Tales of Grasces f ~守るために殺す少女~   作:白黒狼

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・デュアライズ
 二つのアイテムを組み合わせて別のアイテムを生み出す技術。グミやボトル系のアイテム、換金アイテム、武器の改造や強化もできる。




時は流れて

 

 

 ラントの東にある街道の分かれ道を南へと進むと、一つの大きな街にたどり着く。街の名は『グレルサイド』という。

 この街を治めるデール公は王家の遠縁に当たり、ウィンドル王国南部を纏める大領主である。

 そのデール公の邸にて、二人の人物が執務室の巨大な机を挟んで向かい合っていた。

 

 

「……では、事前に連絡を致しました通り、資源の受け渡しに関しましてはこちらの資料を御確認下さい」

 

「うむ、確かに受け取った。いつもすまないな、君には苦労をかける」

 

「いえ、私が自ら志願しているのですから……。デール公こそ、私のような小娘にいつも宿と食事まで提供していただきありがとうございます」

 

「いやいや、アストン殿も君の事はかなり評価していたよ。彼が認める人間を粗末に扱うなど、私の父の名に誓ってできんよ」

 

 

 椅子に座った銀髪の初老の男性が小さく笑った。

 机を挟んで向かい合う黒髪の少女は困ったように苦笑いだった。

 黒髪の少女……ヒトハは自らの髪とは反対の白いコートの内側から書類をいくつか机に置くと、用意された椅子に腰掛けた。

 

 

「……戦況はどうかね?」

 

「……あまり良いとは言えません。フェンデルの動きは今は小さいですが、奴らには此方にない兵器の技術があります。その気になれば簡単に防衛ラインを突破されるでしょうね」

 

「そうか……しかし、こちらも簡単に兵を派遣する訳にはいかんのだよ」

 

「王家の問題……ですか」

 

「……うむ」

 

 

 ラントは現在フェンデルとの睨み合いが悪化し、小さな戦闘が頻繁に起きている状態であった。高度な技術を持つフェンデルの兵器に対して、ラントの兵はアストンが前線での指揮をとることで被害を最小限にとどめていた。

 アストンは共に王家を支えてきたデール公に助けを求めたが、現在デール公はウィンドル王国の帝都であるバロニアにて王家の内乱が発生しそうな雰囲気があるとのことで、最悪の事態が発生した場合はそちらに兵を出さねばならないのだ。

 つまり、兵を派遣するのは難しく、代わりに物資を提供することで協力をしているのである。提供された物資は武器や防具を強化したり、薬の調合やデュアライズに使われている。

 

 

「いつもの通り、物資は亀車に積んでおこう。今日はもう日が暮れる。ここに泊まって行くと良い」

 

「はい、またお世話になります」

 

 

 ヒトハはアストンに頼みグレルサイドとの情報提供や物資の運送の仕事を志願したのである。彼女の戦闘能力は三年間でかなりの高さまで磨き上げられた。しかし、アストンが彼女を戦場に向かわせるのを躊躇ったのである。

 それは彼女の事情を唯一知るが故の措置であった。彼女が失った日常を少しでも生きて欲しいという思いだったのである。ヒトハもそれを知っているが、黙って守られるだけでは満足できなかった。『守るために殺す』という誓いを立てた以上、できる事をしてアストン達を守りたかったのである。

 結局、アストンがなんとか説得に成功し、物資の運送や突然不思議な力に目覚め、癒しの力を手にしたシェリアと共に救護班として活動をしている。

 

 デール公の邸の客室に通されたヒトハは既に何度も見た部屋のベッドに腰を下ろした。

 髪を纏めていた真っ赤なリボンを弄りながら小さく息を吐く。このリボンはシェリアからもらったものだ。髪が伸びてきたヒトハが髪を切りたいと言った時、ケリー夫人と共に物凄い形相のシェリアが反対してきたのである。そのあまりの態度にたじろいだヒトハだったが、髪が長いと視界が悪くなるのも事実であり、どうにかしたいと言った結果、シェリアからはリボンを、ケリー夫人からは前髪をとめる髪留めをもらったのである。

 その時のシェリアの必死な顔を思い浮かべながら、ヒトハは苦笑いを浮かべつつ、ベッドへと潜り込んだ。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 闇の中、四人の人間が邸の庭に音もなく降り立った。

 警戒している筈の門番は門の柱に力なく寄りかかって気を失っている。

 彼等は音もなく邸の側面に移動すると、一つの部屋の窓の前で止まり、一人が中を確認する。

 シーツが盛り上がっているので部屋の住人はベッドに横になっている様だ。

 それを確認すると、男は窓に小さな機材を取り付けて少しずつ動かしていく。音もなく行っていた作業は僅か数秒で終わった。窓に小さな穴が空いたのだ。

 穴から入れた手で鍵を開けると、彼等は静かに部屋の中へと侵入する。

 リーダーらしき人物が指で一人を指差し、そのままベッドに向けて小さく振る。それに頷いた男は懐から何かを取り出す。

 月明かりに照らされたそれは、間違いなくナイフであった。鈍く光るナイフを構えたまま、男はベッドの傍に立つと、音もなくそれを寝ているであろう人物に突き刺した。

 何かに刺さる感触が男の手に伝わる。そして、確認のためにシーツがをめくろうとした瞬間―――

 

 

「こんばんわ、お客さん……」

 

「―――ッ⁉︎」

 

 

 四人の背後から聞こえた声に彼等は勢いよく振り返る。

 そこには黒髪を赤いリボンと髪留めで纏めた少女の姿があった。

 我に返った男がベッドのシーツを捲ると、そこには丸めたクッションが置いてあるだけであった。

 

 

「馬鹿ね、何度も暗殺紛いな事をされていれば嫌でも警戒するに決まっているでしょう?」

 

 

 壁に預けていた背中を離し、少女―――ヒトハは小さく微笑んだ。

 暗殺者の四人はすぐにそれぞれ武器を構える。

 ナイフ、鉤爪、短剣、銃、皆バラバラの装備だが、ヒトハはそれを見て笑みを深める。

 

 

「前の奴らと同じ……やはりフェンデルの者ね。山の中でも通って来たのかしら、ご苦労なことね?」

 

 

 その声に答えず、ナイフを持った男がすぐさま襲いかかる。

 ふぅん、と目を細めたヒトハは右手を背中側のベルトに持っていき、そこから一振りのナイフを取り出した。黒い柄の先に光る青白い刀身が月明かりで光る。

 低い姿勢から振り上げられる男のナイフを、ヒトハはあろうことか相手の腕ごと蹴り上げた。まさか下から迎撃されるなど考えもしなかったのだろう。驚いて目を見開く男に、ヒトハはナイフを振り下ろした。

 切り裂くのではなく、突き刺す形で振り下ろされたナイフは男の頭蓋を容易く突き抜け、脳へと到達する。びくりと体を震わせ、男は絶命した。

 男からナイフを抜き、ヒトハは残りの三人に目を向ける。その瞳はぼんやりと蒼く光って見えた。

 

 

「まずは……一人」

 

 

 あまりの早業に呆然としていた三人は彼女の声に我に返る。

 銃を持っていた男が躊躇わずに引き金を引いた。鈍い音と同時に発射された弾丸は寸分違わずに彼女へと向かっていく。

 ヒトハは、それを左に跳んで回避する。

 そして、左に走りながら、徐に壁を蹴って宙に浮く。

 それを好機と見たのか、鉤爪の男が飛びかかる。空中では身動きがとれない。男は自らの鉤爪が彼女のナイフよりも長いため、反撃されても先にこちらの爪が届くと確信していた。

 しかし、男は知らなかった。目の前にいる少女が身につけている体術が室内においてどれだけの動きができるのかを。

 

 少女は体を捻ると天井を蹴った。

 一瞬だけ交わる二人の視線。すぐ側を通り抜けて床に着地した少女を、男は目で追うことができなかった。

他の二人も少女の速すぎる移動に一瞬でその姿を見失う。

 壁を、天井を、まるで地面を走るかの様に縦横無尽に移動する。そして着地したのは銃を持つ男の背後。

 宙に飛び上がった男が鉤爪を空振る時、ヒトハは既に銃を持つ男を蹴り上げていた。

 

 

「蹴り穿つ」

 

 

 繰り出されたのは六発の蹴り。

 しかし、その速度が異常だった。傍目から見ればただの蹴りだが、この瞬間、男の体には一瞬で六回の蹴りが叩き込まれていた。

 

 閃鞘・六兎

 

 七夜の体術の中でも『閃鞘』の名を付けられた暗殺術。一瞬で六回の蹴りを叩き込むその技は容易く相手の体を宙に浮かせた。

 その先には先程ヒトハを見失った鉤爪の男の姿。

 二つの体がぶつかり、がはっ、という呻き声が漏れるが、その間にもヒトハは止まらない。

 落ちてくる二人に、神速の速さをもってナイフを振り上げる。

 

 

「月閃光‼︎」

 

 

 言葉と同時に、ナイフに埋め込まれた輝石(クリアス)が力を解放し、輝術(きじゅつ)を発動させる。

 ナイフが一瞬輝くと、その場で三日月型の刃が現れ、二人の男ごと空間を削り取る。

 どさり、と落下した男二人は自らに何が起きたのかもわからぬまま死亡した。

 

 

「これで三人……」

 

 

 ヒトハは素早く室内を見渡す。

 しかし、最後の一人の姿はない。開け放たれた窓から入り込む風がカーテンを揺らしていた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 暗殺者の男は路地裏で息を殺して隠れていた。

 正直、予想外であった。

 ラントの領主アストンの右腕とも言われる少女。

 名前はヒトハ。数年前からラントに住み始め、すぐにその頭角を現し始めた脅威となりうる存在。

 戦闘能力の高さに加え、交渉術の高さ、全てを見透かした様に奇襲攻撃に対応する高い探知能力と反射神経。

 何度か奇襲を邪魔されているフェンデルにとって、彼女の存在が如何に危険かは火を見るよりも明らかだった。

 

 そして、ついに彼女の暗殺が計画される。

 

 しかし、結果は全てが失敗。

 暗殺者は全員行方不明。殺されたか、それとも幽閉されているか。

 それが更に彼女の危険性を際立たせた。

 

 

 暗殺者は静かに気配を殺しながら路地裏を移動する。

 もし暗殺に失敗した場合、この先にある裏口から脱出することになっていた。

 グレルサイドの裏道は不規則に枝分かれしており、一度見失うと簡単には追いつけない。

 暗殺者は上司に今回のターゲットに恐らく暗殺はもう通用しないと報告するつもりだった。彼女は完全に此方の動きを読んでいる。このまま無駄に隊員の人数を減らす事は得策ではない。継続するにも新たな計画の立て直しが必要であった。

 報告書の内容を頭の中で纏めながら、彼は最後の角を曲がった。

 

 そして―――

 

 

「――あ〜あ、出会っちゃった」

 

 

 蒼い瞳の少女が立っているのを、見た。

 

 ヒトハはこれまでの経験から暗殺者の逃走経路を導き出した。

 だが、その数は一つではない。暗殺者はいくつも退路を確保しているものだからだ。

 今までは逃走する前に全て始末できていたので正直少しばかり焦った。退路も半ば勘で導き出した。

 ただ、その読みが〝たまたま〟当たっていて、そしてその一つに先回りしていたら〝偶然〟暗殺者がそのルートを使っただけの話だった。

 

 つまり、この暗殺者は運が悪かっただけ。

 

 ヒトハの体が跳ねる。

 狭い路地裏は彼女の使う体術には格好の場所。

 暗殺者はたった今気がついた。先程自分で考察していたじゃないか。〝彼女は此方の行動を読んでいる〟と。彼女から逃げたいのならば、それこそ表通りを堂々帰ればよかったのだ。暗殺者ではなく、一般人のふりをしてただ門を出て行けば気づかれなかったかもしれないのに。

 

 咄嗟に短剣を構えた時には全てが終わっていた。

 暗殺者は彼女の姿を捉える前に一瞬で首をはねられた。

 

 刃に着いた血を落とし、彼女はナイフを鞘に戻した。

 そのまま死体を一瞥すると、すぐに踵を返して邸に戻る道を歩き出した。

 その眼は、何時もの黒曜石の様な黒に戻っていた。

 

 

 

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