…………み…………
………………け……
…………みつけた…
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第三譚 隔絶の異化作用
荒引二水衛門は天才科学者を自称する36歳のおっさんだ。彼は嬉々金島から漁船で1時間程の距離に位置する無人島に研究所を構えていた。村八分にされたのだ。島という閉鎖社会に馴染めぬ弱者はあの島で生きることは出来ぬ。だが、彼は米軍の特殊部隊に誘われ、ゾンビに関する研究をしていた。やがて世界を襲うであろうゾンビに関する研究を。米軍の特殊部隊もかなり確証は無かったが、ゾンビがいつ世界を支配しても対応できるように常に備えていた。その為、天才的頭脳を持ちながら、無人島で無意味に無駄な生活を送る二水衛門はプロジェクトに適任の人材だったのだ。二水衛門にとってもゾンビの研究はきっと自分の名声を高めてくれるんじゃないの、という感じのアレだった。こうして、二水衛門と米軍の特殊部隊『モンスター対策作戦部隊ゾンビ部門』通称AMTFはおそらくこの世に存在するであろうゾンビが、いずれこの世界を、多分襲った時のために5年間も秘密裏に研究を続けていた。
研究所内は慌ただしく研究員達が動いている。二水衛門はスーツケースを抱えて地下室に急いで移動していた。
「所長!荒引所長!本当にゾンビが出たって本当ですか。」
所員の一人が驚きながら問い詰める。決して規模の大きい研究所ではない。だが、その分彼らは変態じみた危険思想の持ち主達であり、そして連帯感があった。
「ああ、驚く事にゾンビは実在したらしい。そして、現在嬉々金島にゾンビは向かっておる。もう既についているかもしれん。」
「馬鹿な!このままじゃあ米軍から我々に莫大な研究費が割かれる事になってしまいます。研究所の存在も公になってしまいますよ!?真面目に仕事しなくちゃいけなくなるじゃないですか!!いや、そもそもゾンビ対策の主導権自体が米軍側に行ってしまう…ああ、どうするんですか!!所長!!」
この期に及んで、この研究員は自分達の築き上げたセクトが瓦解する事しか頭に無かった。
「愚か者!この事態がわからんのか!我々が研究していた事を覚えておらんのか。」
二水衛門が恫喝すると、研究員は額から汗を流した。
「研究…ですって?何言ってるんですか。我々の研究が社会の役に立つわけが……。」
研究員は絶望しきった様子で言った。所長は首を横に振った。
「むしろ悪化…悪化?まさか!我々の研究が悪用された可能性が?」
二水衛門所長は所員を殴った。
「そんな事はどうでもいい!ようは嬉々金島だ!あそこの財宝を守らなくてはならん!その為に今まで莫大な研究費を賄えてきたんだ。資金源は確保せねばならぬ!」
「ですがゾンビが危険すぎます。」
二人は既に地下室に入っていた。
「安心しろ。ワシの体はゾンビ化せぬよう特殊な措置を施した。」
「ゾンビ化しないって…あんたまさか。」
研究員は無意識に地下室のコンピュータを操作し、秘密ハッチを展開した。眼前には大海原が広がっている。
「いつでも発信できます。」
『wake up.』
博士は高速艇に乗り込んだ。
「既に米軍がこちらに向かっておる。ワシは彼らを支援しに行く。」
『yes master.』
高速艇から音声が流れた。博士の乗った高速艇は秘密ハッチから海へと発進した。
そして現在、嬉々金島角園村波止場。ここには焦げた肉塊がそこかしこに散らばっており、炎上する船が沈没しかけていた。
波止場から坂を登った先にある高台ではモヒカンパンクの暴徒達が殺し合いをし、そして全員死んでいた。総相討ちだ。
生々しい死体達の只中、何故か全身が真っ黒に焼け焦げた右半身のない死体が転がっていた。
「あー」
動いている!焼死体は左手に掴んだライフル銃のトリガーを引く。ライフルから弾が射出された。再びトリガーを引く。再び弾が射出された。
焼死体だけではなかった。何時の間にか、モヒカン達の死体の何体かが脈動のような痙攣を起こしつつあった。
「うー」
高台からさらに林を進んだ奥地。そこには島の実力者、本堂家の邸宅があった。地元の高校に通う、山岡修三と本堂麻美乃はこの邸宅にいた。
山岡は客間で座布団の上に正座していた。麻美乃も座布団で正座していた。
「いいから黙っていなさい。」
麻美乃がそう言うと、ふすまが開いた。いや、開いていたのだ。何時の間に、全く気付かなかった。
「お嬢ちゃんに…客人が一人ですぜ。」
ふすまを開けた男は言った。その男はスーツ姿のヤクザである。目は白目を向いており、半ば意識が無い。
「ご苦労。」
ヤクザを押しのけ、客間に入ってきたのは女性だった。
「えらい騒がしかったなぁ、麻美ちゃん。」
着物を着た女は言った。
「そんな事わ無いわ、叔母様。」
麻美乃が返事した。
「何や外ではゾンビが出た言うて騒いではるみたいやけど。」
着物の女性が言う。その目は恐ろしく冷たい。
「ええ、そうよ。この家なら大丈夫ですよね?」
麻美乃はそう返した。麻美乃の目はこの世の何物も信頼していないといった悲しい目をしていた。もちろんこの家の事も信用していないだろう。
「またおもろい事言うなぁ。お爺様もいつもおもろい言うてはるからなあ。お気に入りの人は違いますなあ。」
ふいに、女性は修三の方を向いた。
「何やえらいかっこいいクラスメイトですなあ。きっと頼りになるやろなあ。」
「ああ、どうも、お世話になります。」
修三は適当に返事した。
「まあこの家におったら安全やろうから、安心しいや、僕。」
「ああ、ありがとう、ございます。」
「fuck you.」
そう言うと、着物の女性は部屋を出て行った。
「何だったのあの人。」
修三は麻美乃に尋ねた。しかし、麻美乃は修三を無視して、
「私の部屋に武器あるからとってくるね。」
と、言って、部屋から出て行ってしまった。修三は麻美乃が影で魔弥乃と言われる事も仕方ないと内心思った。部屋には修三と白目がちなヤクザが取り残されたのだから。
修三はヤクザに向き直った。ヤクザは思った以上に体が細く、顔もやつれている。ヤクザはふすまの前で直立したままだった。一瞬、彼がゾンビなのでは無いかと疑念を抱いたので、声をかけて見た。
「えっと、僕はどうしたら。」
出てきた言葉はそんな間抜けな質問だ。
「坊やは客人。それは仰せつかっておりますゆえ、どうぞ客間では自由にお過ごし下さい。」
ヤクザは機械のように眈々と言う。
「あ、じゃあ、立ち話も何なので、どうぞ、遠慮なく座って下、下さい。」
「かたじけなくごぜえ。」
修三が席を進めると、ヤクザは先程まで魔弥乃が座っていた座布団の上に胡座をかいた。
「えっと、この家って麻美乃さんの家ですよね?」
修三は思っていた事を聞いた。どうも麻美乃の振る舞いが自宅にいるような様子ではなかったからだ。
「あっしは、本土の人間でしたが。」
ヤクザは切り出した。
「この島には禁忌が幾つかありましょう。」
「ええ、まあ。」
「坊ちゃんはこの島に来てまだ数ヶ月でしょうが、その事はわかっています。要は…興味本位で禁忌に触れるなと言う事です。」
どうやら修三の素姓についても向こうに判明しているようだ。
「この家の事は禁忌の一つに含まれています。死ぬか、この家に一生忠誠を誓う羽目になるか…。嫌でしたら、これ以上の詮索はよしなせ。」
釘を刺された。
「坊ちゃんはお嬢ちゃんのご学友でしょう。」
今度はヤクザが切り出した。
「ええ、まあ。」
「麻美乃お嬢ちゃんの事、よろしくお願いします。あの娘さんはこの家に味方がいないんです。多分学校に仲間もいないでしょう。」
突然の申し出である。魔弥乃の友達になれというのか。無理だ。
「姐さんはお嬢ちゃんと仲が良くありません。この家にお嬢ちゃんの味方は…誰一人。このままではお嬢ちゃんは孤立して死んでしまう。」
ヤクザは震え出した。
「えっと、まあ、わかりましたから。震えないで下さい。怖いです。」
「よろしくたのんます。」
不意に銃声が聞こえた。
「始まったか。」
ヤクザは立ち上がった。
「何?ゾンビ?」
「違います。」
突然、壁から日本刀が突き出した!刃はヤクザの背中を貫通し、ヤクザは即死した!
「えっ?えっ?」
ヤクザは何時の間にか拳銃を握っていた。銃口は修三を向いていた。
「どう言う事だ?」
そんな事を言っている間に、日本刀の突き刺さった壁が切断された!壁の向こうから出て来たのはミイラじみた末期老人!
「今宵…徳川家康…の…血を…」
老人は日本刀を構えた。修三を切り殺すつもりだ。
修三は改めて日本刀を見た。その日本刀には柄が存在せず、銘がむき出しになっていた。いや、その妖艶な刃紋は始めて見るものにも用意にその銘字を思い起こさせる。銘を見て確認する必要などなかった。
「村正…村正二刀流…これぞ最強…」
おじいちゃんは村正の二刀流使いだったのだ。つまり達人である。
「ワシは自らを武神だと自覚しておる。」
おじいちゃんは何か言い出した。
「武神、つまり、この島で最強だと言う事。それ即ち、島の支配者たる事を意味する。徳川幕府滅亡の時まで、武神たるワシは剣を振るい続ける。」
「徳川幕府ってもう、滅んでますよね。」
修三は言って見た。
「ワシの心の中では徳川幕府はまだ息づいでおる…お主の中にも…徳川滅ぶべし!」
おじいちゃんは言った。
「えーと、おじいちゃんは麻美乃ちゃんのおじいちゃんですか?」
修三は聞いた。
「おじいちゃん!」
その時だった。麻美乃がこちらに戻ってきたのだ。その腕には鉄筒のような物々しい物体、長刀、手榴弾などが抱えられていた。
「本堂!これは一体どういうことなんだ。」
「いいからこれで武装しなさい。これがこの家の禁忌、島の禁忌よ。この家は武芸者たちの集まった家なのよ。」
時を同じくして一席の高速艇が波止場に到着した。
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まっ………………
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って………………
………る…………