Tales of Grasces f ~守るために殺す少女~   作:白黒狼

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 グレイセスはテイルズの中で一番好きなタイトルです。

 楽しんでいただけたらいいですね。



目覚めは花畑で

 

 

 

 ――ふと、風を感じて目が覚めた。

 

 同時に香る花の香り。

 

 目を開けてみれば、青い空が一面に広がっていて、波の音が耳に届く。

 花の香りに混じって海の香りもした。どうやら近くに海があるようだ。身体を起こして周りを見渡す。

 一面の花畑だ。大きな木が一本、崖の近くに生えていて、下を覗けば海があった。どうやら此処は崖の上にある花畑らしい。

 崖の近くは危ないと感じ、花畑の中央に戻る。

 

 いまいちはっきりしない頭を動かして状況を確認してみよう。

 私は……そう、暗い場所にいたんだ。思い出すだけでも背筋が凍る様な暗闇。虚無の海に私はいたのだ。

 私は死んだ……そう、死んだんだ。

 死因は病死。現代では治せないと言われた原因不明の病。唯一の患者であった私は隔離された病棟で三年間過ごしていた。生前は運動神経がよく、風邪もひかなかった私が何故あのような病気にかかったのかはわからない。

 

 そこまで思い出して、それ以前の記憶が思い出せないということに気がついた。

 両親も、友達も、家も、学校も、何も思い出せない。虫食いの様に記憶が穴だらけだ。いや、もう大半が消失しているといってもいい。名前も……苗字がわからない。

 

 だが、名前は覚えている。

 この私……■■一葉(ヒトハ)は記憶喪失らしい。

 

 同時に思い出す、あの暗闇。

 あの時、確かに私は記憶を消される錯覚に陥った。……錯覚? あれは本当に錯覚なのか?

 もし、私の記憶が本当に消されたのだとしたら。……そうだ、「境界」に入れば記憶は抜き取られ、記録としてあの場に保存される。あそこはそういう場所だ。

 それなら、私の記憶は……。

 

 そこまで考えて、唐突に両目に激痛が走った。突然の痛みに思わず膝をつく。

 使わなかった器官を無理矢理こじ開けた様な、今まで無かったものができた様な感覚。

 

 そして、目を開けた私の視界は唐突に変わった。

 カチリ、とスイッチが入ったみたいに唐突で、変化は急激に訪れた。

 足元の花……その花びらに、葉に、茎に、赤黒い線が走っていた。見ているだけで吐きそうになる。気持ち悪いくらいにおぞましいその線からは生気を感じなかった。

 気がつけば、それは花だけではない。木にも、地面にも、自分の体や服にも。どこにだってそれはあった。

 

 

「…ぁ……うっ………」

 

 

 堪らずその場に倒れ、仰向けになって空を見上げた。

 不思議なことに、空には線はなかった。おかげで少しは気分がよくなった。あんな光景を見せられていたら気が狂いそうだ。

 

 わかっている……いや、わかってしまった。

 あの線は「死」なんだ。

 あの虚無の海で感じた死の恐怖。それがあの線なのだ。あの線はそのモノの存在の限界なのだ。アレを断てば、それは死を迎えるのだろう。

 死が視覚に現れる様になったというのか……だとしたら何故?

 いや、わかっている。やはりあの「境界」にいたからだろう。

 

 そこまで考えて、ふと自らの手を見つめる。病室に隔離されていた私の体はびっくりするくらい色白で、だからそこに見える線がやけに不気味だった。

 しかし、線が見えるのならば、私は生きているのだろう。私は死んだ筈なのに、どうしてなのだろう。

 可能性は限りなく低いが、まさか「境界」を超えたのだろうか。ただ生きたいという私の意思が根源たる「空の境界」を超えたのか?

 

 

「はは……まるで、私が人間じゃないみたいだ」

 

 

 空を見上げながら、私はただ笑うしかなかった。

 いっそ、涙でも流して泣き喚けばいいのかもしれない。でも……死んだ後の恐怖に比べれば、生きていることがなんと素晴らしいことか。

 あの場所で、私は生きることを選択した。ならば、生きなくては。生きるためならば、この眼を使ってでも、私は生きる。

 生きるために、殺す。

 

 

「本当に……面倒ね………」

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

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