学園黙示録 ゲンブンオブザデット   作:ダス・ライヒ

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本編2
包囲網からの突破


警察署で行方知れずとなった避難民の手掛かりを探している最中に、ケストナーの部隊に襲撃された小室一行達。

先客四人と始めに転移していたカールの協力によって、見事危険を退けることができた。

新たな五人の生存者を加えた小室一行は、放置されたコンドル装甲車を加えて、リヒター達が待つ合流地点へと急いだ。

 

「なんか軍隊っぽくなったな・・・」

 

バギーの運転を担当する孝が、殿を務めるコンドル装甲車を見ながら呟く。

装甲車に乗っているのはアッシュ、コワルスキー、ブルクハイト、シュタイナー、シュルツ等のZbvと新参者のハインツ、ローバック、BJ、カールを含め九人が乗車している。

ハンドルを握っているのはローバックだ。

ハンビィーや孝達が乗っているバギーにもM2重機関銃が搭載されている為、知識が浅い者が見れば西側諸国の小隊規模の部隊にしか見えないだろう。

先の戦闘で時間を大分食った為、一行は市街地に入って近道をすることにした。

既にその行動はワルキューレに読まれており、市街地に展開しているユズコ軽師団が待ち受けている。

孝達はそれを知る由もなく、迂闊に市街地へと入ってしまったのだ。

市内の入り口の建造物に潜む、偵察兵が孝達の存在を師団本部へ通達する。

 

「ン、何か光ったな?」

 

BJは街の入り口にある建造物の窓に、双眼鏡のレンズの光を見付けた。

 

「まさかな・・・」

 

一人で呟いたBJは、思い過ごしと願っていた。

しかし、彼の願いは虚しく崩れ去ることになる。

周囲から銃声が響き渡り、コンドルやハンビィーの装甲板に銃弾が命中し、車列が止まる。

 

「敵襲だぞ!」

 

「何処から撃ってきてるんだ!?」

 

殿のコンドルの車内で、ローバックが叫んだ後、シュルツが慌てふためく。

対戦車火器を撃たれると判断したシュタイナーは、車列を動かすよう指示する。

 

「早く動かせ。このままでは敵の狙い撃ちだ!」

 

言われたとおり、ローバックはアクセルを踏んで前進した。

それに続いて後ろのハンビィー三両(兵員輸送型一両)、孝のバギーも含めて前進し、銃撃を受けながら市街地の奥へと進んでいく。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

「キャー!」

 

防弾ガラスも無いオープントップな為、孝達は頭を下げながら前で重機関銃を乱射しているバルクホルンが乗るハンビィーの後ろを必死に追う。

 

「私達奴らじゃないのに!!」

 

「上に着いてる機関銃の所為で撃たれてるんだ、例え外したとしても僕達も仲間と思われて攻撃されるだろうさ!」

 

「そんな・・・!」

 

隣に座る麗は孝が言ったことで不安になる。

上空からはホーカーハリケーン三機が彼等の頭上を飛ぶ。

 

「や、戦闘爆撃機(ヤーボ)だ!」

 

コンドルの機銃座に座るアッシュが叫び、20㎜機関砲の対空射撃が始まる。

機関砲の射撃音が響く中、孝は周りを見渡し、周囲から奴らが集まってくることに気付いた。

 

「大きく音を鳴らす所為で奴らが集まってきてる・・・!」

 

孝が言った後、奴らの大半が吹き飛んだ。

それにキャタピラの音が聞こえ、ディーターのヤークトティーガーか佐武郎の三式中戦車、或いは自衛隊の戦車が助けに来た、と孝と麗は勘違いしてしまう。

 

「助けが来たの!?」

 

「まさか・・・」

 

そうであって欲しいと願ったが、叶うはずもなく潰える。

キャタピラ音の正体はM3A3スチュアート軽戦車だった。

目の前にいる奴らを搭載機銃で全て片付け、孝が乗るバギーに砲身を向けている。

死の恐怖を感じた孝と麗は、目を瞑った。

機関砲の砲声より大きい戦車砲の砲声が鳴り響き、徹甲弾がバギーに向かって飛んでいく。

幸いなことに上に搭載されていたM2重機関銃に命中しただけで、大事には至らなかった。

 

「わざと外してくれたかそれともただ外れただけなのか、助かった」

 

M2重機関銃が道路に落ちた後、車列から大分離されたことに気付き、急いで追い着こうとする。

後ろからは確実に孝達を始末する為か、一両増えたM3A3スチュアート軽戦車が機関銃を撃ちながら迫ってくる。

 

「孝、後ろから!」

 

「分かってるって、増えてるし!?」

 

振り返った孝は追ってくる一両増えたM3A3スチュアート軽戦車に驚き、バギーのスピードを上げる。

必死に車列へついていく中、前のハンビィーが右に曲がった為、こちらも後へついていくよう曲がり、後へ続く。

次に前の車列が左へ曲がった為、ハンドルを左に切る。

そのお陰か、追ってきたM3軽戦車を撒くことができた。

車列が止まっているのを確認した孝は、バギーを止めて何故止まっているのかをシュタイナー達に聞いた。

 

「すいません、なんで止まるんですか?」

 

「小僧、生きていたか。ブルクハイト等があの38t軽戦車を盗むと言ってな」

 

シュタイナーが指差した方向を見れば、コンドルの行き先を封じるかのようにチェコ製のドイツ戦車、38t軽戦車G型が見えた。

 

「前の世界で我が部隊の装備に38tなど無いが、あそこで盗みに行っている連中は動かし方を知ってるらしい。その援護としてブラコヴィッチとカールが同行している」

 

ブルクハイト、アッシュ、コワルスキーが随伴歩兵達に気付かれずに38t軽戦車に向かってる間、孝達が隠れている壁越しからBJとカールの二人がウェルロッドMk1消音拳銃で随伴歩兵達を一人ずつ始末していた。

随伴歩兵を全員始末した後、盗みに行った三人が38t軽戦車に乗って、砲塔に乗ってノックする。

 

「はい、なに?」

 

キューポラから女性車長がハッチを開けて出て来た為、アッシュがスパナを頭に振り下ろした。

頭部を強く殴られた女性車長は即死し、コワルスキーが車内に乗り込んで、乗員達を車内から放り出す。

放り出された乗員を消音器などを付けた銃を持った者達が始末する。

 

「戦車を盗むことに成功したようだな」

 

シュタイナーはブルクハイト達が38t軽戦車を盗むことに成功した事に関心する。

コータの方は、本物のドイツ戦車兵が乗る38t軽戦車に興奮が冷めないで居る。

エンジンを動かす為にクラッチを回しまくるコワルスキー、数秒後にはエンジン音を響かせ始める。

コワルスキーが車内に乗った後、38t軽戦車が動き出し、それの後に続くように車列は続く。

 

「久しぶりに38tを動かしたぜ」

 

「俺もだ、クラッチを回すなんて何年ぶりだろうな」

 

「静かにしろ二人とも、ここは敵地だ。また敵戦車が襲ってくるぞ」

 

車長と照準手を担当するブルクハイトは二人を黙らせ、目の前に見えた五両のオチキスH35軽戦車を発見する。

 

「フランスの軽戦車だ!連続射撃、行くぞ!」

 

早速ブルクハイトは目の前に居るオチキスH35軽戦車に向けて、48.7口径3.7cm戦車砲KwK38を発射する。

側面からまともに徹甲弾を受けた為、オチキスは大破した。

 

「一両撃破、次!」

 

ブルクハイトの指示で、凄まじい早さで装填を終わらせたコワルスキー、砲塔旋回ハンドルを回し、次の標的へと砲身を向け、空かさず発射、二両目の撃破に成功。

 

「二両目撃破!回避しろ!」

 

「了解!」

 

オチキスも反撃してきた為、回避運動を取る38t。

対戦車ライフルPTRS1941を持つ、セルベリアが端っこにいるオチキスに向けて撃つ。

それほど装甲を持たない軽戦車である為か、正面装甲を貫いて大破、残り二両もブルクハイト等が操る38tに撃破された。

あちらこちらから銃弾が飛び交ってくるが、対戦車火器では無い為に孝と麗、兵員輸送車型ハンビィーに乗る者以外の者達は安心する。

次に九五式軽戦車ハ号が五両ほど飛び出してくる。

 

「あれは旧日本帝国陸軍の九五式軽戦車ハ号!どうしてこんなレアな戦車まで出てくるんだ!?」

 

ハ号を見たコータが驚きの声を上げているが、38tや対戦車火器を持つ者達に砲撃する前にあっさりと壊滅させられた。

今度は38t軽戦車F型が五両も出て来た。

 

「あれはF型!」

 

またもやコータが驚きの声を上げ、中央にいた敵の38tがブルクハイト等の38tG型の砲撃で大破する。

残り四両も反撃するも、対戦車火器であっけなく全滅した。

 

「この調子なら突破できそうだ」

 

ローバックが目の前で歩兵相手に奮闘するブルクハイト等の38tを見て調子づく。

しかし、その当ては上空からやって来た"厄介な物"で崩れ去ることになる。

 

「このエンジン音は・・・!?」

 

20㎜機関砲の銃座に座るBJは聞き覚えのある飛行機のエンジン音を耳にした。

その正体は彼の国、アメリカ合衆国の大戦時の中型爆撃機、B-25ミッチェルだ。

日本本土で初の爆撃を行った爆撃機として有名であり、その爆撃機がこの市街地上空に現れたとすれば、ここに爆弾をばらまきに来たと言うことだ。

 

「おいおい、まさか味方事爆撃するんじゃないだろうな?」

 

コンドルの運転席から上空を飛ぶB-25を見たローバックは、不安そうな表情をしながら言う。

そうはさせまいと20㎜機関砲をB-25に向けて撃ちまくるBJであったが、PIATの攻撃で車内に衝撃が走り、引き金から手を離してしまう。

 

「しまった・・・!」

 

BJが銃座に戻る頃には十個の250㎞爆弾が既に投下された後だった。

周囲からは爆発音と建造物から銃撃を加えていた兵士の悲鳴が聞こえ、兵員輸送型ハンビィーに乗っていたルリが飛んできた瓦礫に当たって地面に叩きつけられる。

目の前で奮闘していた38tが落ちてきた爆弾の爆発の衝撃でコンドルの前まで吹っ飛び、中からブルクハイト等が飛び出てくる。

 

「クソ・・・これで何度目だ・・・?」

 

「骨は折れてないみたいだ・・・」

 

「危ねぇ~」

 

頭をさすりながらブルクハイトは立ち上がり、コワルスキーは自分の身体に異常はないか見て安心する。

アッシュは危うくコンドルの装甲に頭をぶつける寸前だった。

 

「まさか味方ごとやるなんて・・・」

 

味方ごと爆撃して元来た道を帰っていくB-25を見ながら、孝は恐怖した。

一方、瓦礫に当たって地面に叩きつけられたルリは、起き上がって兵員輸送型のハンビィーに乗り込もうとしたが脚を撃たれ、置き去りにされてしまう。

一番後ろに居た孝達のバギーは追ってきたM3A3軽戦車の攻撃を受け、ルリが回収できず、そのまま車列の後へ続いていく。

取り残されたルリは脚が治ったのを確認すると、立ち上がり、一目散にこの場から退散した。

 

「また一人になっちゃった・・・」

 

遮蔽物に身を隠し、ルリを置いていった孝達を追う軽戦車と歩兵の集団を見ながらそう呟く。

周囲から敵影が消えた後、持ち物を確認する。

 

「食料無しか・・・そこらで死んでる戦乙女の使いから取らないと・・・」

 

SG553とP232と専用の弾倉と鉛筆しか無いと分かったルリは、自力で小室一行に追い着こうと決めた。

行こうとした瞬間、突如奴らが死角から現れ、掴み掛かられる。

頭を小さな左手で抑え付けるも、脳のリミッターが外れた奴らはルリの左腕を顔の力だけでへし折って、左肩を噛み付いた。

 

「ぐっ、痛い・・・!」

 

凄まじい激痛が身体を走り、服ごと肉を食い千切られた。

動かせる右手で鉛筆を握って、奴らの頭に突き刺した。

鉛筆で頭を刺された奴らは沈黙し、ルリの上に倒れ込んだ。

 

「治療道具がない・・・」

 

左肩を抑えながら立ち上がったルリ、噛まれた部分の自然回復は遅く、出血が凄まじい。

治療道具を探す為、周囲に転がっている軽歩兵の死体を漁る。

 

「あった、止血剤」

 

瓦礫に頭をぶつけて死んでいたMk2皿形ヘルメットを被り、第二次世界大戦時の英軍に支給さていたP-40戦闘服(バトルドレス)を着た女性兵士から止血剤と携帯食を手に入れ、死体の見開いた目を閉じる。

空き家となったビルに入って、服を脱いでから傷口をアルコールで消毒してから止血剤を巻いた。

 

「治療道具だけ現代なんだ」

 

大戦時に支給されていた物とは違い、現代の国家の軍隊にでも使われていそうな止血剤だった。

左肩だけ破れた服を着て、ルリは小室一行の後を追う。

 

「さて、まずは地図を探さないと」

 

自分だけしか居なくなった市内で、地図を探すことにした。

あれ程居たワルキューレの生きている軽歩兵達は一人も居ないような感じだが、銃声は聞こえてくる。

士官クラスっぽい軽歩兵の死体から地図を手に入れて現在位置をルリは確認する。

 

「確かここから北に行ったところで待ち合わせをしてたんだね」

 

死体から拝借したペンで、合流地点にマークを入れてからポケットに仕舞う。

辺りは暗くなり、上空に見える一機のワルキューレのシンボルマークが付いた飛行船の大型拡声器から日本語の放送が流れてくる。

 

『床主に未だ居る方々にご報告いたします』

 

やはり女性中心の組織である為、声優でも使ってるんじゃないのかと言うくらいのアニメ声で流暢な日本語だった。

 

『新しい避難所を市役所に開設しました。そこには物資も食料に水が十分確保され、防備も完璧です。受け入れ人数は無制限です、自宅や屋内に立て篭もっている方々は市役所に向かってください。道中、暴徒に遭遇しても対処せず、市役所に向かってください。尚、暴徒から噛み傷などの外傷を受けた方は、誠に申し訳ございませんが受け入れる事はできません。そのような外傷が見られた方はこちらで無警告せずに発砲します。次に、新床第三小学校で自衛隊による救出活動が行われます。救出活動予定は明後日の午前14時です。こちらは受け入れ人数に限りがあります、悪しからずに。こちらも避難所と同じように暴徒からの噛み傷などの外傷を受けた方は受け入れられません。同じように無警告で発砲されます、ご注意を。繰り返します』

 

繰り返し放送が行われた為、ルリは移動を再開する。

大音量の放送で奴らが飛行船に向かっており、ルリに気付くこともない。

もうすぐ夜中に入る為か、誰も民家から出て来なかった。

ルリは小室一行が向かった方向へと歩き続けた。




次回はスナエリのゾンビ出そうかと思います。

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