…………み…………
………………け……
…………みつけた…
………………………
ゾンビに汚染されつつある嬉々金島。その島に厳然とそびえたつ本堂家では、現在秘密の祭りが絶賛開催中だった。つまり、血と肉が飛び交う、暗黒の祭りだ。祭りの中では沢山の人が死ぬだろう。基本的に全員死ぬと考えても別におかしくはないのではないか。本堂家裏門を貼っている、本堂麻美乃の叔母、本堂夕乃もまた死の嵐の渦中に身を置いていた。
「なんや、おかしいな。」
夕乃は一人呟いた。彼女は何かに違和感を抱いていた。夕乃の目の前には老婆が佇んでいた。
「夕乃様、何がおかしゅう賜れますか。」
老婆が言った。この老婆の名はお幸。本堂家の中でも本堂夕乃に仕える二人の人間の片割れである。彼女が夕乃の前に立って護衛しているのは常の事なので、夕乃が特におかしいと思う所などない。ちなみに、もう一人の吉沢栄七は既に死んでいるが、その事を二人は知らない。
「何や、懐かしい感じがしよる。これは懐かしい。」
夕乃は彼女自身が知覚し得ない家内での異常を夕乃自身の戦闘経験と野性的感覚から読み取っていたに違いない。でなければ運命的な虫の知らせが彼女を呼んでいるのだ。
「今この家に何かおるぞ。」
夕乃は笑った。狂人の目だ。
「何か、とは?何にごさいましょうや。」
お幸が無粋に尋ねる。だが、夕乃は機嫌が良さそうに今度は微笑んだ。だが、やはり狂人の目だ。
「fuck.」
夕乃はそれだけ答えた。確実に狂っている。事実、夕乃が抱いている違和感の原因は本堂家客間にいた。人型ロボットだ。
一方、波止場のゾンビ達は既に全て殲滅されていた。波止場から坂にかけて、辺りは生々しいビーム痕と焼け焦げた肉片が残されていた。
「まさか荒引があれ程までに強くなるとは。」
牧原さんが独り言のように呟いた。
「あれは卑怯でござろう。」
矢部さんが答える。牧原さんは矢部さんを見て大きく笑った。
「生きる為に全力を出す事に、卑怯もクソも無かろう。我々とて全力だった。」
牧原さんが言う。矢部さんもまた笑った。二人の胴体に生々しいビーム痕が大きく穴を穿っていた。二人は地に崩れ倒れた。
「ならば消えゆくのみ。」
「いや、諦めるのは早いぞ。」
牧原さんは血を吐きながら言った。
「諦めるのは早い。荒引は言った。ゾンビとは死体が動いているだけだと。」
矢部さんはそれ聞いて首を横に振った。
「我らもゾンビとなって復讐するという事か。しかし、ゾンビは全て倒されてしまったぞ。」
矢部さんは言った。
「まて、奴はそしてこうも言った。ゾンビに噛まれた者がゾンビになると。つまり、ゾンビに噛まれても生きている内は人間のままなのだ。死んで始めてゾンビとなる事になろう。」
「成る程な。ならば我らは死んで奴に復讐する事を願おう。」
そう言うと、二人は最後の気力を振り絞り立ち上がった。そして、そのまま歩き始める。
「間もなく我らは死ぬだろう。だが、死んで尚我らの肉体が奴を討ち取る為に、ゾンビを増やす必要がある…高台を降れば街に出るはずだ。」
二人の妄執は地獄の炎のように周囲の住居を燃やしていた。
一方、本堂家屋敷にはロボットがいた。
「『俺は合体ロボットとなった。』」
ロボットは言った。彼の名は縄文合体メタルアラバキ。孤独の科学者、荒引博士の成れの果てである。メタルアラバキは肉声と機械音声の入り混じった独特の声で喋っていた。メタルアラバキはビームによって破壊された客間から、隣の部屋を見つめる。
「『隣の部屋に居るのは…叔父貴と、魔弥乃と……あと一人、客人か。』」
メタルアラバキは冷静に分析した。客間に客人が居るのは当然だ。
客人にあたる山岡修三はこの状況を飲み込めずにいた。目の前に居るのはロボット。自分はゾンビから逃げていたはずだった。それがどうしてこんな事に?
今更であるが、修三は全裸であった。趣味なのだ。
「何で修三くんは服を着ないの。」
修三の隣、本堂麻美乃もまた状況を飲み込めずにいた。そして混乱していた。そのためわけのわからない質問をしたのだ。
「趣味だ。」
だが、麻美乃がこの場で唯一普通の人間かと思っていた修三からの返答がこんなんだったのだ。麻美乃はさらに混乱に陥った。
「ほら俺、パンクとか好きだから。」
修三が言い訳がましく言う。
「ああ、変態だったのね。あなた。」
「そうだ。」
修三は何故か誇らしげだった。
麻美乃は発狂したかったが、発狂して暴れると多分目の前にいる自分の祖父に殺されるので平静を装った。
麻美乃の祖父にあたる、本堂美濃一は村正二刀を胸の前で交差させる体制をとっていた。
「長年剣を振るっていると、自分が新しい扉を開いたと感じる時がある。」
美濃一は、普段のボケ具合からは想像もつかない程凛々しく直立している。
「10年前がそうだ。ワシは超理性の扉を開き、自我を失った。」
おじいちゃんはなんか言い出した。
「そして5年前だ。ワシは魔界の扉を開いたと思った。おそらくその影響で世界には魔物が溢れ、文明は中世レベルまで衰退した事だろう。あれから5年。」
おじいちゃんはちょっと呆けていた。おじいちゃんの目が光だした。
「だが、まさか中世の世界にロボットがいたとは!二水よ、褒めて遣わすぞ。ロボットと戦えるとはな。くらえ究極剣術!」
おじいちゃんは目からビームを放った。いや、より正確に言うならこれは美濃一が剣術を極め過ぎたあまり開眼した新しい剣術なのだ。その新しい剣術がたまたま目からビームを出す剣術だっただけなので、これは立派な剣術の範疇であり、言ってしまえばごく普通に刀を振るう事と根本的には何も変わらない。ただ、目からビームは出る。
「『その技はメタルアラバキにプログラム済みだ。回避可能。』」
メタルアラバキは残像を残しながら空中を飛んだ。ビームはメタルアラバキの残像に当たっただけだ!
「『こっちまでこいよ叔父貴。どうせ5年前よりも空を飛べるんだろう?』」
メタルアラバキが空中で挑発する。なんて事だろう!美濃一は既に空を飛べるというのだ。人類の夢だ!
「愚か者め!高度に鍛えられた剣術は錬金術に近い進化を遂げるのだ。ガソリンを錬成してやろう。」
おじいちゃんの両手から電撃が走り、やがてガソリンが吹き出た。
「ガソリン塗れにして燃やしてくれるわあああ」
おじいちゃんは両掌を獅子が咆哮するような形で前方に突き出した。手から溢れ出すガソリンは激流となってメタルアラバキに直撃した!
「『ガソリン如き、このメタルアラバキには効かぬ!くらえ電撃!』」
メタルアラバキの右手から電撃が!瞬間、ガソリンの激流は炎の渦と化した!炎は爆炎となっておじいちゃんとメタルアラバキ、そして部屋中を飲み込んだ。
「しねええええ」
おじいちゃんは何と炎を吸収し出した。火炎が一人でに美濃一の肉体と融合した。肉体に入り切らず、飽和した炎は美濃一を包み込み、やがて炎の鎧に変型したのである。
「『若返って…ゆく……だと。』」
人間は老成して全盛期になる、と言うが、それは真に老成した人間は若返るからなのだ。炎を吸収した美濃一は20代くらいの年齢に若返った。今後、20代の若者の間では炎の鎧を身に纏う事がトレンドになるであろうとメタルアラバキは本能的に知覚した。
「終わりだ。」
美濃一は既に人の域を超えていた。彼こそは剣の道に生きて剣そのものとなった剣鬼である。
「『駄目だ…勝てない!奴は歴史に残る剣豪のレベルにまで強くなってしまったのだ!』」
絶望がメタルアラバキを包み込んだ。
「諦めんのは早いんとちゃうか。」
メタルアラバキは声の聞こえた庭を向いた。そこにいたのは本堂夕乃である。
「『夕乃。』」
メタルアラバキは気がつけばそう呟いていた。
「まさか再びあんたに会えるとはな。人生何があるかわからんな。」
夕乃もまた気がつけば呟いた。今更だが二人は夫婦の仲だった。
「『由一は…俺たちの子は元気か。』」
「奴は女になった。」
「『えっ』」
「女になった。」
夕乃は抜刀した。
「受け取れっ!村正だ!」
夕乃が抜き身の刀をメタルアラバキに投げる。メタルアラバキは高度なコンピュータの計算によって的確な角度で刀を受け取った。
「はじめからこれが欲しかったのだろう。この島の禁忌、解き放つがいい。」
夕乃は笑っていた。
「貴様、禁忌を破る気か。」
美濃一が叫んだ。夕乃はそれを見てさらに笑い声を挙げる。
「『夕乃、お前の気持ち確かに受け取った。』」
村正が輝き出した。
「『解き放たれよ。村正の禽獣よ。』」
また一方、街では生々しいビーム痕をレールとして、死の夜行列車に乗った二人の吟遊詩人は街に向かって歩いていた。つまり、さらりの矢部さんと牧原さんだ。
「おいっあれを見ろ。」
矢部さんが高台の方を指差した。既に二人は高台を降りて、市街地の道路を歩いていたが、この時、高台を見上げる事になった。
「高台が崩れる。」
凄まじい轟音、そして地響きと共に、高台が土砂崩れのように破壊されたのだ。いや、土砂は一度持ち上げらてから、地に向かって
落ちた。つまり、高台の土中にいた何かが浮上したのである。
それは鋼鉄で出来た鷹であった!
『我こそは初代村正の作り出した最強唯一の刀にして翼。名を天空秘剣ハバタキと言う。我が所有者の元に馳せ参じ、その刃となろう。』
天空秘剣ハバタキは全長10mの鷹ロボットだ。鷹ロボットは大きく飛び上がり、一度旋回してからジェット噴射で主の元へ、禁忌村正の持ち主メタルアラバキの元へと急降下した。行け!ハバタキ!
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まっ………………
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って………………
………る…………