学園黙示録 ゲンブンオブザデット   作:ダス・ライヒ

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エログロ描画注意!


幽霊船マーリアン

仮実験室の中で目覚めた芳佳、外の様子を窓から見れば、信じられない光景が広がっていた。

 

「なに・・・これ・・・!?」

 

格納庫はその場にいた者達の血で赤く染まっており、床には人体の一部が散乱していた。

同時に銃声も耳に入ってくる。

 

「聞いたこともない銃声だ・・・外で何が起こってるんだろう・・・」

 

不安そうな表情をしながら、芳佳は立ち上がって、仮実験室の出入り口を出た。

まだ中だったのか、様々な装置や機材が置かれていたが、今の芳佳に調べている暇はない。

壊れた壁から直ぐに格納庫へと出る。

 

「酷い光景・・・こんなの今まで・・・ウゥ・・・!」

 

目の前に広がる悲惨な光景に、芳佳は嘔吐した。

掃き終えた後、セムテの啜り声が耳に入り、彼女の元へ向かう。

 

「あっ、あっちからあの科学者の声が・・・!」

 

裸足のままで駆け寄った為、足の裏が血で赤く変わったが、医者を目指す彼女には慣れるべき光景だ。

そのまま机の下に隠れるセムテに手を差し出した。

 

「大丈夫ですか・・・?」

 

「ヒッ、ヒィィィ!」

 

様子からしてかなり怯えているようで、芳佳の手を払い除け、何処かへ逃げ去ってしまう。

 

「私が気絶してる間に、この船で何が起こったんだろう・・・?」

 

芳佳は慕っていた上官から教わった訓練を思い出し、武器になるような物を探し始める。

ここが惨状に変わる前に、まだ人の形をしていた兵士達が持っていた銃があったが、どれもこれも血が付着して使えなくなっている。

仕方なく、血溜まりの中に落ちていた警棒を護身用の武器にすることにした。

 

「これは、使えるのかな・・・?」

 

警棒を手に取った芳佳はセムテが逃げた方向へと、警戒しながら向かった。

周りからは銃声が聞こえてくるが、もう慣れたのか、今はセムテに何が起こったのか聞き出すのが、芳佳の優先すべき目的らしい。

赤い血で一色となった床をゆっくりと歩きながら、セムテの逃げた先を追った。

 

「一体何が・・・?一刻も早くあの人を探さないと・・・!」

 

少し歩行速度を上げて、格納庫を出た。

通路は僅かな光だけが頼りであり、所からか何かが襲ってきそうな雰囲気だ。

そこも殺し合ったような血痕が多数残されており、時間も数分以上しか経っていない。

芳佳を恐怖心が襲い、呼吸を乱す。

 

「ハァ、ハア、ハァ、ハア、何処に居るんですか?」

 

気を紛らわせる為に、芳佳は声を上げた。

声が狭い通路に響き渡るだけで、返事はこない。

 

「何処にいるの・・・!?」

 

それが芳佳の心拍数と恐怖心や孤独感をさらに加速させた。

 

「怖いよ・・・お父さん・・・お母さん・・・それに坂本少佐・・・」

 

ここには居ない身内や戦友達のことを思い出して、恐怖心を打ち消そうとする芳佳。

ちなみに上官も含む戦友達もこの世界に来ているのだが。

その時、セムテの啜り声がまた耳に入り、孤独感が一気に吹き飛び、急いで彼女の元へ向かった。

 

「やっと見付けた!」

 

芳佳はセムテを見付けた途端、彼女の豊満な胸元へ飛び込み、顔を埋めた。

いきなり自分の胸元へ飛び込んできた少女に、セムテはただ唖然していたのだった。

 

「へっ?あ、えぇ・・・?」

 

「やっと見付けたよ・・・怖かった・・・!」

 

涙しながら頬からセムテの胸の温もりを感じ取る芳佳だが、抱き付かれて少し感じてしまう彼女にとっては少し迷惑だろう。

 

「(こんなの・・・男に抱かれる時と同じじゃない)取り敢えず離れましょうね」

 

取り敢えず芳佳を自分の身体から離したセムテ、今自分達が乗っている練習空母マーリアンで、一体何が起こっているのかを整理する。

 

「(被験者がこんなに泣いてるなんて・・・)まぁ、この空母で一体何が起こってるか話してあげるわ。それと私のことはセムテと呼んで」

 

泣き止んでこっちを見ている芳佳に、セムテは空母で何が起きたのかを話した。

実験開始後、何事もなくデータ解析は続いていたが、突如異常事態が発生し、格納庫内で雷が起きるという超常現象で、格納庫内にいたセムテを除く者達が雷に打たれて内部から爆発し、船内で銃声が多数響き渡り、現在に至る。

仮実験室の中に居た芳佳だけは無事であり、他にも仮実験室の中に防護服を着た集団が居たのだが、中から誰一人として出て来なかったという。

 

「私だけが無事だなんて・・・」

 

「事実よ。それと防護服連中を見なかった?あいつ等、確か実験室の中で機材とか弄くり回してた筈なのに」

 

「そんな人達、私は出る前しか見てませんよ。それと出る時も、一人も見ませんでした」

 

「まさか、ワープしたんじゃないでしょうね・・・?取り敢えず、この船から出られる船とか探しましょう。甲板の滑走路にある飛行機は動かせそうもなさそうだし・・・」

 

ここから移動しよう個室から出た二人であったが、先に出たセムテが何者かに捕まり、何処かへ連れて行かれそうになっていた。

 

「キャー!痛い、離して!!」

 

「待ってください!セムテさん!」

 

悲鳴を上げ、連れて行かれるセムテを必死に追い掛ける芳佳であったが、後ろから何者かに捕まる。

 

「離してください!誰・・・」

 

自分の身体を掴んでいた手は、女性船員だった。

必死に振り払おうとするが、成人女性である船員の方が力が強く、中々振り解けない。

仕方なく、持っていた警棒で足を叩いた。

その衝撃からか、船員は芳佳を掴む手を離したが、悲鳴一つ上げず、ひたすら芳佳を捕まえようと追ってくる。

芳佳の方も、連れて行かれたセムテを追うのに必死で、追ってくる船員には気付かなかった。

 

『助けてー!』

 

「今行きます!」

 

必死に追い掛ける芳佳であったが、何かに躓いて転んでしまう。

 

「キャッ、これは・・・?」

 

暗闇の中で余り彼女からは見えてなかったが、人間、それも女性の死体だった。

気にもせず、芳佳はセムテを追う。

 

『止めて!触らないで!離しなさいよ、小娘共がっ!!」』

 

連れて行かれたセムテは、何かと戦っているらしく、その声が芳佳の頼りとなっている。

ようやく現場に到着した芳佳を待っていたのは、自分と年が二つほど上なセーラー服を着た少女の頭をヒールを履いた足で潰しているセムテの姿だった。

 

「ようやく来たわね。遅かっわよ、あんまり大人の女を待たせるんじゃないわよ!」

 

愛らしい顔であったはずの少女の頭から足を離すと、芳佳に叱り付けるよう言い張る。

目の前の少女を殺していたセムテに、少し信じられなくなった芳佳であったが、「今はそんなことを考えている場合じゃない」と、自分に言い聞かせて謝る。

 

「遅れてご免なさい。大人の女性に身体を掴まれて、直ぐには来られませんでした」

 

「言い訳すんじゃないわよ。それとライフルを持ちなさい」

 

自分の大事に着込んでいた服が血で汚れ、さらに直ぐに助けに来なかった芳佳に苛立っていたのか、偶然にも手に入ったAK103を、頭を下げる彼女に向かって投げ付けた。

 

「痛いです・・・」

 

「それってAKだからあんたにも扱えるわよ。あたしはご免だけど、それともう一度助けが遅れたら、今度は裸になってついてきて貰うわよ?」

 

「はい・・・すいません(なんで怒られてるんだろう?私)」

 

何故、「助けたのに叱られなくてはいけないのか」と、心の中で思う彼女は、自分の世界では見慣れない突撃銃を抱え、左手にS&W M27を握るセムテの後についていった。

 

「(銃なんてネウロイ以外に撃ったことないよ・・・それにセムテさんが持っているあの回転式の拳銃、シャーロットさんがこの前見せびらかしてた拳銃だ)」

 

使ったこともない突撃銃を持ち、心の中で愚痴りながら、セムテにしっかりとついていく。

それから数分間も暗闇の中を移動したが、全く甲板へ出られる様子もない。

セムテは横腹を抑えながら、息を切らし、汗だくのままで移動している。

これ程の美貌を持っているにも関わらず、運動も禄にしていないらしく、肌から飛び散った汗が、芳佳の肌に当たる。

 

「(この人、科学者だから余り運動してないのかな?)」

 

また愚痴った芳佳であったが、次の瞬間にセムテが多数の少女水兵に襲われ、連れて行かれそうとなった。

 

「離せ!このクソ餓鬼共がっ!!」

 

自分の美脚を少女に噛まれたセムテは、M27をゾンビのように群がってくる少女水兵達に乱射し始める。

セムテに向かってくる少女水兵達は皆美少女だが、人体の一部が損傷していたり、顔の穴という穴から血が噴き出している者まで居る。

強力なマグナム弾が、少女達の頭に腕や脚を吹き飛ばしていくが、所詮六発程度しか収まらないので、直ぐに弾切れとなる。

それでもセムテはM27を振り回して、衣服を破ったり、身体に噛み付いてくる少女達を払い除けながら、芳佳にAK103を撃つよう怒鳴る。

 

「そのAKを撃ちなさいよ、早く!イタッ、何処に噛み付いてのよこいつ!!」

 

自分の股に噛み付いた少女を振り払おうと殴り付けるセムテ、それを見ていた芳佳は、クリップを握る手が震え、撃てないでいた。

 

「(もし撃ったら・・・私は・・・?)」

 

人を撃ったこともない芳佳はただ怯えるばかりで、何も出来ず、ただじっと、セムテが少女達に喰い殺されるのを待つだけである。

 

「何でもするから、何でもするから早く助けなさいよ!」

 

死の恐怖が迫ったのか、セムテは半泣き状態で芳佳に助けを求めた。

しかし、当の芳佳は震えて何も出来ず、ただ涙を流して肘をついているばかりだ。

 

「ぎゃぁぁぁ!痛い痛い!噛まないで!痛いよ!」

 

群がって、自分の身体を噛む少女達を引き離そうと暴れるセムテであったが、バランスを崩して床に倒れてしまい、そのまま喰われ続ける。

やがて悲鳴まで聞こえなくなると、肉を食い千切る音や、食べる音しかしなくなった。

 

「あぁぁ、あああぁぁぁ・・・」

 

目の前で起こるカリバリズムに、芳佳は号泣しながら逃げ去った。

一方、芳佳がこっちへ逃げてくるのに気付かないイーディ分隊、ではなくリコルス分隊は言うと、セムテが撃ったM27銃声の元へと向かっていた。

 

「確かここから銃声が聞こえましたわね?」

 

「そうだ・・・それにこの銃声は、かなり大口径な銃だ・・・」

 

リコルスがフラッシュライト付きM4A1カービンを構えながら言った後、フラッシュライト付きM9A1自動拳銃を構えていたマリーナが答える。

また妹に出し抜かれ、まだ根に持っているイーディは、ヘルメットに付いているヘッドライトを頼りに、先行するリィンとマリーナの後へ続いた。

 

「これはなにか・・・興奮するどころか・・・なにかを漏らしてしまう様な気分だ・・・それに危険な物が襲ってくる気がする」

 

妙な気分になっいたホーマーを注意するように、ヤンがヒステリック気味に彼を怒鳴りつける。

 

「ちょっと、変なこと言わないの!こんな暗闇の中から何か出て来たらどうすんの!?」

 

「ヤンさん、こういうの苦手ですか?」

 

「そうなのよ。私ってちょっと暗いのが本のちょっとくらい苦手で・・・」

 

「そうなんですか。私もちょっと苦手かな・・・?」

 

気を紛らわせる為か、スージーがヤンと会話を始めた。

先行しているリィンは、ビクビクしながらM4カービンを腰だめで構え、マリーナにずっとくっついている。

 

「そんなにくっつかれると、少し迷惑だぞ・・・」

 

「冷たくしないで下さいよ!私はこんな暗闇の中で、しかもこんなに狭い所で孤独だと想像すると怖くて歩けません!」

 

必死に伝えたリィンの表情を見たマリーナは、無表情のまま、ずっと前を見据えた。

そして、こちら側に逃げてきた芳佳の足音に気付いたのだ。

 

「っ!?誰か来ます!」

 

「足跡からして裸足だ。しかも走っている・・・!」

 

先行していたリィンとマリーナは、近付いてくる芳佳が来るであろう方向に銃を向けた。

慌ててイーディとリコルスも、M4A1カービンを構える。

それとM249E4を構えていたホーマーは、もの凄く興奮していた。

 

「ハァハァ、さぁ、何が来るんだい?」

 

「そんなに興奮しないでください・・・」

 

スージーがツッコム様に言った後、芳佳の姿が確認でき、全員は銃を下ろした。

 

「子供!?」

 

「それに少女ですわ!」

 

イーディとリコルスが続け様に言った後、AKを握っていた芳佳は息を切らしながら、米陸軍完全武装の歩兵分隊の前に立った。

 

「足跡が血塗れだね・・・」

 

「まさか怪我を!?」

 

芳佳の足跡を見ていたホーマーが言った後、リィンが芳佳に近寄り、怪我がないかを調べ始める。

 

「怪我はないみたいです!」

 

「そのようだな・・・」

 

リィンが知らせた後、マリーナが呟き、イーディとリコルスが芳佳に近付いて、ここは何処なのかを聞き出そうとする。

 

「もしもし、そこの貴女。この船の乗員でいらっしゃいますか?」

 

「違いますわ、お姉様。この娘の服装から見る限り、病室にいような感じですわ」

 

二人が芳佳を何処から来たのか推測しあってる頃、スージーが代わりに聞き始める。

 

「何処から来たの?訳を話してください」

 

「あ・・・はい。実は・・・」

 

芳佳は今まで起きたことを包み隠さずスージーに話した。

 

「そんなことが・・・イーディさんにリコルスさん、ここが何処だか分かりました。空母という軍艦の一種です」

 

「「空母に軍艦!?えぇぇぇぇぇ!!?」」

 

自分達のいる場所が分かったネルソン姉妹は、驚きの余り声を上げてしまった。




次回は脱出編にしようかな・・・?

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