ある転生者と勇者たちの記録   作:大公ボウ

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このシリーズ、前回の投稿は一年以上前かぁ……

……………………(汗)

うん、気にしない気にしない! 私は未来に生きるのだ!(強弁)


私の全てはあなたのもの

「ううぅ……さむっ」

 

外出の準備を整えて家を出た○○は、日中にも関わらず冷え込んだ空気に思わず顔を顰めてぶるりと震えた。

 

指先を口元に持って行って温めつつ、約束をした場所へと足早に向かう。

 

季節は進んで、十二月下旬の冬の日。

 

讃州中学も冬休みに入っており、○○達勇者部の面子も当然ながら、その休みを満喫していた。

 

……もっとも、現勇者部は名誉部員である風と部長の樹を除き、全員が中学三年生であり、受験生である。

 

今日の様に、冬休みに入ったからと言って遊び回っているような暇など無いと言ってもいいのだが……そこは、秋から始まったこの日を見据えた勉強会という名のシゴキが幾度となく行われ、月頭の模試で全員がA判定を取るという結果を叩き出し、それぞれの保護者を安心させていた。

 

……約一名、シゴキの度に嘆きの声を上げていた天真爛漫な少女がいたが、A判定を取れなければ、今日という特別な日を勝ち取るための話し合いにすら参加できなくなると知っていた為、死に物狂いで励んでいた。

 

そんなこんなで今日という日を迎え、○○は約束していた場所へとたどり着いた。

 

駅の一角にある、待ち合わせ場所としてよく使われているシンボル。

 

そこに着いた○○は壁に背を預けると、スマホ等を弄る事もせず、そわそわしていると見られない程度に周囲に目を配り始めた。

 

とは言っても、約束の時間まではまだ結構な時間があるので、無駄になるのだろうな……と、○○がそんな事を考えていた――――のであるが。

 

「お~またせ~!」

 

「うえっ、ちょっ!?」

 

きょろきょろと周囲に気を配っていた○○の隙を突き、彼が聞きなれたのんびりした声が聞こえ、それと同時に片腕へと抱き着かれた。

 

完全な不意打ちに、思わず戸惑いの声を上げる○○。

 

抱き着かれた方へと彼が顔を向けると、亜麻色に近い、よく手入れされた艶めいた髪が目に入り、続いて視線を下に向けると寒さのせいか、少し赤らんだ頬をした少女――乃木園子が、柔らかな笑みを浮かべていた。

 

「早かったね、園子。まだ三十分以上あるのに」

 

抱き着かれた照れを隠しながら○○がそう言うと、園子はその笑みをニヤリとしたものに変えつつ、からかう様な口調で言った。

 

「え~、○○君がそれ言っちゃうの~? 私よりも早く来てたキミが~? ――ふふ、そんなに楽しみだったの?」

 

そう言って上目遣いで○○を見上げた園子は、こう言えば彼が顔を赤くしてあたふたするだろうと思っていた。

 

自分が抱き着いてもさして慌てず、努めて平静に返されてしまった為、ほんのちょっとした仕返しのつもりだったのだ。

 

実際、○○は口ごもってしばらく視線を彷徨わせた――が、そこからの彼の反応は、園子の予想からは少し外れたものだった。

 

「……うん……凄く、楽しみだった」

 

「……え?」

 

予想と違う反応に、思わずポカンとした表情で声を漏らす園子。

 

「一緒に過ごそうって誘われて、園子に楽しんで貰えるかなとかちょっとした不安もあったけどさ……俺は俺に出来る精一杯で、園子に喜んでもらえる様に色々考えてきたから! って、何か出だしから空回ってる感があるけど……」

 

いきなり捲し立てたのを反省する様に苦笑すると、○○はそのままの表情で園子を見詰めた。

 

「ええと、つまり……俺は園子と一緒に、今日という日を一生の思い出に残る一日にしたいな……って、思ってる」

 

「……っ!」

 

裏なんて何も感じられない、こちらへの想いが真っ直ぐに込められたその言葉に、園子は先程までの○○の様に口ごもって視線を彷徨わせると、彼の胸元へと真っ赤になった自分の顔を押し付けた。

 

「あ、あれ、園子? えっと……何か、気に障ったかな?」

 

「ううん……○○君は、何も悪くないよ~? でも、ちょっと……色んなものが溢れそうで……」

 

「??? ……大丈夫?」

 

心配そうに自分を覗き込む○○を上目遣いに見遣った園子は、自分はもう二度と彼から離れられない事を改めて自覚した。

 

「○○君……好き……」

 

「えっ……!?」

 

俯けていた顔を上げた時に、そんな言葉が自然と口から零れ落ちる程に。

 

しかしここは二人きりの空間では無く、駅の真ん前という極めて人の往来が激しい場所である。

 

いきなりドラマ顔負けのラブシーンを演じ始めた中学生の少年少女が、注目を集めずにいられる訳も無く、通りがかる人や、二人と同じく待ち合わせでこの場にいた人たちの視線を一気に集める羽目になっていた。

 

このままでは晒し者になってしまうと判断した○○は、未だに潤んだ瞳で自分を見つめて来る園子の手を引いて、速やかにこの場を離れるのだった。

 

離れていく自分と園子に向けてかは知らないが、何故か景気の良い口笛が吹かれたり、拍手が沸き起こったりしたが、きっと自分達に向けてなどではないはずだ……と、○○は自分自身に言い聞かせる。

 

取りあえず、早めの昼食でも摂って仕切り直そう、と考えた○○の少し前を、サンタクロースの格好をした何処かの店の店員が宣伝をしつつ通り過ぎていく。

 

今日は十二月二十四日――クリスマス・イヴである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開始早々のハプニングはあったものの、あれから小洒落た雰囲気の喫茶店で軽めの昼食を取り、再び繁華街に繰り出した頃には園子の脳内にかかっていた桃色なあれこれは何とか払しょくできた様だった。

 

「――っていう訳だから、あんまり人前でああいう事はしない様に」

 

「うん、分かったよ~」

 

「いや全然分かって無いでしょ!?」

 

「えへ♪」

 

二人で並んで歩く……いや、園子が○○にべったりとくっ付くようにして腕を組み、あまつさえ頬すら擦りつけている有り様に思わず○○が突っ込むが、余りにもキラキラ輝いている彼女の笑顔に、早々に何とかしようという考えも失せてしまった。

 

「だって、私と○○君は恋人同士でしょ~? 腕を組んで歩く事くらい、別に当たり前だよ~」

 

「……そういうもの……なのかな?」

 

「そうそう♪」

 

そうして結局は園子の言葉に押し切られ、特に何かない限りは○○の片腕に彼女が抱き着いているのが自然みたいな感じになり、結果的に一日中それが続く事になったのだった。

 

「まあ、それはさて置き。それでは今日一日、楽しんで貰えるようにエスコートさせて頂きます、お姫様」

 

「うむ、苦しゅうないぞよ~」

 

堅苦しい言葉遣いで格好を付けて見たものの、互いの顔を見合わせて数秒後、プッと吹き出して途端に空気が弛緩する。

 

「あっはは、やっぱり俺にはこんな言葉は似合わないなぁ。それじゃあ改めまして……行こうか、園子?」

 

「うん! レッツ・エンジョ~イ・聖夜ラ~イフ!!」

 

「何か、テンションおかしくないかな……?」

 

普段のぽけぽけした空気での発言と似通った、何とも言い難いおかしなテンションで園子が歩き出すと、それに微かに首を傾げつつも○○は彼女へと付いて行くのだった。

 

それからは、順調にクリスマスデートが行なわれていった。

 

○○が事前にリサーチしていた園子が興味を持ちそうな店に行ったり、小腹が空いてきた時には人気の菓子店に出向いてお菓子を頬張ったり。

 

園子はその全てで喜んでくれて、○○も彼女が笑顔を見せてくれる度に心が浮き立つ様な、何とも幸せな気持ちになっていた。

 

いつまでもそんな気分を味わっていたいと、その想いは二人とも抱いていたが、彼らは中学生でもあるので、余り夜遅くまで出歩くわけにはいかない。

 

こんな楽しい日の最後の最後で補導されるなんて事態になれば、全てがぶち壊しである。

 

だから、二人は本当に名残惜しみつつも日が落ちる前には電車に乗り、自宅最寄りの駅へと帰っていた。

 

なお、電車に乗っている時も二人は変わらず腕を組んでいたが、既に○○も一日の中で慣れきってしまっていて、周囲から好奇の視線で見られても平然としたものだった。

 

その後、電車を降りて、園子を一人暮らしをしているマンションへと送って行く最中、彼女が腕組みでは無く他の事をしたいと言い出した。

 

「手を繋ぎたいの?」

 

「うん……ダメ、かな~?」

 

○○の方を窺う様な、どこか不安げな眼差し。

 

「いいや。はい」

 

「あ……うん!」

 

差し出された○○の手に自分のそれを重ね、きゅっと握り合う。

 

不安な表情は何処へ行ったのか、たちまちご機嫌になる園子に苦笑しつつ、○○は彼女の思惑に乗ってその指を搦め合った。

 

「恋人繋ぎだ~、えへへぇ~♪」

 

下手をすれば、街中で遊んでいた時よりもご機嫌になる園子。

 

笑っているというよりも、笑み崩れていると言った方が的確であるような、そんな表情。

 

「ご機嫌だねー、園子」

 

「うん、そうだよ~。今日一日、ず~っと私のことを気にかけてくれた、私の大切な人と一緒だったから~」

 

そんな冗談めかした言葉とは裏腹の、ひた向きな想いの込められた視線。

 

実際、その視線を真正面から受け止めた○○は顔を赤くして目線を彷徨わせたが、完全に照れて俯くと、それでも園子の想いに応えようと今までより強く、繋がれた手を握った。

 

園子もそんな彼の反応に一層笑みを零し、しかしそれ以上言葉にはせずに二人してふわふわした雰囲気を纏ったまま、園子の部屋に着くまで、たまに視線を交しつつも一言も話さずにいたのだった。

 

「それじゃあ、今日はここでお別れだね。また――」

 

「ねえ、○○君」

 

別れを告げようとした○○の言葉を遮る様に、園子が言葉を紡ぐ。

 

「せっかくここまで来たんだし、ちょっとだけ上がっていってよ~」

 

何時ものぽやぽやした口調……だというのに、いつもとはどこか違う様に聞こえるその声に、○○は思わず頷いてしまっていた。

 

園子の部屋へとお邪魔した○○は、そのまま彼女に連れられてリビングのソファに並んで腰を下ろした。

 

何度か上がった事がある園子の部屋であったが、今日は一日デートをしていた所為もあるのか、何処となく落ち着かない気分にさせられている○○。

 

何とかこの微妙な空気を打開しようと、○○は今日の事で気になっていた事を彼女へと尋ねる事にした。

 

「あのさ、園子。今日の事で少し気になっていた事があるんだけど……訊いてもいいかな」

 

「うん、いいよ~。何でも訊いて~?」

 

「ええと……今日はクリスマス・イヴで、俺も君に何かプレゼントしようかと思ってたんだけど、出先で色々勧めても、全部要らないって断ったよね? 俺としては、今からでも何かプレゼントしたいなって思ってるんだけど……?」

 

「ああ、その事~? ふふ、気にしてくれてありがとう~。でも大丈夫だよ、欲しいものはもう決まってるから~」

 

「え、そうなの? それなら遠慮なく言ってくれれば良かったのに」

 

拍子抜けした様に○○が言うと、園子はくすっと……いつもとは少し違う笑みを見せた。

 

「うん、そうなんだ~。でもね、それはお金では買えないもので……○○君の協力が絶対に必要なんだよ~」

 

「ふんふん……それで、園子が欲しいものっていうのは?」

 

○○が園子に促すと、彼女はにこりと笑みを零し、短く、端的に言った。

 

「赤ちゃん」

 

「…………え?」

 

「○○君の、赤ちゃんが欲しい」

 

園子の言葉を聞いて、完全に固まってしまった○○を誰が責められるだろうか。

 

そんな○○の様子をどう思ったのか、彼の隣に座っていた園子は彼の膝の上に乗ろうとし、そこで○○も我に返って彼女を止めようとする。

 

「待て待て待て待て園子! え、ちょっと何……色々こんがらがってるんだけど……!」

 

膝の上に乗ろうとした園子を何とか押し止め、混乱しきった表情で頭を抱える○○。

 

困り果てた様子の○○を見て、流石に園子も悪いと思ったのか、種明かしをする事にした。

 

「あの~……ごめん! 赤ちゃんが欲しいっていうのは冗談だよ~?」

 

「え、あ…………ああ! うん、まあそうだよね! 冗談に決まってるよねー!」

 

「うん、そう、冗談だよ~。キミの赤ちゃんが欲しいのは本当だけど、まだまだ先の話だし~」

 

「ははははは……あ~、冗談ね、冗談かぁ……」

 

「あはは~、うん、そうなんだ~。少なくとも当分は~」

 

「はは……」

 

不自然に笑いを途切れさせた○○を、誰が責められるだろうか、いや責められない(反語)。

 

余りにも際どい会話の内容に冷や汗が止まらなかった○○だったが、そんな彼に園子は本命の事柄を持ち出した。

 

「それで、本当に○○君にしてほしい事だけど~」

 

「あぁ……そう言えばそんな話をしてたね……。うん、本当は?」

 

若干遠い目をした○○だったが、気持ちを切り替えると園子に問い直す。

 

それを聞いた園子は、隣に座っている○○の方を見上げる様に向くと、心持ち口元を彼へと近づけ、自らの瞳を閉じた。

 

目の前の少女のその姿は、勘違いで無ければ自分たちの関係の進展を望んでいて、尚且つ出遅れている事への不安の裏返しだろうか。

 

○○はこれまで勇者部の中の三人と口付けたが、やはりその後の彼女たちの雰囲気は変わったのだ。

 

言葉だけではなく、実際の行いで気持ちを証明されたからだろう――明らかに魅力的になり、二人きりの時は○○が息を呑むような表情をする事が増えた。

 

そういう事をしたと彼女たちが他の面子に吹聴したとは思わないが、女子はこの手の雰囲気には概して敏感である。

 

それが日頃から仲良くしている人間同士なら、尚更だろう。

 

兎も角、園子はそれらの事情を直接は聞かずとも察した。

 

そして、置いていかれたくないと思い、今回の事にかこつけて行動を起こした、という訳である。

 

改めて○○が園子を見ると、注意深く見なければ分からないが、その肩が微妙に震えていた。

 

思えば、かなり待たせてしまったのかもしれないと○○は思い至り、自分の情けなさを痛感した。

 

これ以上待たせるのは男ではないと感じた○○は、その手をスッと園子の肩へと掛けた。

 

それによって肩の震えが止まる中、彼は園子の唇に自分のそれを重ねた。

 

重ね合わされた事で、まるで自分たちが一つに溶け合っていくような感覚に、園子は打ち震えた。

 

言いようの無い幸福感に包まれた園子は、○○がゆっくりと唇を離すと同時に瞳を開き、そしてこれ以上は離さないとばかりに彼を引き留めた。

 

「園子?」

 

少し困った様な声で○○が声をかけて来るが、想いの歯止めが外れてしまった園子は、ぽつぽつと言葉を零していく。

 

「ずっと……ずっと前から、こうなりたかった……」

 

ぽろりと、○○だけを移している瞳から涙が零れ落ちる。

 

「ミノさんが死んじゃって、わっしーも記憶を失って、私は祀られちゃって……あのままだったら、いつか心が死んじゃってたかも知れない……」

 

一度零れた涙は止まらず、後から後から零れ落ちていく。

 

「でも……あの時、キミがくれた色んなものがあったから、私は今も……ちゃんと笑えてて……だから……っ」

 

感極まり、しゃくり上げる様になりながらも、過去から紡いできた想いを吐露していく。

 

「ずっと……ずっとキミの事を想ってた……あの日、学校で初めて会う前から……ずっと、ずっと……」

 

そんな、園子の独白にも似た何かを、○○は静かに受け止める。

 

「実際に会ってからは、自分でも驚いちゃう位に想いが募っていっちゃって……ますますキミの事が好きに……ううん、そんな言葉じゃ言い表せない位になっちゃって……っ」

 

止め処なく零れ落ちる涙を○○が拭うと、園子は泣き顔で、しかし幸せそうにくしゃりと微笑んだ。

 

「もう……そういう所、本当に大好き……本当に、愛してる……っ」

 

そう言い終えるや否や、今度は園子から○○に向けて口付ける。

 

唇で彼のそれを甘噛みし、舌で擽るように撫でる。

 

次に離れた時には、銀の糸がつぅっと二人の間に掛かり、やがて途切れた。

 

未だに園子の熱は冷める様子を見せないが、○○の方も覚悟を決めていた。

 

彼女の想いの丈を全て受け止め、これからも一緒に歩んでゆくために。

 

結局、○○はこの日、自宅へと帰る事は無かった。

 

一晩かけて、溜まりに溜まった園子の想いを○○は受け止め――

 

園子は、箍が外れた様にして想いを零してしまった自分の事が恥ずかしくてならなかったが、それを○○が完全に受け止めてしまった事で、感極まってまた泣いてしまった。

 

一頻り○○の胸の中で泣いた園子は、泣き顔では無い晴れやかな笑顔で○○に軽く口付けると、謳うような軽やかさで、しかし海よりも深い愛情を込めて、彼に告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の全部はキミのものだよ~。――だからこれからもずっと、例え生まれ変わっても、ずっとキミを、キミだけを愛し続けます」

 

他の誰でもない、自分よりも大切な人に誓って――。




終盤が予定よりもクッソ重くなって草も生えない。

何だコレ、どうしてこうなった!?(自業自得)

おっかしいなぁ……予定では一から十までダダ甘になるはずだったのに……

まあ、うん……ヤベー奴を一人、達成したから喜ぼう!
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