真剣で帰還者に恋しなさい!   作:晴貴

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歓迎会

 

 

 俺が通っている川神学園(かわかみがくえん)源義経(みなもとのよしつね)が転校してきた。その家臣である武蔵坊弁慶(むさしぼうべんけい)那須与一(なすのよいち)も一緒にだ。

 改めて口にしてみると俺の頭がイカれたように聞こえるかもしれないが、ところがどっこいこれが事実なのだ。

 

 とはいえ歴史上の人物がそのまま在学しているわけじゃない。世界に名だたる九鬼(くき)財閥(ざいばつ)がその技術力を結集して産み出した偉人のクローン。

 通称『武士道(ぶしどう)プラン』によって産まれたのが義経達である。

 

 ……なぜだろう。事実を語っているのに頭のイカれ具合が増した気がする。

 

「義経ちゃん強いな~」

 

「しかも超可愛いし!」

 

「そうだな」

 

「弁慶ちゃんも色っぽいというかなんというか……」

 

「エロいよな!」

 

「そうだな」

 

 川神学園2年C組。その窓際から校庭を見下ろす男3人。

 眼下の校庭では件の義経が挑戦者相手に大立ち回りの最中だった。屈強な男が車にはねられたかのような勢いでぶっ飛ぶ。

 

「おー、義経ちゃんまた勝った」

 

「可愛くて強くて礼儀正しくてしかも可愛い!」

 

「可愛いって2回言ってね?」

 

「大事なことだろ?」

 

「そうだな」

 

 人体がそんな勢いでぶっ飛んだら普通は生死もしくは怪我の有無を心配するべきだと思うが、この川神学園ではそんな常識なぞ当てはまらない。

 なにせ学園には決闘なるシステムが存在するからだ。

 

 川神学園にはその土地柄か武術に覚えるのある人間が多く、また学園長である川神鉄心(かわかみてっしん)本人も高名な武道家だ。

 恐らくはそういった要素がきっかけになったんだろうが、今や武術に留まらずあらゆる勝負事を決闘で解決するのが学園の校風になっている。

 良く言えば切磋琢磨できる実力主義。悪く言えば決闘は犯罪ですよ、ってなところである。

 

 まあ学園内で賭場が黙認されてる時点で今さらなんだが。かなり治外法権的な学校と言えよう。

 一応、学園内の決闘は合法らしいけど。

 

「なあ(たつみ)

 

「あ?」

 

「お前さっきから“そうだな”しか言ってなくね?」

 

「……そうだっけ?」

 

「そこは“そうだな”じゃないんかーい!」

 

 ビシッと突っ込まれた。我ながら毒にも薬にもならないやり取りを展開しながら昼休みを過ごす。

 川神学園はイベントに事欠かず、いつも騒がしい。特に2年のS組(選抜クラス)F組(問題児クラス)が騒ぎの中心になっていることが多い。

 

 この2クラスには王を自称する九鬼財閥の御曹司とか、その従者でかなりの重量があるだろう人力車を猛スピードで牽引する忍者メイドとか、授業を抜け出してそのままふらりと数日間の旅に出る自由人とか、老若男女を食い散らかす超絶イケメンの性癖倒錯者とか、転校初日に馬で通学してきたドイツ軍中将の愛娘とか、彼女の護衛でトンファー振り回す現役軍人とか、女は小学生までと言い切るロリコンのハゲとか、命を懸けて女子の際どい写真撮りまくってるカメラ小僧とか、お仕置きと称して生徒を鞭で打つ女教師なんかがいるのだ。

 

 そりゃ騒がしいに決まってる。それにひきかえこのC組はキャラクターも成績も普通だ。

 没個性なんて言われたりするが、日々の喧騒を遠巻きに観賞するには最適なクラスだろう。俺にはこれくらいがちょうどいい。

 

 ……なーんて思っていた矢先のこと。

 

 その日、義経達の歓迎会兼誕生会が開催される、という一報が校内を駆け巡った。

 これに食いついたのは俺の友人達である。

 

「巽、行こうぜ!桃源郷に!」

 

「なんで桃源郷?」

 

「なんでってお前、参加するメンツ見てみろよ。全学年の美人どころほとんど来るんだぞ?」

 

 いつの間に開設されたのか、歓迎会用のHPの画面を俺に見せつけながら力説する。義経達が転校してきてまだ数日だというのに仕事が迅速だ。

 ちなみに桃源郷の本来の意味は俗世を離れた仙境である。楽園(ユートピア)的なことを言いたいんだろうが、残念ながら真逆だ。

 まあ要するに学園の美人が一堂に会するからお近づきになりに行こうぜ!という誘いなのだが。

 

 確かに学園には美人が多いし、美人には武士娘(ぶしむすめ)が多い。

 しかし如何せん彼女達は個性的すぎやしないかとも思う。おまけにどうも彼女達の周りはハプニングに溢れているようなので、ゆっくり平穏な学生生活を送りたい俺としては一定の距離を保っておきたかった。

 なので俺の返事は決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『かんぱーい!』

 

 学園の多目的ホールに唱和された乾杯の音頭と、グラスが合わさる音が鳴り響く。

 不肖、小篠(こしの)(たつみ)。義経達の歓迎会に参加しております。

 クマちゃんが厳選した材料を用いた料理の魅力には勝てなかったよ……。

 

 歓迎会が開始されてすぐ、連れ立ってきた友人2人は引き寄せられるように美少女達の方へフラフラと行ってしまったので、俺は一人で黙々と料理に舌鼓を打つ。

 川神1の食通であるクマちゃんこと熊飼満(くまがいみつる)が選び抜いた至高の具材だけあって何を食ってもうまい。きっと調理した奴の腕前も相当なんだろう。

 学園には学生でありながらプロ顔負けの技能を持った生徒が沢山いるからなぁ。

 

 その最たる例は武神・川神百代(かわかみももよ)だ。

 川神鉄心の孫娘にして、世界最強との呼び声も高い武道家。俺からは知り合いたくない人No.1の称号を与えよう。

 川神先輩はバトルジャンキーらしいからな。絶対に絡まれたくない。

 

 ちらっと見てみれば葉桜(はざくら)先輩や松永(まつなが)先輩と談笑しているようだ。

 なぜか川神先輩が美少女を侍らせているようにも見えるが、しかしその実態は魔境である。

 納豆小町としてご当地アイドルやってる松永先輩も武道家としてはかなりの腕前だし、葉桜先輩も武神に迫りかねない苛烈な闘気を宿している。

 もしあの人達が暴れ出したら川神市が地図からなくなるだろう。くわばらくわばら。

 

 あまり見ていると勘付かれそうなので視線を外す。次に目についたのは本日の主役である義経、弁慶、与一の3人。

 義経は参加者の元を回りながらはきはきと感謝を述べ、弁慶は川神水を飲みながら主の傍らに寄り添っていた。与一は……ああ、弓道部に勧誘されてら。

 

 葉桜先輩も含めてクローン組を間近で見るのは初めてだが、やっぱり独特の雰囲気があるな。

 それは強さがどうのこうのとは関係なく、もっと根本的な部分の話だ。

 そして気がかりなのは、このクローン独特の雰囲気に覚えがある、ということだ。

 

 どこでだっけかなぁと思案しながらも料理を口に運ぶ手は止まらない。むしろ加速している。

 ああ、料理がうますぎて考えていたことがどうでもよくなっていく。

 

「俺も料理覚えてみるかなぁ……」

 

 絶賛独り暮らし中の身からすると美味しい食事の有無は結構な死活問題だ。外食か市販の弁当を主食にして1年ちょっとになるが、そろそろ飽きてきてる。

 自炊は面倒ではあるけど、出来るようになれば食事のレパートリーも広がるだろう。

 最初は四苦八苦するだろうが、慣れてしまえば……。

 

「あああああ、あの!」

 

「ん?……うお!?」

 

 声をかけられたので振り向くと、そこには刀を握って怖い顔した女子生徒がいた。驚いて思わず半身ほど後ずさりしてしまう。

 

「まゆっち!顔!顔怖いから!」

 

「はうっ!」

 

 まゆっちと呼ばれた女子は後ろに控えていた男子生徒に表情を指摘されて一気に涙目になる。どうやらメンチを切りたかったわけではないらしい。

 

「ま、またやってしまいました、松風(まつかせ)……」

 

「元気出せまゆっち。男子に声をかけた勇気、オラ忘れねぇぜ」

 

 と思ったら今度は馬のストラップと会話を始めた。腹話術か?

 帯刀も含めてなかなかファンキーな女の子だった。

 一緒にいた男子は顔を押さえてため息を吐いているけど。

 

「……えーっと、まゆっちさん?」

 

「は、はい!1年の(まゆずみ)由紀江(ゆきえ)と申します!」

 

「2年の小篠巽だ。それで俺に何か用でも?」

 

「そそ、それはですね!先ほど料理を覚えたいとおっしゃっていたと耳にしまして……」

 

「ああ、そんなことも言ったかな」

 

 どうやら独り言を聞かれていたらしい。

 

「実はまゆっちも料理を準備した一人なんだ」

 

 見かねたように男子生徒……あ、よく見れば2―Fの直江(なおえ)だった。あまり面識はないが顔の広い奴なので名前くらいは知っている。

 その直江が会話が続かせるためか助け船を出した。

 

「マジ?黛さん料理上手なんだ」

 

 どれを作ったかは分からないが、この歓迎会に並ぶ料理を作るシェフに名前を連ねた時点で腕前は伺い知れる。

 

「そうなんだよ。それに初心者でも簡単に作れる料理とかも知ってるんだ」

 

「きょ、恐縮です」

 

「なるほど。なんとなく話の流れが見えてきたような……」

 

 直江は学園内で特に顔が広い。よく貸し借りを作っては人脈作りに勤しんでいると聞く。

 そして恐らく今回は黛さんのために何かしようとしてるんだろう。そうすれば貸しをひとつ作っておくことになる。いざという時に力になってもらうつもりなのかもしれない。

 問題は黛さんが何を求めて俺に声をかけてきたかってことだけど……。

 

「こ、小篠先輩さえよければなんですが……料理をお教えしますので私と、おととととお友達になっていただけないでしょうか!?」

 

「……お友達?」

 

「はい!」

 

 黛さんはテンパっているようなので直江の方を見てみる。直江は静かにうなずいた。

 え?本当にそれだけ?

 

「まあ、俺でよければ……」

 

「本当ですか!?」

 

「ウェェェーイ!やったぜまゆっち!」

 

「ありがとう松風!伊予(いよ)ちゃんに続いて2人目のお友達ができました!」

 

 再びストラップと会話を始めた黛さん。

 友達ってこんな交渉じみたことで作るもんだっけという疑問はさておき、この現象について直江に尋ねてみる。

 

「えっと、直江だよな?F組の」

 

「ああ、そうだ。まゆっちの友達になってくれてありがとう小篠くん」

 

「いや、それはいいんだけどさ。なんで彼女はストラップと会話をしてるんだ?」

 

「小篠くん、あれはストラップじゃないんだ。ストラップに魂が宿った九十九神であって、決して腹話術ではないんだよ」

 

「……ああ、そう。まあ面白い個性だと思うよ」

 

「そう言ってくれると助かる……」

 

 それめっちゃ本音だよね?とりあえず馬のストラップ……松風は黛さんとは別の個人?個体?として扱えばいいらしい。

 松風と会話してるのが通常なら、そりゃ友達を作るのも苦戦するわなぁ。

 

「じゃあ良き友人としてこれからよろしく、黛さん」

 

「はい!」

 

 そう力強く返事をした黛さんの笑顔は柔らかく、そして嬉しそうだった。

 日頃からそういう顔で笑えれば友達作りも捗ると思うんだけど、それを口にして水を差すことはない。

 

 こうして義経達の歓迎会に参加した俺は、後輩の女の子&九十九神という友達が出来たのだった。

 

 

 

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