実技の授業、それは基本的に担任が受け持つことが多いが、手の空いている先生が行うこともある。
そういうわけで、Eクラスの今日の実技の授業はフウマ・アクセレイ先生が受け持っていた。
広いアリーナ内に大型のスクリーンの上からのフウマ先生の声が広がる。
「実技の授業で行うことは理解しているとは思うが説明はする。
今回からすこしの間は、お前たちの魔術が、技術がいかほどのものか事細かに見せてもらう。そして、その結果を見て私たち教師側で方針を決定する。主に剣術などに関してアドバイスをすることもあるし、魔法具の形式に関することも言わせてもらうかも知れん。心しておくように。
さて、見せてもらう方法だが、これから試合を何度も行う。様々な組み合わせ、様々な形式で、だ。実戦がどうしても嫌だというなら降りてもいい。だが言わずもがな、実践の記録というのは方針を決める上でかなり重要だ。だからそれだけ曖昧なことしか言えなくなってしまうと思っておいてくれ」
試合はとりあえず全ての組み合わせをするからということで、第一回目の組み合わせはクジで決めることとなった。生徒達に勝手に組ませるわけでないのは、そういうことにトラウマがある極一部の生徒に対する学園側からの気遣いだったりする。
クジの結果、第1試合は・・・
「ハルカ・アカゾメ対リーズフェルト・ヴァルガンド‼︎」
対戦カードを告げる声に、ぼーっとしていたハルカはハッとする。そして、背後に誰かが立つ感覚に振り向くと、そこには背の高い赤髪の少女-リーズフェルトが立っていた。
彼女の顔は近く、驚いたハルカは何歩か後ずさる。
「よろしく頼むぞ、アカゾメ」
「は、はいっ‼︎よろしくお願いしますっ!」
「準備ができたならすぐにフィールドへ行け」
先生に急かされて、リーズフェルトは観客席を後にする。あっ、そういえば。
周りをあちらへこちらへ見ているハルカにカイザは目を向ける。
彼女の普段からのオドオドした様子や、無駄にネガティヴだったりするところを苦手に感じていたカイザは、今度は何をキョロキョロしているのかと思う。
そんな風に見つめているとハルカと目が合った。
「あ、あの!スティレットさん!」
「・・・何だよ?」
「その、これ預かっていてもらえません?」
そういって眼鏡を押し付ける彼女に『おいっ』と声をかけるが、既に観客席から離れていってしまっている。
小さく舌打ちをしながらも眼鏡をきちんとカイザは置いておく。
そのな彼女の様子に、ハルカと同じく日本人であるミツル・カミシロはくすり、と笑う。
「何笑ってんだよ?」
「だって気に入らないって表情してる割には丁寧に置いているじゃない」
「・・・ふんっ」
そっぽを向くカイザとそんな様子も可愛らしいとニコニコするミツル。
そんな二人を傍目にアリーナステージに、リーズフェルトとハルカの両名が出揃う。
「ギャラルホルン!」
リーズフェルトの体に生徒手帳から飛び出した機械的なパーツが纏われる。彼女の全身を包んだそれはまさに鎧そのもの。だが肩の上に展開されたマシンガンと背中に装備されたフランチェスカが鎧というイメージをパワースーツのそれに塗り替える。
艶消しがかけられたその鎧は、銃や戦車に見られるような機能美を顕していた。
機械チックなデザインの魔法具の鎧に、観客席から東藤光司を含めた男子達の目が輝いたような気がした。
対するハルカが出した魔法具は、まるで木刀のような一振りの古錆びた刀。刃が引かれているのが遠目にもわかり、魔法具としても武器としても三流以下であるように見える。
だが、それを構えたハルカの眼光は鋼の如き光を宿していた。
試合を告げる為の音声が飛ぶ。
Start‼︎
瞬間ハルカにリーズフェルトのマシンガンが火を噴く。自動ロックオンのそれはしかし彼女に当たらない。
開始と同時の魔力放出による加速。眼前に低姿勢で飛び込んでくるハルカに、面白いと術式で展開した剣、レーヴァテインで迎え撃つ。
「
打ち合いの寸前、ハルカの刃は銀色の輝きを宿す。
水面に乱反射する日光のようなその輝きに不気味さを感じ、頭を下げる。
それは結果からいうならば正解だろう。
彼女の炎の剣身は上半分がそのまま落ちるように斬られる。頭上を通る銀の刃にとんでもないものだと冷や汗をかかされる。
やっと追いつきかけたマシンガンの銃身を彼女は返しの刀でぶった斬る。
リーズフェルトは銃を斬り裂いた彼女に、
だが、読んでいたと言うかのように一歩下がって避けてみせる。
本来、リーズフェルトのような
だが、ハルカを相手にした時、その相性は逆転する。なぜなら、ハルカが『斬』の属性の持ち主であるからである。どんな強力な結界魔術や防御魔術であれ、『斬った』という概念を強制的に対象へ植え付けることで真っ二つにできる術式。しかも、強みを無効化された上に、重鎧の弱点である重さに対してハルカは抜刀術を基本としたスピードタイプ。
マシンガンと投げ斧で戦うなら兎も角、懐に入られた時点で敗北は必須である。
それでも彼女の目は勝利を見据えていた。
「はッ‼︎」
「ッ!」
地面へめり込んだフランキスカから手を離し、グラムを展開、そして次なる一撃を弾くリーズフェルト。
グラムに内包された術式を破壊する魔術。それによるギリギリの打ち合い成立。
術式が破られ逆流した魔力に一瞬ひるんだハルカ、その左手をグラムを収納し逃すまいと掴み取る。
それと同時に、ハルカの背後に術式が展開される。
「ッ‼︎」
マズイっ!と強く掴まれた左腕、その逆の右腕で握った風見を魔力放出を伴って振る。
その刃は硬い兜を容易く裂く。
カランと響く刀の落ちる音、そしてハルカの体に突き刺さる12本の剣、槍、斧。
結果は・・・
リーズフェルトは掴んだ腕を離し、兜を外した。その首からは血が流れていた。
「どうなってるんだ・・・?」
-勝者・リーズフェルト・・・?-
回復魔術により、首の傷が治り客席へと戻ってきたリーズフェルトに賛辞の言葉が掛けられる。だが、それに対する彼女の反応は薄かった。
虚空を見つめるようにして、リーズフェルトは呟く。
「アカゾメはどうしたのだ?」
「さっき先生が言ってたろ。脳天も心臓もぶち抜かれた上に全部当たりどころ悪いから病院送りって。それより、今度アタイと戦おうぜ!な!」
「・・・今授業中だぞ。それにすぐの試合じゃないなら先に眼鏡をとどけてやったらどうだ」
リーズフェルトのツッコミに眼鏡を持って病院もとい保健室方面に向かうカイザ。
それを見送り階段に背を預けていた。
ところ変わり大型保健室(通称病院)では、届けられた新鮮な死体が手術台に置かれていた。
筆頭保険医であるジャック=ガンダールフは歓喜の声を上げ手術室へ入った。
「おっしゃァァァァァァッ‼︎久しぶりの手術キタコレェッ‼︎」
「不謹慎ですしうるさいですよ、
「・・・今割と君も失礼なこと言った気がするんだけど気のせい?」
「間違いなく気のせいです、クズ野郎」
「ほら、今度ははっきり言ったぞ⁉︎聞いたからな‼︎」
助手からの容赦ないツッコミと罵倒に先生マジ傷つくわ〜、と呟く執刀医。
夫婦漫才を繰り返す二人だが、その手元では制服をハサミで切るなど、迅速に用意が進められる。
「・・・助手ちゃん、始めんよ〜」
「了解しました」
12本の武具はすでに抜きとられているが、致命傷と思わしき傷が4、5ヶ所見受けられる。
まずは下腹部、回復魔法に必要な新陳代謝関連をなんとかするため、腎臓や腸周辺をメスで切る。
腎臓は剣がかすめたのであろう、裂傷があった。小腸には槍やメイスが刺さったのかかなり破損がひどい。
「助手ちゃん、A5dとって」
医療縫合用結晶魔法具群、そこから一本最も細いものを抜く。
腎像側面部に調和性素材を入れ込み、それを覆うように糸で閉じていく。
糸はアラクナから取れた自然由来のもの。縫合後に拒絶反応が出にくないことから医療用はもっぱらこれか蚕の糸である。
「次、腸いくよ〜」
「はいっ」
次々と進められていく光景をいつの間にやら付いていたカイザは見つめていた。
執刀医の荒々しくも丁寧すぎる治療と、それをフォローしきる助手。人体の上を手が蝶のようにひらひらと動き回り、蜂のように強い動きが時々入る。そしてその跡は何もなかったかのような、血色の悪い少し青白い肌だけが残される。
「外傷、終了〜!」
「4分38秒です」
「はい、脳波チェックよろしくゥ」
「・・・異常なしです」
そんなに時間経っちまってたか、と周りを見ると研修生であろう人達が周りに立って何かを急ぎでメモしているところだった。
病室へ運んで行く人達を傍目に出て行く二人。その後ろ姿は歴戦の戦士のような頼もしさがあった。
運ばれた病室101号室には、何人かの同じく意識が戻るのを待たれる生徒達がいた。
その中の一番手前、そこへカイザは入る。
眼鏡を横の小さな机に置くと、すぐに出て行った。
その日の夜、意識が回復して部屋へ戻ったハルカは憂鬱な気分になっていた。
一応確認を、とメールを確認するとやはり祖父からのものがある。日本や連合国外の国の生徒が留学する場合、試合の動画を配布してもらうよう交渉できる。お金がかかるからやる人はあまりいないけど。
ルームメイトのいない、一人部屋の机を引いて座り、内容を見る。
『from-祖父
題名:--
内容:試合動画を見たぞ、ハルカ。
一撃目の斬撃よりも最後の斬撃が遅すぎる。手を抜くんじゃない。終わってからの相手を見ていると可哀想だ。
それとも、まだ「あの事」を気にしているのか?あれはただの事故だと何度も言っているだろう。さっさと立ち直れ』
「うるさいな‼︎」
衝動のままに端末を壁へ投げつける。
あのことは関係ない。私は、もう・・・人を斬りたくないだけだ。
一人部屋でよかった。こんな無様な姿、見られたら死んでしまう。
椅子を引いて、端末を拾い上げるとぶつけられた角を中心に大きく画面が割れていた。
ツンデレ不良娘「リーズフェルトだ!リーズフェルトだろう⁉︎
なぁ試合に勝ったんだろお前!戦おうぜ!なぁ‼︎」
メイルレディ「やめろ!そんな大将首を追い求めるような詰め方をしてくるんじゃない!それにアカゾメも本気出してないみたいな描写あるぞ⁉︎あっち行ったらどうだ?」
根暗ちゃん「死にたい死にたい死にたい死にたい・・・」
ツンデレ不良娘「うわ言みたいに呟いててこっち見てないぜ?」
メイルレディ「くそっ、使えない!ここは・・・逃げるッ!」
ツンデレ不良娘「逃げるんじゃねぇぇぇッ‼︎」