年内には終わらんな、こりゃあ。
紫藤等をバスごと高城邸から追っ払ってから、ルリはリヒターと共に小室一行の元へ戻った。
もちろん、人を2人も撃ったので、当然ながら避難民や市民団体から非難を受ける。
「ひ、人殺しよ!」
「暴力男達は、あの少女に人殺しを教えてるぞー!」
kar98kを持ちながら歩くルリを指差す市民団体、彼女はヤジをただの雑音として聞き流す。
一行の前に立ったルリはkar98kをリヒターに預け、芝生に座り込んだ。
「あ~あ、何か疲れた・・・」
溜息を付いて、そのまま仰向けになる。
彼女が見上げた空は既に夕暮れに染まっていた。
おそらく紫藤の事に気を取られて、時間に気付かなかったのだろう。
軍人達は時間帯を分かっていた様だが、そして黙っていた沙耶が、ルリを叱った。
「あんたね!大勢が見ている前でライフルをぶっ放すんじゃないわよ!」
仰向けに倒れた状態で叱られた為、直ぐに起き上がり、沙耶に謝る。
転移した軍人達は、ルリのやったことは正しいと述べた。
「いや、このお嬢ちゃんがやったことは正しい。もし、やらなかったら、また突っ掛かって来る」
「私もだ。あの男はこの国大物の政治家の息子だ、なにか、裏を感じる」
パッキーが言った後に、リヒターが賛同して付け足す。
「まぁ良いわ、それとルリ。あんな事は二度としないと約束して?」
「うん、分かった」
それに渋々納得した沙耶は、ルリに言い付けた。
市民団体が煩かったが、ゴロドクが拳銃を抜く素振りを見せると、あっさり退散した。
その時、鞠川が何かを思い出し、急に叫び出す。
「あぁ!思い出した!」
「うわぁ!?何事ですか、先生?」
「どうしたの?」
近くにいた孝と、抱き付かれていたありすは驚く。
「思い出したの、お友達の携帯番号」
「あのメゾネットの主ですか?」
コータが聞いた後、鞠川は嬉しそうに首を二回振って答える。
「うんうん♪あ、携帯学校に置き忘れて来ちゃった。誰か持ってない?」
嬉しそうに誰か携帯を持ってないか見回る鞠川、取り敢えず持ってなさそうな転移組はスルーする。
これを見ていたゴロドクは、ボタスキーに話し掛ける。
「何をやってるんだ、マリカワ嬢は?」
「携帯って言ってたけど、携帯って何か分かんないよ」
40年代と80年代から来た者達には、21世紀の携帯電話は分からない。
孝が携帯を出した後、直ぐにそれを手に取り、友人の番号を打ち始めた。
「あの・・・僕が打ちましょうか?」
「だ~め、忘れるから」
番号を打つのが遅い為か、孝が代わりにやると言うが、鞠川はニコニコしながらそれを断る。
そして打ち終わると、着信ボタンを押す。
「あ、もしもし。リカ?」
『こちらラビットリーダー、そちらは?」
直ぐに間違い電話と判断した鞠川は、電話を切った。
「ごめん、間違えちゃった♪」
「では、僕が・・・」
「小室君、メッ!」
一瞬で断られ、苦笑いするしか無い孝。
その頃、世界は滅亡へと進んでいた。
混乱状態に陥ったアメリカ合衆国が、敵性国家である中国・北朝鮮に遠距離型核ミサイルを発射したのだ。
これに対し、報復として同じく混乱状態でロシアと応酬中の中国でも核ミサイルが4発、日本へ向けて撃ち出された。
自国から核ミサイル発射の情報を察知したアメリカ海軍は日本海側に展開している自国海軍所属のミサイル巡洋艦並び海上自衛隊所属の護衛艦全てにミサイル迎撃を命じた。
もちろん、新しい“避難所”を求めて向かってくる中国人民解放軍及び韓国軍に対してもであるが、彼等はそれを無視、そのまま日本へと向かう。
この情報は、ワルキューレの日本本部にも伝えられた。
「中央司令部より報告!太平洋を航海中の米海軍所属の原子力潜水艦から核ミサイルが、中国・北朝鮮に向けて発射され、これに対し、中国は報復の為に4発ほど核ミサイルが日本へ発射された模様!」
通信士官が、司令官であるアレクサンドラに報告した。
それを予想していたのか、彼女は親指の爪を咥えながら、対策は出来てるか聞く。
「遂にこの時が来たか・・・自衛海軍による迎撃は?それとこの施設にEMP対策は?」
「ハッ、EMPはバッチリ対策してます!それと海上自衛隊と米海軍の所属艦による迎撃準備も行われています!」
知らせを聞いたアレクサンドラは、考え込む。
「(迎撃態勢はバッチリか・・・それより日本にトチ狂ってやってくる中国と韓国が気になる)」
彼女は核ミサイルの事よりも、避難所求めて日本に攻めてくる中国と韓国が気になった。
「(この国も死人で溢れているんだぞ・・・?攻めても問題は増えるだけだが・・・)」
考え事をしていた彼女に思わぬ、知らせが届いた。
「4発中、3発が迎撃完了!あと一つはアメリカ海軍第7艦隊所属の駆逐艦が・・・あれ?」
読み上げるオペレーターの様子がおかしいと察したアレクサンドラは、疑問に思い、それが全て分かった。
「(まさか・・・失敗・・・!?)」
「迎撃ミサイル・・・発射されませんでした・・・失敗です・・・」
これを読み上げたオペレーターの顔が真っ青となり、司令室が混乱状態に陥る。
何故、第7艦隊所属の駆逐艦が迎撃ミサイルを発射しなかったと言うと、艦内のクルーが全て蒼い眼光を光らせた大日本帝国軍の亡霊達に寄って鎮圧されたからだ。
「どうしよう!?こっちにミサイルが来ちゃうよ!」
「そんな!近くに対空部隊が居るでしょう!そいつ等にやってもらえば!」
「でも、間に合わなかったらどうすんの?!みんな死んじゃうんだよ!」
「そんなことより早く逃げよ!ここに命中するかr」
「静まれぇーーーーー!!!」
アレクサンドラの怒鳴り声で、司令室から我先に出ようとしていたワルキューレのオペレーターや、通信士、索敵手が静まり返った。
「ミサイル爆破地点を計算し、そこに展開している電磁パルス対策のなされていない兵器を持つ部隊に、退避命令を出せ。そして航空機もだ」
彼女の命令で一同は配置に戻り、言われた事を実行した。
かくして、核ミサイル爆破地点に居る全部隊は即刻その場から撤退を始める。
この出来事は、それぞれの場所に身を潜めていた転移者達にも目に入った。
「外がやけに騒がしいな・・・一体何が起ころうとしているんだ・・・?」
ショッピングモールの屋上から、慌てて撤退するワルキューレの部隊を見て、パイパーはそう呟く。
「落ちた者さえ見捨てて逃げている・・・こいつは何か起きるな・・・!」
森林で隠れていたZbvの指揮官、シュタイナーもこの出来事を目撃していた。
「東部戦線の撤退戦を思い出す・・・」
「ふむ、なにか起こりそうだな・・・」
黒騎士のバウアーとヴィットマンもそれを見て、良からぬこと起きると察する。
そして、迎撃し損ねた核ミサイルが太平洋沿岸の日本上空で爆発、電磁パルス対策をしていない電子機器はお釈迦になった。
残念なことに高城邸も範囲に入っており、車両や電子機器が故障し、ライフラインも停止する。
「イタ!あ、携帯・・・壊れちゃった・・・小室君、ごめん」
もちろん小室の携帯もお釈迦になった。
その後、鞠川はありすに頭を撫でられる。
直ぐに持ち主である孝は「イエイエ」と後頭部を左手でさすりながら使えない携帯を返して貰う。
その後、上空に出来たキノコ雲を一同と共に眺めていた。
「こ、これは・・・核爆発!?」
見ていたコータは直ぐに察した。
転移した軍人達はデカイ爆弾が爆発したのだと思いこんでいたが、パッキー達は分かっていた。
「そこのピン毛のお嬢ちゃん!そのM14のサイトはどうなってる!?」
ラッツが麗が持つM1A1スーパーマッチのサイトをどうなってるのかを聞いた。
「見えません!」
「やっぱり・・・」
沙耶はいち早くこの状態を理解したが、パッキー達の方は既に答えは出ていた。
「間違いない、これは・・・!」
「「EMP、つまり電磁パルスだ(よ)」」
言ったことがハモる沙耶とパッキー、軍事オタクであったはずのコータは知らなかった様だ。
「EMPと電磁パルスってなんですか?」
「あんた、軍オタの分際でEMPも知らなかったの?」
「すいません、核関連はちょっと・・・」
「はぁ・・・仕方ない」
沙耶はEMPこと電磁パルスについて説明を始めた。
「EMP攻撃、HANE、高高度核爆発とも言うわ。大気圏層で核を爆発させるとガンマ線が大気分子から電子分子を弾き出すコンプトン効果が起きる。飛ばされた電子は、地球の磁場に掴まって、広範囲へ放射される電磁パルスを発生させ・・・」
それをパッキーが続ける。
「つまり、防護措置をしてないとアンテナを使う物や電子機器の回路が焼けてお釈迦になるって事だ!」
ちなみに原理的にも核爆発を起こさなくても、コンテナなどを使えば電磁パルスを超すことも可能で、非破壊・非殺傷目的で使う為にアメリカ軍で開発が進んでいるが、公式では実用されていない。
「つまり我々は・・・」
ベランダから降りてきた壮一郎に、娘である沙耶は答えた。
「そう、もう電子機器は使えない!」
「「「えぇー!?」」」
この答えに鞠川・バウアー・ルリは驚愕する。
「つまり?」
「お風呂に入れない!」
「身体が汗臭くなっちゃう!」
「そんな・・・ありす、お風呂我慢しないといけない?」
ありすも入って、4人は絶望するが、正徳の尤もな発言で前向きになる。
「命の方が大事だと思うが・・・」
固まっていた一同に対して、パッキーが声を掛けた。
「直ぐに使える装備を集めろ!ハンビィーならEMP対策をしているはずだ!」
彼のかけ声で小室一行は動き出した。
その時、ゾンビが押し圧せてくるの知らせと同時に上空が光りだし、そこから4人の男が落ちてきた。
「ば、バリケードが!!」
「イテテ・・・な、なんだここは!?ガイド、出て来い!」
「お~、飲み過ぎちまって幻覚が見えるぞ~おい!」
「どうなってんだこりゃあ・・・」
「地球は確か、滅亡したハズ!」
その4人の男達の服装は、WW2時代の両陣営の軍服であったが、門の外に居た男の持っていた拳銃の発砲で存在に気付かれることは無かった。
拳銃の男は無数のゾンビに喰い殺され絶命、直ぐに壮一郎は命令する。
「早く門を閉じよ!急げ!」
「しかし、門の外にはまだ・・・」
「今閉じねば全てを失う!やれ!!」
電磁パルスで使えなくなったのに気付かないのか、リモコンのスイッチを押し続ける。
やっと気付いたのか、数人係でやっと門を閉じたが、一体のゾンビが敷地内に入ってしまう。
「あぁ!!一体がぁ!」
「ポケットの中にはビスケットが一つ♪」
ベランダからコータがAR-10を構え、素早くゾンビの頭を撃ち抜いた。
「ビューティフォー・・・」
「すまねぇ兄ちゃん、俺が間違ってた!」
コータの射撃を誰かが褒めて、工員のおっさんが謝った。
そして、小室一行と壮一郎はイレギュラー4名の存在に気付き、彼等に銃を向ける。
「お、おい!俺達はゾンビじゃないぞ!」
「待てぃ!我々は死者ではナァーイ!!」
「酒ならあるぞ~?生き残った物同士一杯やろうぜ!」
「全員ポップコーンにしちゃうぞ~?!」
第二次世界大戦下のアメリカ・ソ連・ドイツ・日本の軍服には似合わない妙な武器を持った4人はそれぞれの言葉で言い訳やら脅しを始める。
ルリはUMP45の安全装置を外し、男達に構える。
その時、大勢のゾンビが、門に押し寄せた。
当然の如く門は壊れ、近くにいた壮一郎の部下は喰い殺され、敷地内にゾンビが溢れ出す。
「こらっ!わしに従え!!」
「こいつ等はうちの所のゾンビじゃないぞ?」
「なんであろうとこいつ等は何処から見てもゾンビだぁ~」
「ふむ、制御下では無いなら片付けるまで!」
男達は、妙な物を押し寄せるゾンビに向けて撃ち始めた。
「な、なんだこれは・・・!?」
「これは・・・魔女のバアさんの呪いか!」
ベランダにちゃっかり避難していた一行は、イレギュラーの男達が持つ武器に驚きを隠せないでいる。
一見玩具のようなデザインだが、火力は凄まじく、門の所が死体でいっぱいになる。
しかし、さらなる脅威が訪れた。
それは蒼い眼光を光らせ、走り、叫びながら向かってくるゾンビ達であった!
他にも四つん這いのえたいの知れないガスのような物を排出している人型の生物が、多数見える。
地獄は彼等を逃さないであろう・・・
アニメ版完結ならずッ!
後半は戦闘シーン多数で、スピリットとストアー参戦です。