も、ましてやいうなんてことはできない自身の汚さを思い出す。
今日もさらに彼女は自己嫌悪を深めた。
謎のヒロインJ「贅肉よ死ねぇぇぇぇぇぇぇぇッ‼︎」
ゆうりん「危なっ⁉︎」
シャル「不意打ちとは卑怯だぞ!貴様何者だ‼︎」
謎のヒロインJ「私は謎のヒロインJ、私は貴女のような胸を許容しないッ‼︎」
マリア「あれ?あの子どこかで見たことあるような」