はぐみの兄ちゃんは苦労人   作:雨あられ

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第7話

「巴ちゃん、クッキー食べる?」

 

「お、じゃあ一個貰おうかな」

 

「あこも!」

 

「うん、好きなだけ取っていってね」

 

「オレも欲しい!!」

 

「さーなもー」

 

「こら、純、沙南!靴のまま座席に立たない!」

 

ガヤガヤと雪道を走るバスの車内は騒がしい。巴にあこ、つぐに沙綾兄妹と昔からよく見知った商店街の幼馴染メンバーの顔が揃いたち、俺たちはとある場所へと向かっていた……

 

「兄ちゃん、温泉楽しみだね!」

 

「そうだな」

 

そう、俺たちはちょっとした親の計らいで1泊2日の温泉旅行へと行くことになったのだ。なんでも、親としては、若いのに店の手伝いばかりさせているから、たまには英気を養ってほしいという目論見があるようだが……。この中に、そんなことを苦に思っているメンバーは一人もいない。そんなの要らないから、自分たちが行けと言ったのだが……なんだかんだと押し切られてはぐみと二人旅行に参加することになってしまった。他の奴らも大体そうらしい。

 

「ねぇねぇおねーちゃん、旅館についたら卓球しようよ!」

 

「ああ、いいぞ。でも、手加減しないからな、あこ」

 

「くっくっく、妾の右手に封じられし、え~、竜の力がうずく……!」

 

「ねーちゃん、飴舐めたい」

 

「喉乾いたー」

 

「はいはい、ちょっとまっててね」

 

「さーや!はぐみはパン食べたい!」

 

「あいよ」

 

しかし、本当に騒がしいな。いくらほかの客の居ないほぼ貸し切り状態とはいえ、流石に迷惑なんじゃなかろうか。静かなのは、せいぜい俺とつぐくらいで……?

 

「……」

 

隣に座っていたつぐは、何だか少し寂しそうな顔をしていた。

 

「どうしたんだ?つぐ」

 

「あ、うん、何だかみんな兄妹が居て羨ましいなーって。私、一人っ子だから…」

 

頬を掻きながらそう笑うつぐみ。そういうものなのだろうか。俺には物心つく頃にはもうはぐみが居たから、そういう感覚はいまいちわからないが……確かに、はぐみがもしも俺の妹じゃなかったら、なんてこと想像もできない。仮にそうだとしたら寂しい……かもしれない。

 

「まぁ、つぐは俺たちと兄妹みたいなもんだろ?」

 

「そうかな」

 

「ああ、俺はつぐのことよくできた妹みたいに思ってるよ」

 

「妹……」

 

そう元気づけたつもりなのだが、つぐは何だか微妙な表情をしていた。

 

「……姉の方が良かったか?」

 

「う、ううん、そうじゃないよ」

 

「はぐみもつぐと姉妹だったら良かったのにって思う時あるよ!つぐみたいな妹が欲しかったし!!」

 

「それは生まれ年的にってだけで、どう考えてもつぐの方がお姉ちゃんではぐみが妹だろ」

 

「え~!」

 

「ふふ、うん、ありがとう二人とも……でも、うん、私はどちらかというと、はぐみちゃんのお姉ちゃんのほうが良いかな」

 

「それも良いかも!きっと最強のバッテリーになれるよ!」

 

さっきまでの暗い顔は消えて、明るい顔ではぐみと談笑を開始するつぐみ。にしてもこういう時、結構流されたままになってるつぐが願望を伝えるなんて、やっぱりはぐみの妹だなんて想像できないんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「これはまた……」

 

「ず、随分と年季が入ってるね…」

 

おどろおどろしい雰囲気を醸し出す旅館の門前。ボロい立て看板に、少し朽ちた屋根……なるほど、今にも何かが出てきそうだ……。

 

「はぐみ一番~!」

 

「あ、ずるいぞはぐみ!オレ2番!」

 

「3番!」

 

「あ、おい、はぐみ」

 

しかしそんなこと関係ないとばかりにかけていくはぐみ。

それに続く沙綾の所の幼い弟・純と、妹の沙南……3人は追いかけっこをするように旅館の中へと入って行った。精神年齢は、おそらく一緒……。っていうか、さっきから、やたらと震えた巴のやつが背中に引っ付いてきて鬱陶しい。

 

「おい巴」

 

「だ、だってよ、その、で、出ないよな?」

 

「あはは、大丈夫大丈夫。純たちだって、あの調子で全然怖がってないし」

 

霊的なものは大人より、子供とか動物の方が鋭いっていうし、はぐみなら野生の勘が働きそうだからきっと大丈夫なんじゃないか。そう伝えてやると、巴の青白かった顔も少しはましになっていく。普段は男前のくせしていまだにお化けが怖いのか……。

 

「でも、こーいう旅館ではお化けが出やすい~って話もあるよね!」

 

「あ、あこちゃん!?」

 

あこの何気ない一言につぐみが声を荒げる。

ぐっと俺に回す腕に力がはいる巴……おいおい、ほのかに柔らかいものまであたって、ちょ、痛!痛いって!?

 

「ようこそいらっしゃいました…「で、でたー!」ほ?」

 

「馬鹿、巴、失礼だぞ」

 

ぬっと、現れた腰の曲がった御婆さんに驚いた巴が、今度はぴょんと飛んで俺にコアラのようにしがみつく形になる。こいつ、ビビりすぎだ!

このお婆さんはどうやら旅館の「美人」女将らしい。今日一日俺たちの事も面倒見てくれるとのことだ。

 

「すみません、弟たちも騒がしくしちゃって」

 

「いえいえ、あれくらい元気にはしゃいでくれると、旅館にも活気がでますよ」

 

「今日はよろしくお願いします」「します!」

 

「巴、もういいだろ」

 

「あ、あぁ……」

 

青い顔をしていた巴が俺と顔を合わせると少し顔を赤くしていた。ゆっくり巴が離れてくが、離れた後も巴はしばらく俺の傍を離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、兄ちゃん!!ほら見てこれ、すっごい綺麗だよ!」

 

案内された一室に全員集まると、はぐみに言われるがままに窓を覗き込む。

 

「おお、こりゃすごいな」

 

雪で一面、白い化粧をした山景色はどこまでも伸びていて、中々の絶景であった。はじめ外から見たときは大丈夫かと思ったが、なるほど、もしかしたら実は人気の隠れ宿とかかもしれない。

 

「静かで、何だか落ち着くね」

 

「この一面の雪景色を例えるなら……え~、純白のベールを纏いし……とにかく、すっごい綺麗!りんりんにも写メおくろ~っと」

 

全然例えてないけど、それはどうなんだ。早速荷物を降ろすと俺と純は二人で隣の和室へと戻る。風呂に入る支度をするためだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すげーにーちゃん!誰もいねー!」

 

「本当だな、こりゃ泳げるぞ」

 

「マジか!」

 

ガララと、風呂場へのガラス戸を開けると、小麦色に日焼けした純のやつが嬉しそうに浴槽へと向かって走っていく。なるほど、もう少しこじんまりしているのかと思いきや、立派な浴場じゃないか。

 

純は、山吹ベーカリーの長男であり沙綾の弟にあたる。沙綾のお母さんは体が弱く、寝込んでしまうなどして人手が足りなくなる時が多かったので、とーちゃんに文字通りケツを叩かれて手伝いにいっていた。それもあってか、純達もにーちゃんにーちゃんと結構慕ってくれている。

 

「にーちゃん、あの風呂、泡がでてるぞ!」

 

「へぇ、泡風呂もあるのか」

 

純はザブザブと泡が出ている噴射口に一目散に駆けていくと、自分のナニを噴き出してくる泡に当てがって、おお!などという感心めいた声を出すので思わず吹き出してしまう。まぁ、ここには男しかいないしそういう馬鹿は大歓迎である。浴槽に身体を沈め泡に足の裏や腰などを当てると少しくすぐったいような気もするが、圧が加わって何とも気持ちが良い。

 

「次行こうぜにーちゃん」

 

「そうだな、まずは全風呂制覇するか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

体なども洗って、俺たちが最後にやってきたのは露天風呂だった。

思った通り、外はかなりの寒さだったがこの熱々の風呂に入りながらとなると、寧ろその冷たい空気がひんやりと気持ちいい。思わずついた息が白くなったがそんなことよりも、今芯まで温まるような露天風呂に身体ごと沈んで溶けてしまいそうだ。普段の喧騒からは想像もつかないくらい静かで、平和で、落ち着く……

 

「気持ちいなぁ純」

 

「ん……なぁにーちゃん」

 

「ん~?」

 

「好きな人とか、居る?」

 

バシャンと思わずずっこけてしまう。

あの生意気なところもあるが、純粋無垢な純が突然そんな……あまりにも予想外な一言に思わず声が上ずってしまう。

 

「……ど、どうしたんだ、いきなり」

 

「ううん、にーちゃん、彼女とかいねーのかなって」

 

「……まぁ、今は居ないけど」

 

「ふーん!」

 

ぴゅぴゅっと風呂の水を手で水鉄砲を飛ばしながら話す純。しかし、そうか、もしかして純も好きな人が……。

 

「じゃあ、ねーちゃんは!」

 

「え?」

 

スコーン!と衝立の向こう側で何かが飛んだ音がした。気がする。

誰かいるのか?と、純と二人そちらに振り向いてみたが聞こえるのは温泉が流れる音と打たせ湯のパチパチとした静かな音だけ……気のせい、だったのか?

 

「どうしたんだよ、急に」

 

「うん、ねーちゃんはすげー頑張ってるけど、たまに疲れちゃうから、そういう時に支えてくれる人が必要だなって、にーちゃんなら良いよなって、沙南と」

 

「そ、そうか。そりゃ沙綾が困ってたら、俺は手を貸すけど……」

 

「じゃあ、にーちゃんはねーちゃんのこと好きってことだ!」

 

……少し極端すぎやしないだろうか。しかし

 

「まぁ、そうだなぁ」

 

「……もう出る!」

 

「え、おい純」

 

純は露天風呂から抜け出すと、小走り気味に浴場へと続く扉へと走る。そして、ガラガラとガラス戸を開けて本当に風呂を出て行ってしまったようであった。

 

そういえば、俺も昔は風呂に長居するなんてことしなかったな。熱かったし、ずっと隅っこでじっとしてるおっさんなんかを見たらどうしてそんなに長く入ってるんだろうと不思議だった。けれど……

 

温泉の良い匂いを吸い込んで肩までお湯につかると、体中の力が再び抜けていく。あれは普段疲れてる人だからこそ、そうなるんだろうなぁ。俺も知らないうちに疲れが溜まっていたのだろうか。最近は、妹以外にも世話をやく相手が増えたからな……

 

 

少し名残惜しい気もしたが、純を一人にするわけにはいかなかったので、俺も露天風呂を後にすることにした。その時、反対側の女湯に誰が居るかも知らずに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋で純と一緒に携帯ゲームをすること小一時間。

 

「ふぅ~、さっぱりした~!」

 

「やっぱ、温泉って良いよな~、風情があるしさ!」

 

宿の浴衣に着替えたらしい沙綾と巴が入ってくる。湿った髪に、少し蒸気した頬などは普段よりも数倍ましで色っぽく見える。特に、髪を降ろした沙綾は普段のポニーテールとは少し違って新鮮であった。それに……風呂場であんな会話をしたせいで、変に意識してしまう気がした。

 

「ねーちゃん長すぎ!」

 

「ごめんごめん。気持ちよくってさ」

 

本当、よくそんなに長く入れるよなぁ。30分入るだけでも長いかなと思うんだが……?

不意に、沙綾と目が合った。沙綾はとたんに、ものすごい勢いで顔を逸らしてきた。

 

「沙綾?」

 

「あーうん、そうそう、売店に牛乳も売ってたよ?」

 

「?ああ、もう飲んだよ」

 

顔を合わせてくれない沙綾だったが、会話を見るにいつも通りみたいだな……たまたま顔が逸れただけか。

 

「巴、はぐみやあこたちは?」

 

「あぁ、そうそう、みんなで卓球しようって話になって今、遊技場で待ってるんだった」

 

ああ、それで二人で俺たちを呼びに来てくれたのか、着ていた浴衣をピシッと正して立ち上がると、腰のあたりの帯を持って立ち上がる。卓球か、夕食前の運動にはちょうど良さそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねーちゃん、にーちゃんが「カノジョ」にしてくれるって」

 

?後ろで沙綾が純にチョップを入れていたが何か言ったのだろうか。

沙綾と再び目が合ったが、沙綾のやつはのぼせたような赤い顔でなんでもないというだけだった。

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