Infinite Stratos×For Answer 作:西方有敗
「…残るは私とお前だけだな。」
ここはアルテリア・カーパルス、
企業からの依頼を受諾しここの施設を占拠へと俺は来た。
無論、その依頼が罠である事は百も承知だ。
短い期間のみの相棒となったオールドキングは敵ネクストと刺し違えた。
そのお陰という訳ではないが、
残るネクストは
「どうやらそうみたいだな…セレン。」
俺にリンクスとしての腕と、心意気。
その全てを教えてくれた師だけだ。
「…こんな事になるとはな。」
通信から聞こえてくるのは、明らかな落胆だった。
その声に少し心が痛くなるが、そんな事はどうでもいい。
俺は自らの意思でこの道を進むと決めた。
「後悔してるのか?」
普段であればこんな無駄話はしない。
こんな事をすれば確実に怒られていたからだ。
「さあな…どの道これは私の罪だ。」
そう言いつつも武器を構える。
ここから先に、言葉なんか要らない。
「…覚悟しろ、奇跡的に共に生きていたら山ほど説教してやる。」
「ハハ、まさか貴女からそんな言葉が聞けるなんてな。」
奇跡的に。
この人が言った言葉は希望に縋る様な物だ。
だが、戦場においてそんなものはあり得ない。
何故か?
簡単な事だ。
オールドキングの言葉を借りる訳じゃないが。
…殺しているんだ、殺されもするさ。
セレンから視線を外さずに機体の状態を確認する。
残りAPは…既に4桁を下回っている。
武装は…射撃武器は全て弾切れ。
残るは両腕に装備しているMOONLIGHTのみ
この状況でこの人に勝つことは困難を極めるだろう。
だが、それでもやらなきゃいけない。
自らの使命のため、
オールドキングとの約束の為、
ここで立ち止まる事は…許されない。
「…行くぞ。」
セレンの言葉が合図となり、俺達は戦闘を開始した…
戦いは熾烈を極めた。
何としても懐に入り一撃を加えたい俺と、
そうはさせまいと徹底的に距離を取りつつも射撃戦を繰り広げるセレン。
俺としては残りAPが少ない為、
どんな些細な攻撃でも避けなければいけない。
PAがある為ある程度はゴリ押しで接近は出来るが、
それはセレンも分かっているし、
何よりも俺に戦い方を教えてくれたのはセレンだ。
こちらの機動は全て読まれている。
だが、この程度の困難を乗り越えずにして何がリンクスだ。
今までも何度も乗り越えてきた。
ここでだって…!!
「しまっ!!」
しかし、心はあっても機体が限界だ。
ここに来るまでにもかなり消耗している事も重なり、
一瞬だけ隙を晒してしまう。
熟練のリンクスであれば、
その一瞬がどれ程の致命的な物かと言うのは想像に難くない。
「貰った!!」
「ッ!!」
瞬間、俺の体が激しい衝撃に襲われる。
「残りAPは…チッ!!」
その数値を見て思わず舌打ちをしてしまう。
…いや、これはある意味幸運だ。
PAのお陰で即撃墜…というのは避けられた。
とはいえ此処から先は一手のミスも許されない。
どんな攻撃であれ、掠れば即終わり。
後が無い、絶体絶命。
頭にそんな言葉が過ぎるが、その思考を彼方へと追いやる。
元より雑念があったら絶対に勝てない相手だ。
死神の手が俺の肩に手を掛けているこの状況は俺に取ってはありがたい。
ここから勝つためにはどうすれば良いか即座にシミュレートする。
何時まで経っても回避するだけじゃ埒があかない。
「…失敗したな、これならさっきの状況で真っ直ぐに特攻すれば良かった。」
思わずそんな言葉が漏れる。
だが最早後の祭りだ。
今の状況で何とかするしかない。
「…一つだけ聞いて欲しい。」
両腕のMOONLIGHTを構え、再びセレンに通信を繋ぐ。
これから俺がやる行動を察したセレンはただ黙っていた。
「…貴女と共に過ごした日々、俺に取っては掛け替えの無い物だ。」
「…それをお前は捨てたんだよ、馬鹿者が。」
何も言われないかと思ったが、意外にも返事が来た。
俺が捨てた…か、違いない。
「…最早適わない事だけど、もう一度貴女と共に行きたかった。」
「ッ…」
セレンの息を呑む音が聞こえた。
これだけの損傷を受けて、俺の体が無事な訳が無かった。
足の感覚はほぼ無いし、両腕だってレバーを握れてるのが不思議なくらいだ。
視界なんか頭からの出血の所為で最早赤色しか見えない。
仮にこの戦いに勝ったとしても、直ぐに死ぬのは明白だった。
だが、それでもやらなきゃいけない。
俺の生きた証を残す為に。
「…さようなら、
「この…馬鹿者が!!」
その言葉を最後に通信が切れた。
ハハ、最後に聞く言葉が罵倒なんてな。
つくづく俺は幸せ者だ。
「オオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
覚悟を決め、セレンへと突撃を行う。
人ではなく、獣のように。
ただ敵となってしまった相手を粉砕するべく。
愚直に、真っ直ぐに…。
「…何故。」
意味が…分からなかった。
赤色に染まっている視界でセレンのネクストを見る。
そこには深くMOONLIGHTが刺さっている姿があった。
これは致命傷だ、絶対に助からない。
「何故だ…セレン…!!」
「…さあ…な…。」
ノイズ混じりの声が響く。
カメラが既に死んでいるのだろう。
セレンの姿が映る事はなかった。
「私…味が…らない。」
声の様子からして、本当に分からないようだった。
こちらは後一撃でも喰らったら終わり、
そんな圧倒的優位な状況だったのに、
セレンは俺の突撃に対し、反撃をしてこなかった。
それの意味が分からない。
「…だ……れだ……る。
…あ……ぞ…わ……最………ス。」
その言葉を最後に、通信は切れた。
それと同時に、セレンのネクストは完全に機能を停止した。
「馬鹿は…どっちだよ…!!」
セレンと袂を分かった時、俺は決して後悔しないと決めた。
涙を流さないと決めた。
それなのに…今俺の頬には涙を伝っていた。
「馬鹿野郎…馬鹿野郎…!!!」
ガクリと項垂れながら、何度も同じ言葉を叫ぶ。
本来であれば、勝利者はセレンだ。
俺はお情けで勝利を貰ったに過ぎない。
…セレンの命という欲しくなかった結果と共に。
「アアアアアアアアアアアアア!!!」
ただただ泣き叫ぶ。
「ア…。」
瞬間、攻撃を受けた。
それもマシンガンの様な小さい一撃じゃない。
特大のミサイルでもぶち込まれたような衝撃だった。
「…ご苦労だったな。」
センサーが全て死んだため目だけで相手の姿を見ると、
そこにはオールドキングと刺し違えた筈のネクストが居た。
「…マクシ…ミリアン…テル…ミドール…?」
「…種明かしは、いらないな?」
…ああ、そうか。
この男は千載一遇の機会を待ったのか。
オールドキングと刺し違え撃墜されるという、
プライドが高い筈のこの男がもっとも嫌うであろう演技をしてまでも…な。
…はっ、中々に狡猾じゃないか。
「…一つ…言わせろ…。」
「聞いておこう。」
テルミドールは最早動けない俺に悠々と照準を合わせながら俺の言葉を待っている。
「…クロー…ズ・プラ…ン、必ず…成功させ…ろ。」
「…言われずとも。」
その言葉を最後にテルミドールはありったけの攻撃を俺と、
既に事切れていたセレンに対して行った。
まるで、これが俺達に捧げる鎮魂歌だ…とでも言うように。
「(…もし、生まれ変わりとかがあるのなら。)」
レバーから手を離し、機体が完全に破壊される時を静かに待ちながら。
「(…今度は、セレンと共に…生きていきたい…な。)」
その事を願った。
…まあ、とはいえ無理な話か。
所詮、俺は大罪人だ。
そんな男が…人並みの幸福を願うなんて…な。
「…さよう…なら。」
その言葉を最後にストレイドを閃光が包み、
その場から俺達が生きたという痕跡全てが抹消された…。