ある転生者と勇者たちの記録   作:大公ボウ

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初の番外編です。

時系列、設定、その他諸々のいろんなものと齟齬が発生する場合があります。

頭をゆるーくして、力を抜いて気楽に読んで下さいませ(懇願)

あと、テーマがテーマなんで、ゴーヤでも齧りながらが良いかも(適当)

ではでは、始まり始まり~


番外編
バレンタイン狂想曲


勇者部は最後の戦いに打ち勝ち、世界は天の神の軛から解き放たれた。

 

世間はそれについて喧々諤々の大騒ぎが未だに続いているが、それはあくまで大人たちの世界での話である。

 

思春期真っ盛りの少年少女にとっては、そんな話よりも遥かに大事と言えるようなイベントが、刻一刻と近づいて来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という事で、この際バレンタインを利用して○○君に近づく雌猫を排除しようと思うんだよ~」

 

バレンタインを一週間後に控えた勇者部の部室。

 

いきなり過激な事を言いだした園子に、他の5人はそれぞれの言葉で同意した。

 

……あんな言葉に同意している面子に、去年まで小学生だった13歳の少女までいるというのがこの部の少女達の末恐ろしさを物語っている。

 

「園ちゃん、いい考えだねー! うん、やろうやろう!」

 

「なるほど……外国の祝祭ではあるけど、そういう感じに利用できるなら幸いね。流石だわ、そのっち」

 

「ほほう……○○から私たち以外の女を遠ざけるのね。うん、是非ともやりましょう!」

 

「先輩には、私たち以外の人は必要ないもんね、お姉ちゃん♪」

 

「へえ、いいじゃない。どのみち○○にはあげるつもりだったし、他の女も遠ざけられて一石二鳥ね」

 

想い人は同じで、自分たちは固い絆で結ばれている。

 

だからみんなで○○を幸せにして、私達も幸せになるんだと結論付け、その為なら何でもすると決意していた。

 

でも他の女はダメだ。

 

私達の世界には必要ない。

 

いまさら彼の良さに気付いたって、もう遅い。

 

むしろ、彼の良さは私達だけが知っていればいいんだ。

 

そうすれば、他の虫も寄って来ないし丁度いい。

 

そんな思考のもと6人は結束して、○○に自分たちを好いてもらうべく日夜努力を重ねていた。

 

なので、何処の馬の骨とも分からない女が彼に近づく可能性は、根絶しておくに限る。

 

そんな考えのもと、小説執筆が趣味の園子がシチュエーションを考案し、それぞれに提示していく。

 

渡された用紙に目を通していた少女たちの顔が、見る見る赤く染まっていく。

 

想像するだけで悶えてしまいそうなシチュエーションに、友奈は思わず園子へ抗弁してしまう。

 

「こ、これ……恥ずかしいよぉ~……。そ、園ちゃん……もうちょっと何とかならない?」

 

「う~ん……マイルドな案もあるにはあるけど……でもそうすると、彼に虫が寄り付いちゃうかもなぁ~」

 

自分と同年代の少女達を虫呼ばわりする園子だが、○○にそういう目的で近づく自分たち以外の女は須らく敵なので、全く意に介さない。

 

他の面子も全然それに言及しないどころか表情も変わらないので、虫という言葉について異論はないのだろう。

 

それよりも、○○に寄り付くという言葉に反応していた。

 

「覚悟を決めましょう、友奈ちゃん。女は愛嬌というけど、ここは度胸を胸に行動あるのみだわ」

 

「東郷さん……そうだね、勇気を出して行動あるのみ! 成せば大抵何とかなる!」

 

「その意気よ、友奈。それじゃあ、当日渡すチョコなんかも選定しないとね。聞くまでも無いと思うけど、みんな手作りを渡すんでしょ?」

 

「そりゃあねぇ……それしかあり得ないんじゃない? まあ、東郷と風にはかなりお世話になりそうだけど……」

 

「あはは……でも、みんなでわいわいやりながら作るのって、楽しそうじゃないですか?」

 

「うんうん、○○君が喜んでくれる、スペシャルでワンダホーなチョコを作らないとね~!」

 

そう言って、ワイワイと今後の予定を練っていく少女たち。

 

下校時刻ギリギリまで続いた話し合いを基に6人は準備を開始し、それからの一週間はあっという間に過ぎてくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあぁ~~、さっむ……!」

 

二月という一番冷え込むこの時期、○○は玄関から出たとたんに襲い掛かる冷気に首を縮めて震え、白い息を吐きながら玄関の鍵をかけた。

 

その後に取り出した手袋をして階段を下り、そのまま普段通り学校を目指して出発した。

 

道行く学生などは、男女問わず浮ついているように見え、何かあったかなと首を傾げつつ進んで行く。

 

そうして校門に差し掛かった時、見知った顔を見つけたのでいつもの様に挨拶をした。

 

「お早う、三好さ……夏凜。こんな所にいるなんて、誰か待ってるの?」

 

夏凜を名字で呼びそうになり、彼女に睨まれた為に慌てて名前で呼び直した○○。

 

勇者部の全員から、名前で呼ぶように妙に圧力のある笑顔で凄まれた日の事を彼は忘れていない。

 

園子の事はそれ以前から呼んでいた訳だが、何故自分たちは名前で呼んでくれないのかとみんな不満を持っていたらしかった。

 

それはさておき、○○の質問に対し夏凜は答えず、自分のカバンから綺麗な包装紙に包まれた箱を取り出した。

 

「はい、これ。あんたにあげる」

 

「…………? あ、今日ってバレンタインだっけ」

 

「気付いてなかったの? まったくあんたらしいというか何というか……ともかく、受け取って」

 

「あ、ありがとう」

 

周囲の視線を気にしつつ、夏凛からチョコの箱を受け取る○○。

 

ここは校門なので隠れる場所も無く、当然登校中の生徒たちの視線にさらされている。

 

中にはこちらを見つつヒソヒソと話している生徒もおり、一刻も早く立ち去りたい○○。

 

「それじゃ、行きましょうか」

 

そう言って○○の数歩先を歩く夏凜だったが、思い出したかのように彼の方を向くと、少し顔を赤くしつつ照れたような表情でこう言った。

 

「それ、義理じゃないから」

 

そう言ってまた歩き出す夏凜。

 

そんなに大きな声ではなかったが、それでもチョコを渡すシーンで注目を集めた矢先のセリフである。

 

再び一瞬にして周囲の視線を集めた夏凜は、何食わぬ顔で下駄箱を目指し歩いて行く。

 

○○も、何時か美森が言っていたように、周りはカボチャ、周りはカボチャと心の中で唱えつつ、意図的に視線を無視してその後に続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあぁ~~~~~~……」

 

教室に着いた○○は、先程の視線から解放されて脱力したように溜め息を吐いた。

 

その視線の原因を作った夏凜は、何食わぬ顔で自分の席に着き、カバンから取り出した今日の授業の教科書を机の中に入れている。

 

それを恨めしそうな表情で見ていた○○だが、しかし人生で初めて家族親戚以外から貰ったチョコを内心嬉しく思っていた。

 

いままで縁のなかったそれを大事にカバンに納め、夏凜と同じように教科書類を机の中に入れ始めた。

 

そして、朝のショートホームルームまであと10分を切った時、友奈と美森がやって来た。

 

こんなギリギリに二人が来るなんて珍しいと思いつつ、傍にやって来た二人に挨拶をする○○。

 

「お早う、二人とも。こんな遅いなんて珍しいけど、何かあった?」

 

「お早う、○○君。ううん、なんにも無いよ。心配してくれてありがと」

 

「友奈ちゃんの言う通り、何もないわ。……それじゃ友奈ちゃん、頑張って」

 

何も問題ないと二人は請け負うが、美森が友奈に小声で何事かを呟き、友奈もそれを受けて美森に向けて頷いている。

 

やっぱり何かあったんじゃないかと首を傾げていた○○は、友奈の次の言葉でその思考を強制的に終了させられた。

 

「あのっ、○○君! これ受け取って!」

 

そう言って、カバンから取り出したラッピングされた箱を○○に差し出す友奈。

 

本日二度目となる出来事だが、まさかクラスメイトの大半が居る教室でこんなことをするとは予想もしていなかった○○は、呆気に取られて友奈の顔をまじまじと見た。

 

友奈はサクランボの様に頬を赤く染め、しかし真剣な表情で見つめてくる。

 

思わず目線だけで周りを窺うと、ついさっきまでざわついていた教室が水を打ったようにシンと静まり返り、全員が固唾を呑んで友奈と○○を見ている。

 

「き、キミの為に作った手作りだから……だから!」

 

しかし友奈は、そんな周りの様子など眼中に無いといった感じでさらに箱を○○へと突き出す。

 

「あ、ありがとう……」

 

「えへへ……こちらこそ、受け取ってくれてありがとう!」

 

そんな彼女の様子に押されて○○が受け取ると、静まり返っていた教室にクラスの女子の黄色い悲鳴が響き渡り、途端に騒がしくなる。

 

一気にお祭り騒ぎの様な有り様になる教室だったが、幸いというべきかショートホームルーム開始を知らせる鐘と共に先生が入って来て、騒ぎを静める。

 

それを受けて生徒たちは大人しく席に座るが、それでも先程の光景が目に焼き付いているのか、どことなく浮ついた空気はなかなか晴れないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝の二件の出来事で集めたくも無い注目を集めた○○は、昼休み開始と共に机に突っ伏して息を吐いていた。

 

夏凜のほうはまだいい。

 

注目をされた事はされたが、遠巻きにされていたのでまだマシだろう。

 

問題は友奈の、クラスメイトの目の前でやった告白紛いの手渡しである。

 

クラスの人気者の友奈がそんな事をすれば、今日がバレンタインと言っても暫らく噂になる事は間違いない。

 

それを考えて憂鬱になった○○だが、受け取った時の彼女の笑顔を考えたら、それもどうでもよくなってきて、まあなる様になるさと考えていた。

 

「○○君、ちょっといいかしら」

 

「ん……? 東郷さ……美森……何か用事?」

 

そんな事を考えつつ机に突っ伏していた○○だったが、美森に声をかけられて顔を上げて尋ねた。

 

そして、差し出された物を視界に入れた途端、口の端がひくひくと引き攣った。

 

「これ、受け取って欲しいのだけど……良いかしら?」

 

「ああ、うん……ありがとう」

 

美森の様な中学生離れした美人から、バレンタインにチョコを貰えば思春期男子なら多少なりとも舞い上がろうというものだが、朝の出来事で少なからず疲弊し、なおかつ二回目の人生の○○は少し嬉しそうにするだけで、そのまま手を伸ばして箱を受け取ろうとした。

 

「あれ? ……えぇ、どうしたの?」

 

「ふふふ……それはね、こういう事」

 

箱を受け取ろうとした○○は、いきなり手を引っ込めた美森の行動に首を傾げるが、それに対し彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべ、箱を開けると中のチョコを取り出した。

 

「はい、あーん」

 

たいして大きくも無いその言葉が教室に響き渡ると、朝と同じようにまたもや室内が静まり返った。

 

そんな様子をまるで気にせず、美森は優し気な笑みを浮かべてその指でチョコを摘まみ、○○の口元に差し出してくる。

 

○○の背筋に冷や汗が流れる。

 

友奈も大概だったが、美森はその比ではない。

 

しかも、友奈と違って照れている様子すら無く、全く平然としている。

 

かつて彼女が言ったように、周りはカボチャとでも思っているのだろうか。その精神力が何とも羨ましくなった○○である。

 

覚悟を決めて、差し出されたチョコを口で直接受け取る。

 

その際、美森のほっそりとした指が自分の唇に当たってしまい、一瞬で顔が真っ赤になってしまうような感覚に襲われる○○。

 

彼女の顔がまるで見れないまま、差し出されるままにチョコを頬張り続けた○○は、前世で酒を飲んで酔った時はこんな感じだったなぁと、ぼーっとしながら考えていた。

 

「味はどうだったかしら?」

 

「ああ、うん……最高に甘くて美味しかった……と、思う」

 

正直、後半は味なんて殆んど分からなかったが、馬鹿正直に申告するものでは無い事くらい○○も弁えていた。

 

「うん、それなら良かったわ。食べてくれてありがとう♪」

 

そう言って美森は満面の笑みを浮かべると、しずしずとした足取りで教室を出ていった。

 

最初から最後までまるで平然としていたので、その精神力を少し分けて欲しいと、疲弊した頭で考える○○。

 

結局、教室にはとても居られないと判断した○○は外に出たのだが、自分が出た途端に騒がしくなった教室に思い切り溜め息を吐き、適当に歩き出したのだった。

 

本来なら昼食を取るべきだが、さっきの出来事で胸もお腹も一杯になってしまった○○は、どこでもいいから静かな所に行きたかった。

 

と、そこでスマホの会話アプリに連絡が入り、思わず立ち止まる○○。

 

内容を確認すると連絡してきたのは風で、至急私の教室に来るように、となっていた。

 

今日これまでの経過から、何となく用事を察した○○は思わず天を仰いだが、無視するわけにもいかない。

 

仕方ないと覚悟を決め、むしろこちらから攻め込んでやると逆に開き直った。

 

そう思うと気分も軽くなり、元気が出て来るから不思議である。

 

「おっ、早かったわねー○○。感心感心」

 

自分の教室のすぐ前の廊下で待っていた風は、○○を見るなり駆け寄って来て、後ろ手に隠していた箱を彼の前に差し出した。

 

「今日の為にあたしが丹精込めて作った、特製チョコ! しっかり味わって食べなさいよー?」

 

年上らしい、少し余裕を含んだ言い方で○○に箱を渡してくる風。

 

「うわ、すごい! ありがとうございます、風さん!」

 

段々と視線に対し耐性が着いてきた○○は、少々オーバーに感激して見せた。

 

「えっ? ……ああ、うん。喜んでもらえてあたしも嬉しいかな」

 

○○がこんなにオーバーに喜ぶとは思っていなかったのだろう、少し戸惑いながら言葉を返す風。

 

その隙に、何か言われる前に○○は箱を開けてチョコを頬張ると、今度はいつも風の料理を食べる時のリアクションで褒める。

 

「うん、いつも食べてるヤツと一緒で美味いですね。風さん、食べ物なら大概上手ですし、要らない心配でしたかね」

 

「あ、ありがとう……」

 

○○がいつも食べてると言ったところで周りがざわついたが、美森の精神力を見習った○○はもう気にするのを止めていた。

 

逆に風が周りの事を気にし出す有り様に、奇襲成功とばかりに愉快な気持ちになっていた○○であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休みも終わって午後の授業に入り、あと一限で今日は終わりかー、と○○が一息ついていた小休止中。

 

唐突に教室の扉が開かれ何事かと皆が注目する中、その張本人である樹は普段は控えめなその声を精一杯張って、真剣な顔で呼びかけた。

 

「あのっ、○○先輩に渡したいものがあって来ました! 今、良いですか?」

 

友奈と美森、そして夏凜の視線が○○の方を向いている。

 

行ってきなさいというサインだろう、そう受け取った○○は樹のほうへ手を振りながら、彼女の待つ廊下へと出ていった。

 

「あの、急にごめんなさい。でも……でも放課後まで待っていられなくて……出来るだけ早く渡したくって……」

 

樹の言葉が教室まで聞こえていたのだろう、今日何回目か忘れたが、また教室が騒がしくなる。

 

○○は差し出された箱を受け取り、今ここで食べていいかと聞いてみる。

 

「は、はい、勿論です! どうぞ……!」

 

そう言われた事が予想外だったのか、ガチガチに緊張している樹。

 

自分の手作りチョコを食べる○○を、固唾を呑んで見守る彼女。

 

「うん、美味しい。という事で……はい、あーん」

 

「えっ……ええええええぇっ!?」

 

余りにも唐突に食べさせようとしてきた○○に、樹の心は混乱の渦に叩き込まれた。

 

○○としては、風の時と同じようにやられっぱなしは悔しいという感情から出た行動だったが、微妙に自爆しているとも言える。

 

どうしようどうしようと彼方此方に視線を彷徨わせていると、友奈と美森、夏凜と目が合い、握りこぶしでいけいけと自分を煽っているのが見えた。

 

それを見て覚悟を決めた樹は、○○が差し出したチョコを直接口で受け取った。

 

ただ、勢いよく行き過ぎたせいか彼の指先まで口の中に入ってしまい、爆発するんじゃないかと言う位に顔が熱くなってしまう樹。

 

美味しいかと○○に訊かれた樹は、熱でぼんやりした思考回路で何とか答えた。

 

「お……おいひいれふぅ……」

 

実際、頭が痺れてフワフワするくらいの衝撃を受けたのは確かだった。

 

尤も、それは自作のチョコへの感想ではないのであるが。……また舐めたいと思ってしまった樹は、必死で自分に自制を促す。

 

まだ口の中に指先の感触があるような感覚に捕らわれてしまい、暫く茹だった頭のままになってしまう樹であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、今日の経過から何かあるに違いないと予想していた○○は、園子から連絡が来た時に、うわー俺って予言の才能あるかもーあはははは……はぁ~、と乾いた笑いを浮かべた。

 

既に諦めの境地にいた○○は、園子から指定された、校舎と体育館を繋ぐ渡り廊下へと足を運んだ。

 

「おお~来てくれたんだね。ふふ、嬉しいなぁ~」

 

「よく言うよ、園子。来ないなんてカケラも思ってなかったんだろうに」

 

「まあそれはほら、乙女の様式美ってことで~……ね?」

 

そう言って片目をつぶって悪戯っぽい笑みを浮かべる園子。

 

そんな芝居がかった仕草も様になっており、やっぱ美男美女ってのは得だよなと○○は思って苦笑した。

 

そんな事を○○が考えていると、例によって例のごとく、園子は○○へ綺麗に包装された箱を差し出す。

 

「ハッピーバレンタイン! ――――あなたの事を想って作りました、受け取って下さい」

 

笑顔から一転、切なさを含んだ真剣な表情でそう言ってくる園子に、思わず息を呑む○○。

 

その雰囲気に呑まれ、言われるまま受け取った○○に対して、園子は間髪入れずに抱き着いた。

 

余りに唐突な出来事に、○○は全く反応できずに思考が停止し、身体の動きも固まる。

 

園子が抱き着いていたのは十秒足らずだったが、時間の感覚が麻痺した○○はそれこそ永遠の様に感じていた。

 

それからそっと○○の身体を離した園子は、うっすらと頬を染めながら幸せに満ちた笑顔で彼へと呼びかけた。

 

「それじゃあ、また部室でね。……受け取ってくれて、とっても嬉しかったよ」

 

その言葉に我に返った○○は、貰った包みと、去っていく園子の背中を交互に見比べ、爆発しそうなほどの鼓動を刻む心臓を何とか落ち着けようと胸を擦る。

 

だが、そうしていると今日一日の出来事がフラッシュバックしてしまい、余計にドツボに嵌ってしまって頭を抱える○○であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっだいま~、ミッションコンプリート! いやー、緊張したなぁ~」

 

「園ちゃん、おかえりー! それで、上手くいった?」

 

「ふっふっふー、愚問だぜぃゆーゆ、そこは抜かり無いよ~。……ちゃんと見せつける事も出来たしね~?」

 

「その辺りは私も確認しているわ、そのっち。尻尾を巻いて逃げ出したのをこの目で見たもの」

 

「よーしよし! これで今回の作戦は達成されたわね。みんな、お疲れー!」

 

「うん、ちゃんと上手くできてよかったなぁ……えへ、えへへへへ……」

 

「樹ぃ……あんた、いい加減思い出してにやけるの止めなさいっての……嬉しかったのは分かるけどさ」

 

それぞれの言葉で作戦終了を祝う勇者部の少女達。

 

事前に、○○へ好意を抱いている生徒の情報を掴んでいた園子は、仲間たちにその事を報告し、それを排除するべく今回の見せつけるような渡し方を計画した。

 

どうせ自分たちが○○に渡すことは確定していたし、それならそれを更に有効に使おうという、乙女心と女の強かさが強力にミックスされた、中学生が行なうとは思えないような計画。

 

偶然を装いつつも、○○へ好意を抱いているらしい生徒を自分たちが彼へチョコを渡す現場へと誘導し、目撃させる。

 

それにより、穏便に○○を諦めさせつつ、私達の囲みを突破しないと○○には近づけませんよと強烈に牽制する。

 

その試みは成功し、○○へチョコを渡そうとしていたらしい生徒は自信を喪失して逃げ出した。

 

めでたしめでたしである。

 

「どーも、□□ ○○、ただいま勇者部へと帰還しましたー」

 

そうこうしている内に、○○も部室へとやって来て、いつもの楽しい部活の時間が始まる。

 

○○へと笑いかける少女たちは、想い人への愛しさと、掛け替えの無い友達と過ごす幸せな時間の大切さを噛み締めつつ、決意を新たにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この幸せな時間を壊すことは、例え誰だとしても許さない、と――――――

 




口の中あっま! あっま!!

……しかし、バレンタインってこういうモノでしたっけ?(震え声)

おーこわ、とづまりしとこ(MMR姉貴が証明したように、勇者に対しては無意味です)



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