……いや、ホントに。
そして、少し短めですが丁度区切りも良くなったので、この辺でまとめました。
では、どうぞ! ……マジでお待たせしました<m(__)m>
お盆は過ぎたものの、茹だる様な暑さが続く二〇一九年八月の香川。
そんな夏真っ盛りの猛烈な暑さの中、六人の勇者と一人の巫女はいつも通り、丸亀城の教室へと集合していた。
ただ、全員の表情は酷く真剣で、教卓の前に集まって何やら話をしている。
今までの戦いにおいて、友奈しか使用していなかった更なる強力な『切り札』――その事についての話を行なっているのだ。
「私の意見書とひなたさんの上申、そして何より、反動を肩代わりした○○さんの状態を鑑みた上で、全員にとって最も相性のいい、言い換えれば反動が少ない精霊を選抜しました。詳細は、さっき配った資料の通りです」
杏がそう言って他の面子を見渡すと、六人はそれぞれに渡された資料に目を通していく。
友奈の酒呑童子を皮切りに、いずれ劣らぬ有名な名前が列挙されている。
対して妖怪などに詳しくない者でも、この資料に挙げられた存在について言えば最低限、名前だけは知っているだろうと思われる位にはメジャーである。
だが、有名だからと言って戦力になるかどうかは別の問題だ。
「伊予島さん、質問いいかしら」
「もちろんです、何が訊きたいんですか?」
資料から目を離して杏の方を向いた千景が、彼女へと質問をした。
「確かにこれに書かれている存在は、どれも有名なのは間違いないでしょう。でも、戦力としては未知数なんじゃないかしら?」
「確かに……そういう不安はあるな。いざ実戦で、弱くて使い物にならない、何て事態は避けたい」
「だなぁ。もう強さが証明されてる友奈の酒呑童子は良いけど、タマたちのは一番いいやつを選びたいし」
千景の意見に若葉と球子も賛成し、その辺りはどうなのかという意図も含めて杏を見やる。
すると、答えは彼女の方からではなく、別な方からやって来た。
「それについては問題ありません。私が保証します」
「ええっと……どういう事なのかな、ヒナちゃん?」
自信有り気な表情で請け負うひなたに、どういう意味なのかと首を傾げる友奈。
友奈だけではなく、杏以外のメンバーも全員が全員、頭の上にハテナを浮かべてひなたを見ている。
省略し過ぎたと反省したひなたは、咳ばらいをすると気を取り直し、みんなに説明を始めた。
「コホン。……ええと、皆さんの新しい『切り札』の事ですが、実は神託を分析した結果、それぞれに最高の相性をもつ精霊が判明したんです。この結果は、私も含めた大社の巫女全員の総意です。自信を持って、皆さんにお伝えしています」
常日頃はあまり見せない、自信満々といった表情のひなた。
勇者の一番近くに居ながらも、戦いに関する事柄は勇者に任せるしか無く、内心忸怩たるものがあったのだろう。
次の戦いでは、勝利の一助となれる――そんな喜びが、その表情から溢れ出さんばかりである。
そんな彼女の表情を見た勇者たちは顔を見合わせると、何も言わずに頷き、それ以上疑問を口に出すのは止めにした。
「分かった、そういう事なら問題無いね。……で、俺からも質問があるんだけど」
「はい、何でしょうか?」
○○からも疑問が呈され、ひなたが穏やかな表情で彼から質問を受け付けようとする。
「この資料、俺の事が一切書かれていないみたいなんだけど……。他の皆は精霊の事だったり、戦いの事だったり、そういう注意すべき点とかがあるのに、俺については全然何も無い。どうして?」
何とも納得いかなさそうな表情をしている○○が、ひなたへと問いかける。
「ああ、そうでしたね。……○○君には、言っておかないといけない事があります」
「言っておかないといけない事……?」
首を傾げた○○だったが、次にひなたの口から紡がれた言葉に呆然とすることになってしまった。
「○○君……あなたは、今回の戦闘に出る事は禁じられました。以前にもあったように、私と共に待機してもらいます」
「……え? ……あの、何の冗談?」
気を取り直した○○が、質の悪い冗談を笑い飛ばす様に軽い口調で言うが、ひなたは真剣な態度で再度通告する。
「嘘でも冗談でもありません。あなたは今回の戦闘に、参加することは出来ません。これは大社としての決定です」
「そんな馬鹿な! 今回の戦いが、絶対に負けられないものだっていうのはひなた、君が言ってた事だろ!? その戦いに、全員で挑まないなんて馬鹿な話が――」
「……そう言って、次は何処を犠牲にするんですか?」
「……え?」
虚を突かれたような表情で戸惑う○○に、強張った表情のひなたが構わずに言葉を投げかける。
「片方だけ残った目、腕ですか? それとも聴力でしょうか? 脚が犠牲になる事も考えられますね。或いは、まだ一度も代償にとられていない内臓などかもしれませんよ?」
○○を見据えて厳しい口調で言っていたひなただが、言葉を続ける内に声が震えを帯びてくる。
これまでに○○が被った代償を目の当たりにした時の恐怖……それが脳裏を過ぎったのだろう。
言葉にしている内に激情に駆られそうになったひなただったが、一つ息を吐いて落ち着くと、○○以外の勇者たちを見回して言葉を続けた。
「済みません、少し取り乱しました。……どうでしょう、賛成してもらえますか?」
ひなたの問いかけに、五人の少女達はそれぞれの反応を示す。
「うん、賛成だよ。 私も似た様な事は考えてたから」
「私も上里さんに同意するわ。……あんな光景を見るなんて、二度と御免だもの」
「ちょっ、二人とも!?」
ひなたの意見に同意した友奈と千景に驚き、思わず声を上げる○○。
「だなぁ……ひなたの言う通り、○○はもう休んでもいいとタマは思うぞ?」
「うん……絶対に、また自分を度外視した無茶をすると思うし……ひなたさんの言う通りにしてもらいましょう」
「タマっちと杏まで!? ……若葉! リーダーとして何とか言ってやってってば!」
続けて同調した球子と杏の声に対し、何とかこの決定を覆そうとリーダーである若葉に水を向ける○○。
○○の方を一瞬見た若葉は、口元をぐっと引き結んで少しだけ俯いたが、再び顔を上げた時には勇者としての表情に戻っていた。
「○○……済まないが、みんなの言う通りにしてくれないか。勿論、私も同意見だ」
「――――――」
信じられないものを見たような表情で、若葉を見詰め返す○○。
何か言わねばならないと口を開くが、結局何も言葉が出て来ずに口を閉じる事しか出来ない。
先程の若葉と同様に口を引き結んでしまった○○に対し、ここで説得しなければならないと意気込んだひなたが言葉を重ねていく。
「○○君……大社では、次が最後の戦いになるだろうと見ています。実際、次の戦いを乗り切れば結界の強化が終わり、これ以上のバーテックスの侵攻を止められる公算が大です」
「……」
ひなたの説明を無言で聞いている○○。他の少女たちもひなたと○○を交互に見やり、時折頷いている。
「今までは○○さんにばかり大きな負担をかけていましたが、そのお陰……というのはおかしいですけど……でもだからこそ、私達5人はほぼ万全の状態のままここまで来る事が出来たんです。ですから……最後くらいは、私達に任せて貰えませんか?」
「だけど……最後の戦いっていうなら、それこそ使えるものは何でも使うべきなんじゃない? 俺はこんな有様だけど、それでもみんなの援護くらいは――」
ひなたの言葉を引き継いだ杏の説得にも納得できず、尚も抗弁しようとする○○だったが、ここで球子が口にした言葉に黙り込む事になった。
「まあまあ○○、心配しなくてもタマ達は勝つし、みんな絶対に生きて帰って来るって! だよな、みんな?」
「うん、タマちゃんの言う通り! 心配かもだけど、私達を信じて欲しいな」
「まあ、そういう事ね。あまり多くは言わないけど……最後くらいは頼って貰える……?」
「みんな……」
球子に続き、友奈と千景もそれぞれの想いを○○へと伝える。
二人の口調は表面上は平静そのものだが、内心は○○が納得してくれるのを切に願っていた。
「…………」
瞳を閉じて俯いた○○が、何かを堪えるようにして深い息を吐く。
それを見守る六人の少女たちも、自分たちの説得を受け入れてくれるように願いつつも、それが○○にとってどれだけ酷な願いかを理解していた。
彼は、諏訪において三年に渡り自分と共に戦い抜いてきた二人の少女を置いて、ほんの僅かな避難民と共に四国への決死行に出た。
悲鳴を上げる心に蓋をして、二人の少女の最後の願いを叶える為に。
本当なら、自分も最後まで戦い抜くか、もしくは少女たちをこそ彼は逃がしたかった。
だが、彼の力ではバーテックスの足止めには向かず、もし足止めに出たとしても、各個撃破の的になるしか無かった。
斯くして少年は、少女達の犠牲の果ての逃避行を無事完遂し、避難民を四国まで連れて行く事が出来た。
彼の心に、決して癒える事の無い、大きな傷を残して。
諏訪への遠征中に見た彼の表情は、ここにいる全員が覚えている。
何かを堪える様に引き結んだ口元や、逃避のように鍬を振るっていた姿など。
そしてただ一人、友奈は彼が泣き崩れる様子を間近で見ているのだ。
遠征以降も彼と色々接してきた友奈だったが、そんな中で彼が『弱さ』と言えるモノを曝け出したのはあの時だけだった。
どんな『代償』でさえも応えていない様に見える彼が、あの時だけは悲嘆に暮れ、このまま死んでしまうのではないかと思えるほどに弱々しく泣いていた。
そんな彼を偶然助けた友奈は、その後に抱えきれない程にたくさんのものを貰った。
だからこそ、彼がこれ以上の犠牲になる事は我慢ならない。
友奈だけではない、少女達全員の総意である。
「…………」
閉じていた瞳を開いて、自分を見つめる少女たちを見回す○○。
そして、少しため息を吐きながらも、彼女たちが望んでいただろう言葉を紡いだ。
「……分かった。俺はひなたと一緒に、皆の帰りを待ってるよ」
「そうか……! ありがとう、○○! お前の決断は絶対に無にしないからな!」
若葉が少し瞳を潤ませながら、それでも涙は零さない様にして○○に礼を述べた。
「みんなの想いは伝わったから……ね。俺としても、無駄にみんなの心に負担はかけたくないし」
「大丈夫ですよ、○○君。皆さんだって、貴方に守られてばかりでは女が廃りますから」
ですよね? と、ひなたが勇者の少女たちを見回しながら訊ねると、全員がそれぞれの仕草で賛意を示した。
僅かに、しかし確かに微笑む者。
ニカリと笑って胸を張る者。
フフンと鼻を鳴らし、自信ありげに笑う者。
その様な雰囲気で最後の話し合いを終えた七人は、最終決戦までの最後の日常を過ごしていく。
誰も欠けることなく、最後まで戦い抜いて見せる――その決意を胸に。
――そして、遂にその日が来た。
「若葉ちゃん達、行っちゃいましたね……」
「ああ、そうだね……」
大社関連の病院の一室、そこに○○はひなたと二人で居た。
樹海に覆われるとはいえ、丸亀城周辺は戦いの真っただ中に置かれる事になるので、ひなたと○○はこちらに場所を移して待機することになっている。
樹海が侵食された場合の影響を考慮しての判断であった。
「それにしても、ひなたって結構凄かったんだね」
「急にどうしたんですか?」
○○の言葉に、小首を傾げて疑問を浮かべるひなたに、彼は小さく笑みを浮かべて言う。
「いや、何て言うかさ……帰りを待つっていう事が、こんなにキツイなんて知らなかったから」
「ああ、そういう事ですか。……ふふ、そうなんですよぉー、私は戦いの度にこんな思いをしていたんですからね?」
「うん、滅茶苦茶しんどい」
ひなたの冗談めかした口調に、○○も口元を歪めながら疲れと笑いが混じった様な語調で返す。
そうやってお互いに一頻り笑い合うと、ひなたが願う様に言葉を紡いだ。
「でも、そんな思いもこれでお終いです。みなさんが、命懸けの戦いに赴く事も……」
「うん……もう、これで終わりだ」
そうして暫らくの間、無言でいる○○とひなた。
互いの心にあるのは、決戦の場に赴いた少女たちの無事の帰還のみ。
ひなたは無意識に祈る様に手を合わせてしまい、自分でそれに気付いては恥ずかしそうに止めるという事を繰り返していた。
「若葉たちを信じているのは俺も同じだけど、不安になるのは仕方無いって。だから、俺の事は気にしないで好きにしなよ」
「……ですね。ありがとうございます、○○君」
「それじゃ、俺はちょっとお手洗いに行ってくるね」
ひなたの返事を背に聞きながら、病室を出た○○は廊下を歩いてトイレへと向かう。
そして、洗面台の前に立った彼はひたと自分が映っている鏡を見据えた。
迷いや逡巡は何処にもない、決意を固めた表情。
そして、一つ息を吐いた彼が握り締めていた拳を開くと、そこにある物が現れた。
もしこの場に勇者達やひなたが居れば、驚愕に目を見開いていただろう。
○○は今回の決戦に合わせ、勇者アプリの端末や、自身の武装の元となる櫛を没収されていた。
今まで相当な無茶をしていた為、万が一にも勝手な行動を取らないようにという理由である。
○○から回収された端末と櫛は、大社本庁に厳重に保管され、今現在も見張りが付いている。
その、厳重に保管されている筈の端末と櫛が、何故か今、○○の手元にある。
偽物を渡したわけでもない。そんな事をすれば、受け渡しに立ち会ったひなたが真っ先に気付いただろう。
では何故、ここにあるのか?
――○○と縁で結ばれた、櫛に宿る神の力である、としか言いようが無い。
「――覚悟はできています。私に、みんなを助ける力をお与え下さい」
櫛を手に、瞳を閉じて頭を下げる○○。
やがて、彼の頭の中に直接響くように声が伝わってくる。
『――――――――――――――――』
「承知の上です。それでみんなを救えるのなら」
『――――――――――――――――』
その○○の答えに対し、返ってきた言葉に○○は思わず苦笑した。
「そうですね……私は世界を救う勇者ではないですし、そういう性分でもありません。……でも、だからこそ」
そこで一旦言葉を切った○○だったが、次の瞬間には決然として続きの言葉を紡ぐ。
「――だからこそ、世界を、人を護るあの娘たちだけは護ってみせると……そう己に誓ったのです」
『――――――――――――――――』
「ありがとうございます。――――では、行きましょう」
○○がそう言った次の瞬間――――彼の姿は、この場から消え去った。
病室で待つひなたが異変に気付き、大社から端末と櫛が消えているのが確認される、三十分程前の出来事――。
最後に、勇者としての枠を明らかに超えた力の片鱗を見せた主人公でした。
最終決戦ですからね、無茶のしどころですよ!
ここを乗り越えれば、皆で生き残ってハッピーエンドだ!
(※大丈夫? このお話はのわゆの二次創作ですよ?)