「………」
血のように赤い夕暮れの街。
そのビル群の影に蹲る一人の泣き噦る少年の背後に立っていた男ーー龍賀アギトはまたこの夢か……と複雑な心境で目の前の光景を眺めていた。
「何度この夢を見れば気が済むんだろうな。俺は……」
地面に蹲り、何処かへ手を伸ばして声なき悲鳴を上げる子供と、その視線の先を走り去っていく男の子。
彼ら二人は瓜二つといって過言では無い程に容姿が似ていて、アギトは悲しげに双子の兄弟を見つめている少年の背後に立つと、昔の彼は泣きながらアギトへ問い掛けた。
「どうして?僕は怖くて、怖くて。××に行かないでって言ったのに。××は僕を無視して、何で行っちゃうの?」
少年の姿は夕暮れの逆光と影で真っ黒に染められていて、その姿はまるであの頃の彼が抱えていた闇のようで、それは確かに子供の小さな体躯を飲み込もうとしていた。
「それは、アイツが優しい奴だからだ。俺は…お前は、それを知っているだろう。誰かの為に居ても立っても居られない……本当にバカなお人好しだってことを」
忘れようとも忘れることは出来ない記憶を振り返りながら言えば、小さな闇はアギトをそっと仰ぎ見た。
互いに視線を合わせ、唇の端を震わせて小さく吹き出して、これから少年が出会うであろうーーーとびっきりのお人好しなバカを想像してあの頃の彼へ含みをもたせた忠告をしておこう。
「ふっ、お前はいつか、いつか二人の男に出会う。一人はお前に戦う力と願いを託す男。もう一人は何を悩んでいたのかってバカバカしく思えるほどに底抜けのお人好しだ
俺もさんざんアイツに振り回されたんだ、楽しみにしとけよ」
我ながら意地の悪い忠告だと思いながら、夕暮れと少年に背を向け、夢ならもう覚める頃だろうとポケットの中の黒いデッキを弄ぶ。
そのデッキの、金で彩られた龍の紋章を撫でた時、彼の意識は鮮明に浮上していく。
最後にアギトを振り返った少年は、昔の彼は。
輪郭も朧げな表情で確かに微笑んだ。
「またね。零季」
「今日からみんなのクラスメイトになる龍賀アギト君です!」
「……」
仮面ライダーと謎のIS機が乱入した所為で中止になったクラス対抗トーナメントの翌日、 シレッとした顔で転入生面したアギトは1番前の席に居座る織斑一夏の両耳塞いで口開けろの姿勢に、訳もわからず眉を顰めた直後だった。
『キィィィァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!???』
「ッ!!?」
AP5000の音響破壊兵器もとい女性達の黄色い悲鳴によってアギトの鼓膜は一時使用不能になり、肉体的にも精神的にも少なからずダメージを負ってしまった。
どこか遠くで神崎が周囲のガラスが割れてビビってるような雰囲気を覚えるから不思議だ。
「超☆絶☆イケメン!!」
「しかも目つき悪い系!!」
「織斑君とはまた違った良さ!!」
「フゥーーーフゥーーー!!」
「何だこいつら……」
野獣の集まり、餌を前にしたギガゼール軍団。
仮面ライダーインペラーこと佐野満が契約しているギガゼールはミラーモンスターには珍しく群れで契約者をサポートする為、彼は今日も何処かで餌を探し、夜間はハーレムさながらに絞られているのだろう。
ーーーリア充くたばれ(※佐野満は現在某企業の社長にして美人の嫁持ち)
とまあ、かのライダーが契約する野獣集団さながらの眼光を持つ女生徒共の気迫に修羅場を潜り抜けたアギトの額に冷や汗が垂れる。
「静かにしろ!」
まるで鶴の一声だ。
担任の織斑千冬が喝を入れればそれだけで生徒は黙る。
お前の席はあそこだ、とアギトに席を示す際、千冬は言い表す事のできない懐かしい感覚を、匂いを、面影をアギトに重ね合わせた。
「お前……は?」
つい、彼にしか聞こえない声で問い掛けてしまった。
横目で千冬と目を合わせた彼は少し目を細めて彼女を射抜いたきり視線を離す。
「………ぅ」
たったそれだけなのに、千冬の胸はとても苦しく、とても辛く、とても切ない衝動に駆られるのだ。
「?なにやってんだ、千冬姉」
そして彼女の表情に気付けたのは、長年接し続けた織斑一夏と、声もなく溜息を吐いたアギトの二人だけだったのはそれが3人の関係性を示していることに他ならないのだろう。
席に座ったアギトも教壇に立つ千冬も首を傾げる一夏も何かが始まる予感だけは確かに感じていた。
「俺、織斑一夏。よろしくな、アギト」
「……ああ」
野獣達に追いかけ回されやだとのことで更衣室に逃げ込んだ二人がISスーツに着替えていると、改めて自己紹介をすることにした一夏がにぱっと笑う。
対してアギトはクールに、素っ気なく返事を返した。
自分の自己紹介は先ほどやっていたので何もすることはないだろうと思ってのことだ。
「「ああ」ってなんだよ。俺だけ名前をいうのは味気なくないか?」
ムッとした顔の一夏は、アギトにつれない返事をされただけで腹を立てた自分に疑問を感じたものの、その違和感がなんなのか分からないまま着替えを終え、バタバタと実習場へ走るのだった。
「では本日の実技を説明する前に、まずは代表候補生の凰、オルコット、前に出ろ。お前達には山田先生と実演をして貰う」
「一対一ですか?」
「馬鹿を言うな。二対一に決まっている。山田先生の胸を借りるつもりで挑め」
織斑千冬の言い草にプライドを傷つけられた二人はぶつくさと呟きながらもその後耳打ちされた言葉にやる気のボルテージを絶好調に引き上げた。
「って、千冬ね……織斑先生。山田先生は一体どこにいるんだよ」
「もうすぐ来る」
「もうすぐ来るって……ん?」
「ーー何か来る。上か?」
誰よりも真っ先にアギトが上空から訪れる気配に身構えた。
それは、地の底から響くようなうめき声だった。
「ぃぃぃぃぃぃぃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー」
上空から超高速で地面に落下および加速する飛行物体、山田摩耶彗星である。
山田摩耶彗星は綺麗な放物線と大粒の涙を流し織斑一夏を抹殺せんと更に加速した。(嘘)イケメン死すべし。
「だれかとめてくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいいいいい!!?」
「えっ!俺!?」
推定落下地点を予想した優秀な生徒達は直ぐに落下地点の中心である一夏の周囲から退避し、一夏はパニクって自分の顔を指で指しながら周りを見渡す。
しかし誰も助けようとしない。
意を決した一夏が上を見上げた時、そこには緑色したジャガーノートがその代名詞と言うべき巨大なスイカメロンを突き出していたーーーー。
「とめてくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい」
「う、う、うおおおおおおお!!俺が止めry」
ちゅどーーんどっかーーーん
「止まるんじゃねえぞ……」
仮面ライダーのファイナルベント並みの破壊力でグラウンドにクレーターを残し山田摩耶彗星は無事不時着した。
その後一夏は山田摩耶のスイカメロンを揉みしだいたおかげでオルコット、凰、篠ノ之にボコボコにリンチされ、山田摩耶は妄想の世界に浸ってしまうという問題もあったが、順調(?)に今回の目的である山田摩耶vs.オルコット、凰の対戦が始まる。
「ちょ、あんた私ごと撃とうとしたわね!?」
「山田先生が上手いのですわ!的確に一対一の状況を作り上げていて即席の連携では無理ですわ……くっ」
普段のおっとり顔とは違いキリッとした鋭い目つきで代表候補生二人を翻弄する山田先生の姿に驚く生徒達。
アギトは逆に、近距離戦ではオプション装備の盾とショットガンで凰を決して近付けさせず、遠距離のオルコットに対しては向けられた銃口から射線を読んで紙一重で避けつつ的確な狙撃を繰り出してみせる姿に持病持ちの弁護士が変身する仮面ライダーゾルダを重ねた。
「読みと精度、そのどちらも北岡に引けを取らないんじゃないか?」
仮面ライダーゾルダである北岡は相手の思考を読んだ射撃を得意とし、近距離の戦いもそつなくこなす万能型であるが、持病と情事中のマグナギガが擬人化しても重量級だったためかギックリ腰持ちにもなってしまったらしい。
いっそのこと契約を又貸ししようかとぼやいていたのはご愛嬌。
その北岡を思わせる立ち回りと射撃の腕並びにゾルダと同じ緑色のカラーリングなのはなんの因果やら。
そんなことを考えながら眺めている視線の先では至近距離からのショットガンを食らった凰がバックステップからのグレネードバズーカを喰らって撃墜し、オルコットも負けじと食らいつくもシールドを使った強引な突破に負けを認めるのであった。
もしかして→山田摩耶強化フラグ?