僕ノ葬式ト彼女ノ生キルセカイ   作:阿佐ヶ谷星空

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………………みつ

…………み…………


………………け……
…………みつけた…
………………………


第七譚 逃げ場なしの勇気

  ライブハウス『デスオンド』内部は狭い室内にスポットライトが13基設置されており、照明はこれしかない。目立った飾り付けと言えば内側が灯油で満たされた水槽や小学校の人体模型、マッサージ機や落とし穴程度と簡素である。人数もせいぜい100人入りきればせいぜいといった所の小規模なライブハウスである。だが、それでもどこから湧いてくるのか、パンク人間たちは尽きる事なくライブハウスに収納され、そこから順次病院に突撃していた。

「殺せー!!」

「破壊しろー!!」

「生きて帰すなー!!人類は皆殺しよー!!」

  今、モヒカン騎馬隊が病院の正門に突撃していた。病院側は戦線が崩壊して統制が取れない。しかも、モヒカン騎馬隊は何と猟銃で武装していた。まるで武田騎馬隊の中に織田信長が混じって百姓に挑むが如き歴史的絶望感が今まさに現代の離島においても展開されようとしていた。

  続いて爆音!病院の駐車場から出てきたのは救急車だ!音量MAXでサイレンを鳴らしながら走行を開始した。この騒音の中でまともに活動出来るテロリストなど存在しないだろう。病院側の形成逆転か?

  この様子を見守る者は多かった。主に病院の患者や見舞いに来た人々だ。しかし、病院内の窓から救急車を見た九門御所子は顔を青ざめた。救急車を運転しているのはモヒカンのパンク人間だ!救急車は病院の壁を突き破って内部に入ってきた。廊下を伝ってサイレンの音が病院内に鳴り響く。

「きゃー」

  一方で、病院一階受付カウンターでは、ナンバーワンパンクバンド ペンペンリーフイズデッドのベーシストnogchとgoroがゲリラライブを強行していた。辺りには興奮したパンク人間達が暴力行為に及んでいる他に、重傷者や死体などが無作為にばら撒かれている。これはgoroがかつてペンペンリーフイズデッドが病院送りにした人間を病院内から見つけ出して並べた物だ。この行動はgoroのパンク哲学に基づいている。

「うぬらまだワシらの儀式を見尽くしていないであろう。」

  goroの低音地獄ボイスが鳴り響く。重傷者達は発狂した。

「いやぁ、もう見尽くしました。もう見る所はないです。帰してください。」

  全身を包帯で巻かれた男が叫んだ。男をよそに、ライブハウスのスタッフ達は禍々しい音楽機材を設置する悪趣味な行為に及んでいる。goroは叫ぶ男を無視してそこら辺にいた重傷者にギターを叩き込む。

「ぎゃああああ」

「ぎゃああああ」

  goroはライターを懐から取り出した。

「このギターは特別製でな。地元の家具職人に100年の技術で作らせた名品よ。頑丈に出来ていて、中々壊れない。だからワシはこのギターを武器にしている。」

  重傷者は自身の顔面に叩き込まれたギターを見た。いくら頑丈と言っても、荒々しい使用方のせいで傷だらけ、弦はあちこちに飛び出してギター中央の空洞まで絡まってしまっている。そして空洞にはダイナマイトらしき物体がガムテープで貼り付けられている。ギターの弦はダイナマイトに直結している!

「あわわわわこの改造は良くない。」

「ワシは物を大事に使わない主義でな。このギターはこうやって使うのだよ。」

  goroはギターに火を放った。火は弦にまで引火し、火花を立てて燃え上がり出した。

「ふはははは命乞いをするがいい!」

  パンク人間達が喜びの唸りを挙げる。既にライブは佳境だ。

  そこに現れたのは顔面に竹槍が突き刺さった男二人組だった。二人は熱狂の中、走りながらそこら辺のモヒカンに噛み付いたのだ。

  二人組は次々とモヒカン達に噛み付いてゆく。そのうち流石に変な奴がいる事に気づいたのか、パンク人間達が二人組を鋤や鍬で打ち始めた。

「これで万事OKですな。」

  そう言って、二人組の片方、牧原さんは地に伏した。もう片方の矢部さんも笑うと地に伏して死亡した。

  だが、二人組の死にも気づかぬほど、場の熱狂は高まっていた。ダイナマイトが爆発したが、誰も気づかない。ただ騒いでいるだけだ。虎が場に乱入したが、これも気づかない。パンク人間達はわけのわからない事を言いながら適当に動いているだけなのだ。そのうち二人組の死体が動き出した事にも気づかない。爆発で巻き込まれた死体達も動き出したが、誰も気にも止めない。一人、また一人とゾンビ化していく。だが、これはいつもの彼らと何も変わらなかった。

「あーうー」

「うー」

 

  病院の病室では、コギャルメイクの石田が廊下に灯油を撒いていた。

「バリケードを築くのよ。みんな手伝って。」

灯油を撒いた上にドラム缶や机、ベッドで廊下を塞ぐ。そして、隣の病室にも灯油を撒いたり色々する。

「これでパンク人間達はここまで来れないわ。せいぜい隣の病室の明かりをつけるくらいしか出来ないわね。」

  そう言っていると、廊下からパンク人間達が殺到してきたのだ。彼らはバリケードを見つけると、怒り狂い出した。

「人間どもがいやがるぞー!!わざわざ殺されるためにバリケードを築くなんてな!殺しちまえー!!」

  そう言ってパンク人間は手に持っていた松明をバリケードに投げた。次の瞬間、灯油に引火した松明とともに廊下は激しく炎上したのだ。パンク人間達は炎に包まれた。

「ぎゃああああ」

「わ、わーすごい。」

  炎上するパンク人間達。その様子を多和子がやや恐怖しながら喜ぶ。この女子生徒は平時に於いてはほんわかした雰囲気で場を和ませる振りをして周囲からちやほやされるのが得意だが、緊急時に於いてはとにかく保身に走り、自身の逃げ場だけは確保しようとする醜い一面を覗かせる。つまり、この女が騒いでいる間は自分達は無事であると石田は知っていた。集団行動の重要性は柿内多和子も知るところだからだ。だが、石田の仕掛けた罠はこれだけではなかったのだ。苦しい炎から逃れようとしたパンク人間達がとった行動はとりあえず火の手の回ってない病室に逃げ込む事だった。

  反射的に病室の明かりをつける。その瞬間、石田の仕掛けたライトの何かの装置によって、病室は爆発した。

「やったわ。大成功よ。」

  石田はガッツポーズ。

「やり過ぎだよ。」

  注意するのは御所子である。御所子はバリケードを見た。炎上するパンク人間達は爆発によってうまい具合に廊下のドラム缶や机の上に載せられ、燃え上がるバリケードの一部と化している。

「そんな事を言ってる暇があったら早く脱出しましょう。」

  眼鏡女子の磨ヶ瀬が言う。彼女は窓の外を見た。既に自警団のヘリがこちらに向かってきている。

「早く屋上まで行ってヘリに乗りましょう。」

  石田と御所子、柿内多和子、磨ヶ瀬、そして車椅子に乗った雲野五郎は病院を出た。バリケードとは反対方向に階段がある。そこを駆け上がれば屋上まで辿り着き、自警団のヘリによって救助される。何も問題は無い。

「反対方向からパンク人間が来ないうちに早く行きましょう。」

  磨ヶ瀬が注意を促す。さっきから自分は何もしてないのに、やたらと指示だけ出したがるが、この女はこれでいい。なぜならこの女は頭が良く優秀だからだ。注意喚起もまた重要な役割だ。特に頭がお花畑のクソ女と騒ぐだけ騒いで他人をこき下ろし、とにかく自分が正常な人間である事を声高に主張しようとする異常者のクソ女と、普段は筋肉に拘りやたらと暑苦しく、場の雰囲気を熱気で居心地の悪いものにするくせに、緊急時の今は全身包帯に巻かれて何の役にも立たない木偶の坊がいる中では、次の行動を適宜把握する事は何より重要だと、磨ヶ瀬自身は考えていた。石田が車椅子を押す。

  今更だが、磨ヶ瀬はこの島が嫌いだった。彼女が好きなのは完璧超人、つまり石田である。石田はあれで優しく、文部両道でカリスマ性があり、実はお嬢様だ。そしてあれは都会のメイクだ。

  その時だ。石田の背後で何かが壁にぶつかるような音がした。金属音だろうか。外から何か小石でも投げられたのか。石田は警戒しつつ振り返る。

  石田が見た物は、フックロープの鉤だった!金属で出来た鉤がこの病室の窓に掛かっているのだ!外にいるパンク人間の仕業に違いない。先程の爆発で、この場に人間がいる事を悟られたのだ。ここは二階だ。鉤付きフックロープならば二階まで登ってくるのは用意だろう。

  石田は急いで窓際まで走り、手刀でロープを切った。誰かが落下する叫び声が聞こえた。

「次々こっちにくるわ。早く行きましょう。」

  石田が促し、四人は灯油を撒きながら病室を出た。次々と金属音が聞こえる。

 

  その一方で、病院から離れた高台の方にはロボットがいた。

「『この島は古くから妖刀村正の隠れた産地だった。』」

  ロボットは何か言い出した。

「『初代村正が隠棲したのがこの地だったからだ。そもそもこの島は遥か古より権力者達の別荘だった。時が移り変わり、権力者が入れ替わっても保養地としての立場は変わらなかった。京との距離がそれなりで、風土に優れ、良い金属の隠れた産出地だったからだ。この島の所有者達は代々この島が争いの場になる事を危惧し、その存在をひた隠しにして来た。これこそこの島の第一の禁忌に他ならない。』」

  ロボットは饒舌に嬉々金島の歴史を語る。

「『朝廷との戦いに敗れた蝦夷がこの島まで逆走し、住み着く事さえあった。それにしても初代村正の見聞は大したものよ。自力でこの島を探し当てる事は当時としてはかなりの難行だったはずだ。逆に運のみでこの島に辿り着いたのが叔父貴の先祖だ。ただの殺戮者に過ぎなかった叔父貴の先祖達は弱かった故に故郷を追い出され、この島まで流れ着いた。そこで大殺戮を繰り返し、現在の地位を手に入れたのだ。運が悪ければすぐに死んでいたものを。この血塗られた歴史こそがこの島の第二の禁忌。』」

  叔父貴と呼ばれた本堂美濃一は黙っていた。彼は剣術を極め、二十代の若さまで若返っていたが、そのオーラは老境をも超えた神のごとき凄まじさである。

「『この島の後半生は本堂家との争いの歴史だ。村正一族は本堂家を打ち倒す事を夢見て、寺内町連中と組んで最強の村正を量産したが、逆に村正を奪われた。その為、村正そのものを恐れた島民達は初代の作りし最強の村正ロボット、つまりハバタキをこの高台に封印したのだ。これこそがこの島の最後の禁忌。』」

  ロボットの背後には巨大な鷹のロボットが佇んでいる。これこそが最後の禁忌、最強の村正ハバタキである。

「『私はこの家に婿養子になった時、最強足る事を目指した。その為、叔父貴の強さを基準にしたサイボーグ計画を発案した。この装甲も村正の強度を参考に作り上げている。だが、村正一族は既に滅亡していたのだ。私の開発は難航した。しかし、現在の私は米軍の兵器開発に貢献する事で技術力を得た。このメタルアラバキもハバタキとの合体を想定した機構となっている。』」

「うむ、やってみよ。」

  メタルアラバキは空中に飛び上がった。そのまま背面が展開し、両腕が分離した。ハバタキもまた胸部を展開し、両脚を直角に変形させる。二体のロボットは結合した。ハバタキがメタルアラバキに潜り込んでゆき、メタルアラバキの両腕がハバタキの両脚と絡みつく。やがて、まるでマンモスのような鉄の巨人が形成された。

「縄文弥生合体!ゴッドアラハバキ!」

  ゴッドアラハバキはパンチを繰り出す。美濃一はパンチを受け止めようとしたが、耐えきれずに遥か彼方へ飛んで行った。

「素晴らしい。殺しがいがあるぞ。荒引よ。」

  空中を舞いながら美濃一は笑った。

 

  屋上までは比較的安全に登る事が出来た。ヘリは既に屋上に着陸しており、ヘリからは和尚が出てきた。

「ダイアナ和尚!」

  ダイアナ和尚と呼ばれた和尚は外国人だ。ダイアナ和尚は外国人でありながら仏の道を志し、日本に渡来して和尚となった人物である。島中にその名は知れ渡っており、皆から慕われていた。ちなみに鮫山和尚とは仲が悪い。

「おはよう諸君。では急いでここを出ようか。私の寺に向かおう。」

  その時だ。再び爆発音が鳴り響いた。急いでここを脱出せねば。

「ぐああああ」

「ぎゃあああ」

  突如としてパンク人間達の悲鳴が聞こえてくる。何かが炸裂するような研ぎ澄まされた回転音も聞こえる。何かが起こったのか。

  速やかにこの場所から離れた方が良いと判断したダイアナ和尚は救助を打ち切り、すぐさまヘリを浮上させた。

「床が割るぞ。」

  誰かがそんな事を言った。ダイアナ和尚はまさかそんな筈は無いと屋上の床を見る。上空から見えたのは、コンクリートが燃え上がり、破壊され、溶けてゆく光景だった。

「病院が崩れ落ちる。」

  病院は一瞬にして炎上し、炎に包まれた。ほんの少し飛び立つのが遅ければあの場で自分達は死んでいただろう。しかし、次にヘリが見たものは、突如として目の前に現れた巨大なロボットだった。

「『これがゴッドアラハバキの力だ。私は鋼鉄の神となったのだ。よし、人類を滅ぼそう。』」

  ゴッドアラハバキはビーム病院を放った。病院は蒸発した。

「『ふはははは。私は最強だ。』」

  その時だ。クレーターとなった病院から何か電気のようなものがゴッドアラハバキに直撃した!

「『なにっ』」

  その電撃は美濃一が錬成したものだった。

「貴様の弱点がわかったぞ。貴様の弱点はコンピュータが脆弱である事だ。ワシの肉体から直接ハッキングして貴様のシステムを停止させる。」

「『やめろおおおお』」

  ゴッドアラハバキの一瞬の油断が命取りとなったのだ。美濃一はゴッドアラハバキのメインコンピュータへのハッキングに成功した。メインコンピュータは全てのデータが削除され、すぐさま機能が停止した。つまり、電子化した荒引博士の意識も消えてなくなったのだ。全ては一つ瞬きの内に起こった出来事だった。




……………
まっ………………
……………………


……………………

って………………

………る…………
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