何というか……皆さん、ギスギスした話が読みたいんですかね?
という訳で、そんな感じの話を書きました。
初めてのわゆ時代の話を書きましたが、気に入って頂ければ幸いです!
ではでは、始まり始まり~
バーテックスに蹂躙された世界において、未だに人が人らしく生きていることが出来る四国。
その四国にて人類を守る要となっている、勇者と呼ばれる少年少女が暮らしている丸亀城。
男女別に分かれている寮――といっても、男子は一人しかいないのだが――その男子寮の一室にて、○○は目覚まし時計の音で目を覚ました。
うるさく耳を刺激するベルの音を止めて布団から抜け出し、顔を洗うと身形を整えていく。
今日は若葉と、そしてほぼいつも彼女と一緒にいるひなたに早朝の鍛錬に誘われている。
約束の時間までそう無いため、急いで運動着を着て部屋を飛び出し、約束の場所まで走っていく。
指定の場所の丸亀城の庭には既に若葉とひなたがいるのが見えたので、○○は急いでいた足を更に速めた。
「ごめん、待たせたみたいで」
「いや、約束の時間まであと十分ある。私達が早く来過ぎただけだから、気にしないでくれ」
「そうですよ、○○君。遅刻ではありませんから、お気になさらず」
そう言って、走ってきた○○を迎える若葉とひなた。
「ふふ、それにしても、さっきの若葉ちゃんのセリフ……」
「何だ、ひなた。別に普通の台詞で、おかしな事は何もないだろう?」
くすくすと面白そうに微笑むひなたを、訝しそうな表情で見やる若葉。
「いえ、聞きようによっては、デートの待ち合わせの台詞みたいだな~、と思いまして」
「なっ……ななな何を言っているんだひなた! そ、そんな、で、デートなどと……!」
「あら、若葉ちゃんは○○君とのデートは嫌ですか?」
からかう様なひなたの台詞に真っ赤になり、わたわたと日頃の凛々しさを何処かに置き忘れたように慌てる若葉。
「い、嫌なはずは無いが、い、いきなりそんな事を言われても○○が困るだろう!? それに今は鍛錬の時間で、そんな浮ついた事を考えるべき時ではない!」
言っている事は大変立派だが、顔を赤くして照れるようにチラチラと○○を見ながら言っても、説得力はまるで無い。
○○もひなたもそんな若葉を微笑ましそうに見ていたが、若葉は空気を切り替えるように咳ばらいをしたため、これ以上からかうのはひなたも止めて、大人しく二人の鍛錬を見守る事にした。
「ゴホン! ……では○○、今日もよろしくな」
「了解、若葉。こちらこそ宜しく」
そうして始まった鍛錬は丸亀城の周囲を走るところから始まり、互いの獲物を用いての戦闘術の確認、どの様な連携をすれば最も効率的かの話し合いなど、実に有意義に進んだ。
それらがつつがなく終わった後は、ひなたが作ってきた軽い朝食を三人で頂く。
おにぎりを各人数個ずつ、そしてランチボックスで保温されていた味噌汁を食べながら、鍛錬の疲れを癒す。
「やっぱり凄いな、若葉の居合は。これで十四歳だっていうんだから、最終的にどこまで行くのやら」
「私など、まだまだだ。それより○○の補助や防御の能力の方が、戦闘全体を見た時に有意義だろう。みんなを守り、生かす……○○らしい、優しい力だ」
「そうですよ、○○君。若葉ちゃんの言う通りです、もっと自信を持って下さい」
「あはは、二人ともありがとう」
そうやって三人で笑い合いながらくつろいでいると、○○の視界の端に千景がこちらに近づいて来るのが映った。
「ん……? あれ、ちーちゃん。どうしたの、こんな所に来て」
「……やっぱりここに居た、○○。約束、覚えてるかしら……?」
「うん、もちろん。あと二十分後だったよね?」
「覚えてるならいいけど……でも、ちょうどいいし、もう行きましょう?」
いきなりやって来て、自分たちに分からない話を○○とする千景に、若葉とひなたは困惑した。
「ええと、千景さん。どういう事か伺ってもいいですか……?」
「そうだぞ、千景。いきなりやって来て、どういう事なんだ?」
あえて視界の外に置いていた二人が訊いてきたので、仕方なさそうに千景は答えた。
「簡単な話よ。○○と私は、これから一緒に遊ぶ約束をしているの。そして、もうすぐ時間だから迎えに来た……という訳」
「……そうなのか、○○?」
「うん、そうだよ若葉。もうすぐちーちゃんとの約束の時間だったから、そろそろ行こうと思ってたんだ。ごめんね、ちーちゃん。手間かけさせて」
「別にいい……一人でゲームするよりも、○○と一緒にやった方が面白いもの」
「ちーちゃん桁外れに上手いからなぁ……ちゃんと着いて行けてるか心配だよ」
○○が苦笑して言うと、千景は滅多に見せないような笑顔で○○に笑いかけた。
「謙遜しないでいい……○○も十分な腕前をしてるから。だから、今日も私を助けてほしいな……?」
「りょーかいです、ちーちゃん。それじゃあ、そろそろ行こうかな」
話に着いて行けずに口を挟めない若葉とひなたは、ベンチから立ち上がった○○を引き留める手立てがない。
残念な気持ちになりながら二人がそれを見ていると、若葉とひなたの方をチラリと見た千景が、○○には分からない角度でクスッと笑った……いや、嗤った。
○○は読書とゲームを趣味としているが、○○は千景の突っ込んだゲームの話題にも難なく着いて来られるほどで、いわば彼の趣味の相方としての立場を千景は確立している。
そういう立場から、話に着いて来れない若葉とひなたを憐れんだ……いや、煽っているとしか思えないような笑顔で自分たちを見た千景に、若葉とひなたの表情が歪みそうになる。
が、急に冷えてきた空気を察した○○が、すかさず口を挟んで若葉とひなたをフォローした。
「若葉、鍛錬楽しかったよ。またやろうね。ひなたは朝ごはん、ご馳走様でした。おにぎりも味噌汁も、凄く美味しかった」
「ん、ああ。それなら良かった。また一緒にやろう――絶対な」
「そういってもらえて嬉しいです、○○君。次やる時も絶対に作ってきますね」
無表情気味になっていた若葉とひなたに笑顔が戻ったことにホッとした○○だが、そうすると今度は千景が面白くない。
○○の手を取ると、引っ張ってこの場を離れようとする。
「行きましょう、○○。もう準備は整ってるから……」
「あ、ちょっ、そんな引っ張らないでって、ちーちゃん! 若葉、ひなた、ゴメンけどまたね!」
その言葉を最後に、○○は千景に引っ張られてこの場から去って行ってしまった。
後に残されたのは、訓練用の木刀をあらん限りの力で握り締める若葉と、そんな若葉を宥めつつも、もう片方の手を軋みかねない強さで握り締めるひなたの二人だけだった。
「それじゃあ、ここでやろうか」
○○と千景は休憩スペースに携帯ゲーム機とそのソフト数本、そして充電器まで持ち出して来ていた。長時間プレイ前提の用意である。
「まあ、ココでもいいけど……私の部屋か、○○の部屋で良かったんじゃないの?」
「それは駄目。俺たちに疚しい事なんて何もないけど、そういうのが外に漏れたら騒ぎ立てる馬鹿はどこにでもいるから。面白おかしく言い立てて、挙句全員に飛び火して中傷されるなんて事になったら、もうどうしようも無いからね。……という事で、疑われるような行動は慎もう。ここでやれば、友達同士遊んでるようにしか見えないし」
「色々考えてるのね……それじゃ、『仲の良い友達』から少しでもステップアップ出来るように、これからも頑張ろうかしら」
「ステップアップ……? 『以心伝心の相棒』とか?」
首を傾げて尋ねる○○の様子を見て、千景はこういう所は鈍いんだからと苦笑した。
でもそんな所も愛おしいと、あばたも笑窪な思考回路で考えた千景は静かに微笑んで今日の要件を進めた。
「相棒とは別のものになりたいけど……それは兎も角、早速始めましょう。隠しクエストが、クリア出来ないんだったかしら……?」
「そうそう……難しずぎて一人じゃ無理。前半は何とかなるんだけど、後半戦で敵が強化されてからがね……神様仏様千景様、お助け下さい!」
「千景様は止めて……。それじゃあ、クエストを受けてきて。『Cシャドウ』の力を見せてあげる」
「あはは、ごめんごめん。……よし、クエスト受注OK。それじゃ、出発!」
そうして千景に援軍を頼み、高難度のクエストに繰り出した○○は彼女の凄まじい技量のおかげでいい勝負と言えるくらいまで善戦し、連敗中だったそのクエストをクリアすることが出来た。
それだけでなく、クリア報酬として入手率1パーセント程度の希少素材を手に入れられるなど嬉しいハプニングもあり、それのテンションの上がった○○が千景を幸運の女神だのと大袈裟に褒めたので、平静を装いつつも口元は緩みっぱなしの千景であった。
そうして○○にとっては充実した、千景にとっては心が温かくなる時間を過ごしていたのだが、ふと時計を見た千景が昼食の時間が近づいている事に気付いた。
「もうすぐお昼ね……○○は、昼ご飯はどうするの?」
「ああ、昼ご飯は――――」
「おーい、こんなトコに居たのか○○。さあさあ、昼飯を食べに行こう!」
○○が説明しようとした矢先、球子がやってきて○○の背後から抱き着いた。
椅子に座っていた○○の背後から覆いかぶさる様にして○○に抱き着く球子に、○○も苦笑しながら言った。
「分かった分かった。今から準備するから少し待ってて、タマっち。……という訳で、今日の昼ご飯はタマっちと食べに行くことになってるんだ。少し前から約束しててさ」
「…………そう」
残念そうに言う千景に、普段はカラッとした裏表のない笑みしか見せない球子が、別のナニカを含んだ笑顔で千景に言う。
「そうそう、タマと○○はよく行く店があるんだよなー? 今まで何回も行ったし、○○も気に入ってくれた最高の場所でさ! そういう所を○○と一緒に見つけるのがまた楽しいんだよ!」
別になんてことは無い、今までの○○との思い出を語っているだけのように聞こえる球子の台詞。
しかし千景には、○○と過ごす時に余り出かけないことが多いから、こんな思い出は無いだろうと煽っている様に聞こえたし、実際球子もそのつもりで言っていた。
ただでさえ釣り目気味の千景の目つきが、更に釣り上がりそうになる……が、○○の手前、何とか自制心を発揮して無表情になるだけで堪えた。
球子は余裕の表情で千景を見やっているが、何か言われれば即座に反撃するだろう。
鍛錬中に感じた寒気と同等のナニカを感じた○○は、内心冷や汗を流しつつも穏便に収めようと、しかしそれに気付かれないように何気ない感じで切り出した。
「あ、そういえばさ! 今度、このゲームのイベントが近場であるらしいんだよね。ちーちゃんが良ければだけど、それに行かない?」
「……それは、二人でって事?」
「え、あーまあそういう事になるのかな……?」
「……分かったわ、楽しみにしてる」
無表情から一転、うっすらと微笑みながら嬉しそうにしている千景。
千景の機嫌が直ったと感じた○○は内心ホッと息を吐いたが、やはりと言うべきか球子は二人のやり取りが面白くない。
片づけを終えた○○の手を掴むと、急かす様に引っ張り始める。
「ほらほら、急がないと○○! もうすぐ昼時だから、早く行かないと並ぶことになるぞ!」
「分かったから引っ張るなってば! それと、部屋に戻ってゲーム片づけて財布も取って来ないと。――――それじゃちーちゃん、行ってきます」
「……ええ、行ってらっしゃい」
球子に引き摺られるようにして遠ざかる、○○の背中を見つめる千景。
感情の窺えない昏い瞳で、二人の姿が見えなくなるまでじっとそれを見つめる千景であった。
市街地に繰り出した○○と球子は、彼女に勧められて行って以来、すっかり行きつけになっている骨付鳥の飲食店に来ていた。
休日で、しかも昼食の時間帯だったが、早めに出かけたお陰ですぐに店に入ることが出来た。
「ん~、やっぱ骨付鳥はうまいなっ! いくらでも食べられそうだ!」
「本当にな、すごい美味い。鳥飯も美味いし、まだまだ食えそうかな」
「だろ~? ……ていうか、○○は本当によく食べるなぁ。さすがのタマも、そこまでは食べられそうにないぞ」
「成長期ですから! ……なんてな。でも、タマっちも女子にしてはよく食べる方じゃないのか?」
「いやいや、そんな事ないだろ? ……ないよな? ……べ、別に食い意地が張ってるとかそういう訳じゃないからな! ご飯がおいしいのが悪いんだ!」
唐突に言い訳めいたことを言い出す球子。
彼女らしくも無くあたふたとしているが、○○に食い意地が張っているとか、意地汚いとか思われたくなくて必死に言い募る。
「分かってるって。俺も沢山食べる方だから、そんな事思わないよ。それに、タマっちは本当に美味しそうに食べるからさ。そういうタマっち、俺は好きだよ?」
「はっ? ……す、好きって、タマの事が!? え、い、いや、いきなりそんな事言われても……」
「うん、一杯食べる君が好きってヤツ。見ていて気持ちよくなるしさ」
「あ、あーそういう……ま、まあタマはちゃんと分かってたし? 勘違いなんてしてないからな!」
「勘違い……? え、何の話?」
「いいから、もう気にしないでくれタマえ! それより食べるぞ!」
そう言って、顔を赤くしながら先程以上の速さで骨付鳥にかぶり付く球子。
さっき一瞬しおらしくなったのは一体何だったのかと首を傾げつつ、○○も骨付鳥を食べていくのだった。
それから昼食を終えた○○と球子の二人は、そこで解散せずに特に目的地も無く市街地をブラブラしていた。
といっても、好奇心旺盛な球子が何か気になるものを見つけては近づき、○○が苦笑しつつもそれに付き合うと言うのが典型になっているのだが。
しばらくそうして楽しい時間を過ごしていた球子だったが、○○が時計を気にし出している事に気付いた。
「どうした、○○。何回も時計を気にしてるみたいだけど、なんかあるのか?」
「ああ……悪いんだけどさ、もうすぐ杏と約束があるから行かないといけないんだ」
「杏と……?」
訝し気な表情になる球子。
昨日彼女が杏と話した時、一人で図書館に行く予定だと語っていたのである。
それが○○からの情報によれば、これから一緒に行動する予定になっているという。
「ふーん……なあ、タマも着いて行っていいか?」
「タマっちも一緒に? まあ、いいと思うけど……多分、退屈すると思うよ?」
「いいからいいから! ……杏がそういう事を考えるなら、タマも遠慮はしない」
「……? 何か言った?」
そう聞いてきた○○に球子はいつもの笑顔で何も言ってないと答え、二人して杏との待ち合わせ場所に向かうのだった。
待ち合わせ場所には既に杏がいて、彼女は○○の姿を確認すると満面の笑みで手を振ってきた。
「あっ、○○さん! 今日は付き合ってもらってありがとうござい……ま……す……」
「やっほー杏。……昨日は図書館に行くとか言ってたとタマは記憶してるんだけどなぁー?」
○○の背後に隠れていた球子が姿を見せると、杏の笑顔が一瞬固まり、しかし次の瞬間にはいつも通りの柔らかい表情を見せた。
「タマっち先輩も一緒だったんだ……○○さん?」
――――どういう事ですか?
言葉にはしないものの、目は口ほどにものを言うということわざも存在する。
今の杏の眼差しは正にそれだったので、○○は彼女の視線に気圧されつつも説明をした。
「昼飯をタマっちと一緒に食べてさ。それから適当にブラブラして、時間になったから解散してここに来ようとしたんだけど、タマっちも一緒に来たいって言うから。一応、退屈するよとは言ったんだけど……」
「なるほど……そうだったんですか。――――タマっち先輩、○○さんも言ったみたいだけど、本当に退屈だと思うけどそれでも良い?」
「そんなに言われると、なおさら興味出て来るなぁ。……ドコに行くんだ?」
「それはね――――」
それから十数分ほど後、杏の目的の場所に移動した三人は、その場所をみてそれぞれの反応を示していた。
杏は瞳を輝かせ、○○は感心したような声をあげ、球子は――――――引き攣った様な、うんざりした様な声をあげた。
「へえー、よくこんな所見つけたね。さすが活字中毒の杏さん、ってところかな?」
「中毒は酷いですよ、もう! でも、本当に来れてよかったです! 本州から無事な本がここに持ち込まれたって聞いて、どうしても来たかったんです!」
「目当ての場所って、古本屋だったのかぁ……うう、頭が痛くなりそうだ……」
辟易とした様子の球子だが、自分が来たいと言ったのだから渋い顔をしつつも他の二人と共に古書店へ入って行く。
「あっ、○○さん、これ見て下さい!」
「どれどれ? おっ、これはまた凄いなぁ」
場所を考慮しつつ小声で話す杏だが、それでもその興奮具合は隠せていない。
そんな彼女の微笑ましい姿を見てほっこりしつつ、○○も色々な本を見ていく。
そうすると、球子は自発的にほとんど話に加わることが出来ず、内容について話を振られても実のある事は殆んど言えない。
球子も頭が悪いわけではないのだが、自分の興味のあるアウトドア分野などでしか学習意欲を発揮できていなかったのがここでは祟っていた。
対して、本をよく読む二人はまず活字が苦にならない。
そして雑学的に色々なことを知るのが好きだった○○は、自室が本で埋め尽くされている杏の話にも何とか着いて行ける位には色々と知っていた。
杏については、言わずもがなである。
やはり退屈になってしまった球子を見やり、それまで本に夢中だった杏が彼女に声をかけた。
「退屈でも仕方ないよ、タマっち先輩はあんまり本を読まないから。……先に帰っててもいいよ?」
その言葉を聞いた球子は詰まらなさそうな表情を引っ込め、満面の笑みを浮かべて杏を見た。
ただし、どう考えても友好的な笑顔ではなく、威嚇一歩手前といった風情のものであったが。
杏も杏で、○○と二人きりになりたいから帰ってくれと言わんばかり……というか、そうとしか聞こえない台詞を球子に向かって吐いている。
本日三度目となる冷えた空気を感じた○○は内心で滝の様な冷や汗を流しつつ、どうしてこうなるのかと、ほとほと参っていた。
あの仲の良かった二人がどうしてこんな剣呑な雰囲気になるのかと悩みつつも、この空気をどうにかすべくあえて何も分かっていない風を装って口を挟んだ。
「まあまあ、二人とも。タマっちはさ、今度俺が読みやすくて面白い本を選んで持っていくから、一緒に読もうよ」
「……二人きりでなら、良いけど」
「え? ……まあ、タマっちがそれを望むんならそうするけど」
「ホントにホントだな? ふっふー、楽しみにしてるぞ、○○! 本はあんまり得意じゃないけど……○○と一緒なら、何だって楽しいしな!」
剣呑な笑顔が消え去り、喜色満面で喜びを露わにする球子。
いつもの彼女にもどってくれてホッとする○○だが、当然これで終わりではない。
今度は微妙にふくれっ面をして拗ねている杏に話しかけ、フォローをする。
「若葉から、杏って陣形とかそういう戦術的なものに詳しいって聞いてさ。俺も杏と同じく後衛だし、その手の知識を修めておきたいって思うんだけど。良かったら今度教えて欲しいんだけど、いいかな?」
「もちろん、二人きりで……ですよね?」
「え? でも、これは他のみんなも知ってた方が良いことなんじゃ……」
「……○○さんは、私と二人で勉強するのが嫌なんですか?」
「はぁ……!? いや、違う違う! 絶対そんな事ないから!」
「なら、二人でやっても良いですよね?」
「…………分かった、二人でやろうか」
「はい、そうしましょう♪」
○○が杏の提案を了解すると、蕾が花開く様な可愛らしい笑みを見せた。
こうして球子と杏の間の冷えた空気を解消した○○だったが、さらにこの後数回に渡って同じような事があり、帰る時間になった時には精神的に疲れ切っていたのであった。
「はあー…………」
丸亀城へと帰ってきた○○は、庭のベンチに腰を下ろして深く息を吐いていた。
最近、勇者のみんなと接しているとおかしな空気になる事が結構な頻度であり、その度に○○は精神を擦り減らしていた。
このままでは駄目なのは確実だが、かといってどうすればいいのか等、皆目見当がつかない。
今は何かあるたびにすぐさまフォローをしているが、これもいつまで通用するか……。
そんな事を考えて憂鬱になっていた○○だったが、いきなり頬に冷たい缶をくっつけられて声をあげて驚いた。
「うおっ!? ……なんだ、友奈か。びっくりしたなぁ」
「あはは、いきなりごめんね? はい、これどうぞ」
そう言って、二つ持っていた缶ジュースの一つを手渡してくる友奈。
少し迷ったが、せっかくの厚意を無下にするのも躊躇われたので、ありがたく受け取ることにした。
友奈も○○の隣に腰かけ、暫くの間無言でジュースを飲む二人。
とはいえ、嫌な沈黙ではなく○○としては心安らぐ静寂だった。
「それで、どうしたの? 何だか疲れてるみたいだけど……」
「うん? ああ……いや、ちょっとね」
あからさまに誤魔化しにかかった○○だが、友奈には心配をかけたくなかった。
彼女は、他のみんながああいう態度をとる様になった後もそれまでと変わらなかったので、○○としても巻き込むのは躊躇われたのだ。
「そう? ○○君がそう言うならいいけど……話したくなったらいつでも言ってね? 絶対に力になるから」
「……ありがとう、友奈」
優し気な友奈の笑顔に癒された○○は、緊張から解放された反動からか眠気を感じ始めていた。
「ふあぁ~~~……ごめん、話してる途中で」
「気にしないでいいよ。……夕食までまだ時間あるし、少しだけ眠る?」
そう言って、自分の膝をポンポンと叩く友奈。
「いや、流石にそれは…………ふあぁ~~~……本当にごめん……」
「……やっぱり疲れてるんじゃないかな、○○君。私、心配だな……少しくらい、甘えてもいいんだよ?」
心配そうな表情で言う友奈に抗えなくなり、さらに眠気にも逆らえなくなった○○は、悪いと思いつつも友奈に甘える事にした。
ベンチに横になり、頭を友奈の膝に預ける○○。
目の前には下を向いた友奈の笑顔が見えて、○○は彼女に礼を言って目を閉じた。
「ありがとう、友奈……」
「お休みなさい、○○君……」
頭を撫でられながら、急速に眠りに落ちていく○○。
僅か数分で規則正しい寝息を立てるようになった○○を愛おし気に見つつ、友奈は小声で呟き始める。
「みんな、○○君の事が大好きなのは分かるけど、ちょっとぐいぐい行き過ぎだよね……。○○君、こんなに疲れちゃってるし……」
そう言って、心配そうな溜め息を吐く友奈。
「でも、私といる時の○○君はリラックスできてるみたいで良かった。……これからも、みんなには頑張ってほしいなぁ……」
○○の頭を優しくなでつつ、自分の想いを零す友奈。
「みんながぐいぐい迫るほど、○○君は心が疲れて私に癒しを求める。今はまだ単なる逃げ場に過ぎないかもしれないけど……いつか、私が○○君の帰る場所になるんだ」
その日を夢見て……思い浮かべて、友奈は笑う。とても幸せそうに。
だから彼女はみんなを止めないし、これまで通りの関係を維持している。
あくまで○○の事は良い友達で、仲間だというスタンスを崩さない。……表向きは。
「間違いが無いように注意は必要だけど……もっとみんなを応援してあげようかな? ……そしたら、○○君もますます私に心を許してくれるよね? あは、ふふふ……」
応援という名の焚き付けを計画しつつ、それによって心が疲れた○○を癒し、○○を自分無しではいられなくする。
自分の隣だけが、心安らげる場所なのだと思わせる。
「○○君……大好きだよ」
眠っている○○の頬を撫で、いつかは面と向かって言えたらいいと思っている言葉を紡ぐ友奈。
彼女の瞳にも、他の五人と同じように狂おしいほどの愛情が秘められているのだった。
さて……ギスギスってこんな感じで良いんでしょうか?
うーむ、勇者同士がギスギスした話って初めて書いたからなぁ……どうなんだろう?
それは兎も角、リクエストして下さった方々、本当に感謝です!
お陰で、アイデアの幅が広がったように感じられます。
ありがとうございましたー!!
あ、そうだ(唐突)
ちーちゃん呼びの理由は、番外編じゃないのわゆの話までお待ち下さい
……いつ投稿されるかは不明です(無責任)