…………み…………
………………け……
…………みつけた…
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第一譚 奴らが来る
四方を海で囲まれた孤島である嬉々金島は、古くから権力者達の秘密の領地として利用されてきた。そのためなのかはわからないが、この島に住む島民達は、本土の人間達とは違った価値観を持っつ。少なくとも、島の住民たちはそう考えていた。
本土、つまり、本州との連絡は日に数回の船のみ。それも、天候の良し悪しによっては何日間も途絶えてしまう。しかし、嬉々金島は周囲と隔絶する事で、独自の発展、文化の発達を遂げていた。彼らは、いつしか本土の人間にとっては予想もつかないような禁忌を幾つか信じるようになっていた。
嬉々金島の漁村の一つ、角園村。この村には村役場くらいしか目ぼしい建物はない。
山岡修造は、17歳の高校生だったが、彼は村のパンク系ライブハウス「デズゴ」に入り浸るのが趣味だった。
「殺せーーーー!!」
「殺せーーーー!!」
「うおおおおおお」
「わーわー」
「キャーキャー」
「あああああああああああああああああああああああああああ!!」
なんとそれはブルドーザー!!
「あああああああああああああああああああああああああああ!!」
「ドゴゴゴゴ」
今日のライブでは三人が救急車で運ばれ、内二人が骨折した。その中には、修造の友人、雲野五郎も含まれていた。
「なんで逮捕者でないんだろうな。」
この島に引っ越してきたばかりの修造はカウンター席のモヒカン刈り男に言った。服は着ていない。
「この島は禁忌さえ守れば他は何してもいいから。」
わかりやすい回答である。これが、この島に来た者が始めに驚く事の一つだ。島民にとって一番大事なのは禁忌であり、法律はあんまり重要ではない。
ライブハウス「デズゴ」もそうである。そもそも島内では今パンクがマジクールであり、パンクライブハウスは大盛況で、村の一大産業になりつつある。パンクライブハウスという性質上、連日怪我人が絶えないが、逮捕者はまだ一度も出た事がない。本土から来た修造も最初はパンクという破壊活動に否定的な印象を持っていたが、今ではそんな自分がマジダセェ奴だったと考えるようになった。特に修造のお気に入りはアーマードドラゴンインペイルメンツというパンクバンドだ。彼らは島内でも比較的穏やかな部類だが、しかし、アーマードドラゴンインペイルメンツの活動には何故かメロディが存在しており、その辺りが島内の他のバンドの追随を許さない。これはパンクが本来破壊活動という反社会的行動に過ぎない事を鑑みれば当たり前の事だ。パンクに音楽性など存在しない。だが、アーマードドラゴンインペイルメンツには奇跡的に音楽性があった。それはボーカルが尺八を用いてしか会話出来ない特殊な性癖を持っている事に由来するのかもしれない。ボーカルの名前は曽良であり、そのクールな名前もあいまってアーマードドラゴンインペイルメンツはナンバーワンパンクバンドだった。そう、この日までは。
一位 アーマードドラゴンインペイルメンツ
二位 ペンペンリーフイズデッド
三位 ダークフォースズ
四位 Mr.Xレヴォリューション
五位 HONDAGLAYモン
六位 メタルオバマ
だいたいこんな感じだった。
だが、この日は違ったのだ。この日、何とアーマードドラゴンインペイルメンツのドラム担当、AYACOがチームを脱退してしまったのである。理由は病欠であった。アーマードドラゴンインペイルメンツの中で、まともに声を出せるのはAYACOただ一人だけだった。そのAYACOが体調の悪化を理由にチームを脱退してしまった。そのため、アーマードドラゴンインペイルメンツは音楽性のあるバンドから、尺八を吹く奴が居るだけの比較的穏やかなパンクバンド、つまり、ゴミ屑に成り下がったのだ。翌日、ライブハウス「デズゴ」はペンペンリーフ派の暴徒達に討ち入りされる事になる。
三日後。
山岡修造は学校の帰り、海岸近くに寄って行こうと思い立った。普段はあまり赴く事のない海岸沿いの坂道からの海は絶景だったが、通学路ではなかったので、修造は滅多に通る事はなかった。
「あそこにいるのは誰だろう。」
修造はふと、向かい側を歩いているセーラー服の女性に気が付いた。普段通る事がないので知らなかったが、この道を通学路とする生徒もいたようだ。夕日がセーラー服の姿を照らしていた。
「おや」
修造はビックリした。ビックリした。一瞬、彼女の姿が魂の無い人形のように見えたからだ。いや…アレはむしろ、死体ではないか?それ程までに美しかった。まるでボーカロイドがこの世に顕現したかのような美しさだった。
「きゃああああ変質者よ。」
いきなり修造はスタンガンを食らった。
修造が起きると、布団に寝ていた。
「起きたかね。」
和尚が言った。
「えっと…あなたは。」
「ワシは鮫山和尚と申す者じゃ。そこな娘がお主をここまで運んできてくれたのじゃ。」
修造が起きた場所はお寺だった。修造は寺に詳しくないが、坂の近くに寺がある事は知っていた。その寺に運び込まれたのだ。目の前には和尚がいた。その隣には先ほどのセーラー服女が。さらにその隣には仏像が安置されている。わけがわからなかった修造はとりあえず仏像を見つめた。
「この仏像は。」
「十一面観音様じゃ。」
よくわからなかったのでそれ以上は聞かなかった。修造はセーラー服を見た。
「さっきはごめんなさい。」
セーラー服は謝り出した。いきなりスタンガンを食らった身としては、修造は意外に感じた。
「私、最近変な人達に後を付けられてて。あなたがその変な人だと思ってしまったの。」
「そういうことだったのか。」
まだ足がうまく動かない修造はセーラー服女、本堂麻美乃と一緒に帰る事になった。ここで、始めて修造はこのセーラー服女が悪名名高き事で有名な女生徒、『魔弥乃』である事を知った。
「あんたが先生や校長を手玉に取って、学校で好き放題やってるっていう噂の『魔弥乃』だったのか。そりゃスタンガンなんて持ってるわけだな。」
修造は先程の坂を登りながら、魔弥乃に対して遠慮なく言った。
「あら、心外ね。私が貴方をさっきのお寺まで運ばなかったら、貴方はこの坂に放置されて一晩過ごしていたかも知らないのよ。」
魔弥乃は微笑した。先程の平謝りとはえらい違いだ。その態度ははっきり言って横暴だった。
これが、修造の隣を歩いている本堂麻美乃の正体だった。彼女は、一人では歩けないでしょう、と言いながらも、決して修造を助ける様な事はしなかった。一方で、麻美乃は校内では品行方正を絵に表した生徒として教師の間では評価が高かった。表向きは。生徒達の中では、孤立していた。はっきり言って裏表の激しい性格が最悪だからだ。
「まずアンタがスタンガンなんて使わなきゃ俺は気絶しなかったじゃねえか。」
「それでもマミノで呼ぶ事なんて無いじゃない。今、魔の付く『魔弥乃』で呼んだでしょう。」
図星だ。『魔弥乃』とは、学校で密かに言われている本堂麻美乃の蔑称、畏怖を込めた呼び名だ。彼女の妖しい感じが出てると修造は感じていた。
「私は気に入らないわ。その呼び方、私の嫌いな人が言い始めたんだもの。」
魔弥乃はそう言った。
「あれ、そうなのか?」
「勝手に広まったのだと思ってた?」
魔弥乃は修造の顔を覗き込んだ。修造は改めて麻美乃の美しい顔立ちを確認する事になる。マネキンに特殊メイクを施した様な、艶のある無機質な印象、ただし、驚く程均整が取れて美しい。
「まあいいわ。物事には原因があるのよ。別に私だって妖怪や幽霊の類でも無いわ。クラスメイトが私に抱く印象だってれっきとした理由があるのよ。」
麻美乃は今度は海の方を向きながら言った。修造からはその顔が見えない。
「つまり、誰かアンタのイメージをワザと下げている奴がいるって事か?よくある話だな。」
修造は言った。
「さあ、そんな事は一言も言ってないわよ。どちらにしろ私には興味のない話ね。それより、貴方に話があったのよ。」
麻美乃は修造の方を向いた。
「どういう事だ。」
「貴方、本土から来たんでしょう。この島は嫌い?」
「いや、あそこの船。」
修造は波止場の船を指差した。
「あれは?」
船の中にいたのは、肉がドロドロに腐ったおっさん、つまりゾンビだった。
「ゾンビね。」
「えっ。」
「ゾンビ。」
「なんで。」
「私も知らないわよ。」
恐怖に駆られた修造と麻美乃は全速力で逃げ出した。しかし、この孤島に逃げ場など存在するのだろうか。生き残りをかけたゾンビバトルが始まった事を知る者はいなかった。
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まっ………………
……………………
……………………
って………………
………る…………