Tales of Grasces f ~守るために殺す少女~ 作:白黒狼
一人の少女がこの世を去る。
その先に見たものとは……
プロローグ
そこは暗い場所だった。そこには全てが有って、全てが無かった。
手を伸ばせば届くような場所。しかし、決して届かない場所。
一言でいえば「無」だ。
始まりの混沌。原初の渦。根源。あらゆるモノがいつか帰る場所。 命が生まれ、死んでいく場所。誰もが一度は触れるが死ぬまで訪れることがない場所。
故に、それを知る者は此処を目指す。此処には過去、現在、未来の全ての情報があるのだから。
しかし、生きた生物が此処に来る事はできない。そんな事をすれば生身の身体が膨大な情報に耐えられない。身体の無い死んだ魂のみが此処にたどり着き、混沌に混ざり、情報を全て抜き取られて新たに生まれ変わる。
此処を知る者はこう呼ぶ。 全てがあるのに何も無い。生と死の境界。
故に、「空の境界」と。
◇◇◇◇◇◇
目を開けた。
何も無い……いや、違う。
全てがあるのに何も無い。
ぼんやりと視界は霞んでいるがやけに思考はクリアだ。
首を動かそうとしたが動かない。いや、そもそも今見ている光景が前なのか後ろなのか、上下左右の感覚が無い。何処を見ても同じ光景なら、首は動いているかもしれない。
だが、どうしても身体の感覚がない。腕も足も首も、感覚自体が感じられない。まるで首だけになったかの様な感覚。
馬鹿なことだ、と笑う。首だけなら私は生きれないじゃないか。
と、そこまで考えて唐突に理解した。
成る程、自分は死んだのだと。唐突に、その実感だけがはっきり理解できた。
首どころか、今の私には身体がない。魂だけで此処にいるのだと。
ならば、此処は死後の世界なのだろうか。
何処を見ても「無」ばかりが広がっている。その中に一人浮いている私。
何故だろう。唐突に恐ろしくなった。
確かに、此処には全てがある。知識も、生も、願いも、全てが手に入るのだろう。だが、同時に此処は全てを奪う場所なのだ。命も、知識も、繋がりも、何もかもが此処に記録され、終わったら真っ白にリセットされる。此処はあらゆる時代の情報が記録される場所。アカシックレコードなのだ。
だから、私が此処でこうしてぼんやり浮いているのも、私の知識を、人生を、私が生きた証を、記録するただそれだけの為なのだ。
ふと、チクリと頭が痛む様な刺激を感じた。
身体がないのにぞくり、と背筋が凍る気がした。
記憶が……いや、私という存在が消えていく感覚。私の魂から「私」という余分な存在を消去しようとする行為。
真の意味での「死」
自らの名前が、友人の顔が、両親の手の温もりが、私の記憶が消されていく。
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ‼
私の記憶を、私の思いを、私の全てを奪うな‼
私は、私のままでいたい‼
叫んだ、ただ叫んだ。無い口で、喉で、私の思いを。それは虚しく虚無へと消えてーーー
光が、見えた気がした。