無惨な死体となった二体“元”警官、それをやったのはルリとアリシアだ。
返り血を浴びたルリが唖然している孝、コータ、あさみ、田丸の四人に近付き、病院を指差す。
「奴らは一体も出てない?」
この質問に我に返ったコータは、直ぐに出てないと答えた。
アリシアは警官の死体を孝と田丸と共に、奴らが来そうにも無い場所に捨て、病院内に入ろうとしたが、田丸が先程ルリが発砲したことを疑問に思い、コータに話し掛ける。
「なぁ兄ちゃん。先程あの嬢ちゃんが派手にマシンガンをぶっ放したが、大丈夫なのか?」
「多分、あの短機関銃は銃声が小さいですから大丈夫かと」
「そう願うさ」
孝が最後に言った後、彼等は病院内に入った。
「うわっ、暗いな・・・まるでホラー映画の病院じゃないか・・・」
病院内の暗さに驚くコータ、孝は腰を下ろしてバックから救援用発煙筒フレアーを取り出し、信管を切って火を灯す。
「これはこういう時の為の物かな?」
「そう言えばザ・ロックのシーンで使ってたね」
フレアーを見たコータがそう呟いた後、孝はフレアーを中央に向かって投げ、周囲を照らす。
床には、所々血痕が残っており、ここでおぞましい惨劇が起こったと分かる。
手から千切れた指も何本か落ちており、内臓や腕と脚まで転がっていた。
これを見たあさみは床に吐いてしまう。
「だ、大丈夫!?」
アリシアがあさみの背中をさすりながら心配する。
「だ、大丈夫です・・・本官、このような死体は見たことはありません・・・」
「俺も始めて見るが、その婦警さんと同じくゲロをしちまいそうだぜ」
辺り一面に転がる人間のパーツをマジマジと見て、口を抑えながら田丸は言う。
暫しして玄関と受付を調べた後、彼等は二手に分かれることにした。
「この病院もそれなりに大きいから・・・二手に分かれましょう」
「そ、そうでありますか・・・どっちに行きましょう・・・」
周囲を見ながらあさみは悩み、決断が出来たのか、ルリが居るチームについていくを決める。
「本官は小室君と平野君の方へとついていきます!」
「じゃあ、私はルリちゃんと一緒に行くわ」
「そうですか。見取り図を見れば、分かると思うので」
アリシアがルリと二人で行くと言ったので、孝はコータ、あさみ、田丸の四人で行くことになる。
「目印を立てて起きましょう。血漿を入手したか、一時間したらここで落ち合いましょう」
孝が目印であるケミカルライトを置いた後、二手に分かれた孝達。
通路には医療器具が散乱し、壁には多くの血痕が残されている。
二人は臆することもなく通路を進んだ。
途中にある部屋という部屋を調べ、血漿が無いか調べ回す。
「バリケードが敷かれてるみたいだけど、ルリちゃんは入れる?」
板で塞がれた部屋を見つけたアリシアは、自分より小柄なルリに、部屋の様子を調べさせようとする。
「うん、この穴なら僕なら入れるよ。持ってて」
それに対し、ルリはバックパックをアリシアに預け、スターリングMk7を構えながら部屋に何か無いか調べ回る。
異臭がするので、気になって元を調べたら、ロッカーに辿り着いた。
部屋の出入り口を塞いでいるバリケードを排除した後、アリシアを部屋に入れ、ロッカーの中を確認しようとした。
「この臭い・・・何があるのかしら・・・?」
バールを取り出した後、アリシアはロッカーを強引に開ける。
ドアが開いた瞬間、滅多刺しにされた男の看護士の死体が出てきた。
死体の腐敗が少し進んでおり、目を見たら既に奴らに成った後で、また殺された後だ。
「ここにも歩く死体が・・・」
死体をそのまま放置して、この部屋に血漿がないと分かると、次の部屋に移動した。
「無いわね・・・次に行きましょう。あれ、なにやってるの?」
目当ての物が無いと分かると、部屋を出て行こうとしたが、ルリがピルを大量にバックパックに入れていた。
「それ、入れてるけど・・・なに?」
「なにって、避妊の薬だよ。男の人が多いから、もしもの時の為に妊娠は避けないと。アリシアさんの世界には無いの?」
妊娠という言葉にアリシアは少し顔を赤らめ、次の部屋に向かった。
何かにぶつかっている音が聞こえ、アリシアはルリを後ろに立たせ、部屋を覗く。
「この音・・・歩く死者よ・・・!」
壁にずっとぶつかっている奴らを見つけたアリシアは、バールで奴らを排除しようと考える。
後ろから足音を立てずに近付き、バールを頭に向けて振り下ろした。
ぶつけた時の金属音が鳴った後、奴らは床に倒れ、動かなくなった。
倒したとルリに知らせ、部屋内を調べてみたが、全く見付からず、直ぐに別の部屋に向かう。
暫く探したが、血漿が未だ見付からず、ただ疲れるだけであった。
「全く見付からないわね・・・」
写真を見ながらアリシアは呟く、ルリも疲れた表情をしている。
『うぅ・・・』
「声!?」
女性の声が近くで聞こえたので、二人ともその場所へと向かう。
向かった先には、MP5A5を持ったワルキューレの軽歩兵三人ほど居た。
様子もおかしく、身体には噛み傷があり、ずっと下を俯いている。
「様子がおかしい・・・」
「これ使ってみる?」
様子を覗うアリシアに、ルリは空き缶を渡した。
それを受け取ったアリシアは、壁の隅に向けて投げ込む。
「うぅ・・・?」
三人揃って空き缶が落ちた方向へと向かっていった。
二人は直ぐにその場を通過しようとしたが、ルリが転んでしまった為、気付かれてしまう。
「シ、ネ・・・!」
気付いた軽歩兵はMP5を構え、引き金を引いて発砲してきた。
彼女等の目は死人その物で、顔も青白かった。
直ぐに遮蔽物になる壁に隠れて反撃する。
「撃ってきた!?」
アリシアはM4A1を単発で撃ちながら叫ぶ。
短機関銃を持つルリは、身体に向かって撃ち込むが、大した効果も無く、再びこちらに向けて撃ってくる。
「死なない!?もしかしてもう死んでる!?」
死なない軽歩兵にアリシアは少し慌てたが、頭部に狙って撃つ。
頭部を撃たれた軽歩兵は動かなくなる。
「死んだ・・・?頭を狙って!」
弱点を聞いたルリは直ぐに頭部を撃って、敵を無効化した。
戦闘終了後に恐る恐る軽歩兵の死体を調べる。
「戦う前に死んでる・・・?」
死体の臭いを嗅いでルリは、そう判断する。
先程の銃撃戦の所為か、奴らが集まってきた。
直ぐに二人はその場から離れる。
ところ変わって別の世界。
ここにはゾンビは一体も居ないが、似たような生物、いわゆる魔物は存在する。
地球に良く似た世界であるが、文明は1940年代に止まっているだろう。
一台のキューベルワーゲンのシャシにセダン・ボディを乗せた車が、悲鳴や断末魔が上がる夜の市街地を通り過ぎる。
その車に乗っているのはスプリットとストアーに運転手を合わせた三名だ。
後部座席に座る身長190㎝台の二人は、外で行われている抵抗勢力や無抵抗の市民の処刑を眺めていた。
怯える市民をシュタールヘルムを被り、ドイツ軍風味のコートを纏った兵士達がkar98b小銃を抱えて並び、将校の合図を待つ。
「構え!」
合図と同時に兵士達が手に持つ小銃の安全装置を外し、処刑のために集められた市民達に構える。
銃口を向けられている市民達の中には、女性も含まれており、怯えて命乞いをし、叫んだりしている者まで居る。
「お、お願いだ!我々は抵抗組織でもテロリストでもない!」
「解放して!今回の件で女は関係ないはずよ!」
「俺達は関係ないんだぞ!?」
必死に「自分達は関係ない」と訴えるが、彼等はそれを一切耳に入れず、将校が「撃て」と叫んだ後、一斉に射撃が行われ、先程叫んでいた市民達が静まり返り、歩道に血を流して息絶えた。
また次の市民達が集められ、再び処刑が行われる。
車内からこの光景を見ていたスプリットは、運転手に問い掛ける。
「また市民が処刑されているが、抵抗組織かテロリストが何かやったのか?」
「仰る通りです。抵抗組織並びテロリストが兵舎を襲い、元聖帝マリの傘下の将兵13名とその息女であられるこの国の将兵三十七人を殺害。見せしめに市民五百人の処刑を予定しております。そしてテロリストが女性将兵八人を強姦した容疑で、女性百六十人を見せしめとして処刑しております」
処刑される市民達に同情の意志がない運転手の返答に、スプリットとストアーは驚く。
「おい、前から人が飛び出してきたぞ!」
目の前に逃げてきた市民をストアーが注意したが、運転手はそのまま轢いた。
「こら!人を跳ねるのではない!」
「奴が目の前に逃げたから悪いのです」
スプリットが注意するが、運転手は冷たい返答に苛立つ。
轢かれた市民は、追ってきた兵士に殺害された。
そして二人を乗せた車は宮殿に到着、スプリットとストアーは後部座席から降り、門を通って宮殿内へと足を運ぶ。
追加してきました。