「オンラインゲーム?」
「そうそう、これが滅茶苦茶面白いんだって」
バンドの練習を終えてスポーツ飲料を飲んでいるとそんな話が持ち上がる。いや、どちらかと言うと、そういう話に持って行かれたような……。
「一回オンライン味わっちゃうと、もうオフラインのゲームには戻れねーよ。みんなで敵を倒して、レアな武器ゲット、ダンジョン攻略して、ボス倒して……とにかくすげーんだよ、これが」
「ふーん」
「北。お前も騙されたと思ってやってみろって。あ、そうだ、今度そのゲームのバージョン1、持ってきてやるよ。おまけにUSBもつけてやる!」
「いや、俺はやるとは……」
「まぁまぁ、遠慮するなって。一緒にNFOの世界を満喫しようぜ」
そういって肩を叩かれてしまう。って……NFO?
はぐみの兄ちゃんは苦労人
「まだ来てないのか」
自室のパソコンを立ち上げてそうこぼす。
俺は……まんまとあいつらの思惑通り、NFOにはまってしまっていた。
このNFO、オンラインって聞いただけでどこかとっつきにくい物だと思っていたが、そんなことは全然なかった。想像していたよりもずっとグラフィックが綺麗だったし、ストーリーも面白くて続きが気になるものが多い、戦闘も直感的な操作で思ったよりも簡単で……。とにかくやり始めると止まらなくて気が付くと一人の時でもプレイしてしまうくらいにはまってしまっていた……。細かいクエストなんかをやり始めると、中々終わり時がわからないのだ……。
「今日は大樹のストーリーを進めたかったんだけどな……」
このNFOにはストーリーのついたメインクエストと、お使い的な要素の強いサブクエストというものがあった。メインクエストを進めれば新しく解放されるコンテンツも多いらしくて、メンバーのみんなと一緒に進めてもらっていたのだが……残念ながら、みんな今日はまだログインしていないみたいだった。
「……」
今回のメインクエストは、街で差別を受けている異種族の小さな子供が、街の人たちを守っている大樹の危機を救うために、プレイヤーと一緒に奮闘するという話なのだが、物語はもうクライマックスで、いよいよ大樹を脅かしている元凶の本拠地に乗り込むところなのだ。
もう気になって気になって仕方がない。
……どうせみんな一度クリアしてるストーリーなんだ。だったら……俺一人で少しでも進めておこう……。そう思い、早速俺は大樹のダンジョンへと進んでいくのだった。
「……」
カツカレーと書かれた俺の小さなマスコットみたいなキャラクターがボス部屋の前で天使の輪っかをつけてふよふよと浮かんでいる……。
いや、惜しいところまで行ったはずだ。相手のゲージが減ってきて、後半分!ってところまでは行けたのだ。けれど、そこからのボスの攻撃が激しくなってきて猛攻に耐え切れず、持っている回復薬だけではジリ貧となってしまい……ご覧のありさまである。
俺の使っているジョブは短剣を装備した盗賊。あまり攻撃力はないが、素早さが売りのジョブで相性は悪くないと思うんだが……はぁ、やっぱりあいつらが来るのを待った方が良かったかな……
そんなネガティブな事を考えていると、俺のキャラクターの前に、フルフェイスの白い兜に白銀の鎧、そして、大きな銀色の盾を纏ったプレイヤーが立ち止まる。見ただけでわかる、初期装備に近い俺なんかと違って熟練のプレイヤーだ!
『……』
くそーカッコいい鎧で見下ろして……!
俺だってそのくらいの装備があればと三下っぽいことを考えていると、そのプレイヤーがなんと俺に向かって蘇生の呪文を唱えてくれたではないか。
『あ、ありがとうございます!』
そうエモート付きで感謝をすると、ご丁寧に今度は回復の呪文まで唱えてくれた。
見た目は厳ついけれど、何て良いプレイヤーなんだ……せこい考えを持っていた自分が恥ずかしい。
『あの、良ければパーティ組んでくれませんか、一人ではここのボスに勝てなくて……』
……俺は早くストーリーを進めたかったのもあって、その鎧のプレイヤーにイチかバチかパーティを組んでくれるように依頼をしてみることにした。俺一人では多分もう一度戦ってもボスは倒せないだろうし……でも、きっと断られるのだろうな……。この人から感じる孤高のオーラに、なんとなくそう思う。
……鎧の騎士はしばらく考え込んでいる風だったが、暫くしてチャットが返ってくる。
『良いですよ』
意外にも、快い返事が返ってきてテンションが上がる。早速パーティ申請を送るとすぐに、仲間の情報が画面内に加わった。プレイヤーネームはサヨさんか。何だか最近どこかで聞いた名前だが……まぁ、オンラインゲームに本名を入れるわけがないし、何かのモジりなのだろう。
『ありがとうございます!よろしくお願いします!サヨさん』
『こちらこそ、よろしくお願いします。カツカレーさん』
真面目にそう答えられると、何だか俺のニックネームが非常に滑稽に思える。
『私がボスを抑えるのでその間に取り巻きを!』
『わかりました!』
戦闘が始まる。
今回のボスは大樹を滅ぼそうとするデカイ毒蜘蛛である。
見た目の通り、蜘蛛の糸で動きを封じて、毒針や、麻痺する粘液を吐いてくる強敵である。先ほど戦った時には、HPが減ってきたときの麻痺粘液でしびれてしまい、その間に取り巻きと一緒にぼこぼこにされてしまったが……今回は頼もしい前衛が居る。先ほど情報も伝えたし、きっと大丈夫だろう。
周りの取り巻きである小さな蜘蛛はそこまで強くない。通常の雑魚より少し強いが、俺一人でも大体通常攻撃4回ほどで1体は倒せる。それがさっきは2体で今は4体か……。どうやら組んでいるパーティの人数で敵の数も変わるらしい……。
『っく、数が……多いな、ここはこのスリープナイフで!』
取り巻きに短剣で眠り攻撃を仕掛ける。すると、雑魚には催眠耐性がついていないのか、瞬く間に眠ってしまう……これで、一体ずつ処理できるはずだ!
その間も、サヨさんは一人で蜘蛛のボスを抑え込む。
『なるほど、スリープを入れて……すごいですね。カツカレーさん』
『そんな、すごいのはサヨさんですよ!ボスを一人で!』
『いえそれほどは、あ、一体、ベビータランチュラがこちらに来ています』
『あ、はいすみません』
こちらの賛辞も聞き流し、ボスに集中するサヨさん。真面目な人だな……。
サヨさんに向かってしまった取り巻きを引き剥がすと、こいつにもザクザクと短剣で攻撃をする。
『SIGYAAAAA!』
おぉ!蜘蛛が糸や毒針を放っているが、サヨさんは何かスキルを使っているのか、状態異常をものともしない。それどころか、持っている剣で逆にボスを圧倒している。こちらも最後のベビータランチュラを倒してサヨさんの後ろにつくと、ぺちぺちと短剣でヒットアンドアウェイを繰り返す……いまいちダメージが出ていないのはご愛敬だ。
これは楽勝だなと、相手のゲージを1割近くまで削ったころに、ボスの幾つもある黒い目の色が、怒ったように真っ赤に染まる。
『あ、サヨさん、なんかやばそうですよ、下がった方が』
『問題ありません。全て防ぎます』
やばい、カッコいい……!
盾を構えてボスを押し込めるサヨさん。相手が麻痺液を吐き出し始めたが、そんなもの、自信満々のサヨさんに効くわけ
『うっ』
『サヨさん!?』
麻痺して動けなくなるサヨさん。瞬間、相手の特殊な捕食攻撃モーションに入り、一気にHPゲージが減ってしまう。慌てて高価な回復薬をサヨさんに使用すると何とか即死圏内から離れたが……。
『GIYAAAAAAA!』
再び取り巻きがポンポンと背中から現れる。おまけに、捕食攻撃によりサヨさんのHPを吸い取ったようであった。く、くそ。あとちょっとだったのに。持っていた麻痺治療の薬を使うと、サヨさんの体に自由が戻る。
『すみません、助かりました。それに今の回復薬……』
『いえ、それよりも今は』
『……えぇ、今度は大丈夫です!』
再び立ち上がると蜘蛛のモンスターに立ち向かうサヨさん。
取り巻きは再び俺がスリープナイフで引き剥がし……やがてその数は0になる。
すると、再び、目が赤くなり、麻痺液を吐き始めるも、今度はそれもタイミングよく盾で払いのけるサヨさん……おぉ、今のカッコいい!すると、ボスは疲労したのか動きが鈍くなり始める……。
『さぁ今です!』
『ありがとうございました!おかげでボスが倒せました!!』
ボスを倒した後、ムービーを見終わるとボス部屋の外で改めてサヨさんにお礼を伝える。それにしても、かっこよかった。俺の方には的確な指示が飛んできて、サヨさん自身はボスの攻撃を全て無効化、一度危険な状態にはなったが、最終的にボスの攻撃はただ一発も飛んで来なかったのだ。
『別に、感謝されるほどのことではありません。それに私もあなたが居てくれてとても助かりました……実は、昨日もこのボスに挑んだのですが、全然勝てなくて』
『え、そうだったんですか?』
意外だった。こんなに強いのに……。
『はい、ストーリーは見たかったので必死に倒そうとしたのですが……取り巻きが邪魔で』
『なるほど……あれサヨさんも、ここのストーリーは初めて見るんですか?』
『えぇ、サブクエストばかり進めていて中々メインクエストに取り掛かれませんでしたから……』
なるほど……サブクエストの報酬のおかげでこんなに良い装備を持っているのか。俺はみんなに言われるがままに殆どメインクエストのみ突っ走ってきたからなぁ。
『良い話でしたよね。差別を受けていたのに、小さな子供があんなに頑張るだなんて』
『えぇ、あの子の為にも、勝てて良かったです。これで、大樹も元通りなればいいのですが……』
サヨさんのその言葉を聞いていると、今度は次第に得も言われぬ達成感が湧いてくる。これだ、これなのだ!今まではボスを倒しに行っても、俺以外のメンバーが強いからボスに勝っても無感動だった。けど今は違う、きちんと自分も戦ったという実感がある。
ストーリーについてもそうだ、あいつらは先の展開を知っているから、あーはいはいと言った感じで……俺が余韻に浸る間もなく次の場所への指示がポンポン飛んできて、なんかこう、いまいち冒険してる感はなかった。でもこのサヨさんは俺と同じで初めてストーリーを見ているからか、その後どうなるのかと続きも気になっているようで……それが、何故だかすごく嬉しく感じた。
『あの。サヨさん、良かったら何ですが……』
今日もNFOにログインをすると、早速見慣れたキャラクターからチャットが飛んでくる。
『サヨさん!こんにちは!』
『カツカレーさん、こんにちは』
彼と出会ったのは一か月前の事。とあるボスを倒す際に協力してほしいと言われたのが始まりであった。苦心の末に一緒にボスを倒すとフレンドになってほしいと言われ、一緒にメインクエストを進めて……気が付けば、彼とプレイをするのが当たり前になってしまっていた。
『今日は何しますか?』
『そうですね、今日は……』
一緒にレベル上げを行い、素材を集めてクエストをこなす。
今までも同じことをしていたはずなのに、彼とチャットをしながらプレイしているとあっという間に時間が過ぎていく……一緒にプレイをする相棒が居るというのは、心地が良いものであった。宇田川さんや白金さんが練習後に毎日ログインをしていた気持ちが今ならわかるような気がする。
『あ、サヨさん、そういえば新しい装備作りたがっていたじゃないですか。あれ、作りに行きましょうよ』
『え、でも……』
『こういう時くらい、盗賊のぬすむスキルを役立たせてくださいよ』
そういって、威張るのエモートを使う彼を見て、何だか頬が緩んでしまう。
『わかりました。よろしくお願いします、カツカレーさん』
『いえいえ、じゃあ、行きましょう!』
そういって小さな体でジャンプしながら走り始めたカツカレーさんに走ってついていく。あまり前に出られると守るのが大変なのに、全くもう。そう思いながらも、その日もカツカレーさんと一緒に世間話をしながら素材を集める。彼もギターをやっているらしく、その話でもよく弾んでいた。気が付けば、私もカツカレーさんがログインしている時間を狙ってログインをするようになっていた。
そんなある日の事だ。
「あら、カツカレーさんがログインしているわね」
無言でログインしているカツカレーさんを見つけた。いつもなら、私がログインをしていれば人懐っこくパーティ申請とチャットが飛んでくるというのに……。何だか不思議に思いながらも彼のいる町まで戻り、入口の近くにいたカツカレーさんに向かってチャットを打ってみる。
『カツカレーさん、こんにちは』
『……』
『カツカレーさん?』
『んどぃおあのうぇsんl』
『カツカレーさん!?』
急に意味不明な羅列をチャットで打ち始め、彼の小さなキャラクターが右に左に、跳ねたりしゃがんだりと挙動不審に……カツカレーさん。い、一体何が……!?
『びぃあ0』
『だ、大丈夫ですか?何かありましたか?』
『だいじょぶ』
しばらくして、キャラクターが動かなくなったかと思えば。ぴょんと一回はジャンプをして、そう返事が返ってくる……。なんだか、いつもの彼らしくないような……。
『いこ』
『え?えぇ、それは構いませんがどこに』
『ごご』
『カツカレーさん!?まだパーティを組んでませんよ!?』
そういって、カツカレーさんが爆走を始めたので慌ててその後ろを追いかけ始める。この先は私もまだ行ったことがない強力な敵が居る深海エリアだったはずだが、私たちのレベルで立ち入る場所では……。
『カツカレーさん!止まってください』
そういうと、海藻や珊瑚の生えた深海の通り道をジグザグに走っていたカツカレーさんの動きが止まる。そして
『ごめ』
『んさい』
そう謝罪が返ってくる……しかし、何だろうか、今日の彼は普段と少し違うような……。
彼にパーティー申請を送ると、無事に、パーティは組めたようであった。ステータスなども、異常は見られない……。
『よろしくおねが』
『しま』
『す』
『こちらこそ』
とチャットを打っているといつの間にか近づいてきていた敵とカツカレーさんがエンカウントしてしまう。大きな矛を持った魚人の敵……。ここは
『カツカレーさん、いつものコンボで行きましょう!』
初めて見る敵は慎重に。私が前衛で守りながら、彼に状態異常をかけてもらう。それがいつもの必勝法である。私が盾を構えるスキルを発動した、のに、カツカレーさんはそれをすり抜けて敵に一目散に向かっていき、通常攻撃を繰り出した!?
『とう、やあ』
『カツカレーさん!?』
敵の矛攻撃がカツカレーさんを襲う。あっという間にHPゲージは赤くなり、瀕死になってしまっている!?
『カツカレーさん、早く私の後ろに!』
『』
『カツカレーさん!!』
私の言っていることがわからないのか。またもや敵の攻撃をまともに食らうカツカレーさん。当然ゲージは0になる……。仕方なく、私はその場を一度離脱して、彼から敵が離れていくのを待つことにした……。
『しん』『じた』『ごめ』『なさい』
そういって死んでいる彼の亡骸に近づき蘇生呪文を唱えると、彼が復活してピョンピョンとその場を跳ねる……おまけに、今度はぐるぐると私の周りをまわり始めて……飛び跳ねる。
『ありがとう』
『……あなた、本当にカツカレーさんですか?』
そう尋ねてみると、ぴたりと、嬉しそうに走り回っていたカツカレーさんの動きが止まる。
……いよいよ私の推測は確信へと変わっていた。カツカレーさんの動きにしてはあまりにもお粗末すぎるし、何だかチャットも初心者だった湊さん並みに酷いものになっている。そこで、頭の中をよぎったのが……
『あなた、カツカレーさんのアカウントを乗っ取っていますね?』
アカウントの乗っ取りというもの。運営からのお知らせに書いてあったが、昨今、こういったネットゲームでは他人のアカウントを乗っ取ってフレンドに不正なメッセージを送ったり、アイテムを全て盗まれたりする被害が頻発しているらしい。そして彼も今、その危機にさらされているのかもしれない……。
『あなたが行っているのは、れっきとした違反です』
『すぐに、運営に通報させて頂きます、覚悟してください』
事件の現場にいる。そう思うと自然と鼓動が早くなっていく……興奮した手つきでチャットを打っていると……。
『ごめんあさい』
『やめて』『にーちゃ』
といったチャットが返ってくる……何か様子がおかしいが……しかし
『なんのつもりか知りませんが』
『私の大切な仲間であるカツカレーさんを偽るのは許しません!』
そう宣言すると。カツカレーさんの偽物のチャットが動かなくなる……。観念したのかと、そう思った時だった。
『あ!まって、待ってください、サヨさん!通報待って!』
『?』
急に「慌てる」のエモートと一緒にカツカレーさんのチャットが返ってくる。どことなく、雰囲気がいつものカツカレーさんに戻ったような……?
『今、妹が泣きながら謝ってきて何のことかと思ったら、どうも、俺が店番してる間にさっきまで勝手にゲームをプレイしていたみたいで……』
『はぁ』
『すみません。とにかく今は妹を宥めるので……また今度』
『あ、はい、また……』
ぴっと、カツカレーさんがログアウトしていく。
「何だったのかしら……」
「にーちゃ、ごべ、ごべんさい」
「もう良いから、サヨさんも、わかってくれたから。な?」
「ぐす……ぐす、だっれ、にーちゃのきゃらひっく、ツーホーする、許さな、ゆるさないって……」
「もう大丈夫だから気にするなよ」
両手で目元を抑えて泣きじゃくるはぐみの頭を撫でながら、何度も慰めの言葉をかける。
どうやらはぐみのやつ、俺のアカウントを使ってNFOで遊んでいたらしい。そして、行動を怪しまれたサヨさんに通報されかけて慌てて俺のところにやってきて……このように、すっかり大泣きだ。
「にーちゃ、ぐす、……えも……」
「ほら、元気だせ……そうだ、冷蔵庫にあったプリン、食うか?」
「ぷいん……?」
ぐす、えぐと嗚咽を漏らしながらもプリンという言葉にはしっかりと反応する。そのまま泣いているはぐみの手を繋いで階段を降りると、はぐみをソファに座らせ冷蔵庫から取ってあったプリンを取り出し、ついでに銀色の小さなスプーンを持ってくる。
「ほら、冷たくて甘いぞ~」
そういってプリンを乗せたスプーンをはぐみの前で左右に動かすと、はぐみは口を半開きにして八重歯を見せたまま目を左右に動かす。そして、それを口元に運んでやるとぱくりとかぶりつく。
「ん……えへへ、美味しい!」
「そうだろそうだろ」
「うん!」
そういって一口プリンを食べるとはぐみの顔に笑顔が戻る。昔からこうだ、泣いても美味しいもの食べればはぐみは元気になるし。一回眠って次の日になればけろっとしている。
はぐみの隣に腰かけて、俺は机に置いてあった、せんべいの袋を一つ開けてバリバリと食べ始める。渇いた口の中が、更に渇いていく……。
「で、なんでこんなことしたんだ?」
「…………」
そういうと、機嫌よくプリンを食べていたはぐみの顔が曇っていく
「兄ちゃん怒らないから……言ってみ」
そういうと、はぐみが食べ終わったプリンを机に置いて、震える口元を開く……
「最近、兄ちゃん、ゲームばっかりやってて。だから、はぐみ、兄ちゃんのレベル上げ、しとこうと、思って……」
「……はぁ?レベルあげ?」
「に、兄ちゃん昔、ゲームのレベル上げはぐみにやらせてくれて、それで、強くなってたら、はぐみのこと、すっごく褒めてくれたから、それで……」
予想外の言葉に思わず開いた口が塞がらなくなる。
そういえば、昔そんなこともあった。一人用のゲームを隣から見ていたはぐみに、宿題やるときとか、風呂に入るときに、レベル上げならやっていいよ、と言ってやらせてあげたことがあったのだ。決定ボタンをポチポチと押すだけの単純作業だったが、何が楽しいのかはぐみは喜んで引き受けてくれて、それで……。
申し訳なさそうにシュンとしているはぐみ。その頭をぽんぽんと数回軽く叩く。
「馬鹿、兄ちゃん今回は頼んでないだろ」
「ごめんなさい……」
「良いって……じゃ、兄ちゃん店番戻るから」
そういって立ち上がると、まだ申し訳なさそうにしているはぐみに向かって去り際に一言残していく。
「後で……なんか一緒にゲームやるか」
徐々に、八重歯を見せて目を細めるはぐみ、次には元気よく、うん!という声が家の中に響いた。