「日菜ちゃん、何を見てるの?」
「あ、彩ちゃん!」
バンドの練習が終わり事務所に入ると、珍しく日菜ちゃんがレッスン着のままパソコンに向かって何かを探しているようであった。日菜ちゃんは、いつもなら練習が終われば、まずはお姉ちゃんである紗夜ちゃんに連絡する内容を考えているはずなのに。
「うん、実は人を探してるんだけど、中々見つからなくて」
「へぇ、そうなんだ!」
ふふ、人を探してパソコンを使うだなんて。よっぽどの有名人じゃないと出てこないのに。日菜ちゃんも意外と子供っぽいな。って
「あれ、ナニコレ」
画面が、真っ黒で。英語の羅列がずらりと上から下に流れて行っている。日菜ちゃんがカタカタとキーボードを動かすと、画面にはいくつかの男性の画像が現れるがやがて、ピーピー―とエラー音が鳴って画像は全て消えて行ってしまう。
「あー、まただよ~。どうしてあとちょっとってところまで行くと邪魔されちゃうんだろう」
「ひ、日菜ちゃんこ、これって?」
「?人探しだよ」
な、何だか危険な匂いがするよ……!?
はぐみの兄ちゃんは苦労人
「日菜ちゃん、本当に見つかるのかなぁ」
「大丈夫大丈夫。70億分の1なんて、星を探すよりは簡単だよ!」
外に出た日菜ちゃんを追って、私も外に出る。
日菜ちゃんは何度か「ある人」を探して、以前に出会ったという橋の上に行ってみたみたいだけれど、結局会えずに終わっているらしい。なので、今日は自分から探しに行くことにしたと言う。
「まずはどこから探そっかな~」
……でも、好きな人を探して街の中を歩く、なんてちょっとロマンチックかも!
「ふふ、日菜ちゃんも、やっぱり、恋をしたら普通の女の子になるんだね」
「?どうしたの彩ちゃん、変な顔して」
「ううん、何でもないよ」
そう顔を緩ませていると、日菜ちゃんはとある一軒家の前に立ちどまった。
「どうしたの。日菜ちゃん?」
「ん~、子供が二人に、お婆さんが一人、後ペットに犬2匹かな、お父さんがギターはやってるみたいだけど、女の子二人の家みたいだし、違うみたい、残念」
「えっ?」
ぱっと、日菜ちゃんが見ていた家を見てみる。てっきり、表札に家族の名前でも書いてるのかと思ったが、書いてあるのは名字だけ……。
「ど、どうしてわかったの?日菜ちゃん?」
「え?だって、家とか庭とか見たらわかるよ?」
「ぜ、全然わからないよ!?」
「おっと、いけない。次、行こう彩ちゃん!」
そういって鼻歌を歌いながら再び歩き始めた日菜ちゃん。どうして、お家や庭を見ただけで家族構成や趣味までわかるのだろう?何だか、ロマンチックな人探しというよりも、探偵の調査をしているようなそんな感じで、イメージと違うよ……。
「でも、これはこれでワクワクするね!謎は解けたよ、ワトソン君?」
「ワトソン?あはは、彩ちゃん面白―い!あははは」
渾身の探偵ポーズを、なぜかお腹を抱えて爆笑されてしまって自分でやった事なのに恥ずかしくなってしまった。日菜ちゃんはどうやら行く場所を決めているのかしっかりした足取りで目的地に向かっている。
「日菜ちゃん、どこに向かってるの?」
「ん?江戸川楽器店だよ」
「へ~、あ、そういえば、さっきもギターがって言ったし、もしかしてギターやってる人なのかな?」
「う~ん、多分、そうだと思うよ。ギターケースを持ってたし、指を見たときにお姉ちゃんみたいな豆が出来てたし!」
「へ~他には何か特徴あるの?」
「えっと、背はぐんって感じで、ごつごつーで、それから、ワン!って感じかな」
「ワン?」
う~ん、なんとなくだけど、大型犬、みたいな人かな。そう私が考えている間にも日菜ちゃんはずんずんと道を進む。そんなにその人に早く会いたいのかな?そのあとも、日菜ちゃんは家を見つけては、その家の家族構成をピタリと当てていた。途中、このあたりであった殺人事件の全貌まで明かしていたけれど、それは聞こえなかったことにした。
「いらっしゃい~」
カランカランと楽器店の中へと足を踏み入れると、紫檀色の髪をして紫色の人形を持った少女に出迎えられる。江戸川楽器店、この町一番の楽器屋さん。よく考えてみたら、私ってバンドは組んでるけど楽器を弾いたりしないからこういう店に入るのって初めてかも……。高そうな楽器がいっぱい並んでいて、何だか場違いな気がして落ち着かないよ……。
「日菜ちゃんって、よくこういうお店に来たりするの?」
「うん。おねーちゃんもよく来てるし……あ、すみませーん」
いきなり大きな声を上げる日菜ちゃん。奥から、はーいと、可愛らしい店員さんの声が聞こえてくる……。
「ちょ、日菜ちゃん、私たちこう見えて結構有名人だし、顔くらい隠さないと……」
と言いつつ、私は顔は隠さない。楽器店に通う丸山彩、なんて、ちょっと、かっこよくてバレて欲しい……。
「別に、そんなことしなくても……」
「オウ、ヒナカ、ヨクキタナ」
「うわ!?」
ぬっと、目の前に現れたのは、頬っぺたにハートマークの付いた丸い紫色の……悪魔!?
って、人形か。私の驚く様子を見て、あははごめんごめんと、笑うエプロン姿の店員さん。
「あれ~、あなたどこかで……」
ギクッ!
ま、まさか、私が、PastelPalettesの丸山彩だってことがばれちゃう……?
「あぁ、前、学校の廊下でこけてた子か~」
ズコ!!た、確かにこの前何もない廊下でころんじゃったけど!
「あ、あの、私!」
「あはは、嘘嘘。パステルパレットのふわふわぴんくちゃんだよね」
「そ、そうなんです、えへ」
知ってて貰えて、嬉しい……!
人形を持った店員さんをよく見てみると、エプロンの下にはウチの学校の制服が……。雰囲気も、どこか、同い年っていうより大人っぽいし、先輩なのかも。
「こんにちは、リィちゃん!あのね、今日おねーちゃん来た?」
「キテナイゾ」
そう持っていた人形を顔辺りに近づけて返すリィちゃん。この人形、目が細くてふわふわしてて、よく見ると結構可愛いかも……。
「そっかぁ、残念~」
「日菜ちゃん、私たち今日は紗夜ちゃんを探しにきたわけじゃないよね」
「え?あ、そうだった!あのね、リィちゃん、実は、るんって感じがする人、知らない?」
「るん?」
「えっと、大型犬みたいというか、背が高い男の人なんですけど……」
って、こんな中途半端な説明じゃわからないよね……。
「シッテルゾ」
「そうですよね。知ってるわけ……って、えぇ!?」
「ここって……」
「そっかぁ、どこかで見たことあると思ったら、はぐみちゃんのお兄ちゃんだったのか~!」
やってきたのは、商店街の北沢精肉店。
きつね色に揚がったコロッケ、パチパチと美味しそうな音……!見てるだけでよだれが出ちゃうよ!何コロッケにしようかな~!!って、今はそうじゃないよね。
「すごいね、日菜ちゃん、見つけるって言って、すぐに見つけちゃうんだもん」
リィさんに見せてもらった写真を確認したが、日菜ちゃんは間違いないよ!と大きな声を出していた。人探しだなんて、もっと時間がかかると思っていたけれど、特徴さえあれば結構すんなり見つかるものなのかも……って、あれ。
「日菜ちゃん?」
日菜ちゃんは店の前までやってきたというのに、固まってしまっていてそこから動く様子がない。どうしたんだろう。さっきまであんなにずんずん歩いてたのに……。
「まさか日菜ちゃん、今更会うのが恥ずかしくなっちゃったとか?」
そうからかってみるが、まぁ日菜ちゃんに限ってそんなことあるわけ……。
「そ、そんなことないよ?で、でも、何て話せば良いかわからなくて……」
カァっと、顔を赤らめてもじもじと服の裾を握る日菜ちゃん。瞳にはうっすらと涙が浮かんでいて、女の私でもドキッとしてしまうような色気のようなものが出ている。いつもの堂々とした日菜ちゃんとはまるで別人で、驚いてしまう。
「で、でも、折角ここまで来たんだし。会って行かないと」
「向こうはあたしのこと覚えてないかもしれないし……」
消え入るような声でそういう日菜ちゃん。……いつも可愛いけど、今日は、その何倍もカワイイ!!?日菜ちゃんって、こんな顔もできるんだ……。
「大丈夫だよ、日菜ちゃん。私もついてるから」
「……彩ちゃん」
ぎゅっと、日菜ちゃんの手を握って精肉店へと歩き出す。
震える日菜ちゃんの手、いつもより、小さく感じて。家で待っているであろう妹のことを思い出していた。