…………み…………
………………け……
…………みつけた…
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第四譚 暴かれた墓
角園村で最も格の高いと言われる家に本堂家屋敷があった。この屋敷では日夜宴会が開かれるという。また、島の一般的な住民ではその宴に参加できない。その為、宴の内容について知る一般住民はいなかったし、知ろうとする者もいなかった。これは古くからこの島にある厳然とした決まり事だった。
今、本堂家に招かれた少年、山岡修三は眼前に繰り広げられる宴を目の当たりにしていた。即ち家人同士の殺し合いである。
「この家では弱者は生きることを許されないのよ。だから毎晩皆で殺し合って弱者を淘汰しているの。」
魔弥乃はさらりと言った。これこそがこの島での禁忌の一つ、本堂家の秘密だった。
「このヤクザは。」
修三は目の前で死んだヤクザについて聞いた。
「彼は少し見込みがあったから本土から拉致して叔母さまが教育を施したの。でもどんな人間でもとりあえず殺そうとしてしまう判断力の無い人間だったから、いつ死んでもおかしくなかったわ。」
「一応客間は不可侵だからのう。客人を殺したら面倒故。」
魔弥乃のおじいちゃんが笑いながら言った。つまり、魔弥乃がこの家を安全地帯だと言ったのは、客間を不可侵として、その周囲では手練れの剣士達が尋常ならざる殺し合いを繰り広げている故なのだ。この剣の嵐に突っ込めるゾンビなどいないと魔弥乃は踏んだのである。だが、このヤクザは言葉巧みに修三に取り入り、隙を見て殺そうとした。その為、おじいちゃんに粛清されたのだ。しかし、不可侵と言いつつも、壁を破壊して客間に入室したのはこのおじいちゃん本人である。
「剣術とは即ち殺人術。剣術を極める者は殺人を極めなくてはならぬ。本堂流剣術は殺人剣を磨くため、このような訓練をしておる。」
まさに島の閉鎖性が成せる現代の修羅場なのである。
「遅れたけど紹介するわ。このおじいちゃんは私の祖父よ。」
「本堂美濃一郎と申す。96歳じゃ。」
その時、外の庭から70代くらいの老婆が修三の方に飛んできた。
「危ないっ!!」
魔弥乃は銃弾を放った。銃弾は老婆の首に直撃した。
「一応麻酔銃よ。3日は起きられないわ。」
一方、その頃。波止場近くの高台はゾンビの集団で埋め尽くされていた。
「何だ何だ。」
「ゾンビがいるぞ。」
近隣住民達も異変に気づき始めた。ある者は興味本位でゾンビの集団に近づき、またある者はライフル銃でゾンビを狙撃したりしていた。自宅にバリケードを構築する者もいた。
「ゾンビはヤバイですね。」
サラリーマンの矢部さんは言った。隣にいるのは同僚の牧原さんだ。
「そうですなあ。では退路を確保しましょうか。」
そう言うと二人はマサカリを構え、ゾンビの列に突っ込んで行った。
「皆はやく逃げろおおおお。」
矢部さんと牧原さんのマサカリは正確無比にゾンビ達の頭部を破壊して行く。二人は島の中でも弱くは無いが強くもないレベルである。しかし、佐渡島豪次は島の中で一番腕相撲が強かった。その佐渡島豪次が死んだ事はにわかには信じられなかった。あいつが戦って負けるわけがなかった。きっと卑怯な手段で殺されたに違いなかった。
だが、二人の奮戦も虚しく、ゾンビの流れを止める事は出来なかった。二人は高台からゾンビを出さないために、坂を封鎖していたのだが、その為にゾンビ達の一部は林の中に入って行ったのだ。
「バカめ!林の中に入って生きて帰れる者が居るはずなかろう。」
案の定、爆発音や土砂の崩れる音が林の中から聞こえてくる。林の中は一歩間違えれば即死するトラップが満載なのである。
だが、二人は想定していなった。海に投げさだれて死んだ人間の死体がいた事を。その死体達10数体はゾンビ化して坂を下った波止場に漂着した。
「くたばりやがれえええ」
ふいに聞こえた叫び声に、矢部さんと牧原さんは波止場の方向を見た。そこにいたのは陸上を無理矢理に泳ぐ高速艇と、高速艇に乗ってゾンビを轢き殺そうとする中年の男だった。
「あいつは荒引ではないか。」
矢部さんは言った。
「島を追い出された奴がなぜここに。殺さねばならぬ。」
牧原さんは拳銃を構えた。
「まてっ!射程距離圏外だ。」
高速艇はスクリューでゾンビの脳天を掻き乱しながら、反動で坂を登ってゆく。その姿はまるで浜に打ち上げられた鯨がくつろぎながら超音波攻撃をしかけてきたかのような光景だった。その凄惨な光景を見ていた牧原はふと思いついた。
「そうだ、奴と協力しよう。ここは奴を使わない手は無いぞ。」
「正気か。奴は島を追放されたんだぞ。」
矢部さんは言った。
「だからこそだ。」
牧原さんは笑った。高速艇は既に坂の中腹あたりまで登ってきている。ここからなら拳銃の射程距離にギリギリ入る。
「今だっ。」
牧原の撃った弾丸がスクリューに直撃した!牧原さんは荒引博士を囮に使うつもりなのだ。だが、この場合は牧原さんの見通しが甘かった。スクリューはなんと弾丸を切り裂いたのだ。
「バイクフォーム!!」
『bike form,sir.』
荒引博士の咆哮と同時に、高速艇が変型し始めた。そう、この高速艇は高速艇であって本来高速艇ではない。コレは荒引博士の開発した可変式対応型学習機道車三式、愛称を高速使徒マレビトである。
『i am killing macine.』
だが、バイクに変型したのが一瞬の油断となった。ゾンビは変型するまで待ってくれないのだ!荒引博士はあっさりゾンビに噛まれた!
「無駄だっ!」
ゾンビが口を開くとその歯が消え去っていた。ゾンビの歯が耐えきれずに砕け散った!?続いて荒引博士がゾンビにパンチをお見舞いする。ゾンビの頭部が四散した。人間の硬度、そして腕力ではない!
「私を誰だと思っている。私はゾンビについて5年間も研究してきた人物だぞ。専門では無いがな。だが、だからこそゾンビについて一から考える機会を得たのだ。ゾンビとは何か?ゾンビとは、詰まるところ動く死体であろう。そして、ゾンビに噛まれればまたゾンビとなる…ならば噛まれても良い体にすればいい!全身をサイボーグ化すればゾンビに噛まれても大丈夫なのだ!」
ゾンビに噛まれた荒引博士の袖が引きちぎれた。そこから見えたのは、鋼鉄で出来た無骨な腕だった。
「私はサイボーグとなって人を超えた。つまり、今の私は荒引ではなくアラバキだ。」
『yes,sir.』
荒引博士が変型していく。
「そして、地上での機動力と火力を得れば最早無敵!マレビト!合体だぁ。」
『ok boy.』
バイクが荒引博士の下半身にまとわりついて行く。変型し、合体して行くのだ。
「『縄文合体!メタルアラバキ!』」
そこにいたのは鋼鉄でできた超人だった。メタルアラバキはビームを発射した。
一方、林の中に逃げ込んだゾンビ達は既に罠によって全滅していた。
だが、ゾンビ達も知るはずがなかった。林の奥ではさらに凄惨な戦いが繰り広げられていることを。
「この屋敷にいる人間は全部合わせて12人。そのうち、ヤクザが
死に、老婆が戦闘不能。残りは私たちも合わせて10人。」
魔弥乃が状況を確認する。
「減ってきたのう。また補充せねばのう。」
美濃一が平然と言った。
「残った10人は修三くんを除いて皆常連よ。」
魔弥乃は名簿ノートを床に広げ、その内二人の名前の横に×印を書き込んだ。
本堂 美濃一郎
本堂 夕乃
本堂 魔弥乃
白士剣 伝蔵
勝 譲治郎
一郎丸 藤正
お幸
お圭
お由
×お甲
×吉沢栄七
「お甲がここで気絶してるババアよ。一応使用人という体で雇ってるけど、見境のない殺戮者よ。吉沢栄七がヤクザね。」
魔弥乃が説明する。
「この中では一郎丸が厄介だのう。お圭も中々。」
美濃一が呟いた。
「この本堂夕乃っていうのは」
修三が尋ねる。
「さっきの叔母さまね。」
ふいに、正門の方で爆発音が鳴り響いた。
「何奴。」
客間から見える庭には首のないゾンビの死体が転がっていた。
「『叔父貴。アレを預かりに来たぞ。』」
聞こえて来たのは肉声と機械音声の混ざったかのような声。この世のものとは思えない声だった。
「ぬ、」
美濃一が構えた。だが、次に修三と魔弥乃が見たのは美濃一がすぐに構えを解いてしまった光景だった。美濃一の行動は孫娘の魔弥乃ですら予測出来ない。この美濃一の非戦闘体制は剣を極めた者特有の構えの無い構えという奴なのか?断じて違う!美濃一は側転しだした。
「ビームがくるぞ!」
美濃一が叫ぶと同時に、客間は光に包まれた。美濃一は老人とは思えない素早さで修三と魔弥乃を側転しながら破壊された壁の向こうへ追いやり避難させた。
瞬間的に爆音と煙が辺りに充満する。修三はわけもわからずただ状況把握に努めるが、不可能である。
「『5年前より強くなったな叔父貴。メタルアラバキの戦闘能力は叔父貴を基準に設定している筈なんだぜ。』」
煙の向こうから声が聞こえる。
「久しぶりじゃのう。二水。」
美濃一が叫ぶ。それをきっかけに煙がしだいに晴れて行き、見えたのは鋼鉄で出来たロボットだった。
「『久しぶりだなぁ義父さん。まだこんなことを続けているのか。叔父貴。』」
ロボットは喋った。不謹慎ながら修三はときめかずにはいられなかった。喋るロボットは人類の夢だからだ。
闇夜は一段と濃くなって行く。それに連れて混沌はより一段とその姿を露わにしていった。
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まっ………………
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って………………
………る…………