ある転生者と勇者たちの記録   作:大公ボウ

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いよいよ最後の一人、東郷さんの話です!

……が、あまりにも長くなりすぎたので、切りの良い所で分割しました。

申し訳ないっす!

それと、今回は割と独自設定、独自展開が多くて、んん? と首を傾げる事もあるでしう。

それを承知の上で、読んでもらえればと思います。

ではでは、どうぞ!


朝顔とカランコエの章(前編)

文化祭で行なった演劇も好評に終わり一安心となり、再び平穏な日々を過ごしている俺たち勇者部。

 

秋もすっかり深まり、夜になれば少し寒さを感じるまでになってきた、そういう時期。

 

俺は薄手のジャンパーを着こんで、完全に日も落ちた町へと買い物へ出かけていた。

 

帰ってから気付いたのだが、トイレットペーパーが現在セットされている分しかなく、その量も本当に心もとなくなっていた。

 

帰りに買ってくるのを忘れた自分の不注意を嘆いたが、放っておいて困るのは自分なのだ。

 

補導されても面倒なので私服に着替えてジャンパーを着こんでから出かけ、無事目当ての物を買うことが出来た俺は、まっすぐ帰路に着いていたのだが……

 

「今日は本当についてないな……まさか、家の鍵を落とすなんて……」

 

買ってきた荷物を片手にぶら下げつつ、今まで通ってきた道を注意深く確認していく。

 

もう完全に日も落ちているため、スマホの明かりを頼りに目を凝らして鍵を探す。

 

すると、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「お困りの様ですね?」

 

「えっ……て、君は」

 

「!? ……わ、私の名前は国防仮面、憂国の戦士です!」

 

軍人然とした衣装を身に纏った人物が、キリリとした表情――仮面をしてるから断言できないが――で、声をかけてきた。

 

そして何故か、俺を見て一瞬動揺したような様子を見せる……国防仮面? さん。

 

(……って、国防仮面? 何かどっかで聞いたような……?)

 

その名前に引っ掛かりを覚えていた俺だが、彼女――胸の膨らみから明らかに女の子だと分かる――は、咳ばらいをすると凛々しい声音で俺に話しかけてきた。

 

「ゴホンッ……何やらお困りのご様子。宜しければ私が手をお貸ししますよ」

 

「ああ……家の鍵を落としてしまって。それで今まで来た道を探してたんですけど」

 

「成程、そういう事でしたか。分かりました、お手伝いしましょう」

 

「えっ、良いんですか?」

 

「勿論です。こういう事は人手がある方が良いに決まっているのですから。では、私は道の左側を見ていくので、○○……コホン、貴方は右側を見ていって下さい」

 

そういう事になり、道の両サイドを二人で確認していく俺たち。

 

チラリと彼女を窺うと、本当に真剣に探してくれていて、悪ふざけでこんな事をやっているわけではないと分かった。

 

そしてすぐに、どこで国防仮面という言葉を見たのか思い出した。

 

以前、園子とやっていた文通でそんな名称が出てきたのだ。

 

彼女たちが作ったオリジナルのキャラクターだと手紙にはあったが、まさかこんな本格的な衣装まで存在していたとは想像もしていなかった。

 

そして、この少女の声は明らかに園子ではない。

 

となると、考えられる事は――。

 

暫らくすると、国防仮面さんが無事鍵を発見してくれて一安心となった。

 

「はい、どうぞ。これからは失くさない様に気を付けて下さいね?」

 

「どうも、手伝ってくれてありがとうございます、国防仮面さん」

 

「いえいえ、私は困っている人のもとに、出来るだけ現れるのが信条なので。礼には及びません」

 

「あはは、そうなんですか。……ところで、訊きたいことがあるんですけど、良いでしょうか」

 

「はて、何でしょう?」

 

「……どうしてそんな衣装でこんなことやってるの、東郷さん?」

 

そう言うと、国防仮面さんの肩がぴくりと震えた。

 

そして、にこやかな笑みを浮かべていると分かるような声音で俺に言ってくる。

 

「東郷……? はて、その方は私にそんなに似ているのですか? 兎も角、私は憂国の戦士、国防仮面です。東郷という名前には心あたりが無いですね」

 

いけしゃあしゃあとそんな事をのたまう、国防仮面……の格好をした東郷さん。

 

憂国の戦士がバレバレの嘘を吐いていいのかよと思わずジト目になるが、それを一瞬で消して平静に言葉を続けた。

 

「成るほど、そうなんですか……。いや、ごめんなさい、俺の勘違いだったみたいです。あんまり声が似ていたからつい」

 

「ふふふ、分かって頂けたようで何よりです」

 

俺の言葉に安心したのか、国防仮面……もう東郷さんでいいか。東郷さんは安心したように肩の力を抜いた。

 

「いやー済みません。ついでと言っては何ですけど、一つ相談したい事がありまして……聞いて貰えませんか?」

 

「ふむ……ここで会ったのも何かの縁です。伺いましょう」

 

ここで俺は、ハッタリをかます事にした。

 

これを聞けば、たとえ嘘でも東郷さんは黙っていられまい……効き過ぎないか心配ではあるが。

 

「じつは、部活仲間の結城さんという女の子から告白されまして――」

 

「何ですってぇ?!」

 

これまでの偽装は何だったのかという態度で俺に迫ってくる東郷さん。

 

顔の上半分が仮面で隠れているにも関わらず、目じりがつり上がり明らかに険しい顔になっている事が窺える。

 

勢いよく詰め寄ってきた東郷さんは俺の肩をがしっと掴み、がくがくと揺さぶってきた。

 

「どういうことなの○○君! 本当に友奈ちゃんが貴方に告白を!? 確かに友奈ちゃんが貴方をそういう目で見ている事は知っていたけど! でも、一体いつ!? 二人きりになる機会でもあったの!? まだ友奈ちゃんには早いわ! ああ、何て事なの……!」

 

俺の肩を掴んだままブルブルと震え、がっくりと肩を落としてしまう東郷さん。

 

先程までの、凛々しい正義の味方然とした姿を完全にかなぐり捨て、すっかりいつもの東郷さんと分かる様子になってしまっている。

 

やっぱり効き過ぎたと反省した俺は、すぐさま種明かしをすることにした。

 

「あー……今の冗談だからね、東郷さん?」

 

「え……冗談? 友奈ちゃんが貴方に告白したのが?」

 

もう東郷さんとこちらが言っても否定もしない。そんなに衝撃を受けたか。

 

……やばいな、この手の冗談は今回限りにしておこう。

 

そんな事を思いつつ、東郷さんの言葉を肯定すると、彼女はあからさまにホッとしたように息を吐いた。

 

「はあ……よかった。……いえ、○○君に不満は無いのよ? 現状なら貴方が一番友奈ちゃんに相応しいとは思うけど……でもやっぱりまだ早いと思うの!」

 

(子離れ出来ない母親か!)

 

彼女のコメントにそんな感想を抱きつつ、吐きそうになった溜め息を無理やり呑み込んで話を進める事にした。

 

「さて……もうこれ以上しらばっくれないよね、結城さんの事が大好きな東郷さん?」

 

「うぅ……はい……」

 

ついに観念した彼女は帽子と仮面を取り、素顔を晒した。

 

「それで、なんだってそんな格好でこんな事をやってるの?」

 

俺が質問をすると、東郷さんは視線を伏せつつポツポツと話し出した。

 

「体が元気になったら、居ても立ってもいられなくて……」

 

俺が無言で頷いて見せると、東郷さんも話しやすくなったのか、こちらの目を見て話始めた。

 

「私は一時の感情で壁を壊し、世界を危機に晒して……それって、とても許されないことで……」

 

そこで彼女は言葉を切ると、また俯いて言葉を続ける。

 

「どうやって償えばいいのか……悩んで悩んで……それで、こんな事を……」

 

「成るほど……それでヒーローみたいに匿名で善行を積んで、罪を雪ごうとした、と」

 

「ええ……簡単に許される事じゃ無いけど……でも、何もせずに安穏となんてしていられなくて……」

 

そこで言葉を切ると、東郷さんは俺の方を悲しそうな視線で見つめてきた。

 

「○○君も……今はいいけど、首から下が動かなくなって、記憶まで失って……以前のそのっちみたいになったらどうしようって……本当にごめんなさい……」

 

「いや、まあその……気にするなって言っても無駄かもしれないけど、でも俺は何とも思ってないから。……で、まだ国防仮面での人助けを続けるの?」

 

「ええ、出来る限り続けたいと思っているわ。……それが今の私にできる、唯一の事だと思うから」

 

揺れる眼差しでそう言う東郷さん。

 

……大分思いつめているみたいで、正直放っておけない。

 

『悩んだら相談!』を実行している部員っているのかと思わざるを得ないが、そんな彼女たちだからこそ俺も支えたいと思っているので、もとから相性は悪くなかったのかな。

 

そんな事を考えつつ、俺は東郷さんに申し出た。

 

「よし、なら俺はその手伝いをしようかな。二人なら、一人よりたくさんの事が出来るだろうし」

 

俺の言葉にきょとんとした様子を見せていた東郷さんだったが、内容を頭が理解したのだろう、目を見開いて反対してきた。

 

「なっ……駄目よ○○君! 貴方に迷惑は掛けられないし、私が原因なんだから償いは一人でやらないと……!」

 

「でもさ……俺、東郷さんの事、正直これ以上放って置けない」

 

「え……?」

 

「あんなに苦しんでたのに一人で抱え込んで、そしてあんな事になるまで誰にも相談しなくて……真面目で、考え過ぎで、でもみんなの事を一生懸命想って……そして今もまた、自分がしたことに苦しんでる」

 

そこまで真面目な調子で言っていた俺はそこで言葉を切ると、あえて軽い感じで続けた。

 

「だから、俺は東郷さんの……いや、国防仮面さんの手伝いをすることに決めた! ほら、ヒーローの手助けをする一般人って、何かいいじゃん?」

 

そう言ってにこりと笑うと、ぽかんとしていた東郷さんはクスクスと笑いながら自分の目を拭った。

 

「ふふふふっ……全く、道化の真似が上手いんだから。……でも、そんな○○君だから、友奈ちゃんも貴方の事が好きになったのかしらね」

 

「んん、最後に何か言ったの、東郷さん?」

 

「何でもないわ、○○君。……それじゃあ、お手伝いを頼んでもいいかしら?」

 

「オーケー、任せて!」

 

「頼りにしてるわよ、自称一般人の助っ人さん?」

 

「自称ってひっどいなぁ!?」

 

さっきからクスクス笑いっぱなしの東郷さん。

 

……やっぱり、思いつめている表情よりも笑顔の方が断然いい。

 

そんな事を思いながら、もう暗いからと俺は彼女を家まで送っていき、その日は別れたのだった。

 

それからは、東郷さんと俺の二人でちょっとした人助けから、結構大きな人助けまで色んな事をやった。

 

俺と同じような落し物探しから始まり、重いものを持っている人の手助け、泣いている迷子の子どもの保護者を探したり。

 

一番正義のヒーローっぽいものだと、ひったくり犯を捕まえて盗られた物を取り返した事だったか。

 

ちなみに、あくまで表に立っていたのは東郷さんで俺は裏方でのサポートに徹していた。

 

手助けするとは言ったが、余り俺が出しゃばったら東郷さんの償いたいという想いを踏みにじる事になる。

 

それよりも、彼女が一人になって思いつめない様にガス抜きをしてあげるのが俺の主な役割だと自覚していた。

 

……思春期の女の子には重すぎる命題を背負っていたからだろうけど、この娘たちはため込むのが癖になっているような気がする。

 

鈍感だったり諦観していたりするならそれでも良かったんだろうけど、勇者部の面子はそういう割り切り方が出来るほど器用でもない。

 

ともかく、俺と東郷さんは二人三脚で国防仮面の活動を続けていたのだが……やはりと言うべきか、暫く経ったある日、勇者部の皆にバレた。

 

まあ、あんな特徴的な衣装を着て人助けをやっていたのだから、それも無理の無い事なのだが……。

 

ただ、犬吠埼先輩に見つかって部室に連れていかれた時、結城さんが最後の最後まで国防仮面の正体に気付いていなかったのには微笑ましい思いをさせられたが。

 

そんなこんなで国防仮面の活動は終わりを迎えたのだが……それからしばらく後。

 

――――東郷さんは世界から痕跡を残さず消え去り、俺たちも全くそれに気付かなかった。

 

そこからの展開は早かった。

 

結城さんと園子が真っ先に気付き、部の他の面子に話をして、どうしてこんな事になったのか話し合いつつ、重要な手がかりを握っていると思われる大赦には園子がかけ合う。

 

その結果として、どうやら東郷さんは『壁』の外にいる可能性が高いと予想をつけた。

 

園子が大赦から『話をつけて』持ってきたという勇者アプリの入ったスマホを手に、全員が外の世界との境界線を目指して進み、外の世界へと出たところでマップに反応を示す東郷さんを見つけた。

 

外は相変わらず終末世界だが、そのなかでも一際異様なナニカが存在して、そこに東郷さんが居たらしい。

 

その道中は久しぶりに死ぬかと思ったし、ブラックホールモドキの内部へ突入した結城さんを待っている間も何度も死にかねない目にあったが、結城さんは無事に東郷さんを救出して戻り、俺たちも何とか無事に脱出する事に成功した。

 

助け出してしばらくは東郷さんも意識を失っていたが、そんなに間を置かずに意識を取り戻し、勇者部は偽りの日常から抜け出し、本当に大切なものを取り戻したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――最近、似たような夢をよく見る。

 

『勇者としてのお役目……しっかりと果たすんだぞ?』

 

『うん、もちろん! ちゃんとやるからそんな心配しないでってば~』

 

『ふふ、余りはしゃいでは駄目よ? しっかり真面目にね?』

 

壮年の男性と女性の間で、中学生くらいと思われる女の子が明るい笑顔を見せている。

 

何処にでもある、ごく普通の幸せな家族の肖像。

 

――――年端もいかない少女達と、その少女達と繋がりが深い人々の夢を見る。

 

『うああああああぁっ……! 何で、どうしてあの娘が……! ううっ、ああぁ……っ』

 

『あの娘は……立派に戦い、仲間を守り……神樹様のもとに旅立ったんだ……私達が見送ってあげなければ、あの娘は安心して逝けないだろう……?』

 

泣き崩れる女性を励ます男性の目にも涙が浮かび、今にも零れ落ちそうになっている。

 

場面は次々に切り替わっていく。

 

『怖い……けど、もとの世界で暮らしてるみんなが傷つくのは……死ぬのは、もっと嫌だ』

 

『私達があいつらを追い返せば、全部がハッピーエンドで終わるもんね』

 

『じゃあ、いっちょ行きますか!』

 

恐怖を押し殺し、自分の大切なものを守る為にバーテックスに立ち向かっていく少女たち。

 

『また勇者様が亡くなられた……これで何人目だ?』

 

『さて、両手両足の指で足りないのは確実だよ。……くそっ!』

 

『頭を冷やせ……彼女たちの犠牲を無駄にしないためにも、我々は勇者システムの改良を少しでも進めなければ。散っていった方々に報いる方法は、それしか無いのだから……』

 

『ああ、そうだな……カッとなってすまん』

 

『気にするな、人として当然の反応だ』

 

どこかの奥深く……神樹様に極めて近いと思われる場所で話し合う、技術者、そして神官と思われる人々。

 

『……あの娘、いつ帰ってくるんだろうね』

 

『……もう帰って来ないよ、二度と』

 

『面白くない冗談言わないでよ。……いつか、きっと――』

 

『いい加減に受け入れなよ! あの娘は死んだんだ! この世界を……私達の幸せを守りたいって、そう言って! もう二度と……帰って……来ないんだよ……っ!』

 

『…………っ。分かってるよ……私達が、幸せに生きる事……それがあの娘の願いだって。

でも……でもさ……その幸せの中には……あの娘も含まれてたんだって……気付いて……欲しかったなぁ……う、グスッ……うあああああぁっ……」

 

散っていった少女たちの通っていた学校……そこに通う、親友だった子どもたち。

 

『出来る事なら、代わってあげたかった……! こんな重い役目を、どうしてこんな子どもが……!』

 

『それが出来たら、とっくにそうしている……。我々大人は神々の……神樹様の恩恵は受けられても、その御力に触れる事は許されないのだから……』

 

少女たちの屍の上に成り立つ世界は、しかしその悲しすぎる事実は隠蔽されている。

 

声をあげる人々もいたが、世界を守るため、何より今まで犠牲にしてきた少女たちの想いに報いるためという大義の前には、沈黙せざるを得なかった。

 

『何で……どうして姉ちゃんが死ななきゃいけなかったんだよぉ……っ!』

 

告別式と思われる会場で、小学生にもならないと思われる男の子が泣きながら叫んでいる。

 

『神様だっていうなら……どうして……何で姉ちゃんを守ってくれなかったんだ……!』

 

まだ叫ぼうとした少年だったが、周囲の大人たちに強引に会場の外へ連れ出されていった。

 

大人たちも一様に痛ましい表情をしており、男の子の先程の叫びに思う所があるのだろう。

 

そんな男の子を悲痛な表情で見ていた、壇上に立っている二人の少女。

 

記憶にある顔つきと比べて幼いが……あれは――――

 

そこで、俺は目が覚めた。

 

まだまだ外も真っ暗で、時計を見ると三時ほどだ。

 

しばらく布団に入ったままぼーっと天井を眺めていたが、喉がカラカラになっている事に気付いて起きだし、キッチンで水を少し飲むと息を吐いた。

 

俺がどうしてこの世界に生まれたのか――――夢のおかげで、少し分かった気がした。

 

詳しい経緯までは分からないが、俺には何故か確信があったから。

 

その後、再び寝床に入った俺は、また誰だか分からない娘たちが出て来る夢を見た。

 

海を臨み、複数人の少女達が強い眼差しで決意をしている光景。

 

いつか、きっと、必ず――――そんな言葉と共に。

 

そんな、色々な人々の想いがのせられた夢を見た翌日……今日は日曜日だが、午後から勇者部の活動があるから、二度寝をするとひどい目に遭う。

 

よって早々に起きて、テレビを見つつゆっくりしていた時、誰かが来訪した。

 

こんな時間から誰だろうと思って玄関カメラを確認すると、思いがけない来訪者に息を呑んだ。

 

すぐに玄関まで行って扉を開ける。

 

「お早うございます。……それで、大赦の方が俺みたいな小僧にそんな畏まってどうしたんです?」

 

少し皮肉っぽい口調になってしまったが、仮面で顔の隠された大赦の人は九十度近く下げていた頭をあげると、冷静な口調で俺に告げた。

 

「神樹様の神託が下ったのです。――二つに一つ、貴方に選べと」

 

「……詳しく聞く必要がありそうですね。中へどうぞ」

 

家の中へ大赦の人を通した俺はリビングへと案内し、飲み物を用意してから話を聞き始めた。

 

まず、この世界の現状を改めて説明され、そしてこの先の未来予想図を聞かされた。

 

眉間にしわが寄るのは避けられないような内容の未来だったが、俺が黙って聞いていると、次にそれを避けるために神樹様から下ったという二つの神託の内容を説明してきた。

 

一つ目の内容を聞かされたが……思わず怒鳴りそうになったのを何とか自制しなければならなかった。

 

ギリギリ無言で大人しく聞けていたが、表情が険しくなるのは避けられなかったと思う。

 

そんな結末は勇者部のみんなも、そして彼女たちも望んでいないと俺は確信していたから。

 

…………――――――?

 

(今、俺はだれのことを思っていた……?)

 

自分の考えに疑問を抱いたが、大赦の人は続けて二つ目の内容の説明を始めた。

 

荒唐無稽さという意味では一つ目と大差ないが、それを言えば転生し、挙句勇者となって天の神の差し向けた化け物と戦っている時点で今さらである。

 

「分かりました、二つ目の神託を受け入れます」

 

迷う様なそぶりも見せずに受け入れたからだろうか、大赦の人から微かに驚いているような雰囲気が伝わってくる。

 

「宜しいのですか? 時間ならば、まだ少し猶予が御座いますが」

 

「一つ目はあり得ません。それならこちらを選ぶ……いや、こちらしか提案が無くても即決しました」

 

「成程……神樹様が何故あなたを選ばれたのか、お信じになったのか……少しだけ分かった気がします」

 

俺は少しだけ笑みを浮かべると、礼を言うように頭を下げた。

 

その後、大赦の人はまた明日伺いますと言って、俺の家を後にした。

 

その後は昼からいつもの様に勇者部の活動に参加したのだが……どことなく結城さんの様子がぎこちない。

 

何かに戸惑っているような、違和感を抱いているような、そんな様子だ。

 

そして、そんな結城さんの様子に東郷さんも首を傾げているような感じである。

 

大赦の人が言っていた通りなら、一刻の猶予も無いのは確実で、すぐさま行動しなければならない。

 

ただ、そんな深刻な事を考えているようなそぶりは欠片も見せず、俺は部の活動に邁進したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、俺は大赦の人々に伴われ、神域――つまり神樹様の祀ってある場所へと出向き、巫女様から直接神託を受けた。

 

内容は昨日聞いた事とほぼ同じだが、神樹様に直接仕える人が直に俺に伝える事に意味があるのだという。

 

大赦がこの事を重要視しているのは間違いないだろうが……その辺りは今考える必要はない。

 

儀式が終わると、また移動を開始する。

 

車に乗り、神域から遠くへ、遠くへ――――。

 

やがて、普通の人には見えないモノがかすかに見えてくる距離になってきた。

 

外と内を隔てる、神樹様の『壁』。

 

俺はそれを、静かに見つめていた――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、勇者部の日常は何事も無く平穏に、小さな幸せを伴いながら過ぎていった。

 

誰かが怪我をするという事も無く、樹の出場するクリスマス合同合唱祭を見に行き、その夜には彼女の入賞を祝って姉妹の家でお祝いを行なった。

 

○○がお祝いにと持ち込んだノンアルコールシャンパンを飲んだのだが、姉妹は雰囲気に酔ったのか普段とまるで違う性格に変貌してしまい、ベタベタと○○に甘えて彼を困惑させ、他の部員は苦笑いをしつつそれを見守っていた。

 

なお、最近勇者部の記録を写真や動画にして熱心に残している美森に後日、その時の動画や写真を見せられ、姉妹揃って茹ダコの様になってしまっていた。

 

その後も元旦にみんなで集まり、冬休みが終わって三学期に入っても変わらない日常を過ごしていく。

 

勇者部の活動で、子猫探しや地域のボランティア活動への参加などを行い、取り分け急ぎの要件が無い日の放課後なんかは、カラオケなどで寄り道する。

 

そんな、何処にでもある小さな幸せを満喫する……当たり前の日常。

 

十二月の上旬はおかしな様子を見せていた友奈もすっかりいつもの調子に戻り、それの事を気にしていた美森もほっと息を吐いたのだった。

 

そして美森はある夜、今まで取ってきた写真や動画データの整理を自室で行なっていた。

 

「うーん……やっぱり十二月の頭くらいの友奈ちゃんは物憂げな表情をしている事が多いけど……でも半ば過ぎからはすっかり元通りね。何か悩みでもあったのかしら?」

 

首を傾げる美森だが、今現在の友奈はいつもの晴れ晴れとした表情を浮かべており、特に問題は見られない。

 

悩みが解決しないままなら表情も曇ったままだろうと結論付けた美森は、一先ずそれを棚上げして、データの整理を続ける事にした。

 

勇者部の活動、そして放課後に寄り道をした時などに撮った日常の風景に微かな笑みを浮かべながら作業を続けていた彼女だったが、おかしな事に気付いて困惑の表情を浮かべた。

 

「○○君が写っている写真……一枚も無い……?」

 

そんな馬鹿なと思い、もう一度全ての写真を確認する美森。

 

だが、見間違いなどではなく○○が写っている写真はどこにも存在しなかった。

 

不吉なものを感じた美森は、今度は動画データを確認するが……そこには、さらにおかしなものが記録されていた。

 

動画なのだから、みんなの色々な会話が映像として記録されている……が、時折何もない空間に喋りかけたり、誰も話しかけていないはずなのに宙に向かって返事をしているという、異常極まる光景が記録されていたのである。

 

ゾッとした美森は、自身が奉火祭で天の神に捧げられた後にも同じような出来事があったと聞いていたので、居ても立ってもいられず○○に電話をかけた。

 

しかし、数コールの後にあっさりと電話は繋がり、いつも聞いている○○の声が聞こえてきた。

 

『はい、○○です。どうしたの、東郷さん? 何か用事?』

 

「え、ええと……」

 

悪い予感から衝動的に電話をかけた美森は、繋がった後の事など全く考えていなかったので、盛大に口ごもってしまった。

 

とはいえ、このまま無言でいる訳にも、ましてや電話を切るわけにもいかない。

 

やけくそになった美森は、聞きようによっては明らかにまずい事を口走ってしまった。

 

「よ、用事が無いと電話したら駄目なのかしら?」

 

『…………えっ?』

 

○○の困惑した声が耳に届いた時、美森も自分の言った事がいかに危ういモノかに気付いた。

 

(わ、私ったらなんて事を……! こんな……こ、恋人同士で言う様な台詞を……!)

 

「い、いえ、ごめんなさい○○君。……そう、用事は……あ、貴方の声を聞きたくなって……」

 

『……………………はぁ?』

 

訝しんでいるとしか表現しようの無い○○の声。

 

更に言い訳の仕様も無い台詞を口走ってしまった美森は、直前の心配事など頭から吹き飛んでしまい、必死に言い訳を開始した。

 

「ご、ごめんなさい、○○君。ええと、あの……何だか突然あなたの安否が心配になって……おかしな事を言ってしまったけど、他意は無いのよ? そこは勘違いしないでね!?」

 

『……ともかく落ち着いて、東郷さん。それで、俺の安否だっけ? 無事も無事、今は自分の部屋でゲームやってる所でーす』

 

「そ、そう……」

 

完全にリラックスしたような声音で話す○○の声を聞いて、美森も気持ちが静まってきた。

 

「ごめんなさい、突然おかしな電話をしてしまって……」

 

『あはは、別に気にしてないからさ。それじゃ、また明日ね』

 

「ええ、お休みなさい」

 

そういって電話を切った美森は、気分を落ち着ける様に椅子の背もたれに身体を預け、大きく息を吐いた。

 

それから、また写真や動画を確認したのだが……やはり○○が映っているものは一つも無い。

 

「こうなったら、直接その場で確かめるしかないわね……」

 

美森は、険しい表情を浮かべて不自然な空白のある写真を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後、勇者部がいつも通り集まり、いつも通りに活動する中、いつも通りに記録をビデオで撮っていく美森だったが……。

 

「――――――――――――っ」

 

やはり○○は、映らなかった。

 

画像にも、動画にも……。

 

ある程度覚悟していたとはいえ、今確かに目の前にいる○○の姿が映らないという事態に、美森は絶句して固まってしまった。

 

「……? 東郷さんどうしたの、カメラ覗いたまま固まっちゃって? …………え、何、これ……」

 

美森の尋常でない様子に気付いた友奈が同じようにカメラのモニターを覗くが、美森と同じように困惑してしまう。

 

「んん? なーに二人して固まってんのよ? どれどれ、私にも見せ……て……え、これ……どういう事……?」

 

「どうしたの、お姉ちゃん? …………ひっ。○○、先輩……何で……?」

 

「何よ、三人とも。おかしなものでも映ったっていうの? ……え、○○は……? どうして……?」

 

「どうしたのみんな、オバケでも見たような顔だよ~? …………えっ?」

 

友奈に釣られてぞろぞろとモニターを確認に来た勇者部の面々も、何も映さないモニターを食い入るように見つめ、絶句した。

 

○○の周囲の物は確かに正常に映っているのに、○○だけが映っていない。

 

固い表情をした美森は、同じく固い声で○○へと問いかけた。

 

「○○君……いえ……あなたは一体誰なんですか?」

 

「誰って……○○だけど、それ以外の何かに見える?」

 

美森の質問に困惑した表情で答える○○だったが、美森は無言で手元のモニターを○○の方へと回転させ、いま映っている映像が彼に見えるようにした。

 

そのモニターを見て暫らく呆然としていた○○だったが、やってしまったという表情をして溜め息を吐いた。

 

「はあ……ばれたか。でも、一ヶ月半くらいならまあ……いや、もっといけると思ったけど、ビデオは盲点だった……油断したなぁ」

 

一人で納得している○○に、美森はいきり立ったようにして再度問いかけた。

 

「答えて! あなたは誰で、○○君はどこにいるの!?」

 

他の勇者部の面々も険しい表情で○○を見つめ、美森の言葉に同意する。

 

しかし、○○はそれには答えずに残念そうな表情をすると、彼女たちに謝罪した。

 

「ゴメン、みんな。……照魔鏡も、もう帰っておいで」

 

その言葉と共に○○の姿がぼやけ、彼の精霊である照魔鏡の姿が現れる。

 

しかし、その照魔鏡も彼女たちにぺこりと謝罪するように体を傾けると、霞の様に消え失せてしまった。

 

突然の事態に呆気にとられる彼女たちだが、いち早く気を取り直した風が全員に呼びかけた。

 

「と、とにかく、○○を探さないと! 何か、手掛かりは!?」

 

「電話は……ダメです、通じません! どうしよう、東郷さん!?」

 

「落ち着いて、友奈ちゃん。私の時と同じように考えましょう」

 

「東郷の時……? あっ、マップがあるじゃない!」

 

「そ、そうですよ夏凛さん、急いで確認しないと!」

 

「……みんな、悪い知らせみたいだよ」

 

いち早く勇者アプリのマップを見ていた園子が、他の面々にそれを見せた。

 

しかし……その何処にも、○○の名前は表示されていない。

 

「ウソ……じゃあ○○は、壁の外にいるっていうの?」

 

信じられないような口調で呟く風に、園子も険しい表情で頷く。

 

「なら、また私たちも壁の外に……!」

 

「待ってゆーゆ。こんな事を○○君が自分だけの意思で行なうなんて考えられない。だとすると……」

 

「まーた大赦が絡んでるって訳ね……」

 

夏凜が納得したように頷くと、風と樹が憤りを抑えきれないような表情で呟く。

 

「私達に隠れて、大赦は○○に何かさせてるって事……? それも、壁の外で……!」

 

「どうして……何で○○先輩が……?」

 

何とか気持ちを落ち着けた美森も、この状況を打開すべく提案する。

 

「○○君が何を考えているのか分からないけど……それを知るためにも、ここは彼の家と、この事を知っていたと思われる大赦を調べるべきです」

 

「そうね……東郷の言う通りだわ。行き当たりばったりで行動しても、どうにもならないでしょうし」

 

「なら、私が大赦に行ってくるから、みんなは○○君の家に行くという事で、手分けしよう」

 

大赦へ一番顔が利く園子が志願し、他のメンバーは○○の家を調べる。

 

そう決まった勇者部はすぐさま走り出し、目的の場所へと急ぐ。

 

○○の家へと向かう途中、花屋の前を横切った美森たちだったが、何故か美森だけがある花に視線を引き寄せられて足を止めてしまった。

 

「東郷さーん、早くー!」

 

「東郷ー、行くわよー!」

 

「あ、済みません、今行きまーす!」

 

立ち止まった美森は友奈と風の呼びかけに我に返り、再び走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女が見ていた花の名前は、カランコエ。

 

○○の勇者刻印になっている花。

 

その花言葉は四つ。

 

一つ目は『おおらかな心』

 

二つ目は『幸福を告げる』

 

三つ目は『たくさんの小さな思い出』

 

そして、最後の一つは――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――『あなたを守る』

 




うん、言いたい事は色々あると思います。

平穏無事に過ごしてる友奈の事とか、怪我をしない風とか、○○はどこ行ったのとか。

その答えは後編にありますので……どうかお待ちください!

……期待通りかは分かりませんけど(乾いた笑い)

……また独自設定が増えるなぁ、タグ追加しとかないと(溜め息)

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