学園黙示録 ゲンブンオブザデット   作:ダス・ライヒ

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説得

先のコータの行動により、皆が次々と部屋から出て行く。

ベットで寝ていた麗は、孝に呆れており、虫の居所が悪い。

尤も呆れられたのはルリであるが、彼女は全くそのことを分かっておらず、ただ可愛らしく小首を傾げ、幼児の様に人差し指を咥えていた。

退室しなかったパッキーが、そんな孝に声を掛ける。

 

「小室」

 

「なんですか・・・?」

 

「平野のことだが、頼んだぞ」

 

顰めた表情になり、視線をパッキーからそらす。

 

「僕に・・・出来るでしょうか・・・」

 

「出来るさ。お前は今までどれだけ彼と共に戦ってきた?俺の経験からして、意見は食い違いなんて良くあるさ」

 

孝が振り返ったパッキーの表情は笑顔だった。

その後。パッキーは退室する。

 

「お兄ちゃん、コータちゃんと仲直りするの?」

 

隣でありすが孝の腕を引っ張っており、それに対し、彼女の視線まで屈む。

 

「必ず仲直りしてみせるよ」

 

「できるよ!お兄ちゃんもコータちゃんも。沙耶ちゃんのおうちに来てホッとしただけだもん!」

 

その無垢な笑顔で孝は勇気づけられた。

ありすはコータの方へと走っていく。

 

「大した子だよ・・・目の前で親が殺されて、こんな地獄にいるのに笑顔でいれる・・・」

 

「この子もこの子なりに強くなったのね・・・」

 

孝の言葉に麗は便乗する。

 

「さて、ルリちゃんにも一緒に謝って・・・」

 

その場に居たはずのルリを連れて行こうと思ったが、既にこの部屋には居なかった。

 

「麗、ルリちゃんは?」

 

「え?知らないわよ。さっき私の身体を触ってたから、振り払ったら何処かへ行っちゃった」

 

詳細を聞いた後、ルリを捜すのを兼ね備えて部屋を出た。

一方、リヒターは高城邸の屋敷で歴史書を全て通訳を通じて知った後、通訳に礼を言ってから部屋を出る。

 

「(今のドイツは平穏か・・・しかしこの現状では平穏とは呼べんな)」

 

心の中で皮肉りながら廊下を歩き、用意された部屋まで行く。

途中、3挺ほどの銃を抱えたコータと肩をぶつけた。

 

「うわぁ!」

 

ぶつけた衝撃でコータが転び、抱えていた銃が散らばる。

 

「あぁ、失礼・・・」

 

リヒターはコータに謝ったが、彼は銃を拾った後、誤りもせずその場から去っていった。

彼が走ってきた方向から複数の構成員がやって来る。

 

「何かあったのかね?」

 

質問をしてみたが、構成員全員は英語が理解できなかったらしく、リヒターを立たせた後、コータの後を追って行く。

再び自分の部屋に向かうところであったが、途中にルリを見つけた。

 

「(白人の少女・・・在住の娘か?それにしては美しい・・・まるで花のようだ・・・)」

 

ルリの美しさに見取れていたリヒターであった。

直ぐに声を掛けて、彼女の事を聞き出そうとした。

 

「(あの容姿なら母親も大変美しいだろう・・・)失礼、お嬢さん(フロイライン)。今、御暇ですか?」

 

その言葉に一瞬、リヒターの方に視線を向けたが、ルリは急いでいるらしく、彼を無視して、走り去っていく。

 

「軽率すぎたか・・・」

 

自分の行いに後悔するリヒター、再び部屋へ向かおうとしたが、ルリが向かった先から大きな物音が聞こえてきた。

様子を伺う為にルリが向かった先へと足を走らせた。

 

「これは・・・何事か・・・?」

 

向かった先で、壮一郎がルリを猫の様に掴んでいる光景がリヒターの目に入った。

隣に奥方である百合子まで居る。

 

「どうした。美しい少女をまるで飼い猫の様に掴んで」

 

直ぐに壮一郎に質問するリヒター、気付いた壮一郎はそれに答える。

 

「来ていたか我が友リヒター。この娘から武器を取り上げるのに部下が手こずっていたのでな、私が代わりにやった」

 

壮一郎の答えにリヒターは少し混乱したが、床に落ちていたルリが持っていた銃が落ちていた。

彼女の表情を伺う限り、壮一郎に挑んで返り討ちにされたみたいだ。

その証拠に、床には園芸用の鎌が、銃と共に落ちている。

 

「総帥!」

 

突然、部下が、この場の空気を壊すかの様に壮一郎に声を掛ける。

 

「なんだ?」

 

「沙耶お嬢様のご友人が銃を放しません!」

 

「直ぐに向かう!我が友リヒターよ、君も来たまえ。丁度良かっただろう」

 

直ぐにリヒターは壮一郎の誘いに応じた。

もちろんルリは壮一郎に掴まれたままで、その表情は、何かと残念そうな顔をして涙している。

そしてコータが銃を抱えて放さず、複数の男に囲まれている光景に出会す。

 

「君が友人か?!私は高城壮一郎、憂国一心会会長だ!少年、名は?」

 

壮一郎が現れた所でコータの顔が一気に絶望的に変わり、目から涙を流し、鼻から鼻水が垂れる。

一方の壮一郎は、ルリを掴みながらもコータに名を問う。

 

「ひ、平野コータ!藤美学園2年B組!しゅ、主席番号は32番ですぅ!」

 

コータから名を聞いた後、ルリを掴んだ左手を上げ、抵抗は無駄と表す。

 

「よし、コータ!この少女は私に無謀にも向かい、返り討ちにされた!それでも君は銃を渡すのを拒むか?!」

 

「バタン、キュ~・・・」

 

哀れなルリの姿を見たコータは動じず、銃を抱え、蹲る。

 

「イヤです!ダメです!銃が無くなったら・・・・・・俺は・・・・・・俺はまた元通りになる!元通りにされてしまう!自分に出来ることがようやく見つかったと思ったのに!」

 

ルリよりも哀れな醜態を晒しながらも自信の主張を曲げないコータ、それに対し壮一郎も睨みを強める。

そんな彼等を、リヒターは黙って見ていた。

 

「待ってください!」

 

声が聞こえた後、孝がリヒター達に近付いてきた。

それに気付いたコータが、彼の名を泣きながら言う。

 

「小室・・・」

 

「小室・・・なるほど・・・君の名前には思い入れがある。沙耶とは長い付き合いだったな」

 

壮一郎の話を聞きながら孝は前に出た。

 

「はい。ですがこの地獄が始まってから沙耶・・・貴男のお嬢さんを守ったのは貴男の手に捕まっているルリと平野です!」

 

冷や汗を流しながらも言い切った孝、それに対し壮一郎は黙る。

 

「彼等の行動は自分も見ています」

 

孝が来た方向から冴子が来て、声を掛ける。

彼女だけではない、小室一行であるありすがジークを抱えながら来た。

麗は鞠川に抱えながら来ており、沙耶も居る。

それだけではない、1943年の東部戦線から転移した独ソ兵士等やキャット・シット・ワンのメンバー達、末期の第二次世界大戦からバウアーも来ている。

 

「貴男の娘の話を聞いてください」

 

「これはこれは、わざわざ会う手間が省けた」

 

正徳が言った後、その集まりぶりを見たリヒターは感激する。

 

「あたしもよ、パパ」

 

自分の父親の前に立つ沙耶、父である壮一郎は黙って聞いていた。

 

「どうしようもないちんちくりん軍オタだけど、こいつが居なかったら、あたしは今頃奴らの仲間よパパ!」

 

そのまま沙耶は臆することもなく言い切る。

 

「こいつだけじゃない、パパが掴んでるそのムカツク電波娘も何処から来たのか分かんない兵隊達だって私達を守ってここまで導いてくれた!あたし達を守ってくれたのは彼等よ!パパじゃなくてね!」

 

その成長した娘の言葉に母親である百合子は感激した。

 

「壮一郎さん・・・」

 

「よし、沙耶の意見を通そう!銃の所有を許可する!そして私の部下に手を出さないと約束しよう!!」

 

この屋敷の主であり、この地区最大の右翼勢力憂国一心会会長である壮一郎は、ルリを下ろし、小室一行に銃の所有を許可した。

黙ってみていたリヒターは感動し、拍手する。

 

「素晴らしい!君達のその行動、感激した。是非、私にも名を名乗らせてくれ。私の名はエーリヒ・フォン・リヒター、そこにいる転移者諸君と同じく1945年1月のアルデンヌからやって来た。よろしく頼む」

 

「ゲェ!?あのヤーパンに気を取られて気付かなかったが、またファシストが出てくるなんて!」

 

ゴロドクが、気付いたそうそうリヒターに文句を付ける。

ドイツ軍人達は敬礼し、キャット・シット・ワンのメンバー達は聞こえないように小声で話し合う。

末期の大戦から来たバウアーは、ローマ式の敬礼をした。

 

「ジーク・ハイル!」

 

「その敬礼はしなくて良いフロイライン」

 

言われたバウアーは敬礼を止めて、従来の敬礼にし直し、名前に階級と所属を言う。

 

「バウアーです!階級は臨時少尉、所属は第12SS装甲師団です!」

 

「ヒトラー・ユーゲントか・・・こんな少女まで徴兵されたとは・・・末期か・・・」

 

それを聞いたリヒターは、自分の不甲斐なさを悔しむ。

 

「実戦は経験しておりません・・・Ⅲ号突撃砲の臨時車長をしてました」

 

「君のような少女が戦場出てないだけでマシだ・・・さて、そこのフロイライン。質問に答えて貰おう」

 

バウアーの戦歴を聞いた後、次にルリに目を向け、彼女に質問した。

 

「その目は、明らかに戦場を経験している目だ・・・そしてそれなりの人間を殺めている・・・」

 

「へぇ・・・!?ッ・・・!?」

 

この言葉にルリは、下を俯き、動揺する。

リヒターも、周りの視線を悟り、これ以上の追求は自分を追い込める物と判断し、ルリへの尋問を止めた。

 

「これ以上の追求は、私の印象を悪くする。済まなかった」

 

ルリの目の前に立ち、頭を下げた。

一部始終を見ていたゴロドクは小声で「酷い奴だ」と敵であるハーゲンに告げた。

これに対しハーゲンの返答は「知らん」の一言だったと言う。




二回目の更新でございます・・・!

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