ある転生者と勇者たちの記録   作:大公ボウ

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お久しぶりです!(二回目)

そして、マジで長くなってしまったなぁ……と。

あと、今回は割と残酷な描写タグが仕事しているので、少し気を付けた方が良いかもです。

ではでは、どうぞ!


あなたを護る

○○は病院から姿を消し、自分の意思を遂げるために行動を開始した。

 

そんな事があった、少し前。

 

○○とひなたに見送られた、彼以外の勇者を除く五人は樹海に覆われた四国の地で、遠くに見える壁を見据えていた。

 

そして、丸亀城本丸城郭に佇む彼女らの視線の先に、バーテックスの大群が現れ始めた。

 

数えるのも馬鹿馬鹿しくなってくるような、無数のバーテックスの群れが壁を越えて少女達に向けて――そして、その彼女たちの遥か後方にある神樹へと侵攻を開始する。

 

そして、それらの数多の星屑の群れの中に、一際巨大な存在が確認できた。

 

「例のサソリ型並みの巨大バーテックスは……十体か」

 

「結界の外で確認できた、あの超大型のバーテックスは居ないみたいですね……」

 

「ま、良い事なんじゃないか? あんなバケモノ、出来れば相手にしたくないしな」

 

「その通りね。強敵は少ないに限るわ」

 

「だね、ぐんちゃん。――――それじゃあ、若葉ちゃん」

 

「ああ、始めるとしよう」

 

既に勇者服を纏っていた少女たちだが、再度端末をその手に握り、意識を集中させていく。

 

「来い――――酒呑童子!!」

 

「降りよ――――大天狗!!」

 

その言葉と同時に膨大なエネルギーが発生し、友奈と若葉を急速に包み込んでいく。

 

友奈が宿すは暴虐の化身、大江山の鬼の総大将である『酒呑童子』。

 

若葉が宿すは魔縁の王、天上世界を灰燼に帰したとさえ言われる屈指の大妖怪、『大天狗』。

 

宿した大天狗の影響か、勇者装束が修験者を思わせるものに変化し、その背から漆黒の巨大な翼が現れる。

 

「来なさい――――玉藻前!!」

 

千景のその言葉と共に、彼女の姿がぶれ、はっきりと目で捉える事が難しくなっていく。

 

まるで、濃霧の中に消えてしまうかの様に見えた彼女の姿は、しかし一瞬の後に、力の奔流と共に全く別の姿となってその場に再び現れた。

 

平安貴族の女性を思わせる十二単に、手元の扇。そして、その背後には彼女の身の丈と同等以上の長さを誇る金毛の尻尾が九本。そして、頭部に狐を思わせる一対の耳。

 

元々の武器である大鎌は、まるで千景を外敵から守るかのように周囲に浮かんでいる。

 

平安時代、時の帝からその美貌と聡明さを愛され、天下一の美女とも、三国一の賢女とも謳われた女性。

 

しかし、その正体は人ではなく、友奈の酒呑童子に並ぶ大妖怪である『白面金毛九尾の狐』であるとされ、各国の王を破滅させたと言われている。

 

「私に力を――――風神!!」

 

「力を貸せ――――雷神!!」

 

同時に、ほぼ同じ意味の言葉で以って力を解放した球子と杏の周囲を、踏ん張っていなければ立つのも困難な程の強風が吹き荒れる。

 

そして、強風の只中に紫電が迸り、両者がまるで一体であるかのように溶け合っていく。

 

二人の勇者装束は、それぞれ輪入道と雪女郎を降ろした時とそれ程の違いは無いが、その背後には、杏がまるで風を捕らえるかのような羽衣を、球子は巴紋が描かれた小さな太鼓がぐるりと輪状に連なっており、双方とも膨大な力を蓄えているのが窺える。

 

風神、雷神――二つで一つの様に扱われる事が多いが、其々が天候すらも変え得る力を持つ、紛れも無い大妖怪である。

 

暴風雨と共に現れて地上に甚大な被害を齎す風神、そして雷――神鳴と言われる様に、神と同一視される事もあったと言われる雷神。

 

力の奔流に飲まれない様に心を強く保ちながら、球子と杏は閉じていた瞳を開いた。

 

そうして、新たな力を宿した少女たちは、世界に終焉を齎そうとする敵をしかと見据える。

 

「ではみんな――――往くぞ!」

 

「うん!」

 

「ええ!」

 

「おお!」

 

「はい!」

 

若葉の掛け声に、それぞれの言葉で返していく四人。

 

そうして戦い第一幕を迎えるが、杏と球子が飛び出していこうとした他の三人を引き留めた。

 

「如何したと言うんだ、二人とも?」

 

出鼻を挫かれた形になった若葉が、多少気が削がれた様な声音で二人に問い、球子は不敵な笑みで、杏は彼女にしては珍しく自信ありげな表情で答えた。

 

「まあ見ていて下さい、皆さん。――タマっち先輩、行くよ!」

 

「よーし、準備開始ってなぁ!」

 

杏は自身の武器であるクロスボウを展開。外見的変化はあまり無いが、込められた力は桁違いに増大しているのが見ているだけで分かる。

 

バーテックスに対して狙いをつける彼女の動作と共に、クロスボウの弦が引かれていく。

 

軋むような音がして矢玉の装填完了を知らせ、それに合わせて今度は球子が外部から装填された矢玉に自身の力を籠めていく。

 

傍から見ているだけでも分かる力の奔流に、様子を見守っていた他の三人が息を呑む。

 

「あんず、充電完了だ、いけーっ!!」

 

「了解、タマっち先輩! ――発射っ!!」

 

その杏の声と共に、縄が弾け飛ぶような音が響いて矢がバーテックスに向けて放たれた。

 

風切り音と共に、今にも爆発しそうなエネルギーが漏れ出ているような音が、ジジ……ジジ……と周囲に漏れる。

 

そして数秒の後、放たれた矢は侵攻して来ているバーテックスの一団の中に着弾。

 

瞬間、いきなり竜巻が発生したかのような暴風が発生し、星屑の群れは宙へと巻き上げられた。

 

更に、巻き上げられたバーテックス達を打ち据えるかの様に落雷が発生。

 

暴風に巻き上げられていたバーテックス達に成す術は無く、膨大なエネルギーに焼かれて消炭も残さずに消え失せる事となった。

 

「うわぁ……星屑がほとんど消えちゃった……」

 

「その群れの中心にいた大型を倒すついでみたいなものだったのでしょうけど……」

 

「凄まじいな……ん? 二人とも、大丈夫か?」

 

球子と杏を見やった若葉は、肩で息をしている二人を目にして心配そうに声をかけた。

 

「はぁー……やっぱ結構しんどいなぁ……」

 

「はぁ、ふぅ……そうだね、タマっち先輩。と、いう訳なので、はぁ、はぁ……今の二人でやった合わせ技は、はぁ、ふぅ……無理をしても、もう一回しか使えないと思います」

 

息を切らしながら告げた杏の言葉に、さもありなんと云った具合に若葉と友奈、千景が頷く。

 

「無理をしても、か。当然だが、無理をした後は――」

 

「ロクに戦えなくなってしまうから、実質はもう使えないと思った方がいいでしょうね……」

 

「でもでも、大型一体に星屑ほとんどをやっつけたんだから充分だよ!」

 

「友奈の言う通りだな。これで、かなり戦いやすくなった筈だ。球子と杏はこのまま休憩し、交代に備えてくれ」

 

「りょーかい、若葉」

 

「分かりました。お気をつけて」

 

「ああ、二人もな。では友奈、千景――往くぞ!」

 

「テイクⅡだね!」

 

「ふふっ……」

 

若葉の号令に友奈が天然気味なセリフを繋ぎ、千景は親友の言葉に思わず笑いが漏れてしまう。

 

最終決戦とは思えないような空気が漂うが、いつもの前衛三人の瞳は真剣そのもので、其々の心に秘めた強い意志を窺わせた。

 

先程の球子と杏の広範囲射撃によって星屑は粗方殲滅され、大型も一体が屠られている。

 

残りは九体だが、それでも三人は臆せずに距離を詰めていく。

 

近づいて来る三人目がけ、棘状の、矢の様なものを発生させる大型がそれを撃ち出して攻撃を開始する。

 

「散開だ!」

 

「了解!」

 

「分かったよ!」

 

一塊で走っていた三人は、若葉の言葉と共に走る道筋を変化させる。

 

若葉はそのまま真っ直ぐ、千景と友奈は若葉を中央にそれぞれ左右に別れ、大型バーテックスに向かっていく。

 

別れた三人に、棘を撃つバーテックスは一瞬迷ったのか射撃が止むが、数瞬で狙いを自分へと迫る若葉に修正し、射撃を再開する。

 

「やはり私を狙ってきたか。――思った通りだな」

 

狙いが当たった若葉は不敵な表情を浮かべ、背中の黒翼を羽ばたかせると一気に飛び上がった。

 

大型バーテックスは何とか若葉を撃墜しようとするが、彼女を捉えきれずに全て無駄撃ちに終わった。

 

「これで決める――はああああああっ!!」

 

大型バーテックスの真上まで接近した若葉は太刀を上段に構え、自由落下に羽ばたきの勢いを加えてパワーダイブ。

 

関節の継ぎ目らしき場所を狙われた棘を撃ち出す大型を二等分にし、落下の勢いで再び上昇する際に更にもう一撃を加える。

 

三分割された大型バーテックスはそのまま崩壊し、星屑に分裂するが、何度となく戦ってきた若葉にしてみれば、物の数ではない。

 

全ての星屑を殲滅するのには、数分とかからなかった。

 

一方、二人と別れた千景は複数の板の様なものを持つ大型バーテックスに接近していっていた。

 

千景の今の格好は十二一重で、戦闘には著しく向いていない格好だが、彼女は自身の足で走らずに、浮かんだ上で滑るかのように移動している。

 

なので、普通の人間ではまず不可能と思われるような動きも実現している。

 

猛スピードで走る千景を叩き潰さんと、大型バーテックスが板状の物を彼女目がけて振り下ろす――が、千景はスピードを落とさずに九十度直角に曲がる、というより折れた。

 

攻撃をかわした千景はスピードをそのままに再び大型に接近し、遂に自身の間合いに相手を捉えた。

 

「微塵に斬り刻んであげるわ!」

 

そうして、手にしていた扇を板状の物を持つ大型バーテックスに向けて振り下ろすと、宙に浮かんでいた大鎌が対象に向けて彼女の意思通りに向けられる。

 

大鎌は大型バーテックスの本体に到達してその身を刻まんとするが、堅牢な装甲に阻まれて有効打を与えられない。

 

その間も板状の物体による攻撃を避けていた千景だったが、これ以上は無駄だと判断して大鎌を自分の傍に戻した。

 

「ふぅん、大した防御ね。――なら、それを無にするまでよ」

 

そう言って扇を開くとそれを水平に構え、自身の力を集中させていく。

 

「――――――――っ」

 

開かれた扇の上に、目に見える形で力の塊が生成されていく。

 

千景の勇者服と同様の、彼岸花と同色の赤。

 

その尋常でない奔流は、まるでエネルギー自体が結晶となっているかの様にすら見えている。

 

「あなたはここで朽ち果てなさい――――『殺生石』!!」

 

千景がその名を紡いだその瞬間、樹海によって現実世界から切り離されていた世界が千景と、そして彼女と相対している大型バーテックスのみを取り込んで更に分断されたかの如き様子に変貌した。

 

心を持たないバーテックスであるので、それを不審とすら思わず攻撃を続行して板状の物体を振り回して千景を攻撃し、彼女は再度それを躱していくが……変化はジワジワと現れていた。

 

大型バーテックスが地面に板状の物体を叩き付けること数度、遂にその時は訪れた。

 

振り回されていたそれが、腐食したかのようにボロボロと崩れ、形を失っていく。

 

それでもなお、大型バーテックスは千景を攻撃しようとするが、遂には板状の物体だけでなく、本体にも影響が出始めた。

 

不安定な挙動を見せ始めたかと思うと、ゆらゆらと一際大きくぐら付き、そのまま臥せるかのように地上に墜ちてしまったのだ。

 

それに伴い、攻撃に使用されていた板状の物体も、糸が切れるかのように力を失い、墜落した。

 

まだ僅かに動いている大型バーテックスだったが、その姿は風化していく物体の映像が早回しにされているかの如く、ボロボロと崩れ落ちていく。

 

そして遂に、崩れた砂山の様にその巨体は崩壊し、そこから星屑が発生する兆しすら見せなくなった。

 

殺生石――――玉藻前が正体を見破られ逃亡し、那須の地で討たれた際、恨みを残したまま死した彼女が変じたとされる、近づけば命を奪うと呼ばれた巨大な毒石。

 

石に変じた直後、その周囲に居た数多の人間や鳥獣の命を奪い、その後の世においても調伏に訪れた高僧の命などを奪い続けた、玉藻前の恨みの深さを物語る伝承である。

 

千景が振るった力は、その具現化である。

 

「ふふっ……良い恰好ね?」

 

風化していく大型バーテックスの残骸に目を遣りながら、扇で口元を隠して艶然と微笑む千景。

 

現在の彼女の姿と相まってか、それとも宿した妖怪の影響か、人ならば誰もが目を奪われかねない美しさである。

 

「ひええ……若葉ちゃんもぐんちゃんもすっごいなぁ。よーし、私も……って、あれ? どうしたんだろう……?」

 

他の大型バーテックスからの攻撃をあしらいつつ、二人のフォローに努めていた友奈も、そろそろ本格的な攻勢に移ろうかと考えていたその時だった。

 

その他の倒された者を除く、残り七体の大型バーテックスが一斉に退く様子を見せ始めた。

 

未だに数では圧倒している筈のバーテックス達が引く理由に皆目見当が付かず、集まって意見を言い合う前衛三人。

 

「……どういう事なのかしら、アレは?」

 

「分からない……が、球子と杏も不審を感じている筈だ。二人の元に戻って、善後策を練ろう」

 

「それが良いよね。タマちゃんとアンちゃんなら、戦っていた私達には分からなかった事にも、何か気付いているかもしれないし」

 

話が纏まった三人は、急ぎ待機中の球子と杏の元に戻る。

 

樹海を跳んで戻ってきた若葉に千景、友奈の三人に労いの言葉をかけると、早速若葉が口火を切った。

 

バーテックスの動きに不審を感じたのは、球子も杏も同じらしかったので、特に説明は要らなかった。

 

「率直に訊くが杏……あの行動をどう思う?」

 

「そうですね……不利な戦況を一旦仕切り直す為、というのが一般的な見方なのでしょうけど……」

 

「でもさぁ、そうだとしたら、数がまだタマ達より多いのに引っ込むのは変なんじゃないか?」

 

「タマっち先輩の言う通りなんですよね……数の上では有利なんだから、力押しで攻めて来るのが今までのバーテックスの傾向なんですけど……」

 

それからも五人で意見を言い合ったが、決定的な意見は出て来ない。バーテックスの事については一年以上戦い続けている現状でも分からない事が多いのだが、その影響がもろに出た形である。

 

そして、話し合いも煮詰まって来てしまったその時、ある事が起きた。

 

「……ん? ――――――――――あ、あぁ……!」

 

「どうしたんだ、友奈? ――――――あ、アイツは……!」

 

思わずふいと、退がっていったバーテックスの一団に目を遣っていた友奈が気付き、思わずといった形で声を漏らした。

 

そんな友奈の異変に気付いた球子も同じ場所に視線を遣ったが、彼女も友奈と同じ様なうめき声を漏らすことになってしまった。

 

「あれは、壁の外に居た……!」

 

「超、巨大……バーテックス……!」

 

千景と杏の声音に恐怖が混じり、表情が引き攣る。

 

四国の結界の外に出て、瀬戸大橋付近で超大型バーテックスに挑んだ時の事は、強烈なものとして彼女たちの脳裏に刻まれていた。

 

その時の記憶が蘇り、思わずと云ったように身体に震えが走る。

 

「――――皆、落ち着け」

 

四人が強張った身体を何とか奮い立たせようとしていたその時、その感情を後押しする声が若葉の口から紡がれた。

 

「あの時は、その時じゃなかったが……今がその時らしい。アイツを倒して、この戦いに終止符を打つぞ!」

 

力強い若葉の声と表情に勇気付けられ、竦み上がっていた四人の身体が解れていく。

 

そうして再び五人がバーテックスの一団に目を向けた時、又もや変化が起き始めた。

 

一団の背後から、見覚えのある姿が再び現れてきたのだ。

 

「……乃木さん、あれ、ついさっき似たようなのを見た覚えがあるのだけど……」

 

「……奇遇だな、千景。私もついさっき同じ様なものを見た……」

 

表情を顰めた千景と若葉の言葉に、他の三人も同じように顔を顰める。

 

最初の球子と杏の合わせ技で吹き飛んだサソリ型、若葉に三分割された棘を撃つ大型、そして千景に風化させられた板状の物体を持つ大型。

 

それら三体が、再び出現したのだから。

 

「若葉さん……申し訳ないですけど、悪い予感がします」

 

「あいつらが再び現れた以上に、か?」

 

「……はい。あの再び現れた三体と、超大型が現れた後の他の大型の事なんですけど……中身が、空洞ではなくなっています」

 

「○○が腕を失った時に現れたサソリ型は、確か中身が空洞だったな……」

 

「強化された、という事かしら……?」

 

「そう考えて行動すべきです、千景さん」

 

悪い知らせにも慣れてきた勇者たちだったが、敵が強くなるなっている可能性が高いという知らせには、流石に閉口してしまう。

 

「さっきの三体、近づいて来るよ!」

 

友奈の言葉通り、先程までの戦闘で討ち取ったものが復活した三体が、再び押し寄せてきている。

 

「タマっち先輩、もう一度やろう!」

 

「……いいのか、あんず? 後の戦いに差し支えるんじゃないか?」

 

球子が疑問を呈するが、杏は静かに首を振った。

 

「まず、私達がこの距離から攻撃を仕掛けて、どの程度強化されているか見ておくべきだと思う。若葉さんたち前衛が至近距離からいきなり攻撃を仕掛けるより安全だし、これから攻める指針に出来ると思うから」

 

「なるほど、尤もな意見だな。だが、これから先は二人は無茶は厳禁だぞ」

 

「勿論です」

 

「だーいじょうぶだって、若葉。タマが絶対にあんずを守るからな!」

 

ニヤリと笑いながら言う球子に、若葉も苦笑しつつ言葉を重ねる。

 

「お前の事も言ってるんだぞ、球子。どうもお前は杏の事になると、無茶をしがちだからな」

 

「ふふ、言われちゃったね、タマちゃん?」

 

「ん、んーっとだなぁ……か、カンジョするって事で?」

 

「それを言うなら善処でしょう、土居さん……」

 

「あはは……」

 

全員が全員、最後の小休止と思っている時間に、軽口を叩き合う。

 

そして、球子と杏は再び合わせ技での射撃の準備を開始する。

 

暴風の力が込められた矢玉に、球子が雷撃の力を籠めていく。

 

他の三人が見守る中、静かに進んでいく行程。

 

やがて、再び溢れ返る寸前まで込められ、力が暴れ狂う矢玉の照準が、復活した三体の一団に合わせられた。

 

「いつでも良いぞ、あんず!」

 

「了解、タマっち先輩!――――発射しますっ!!」

 

そして、暴風と轟雷の力が込められた矢は解き放たれ、復活した三体に向けて風切り音と共に突き進んでいく。

 

だが、そこで三体の内の一体が行動を起こした。

 

自分達に向けられている矢の軌道に、自分を割り込ませ、他の二体に対して盾の様に立ち塞がったのだ。

 

今までにない動きに勇者たちに緊張が走った瞬間――放たれた矢は、立ち塞がった大型バーテックスに着弾。

 

戦闘開始時と同じく竜巻を思わせる暴風と、強烈な落雷を引き起こしてバーテックスを消し去らんとする。

 

それらは、容赦なくバーテックスを排除する――筈であった。

 

「嘘……」

 

「ぐっ……くっそぉ……っ!」

 

盾になった大型バーテックス――先程、千景が排除したものが復活した、板状の物体を持つバーテックスは、何の痛痒も見せる様子が無かった。

 

正真正銘の全力が、有効打を与えられずに終わってしまった。

 

それは、あの時の戦い――○○が右腕を失った、サソリ型バーテックスとの戦いを思い起こさせる状況。

 

更に、あの時とは違い、同様の強さと思われる敵があと八体、そしてそれより強大と思われる敵が一体と、絶望はあの時とは比べるべくも無い。

 

「球子、杏、よくやってくれた。……ここからは、私達の時間だ」

 

生太刀の鯉口を切り、何時でも抜刀出来るように体勢を整えつつ、若葉は膝を着いて息を荒げる球子と杏を労った。

 

「あの時のサソリ型もいるんだね……怖いけど、でも……私達は諦めないよ」

 

「私も、どうしようもなく怖い……けど、ここで逃げたら、○○に顔向けできないものね」

 

「ああ、その通りだ。――待っていてくれる○○と、ひなたの為にも……勝って帰るぞ!!」

 

その言葉と共に、三体のバーテックスへと駆け出す三人。

 

三体のバーテックスは、悠然とした速さで歩を進め、特に急ぐ様子も無い。

 

しかし、それすらも三人には威圧感を与える要素となっている。

 

だが、これまでの戦いの中で、少女たちは恐怖を飲み込み、己の糧としてきたのだから、そう簡単に気持ちが挫ける事は無い。

 

距離を詰めていく三人に、遂に大型バーテックスの一団が行動を起こした。

 

完全な姿となった、棘を矢の様に打ち出してくる大型――後の世で射手座と呼ばれる個体が、彼女ら目がけて攻撃を発射した。

 

これまでの様な単発の一撃ではない、矢の豪雨と言っていい様な、弾幕射撃。

 

「――――っ!! 何という攻撃を……っ!? 危ない、千景!」

 

「ぐんちゃんっ!」

 

「くっ……あっ!」

 

何とか間一髪で避ける事が出来た千景だったが、射手座の射撃は千景を若葉と友奈から分断してしまった。

 

未だに射手座の攻撃は続いており、止む気配が無い。

 

「くっ……しつこい、わねっ!」

 

滑る様な動きで、射手座の弾幕を避け続ける千景。

 

そのまま若葉と友奈に合流すべく進路を取り、若葉と友奈も散発的な射撃を避けながら射手座を攻撃して、これ以上の射撃を阻止しようとする。

 

そんな事を考えていた三人だったが……彼女たちの不幸は、本当の意味で完成したバーテックスの恐ろしさという物を、知らなかった事だ。

 

無論、どんなに調べても分からない事なので、彼女たちを責める事は出来ない。

 

だから、これは事故の様なもので、この事態を防げなかったのは誰の所為でもない。

 

懸命に、射手座の攻撃を避け続ける少女――千景は、そんな不幸の被害者となった。

 

「――千景ぇっ!!」

 

「――!? ぐんちゃん!!」

 

まず気付いたのは、自分も含めた三人全員に気を配っていた若葉。

 

彼女は、未だ行動を起こさない他の二体のバーテックスにも気を回していたが、その中でおかしな事に気付いた。

 

先程、球子と杏の攻撃をまともに受けて傷一つ無かった、板状の物体を持つ大型――後世で蟹座と呼ばれる個体の周囲に、例の板状の物体が無い事に気付いた。

 

走りつつ周囲に目を遣ると、その板がいつの間にか千景を死角に来るように配置されている事が分かり……ぞわりと、背筋に冷たいものが奔った。

 

これまで戦ってきた中で備わった勘が全力で鳴らした警鐘に従って、若葉は千景に向けて叫び、友奈も一拍遅れて気付いたのか、悲鳴のような声を千景に向ける。

 

「え――――っ」

 

一歩、遅かった――――結論としては、そう言うしかない。

 

千景の死角に回っていた板状の物体――反射板は、千景が紙一重で避け続けていた射撃を彼女に向けて反射させた。

 

千景が若葉と友奈の警告を聞いた時には、もう全てが手遅れとなっていた。

 

このまま貫かれると思われた千景――だったが、ここで運が彼女に味方した。

 

諦めない執念が彼女を限界以上に動かし、薄皮一枚と言っていい、真の意味での間一髪で避けさせることに成功した。

 

思わず息を吐く若葉と友奈、そして千景――が、奇跡もそこまでだった。

 

というより、射手座も蟹座も、最初からこれが本命の攻撃では無かったのだ。

 

彼らは、星屑の様に、無力な人間を一方的に殺戮する為の存在ではない。

 

神樹を、そしてそれらから力を与えられた存在を確実に抹殺するために、天の神が作り上げた超常の存在。

 

後の世において、星座級と呼ばれる事になる存在。

 

そんな存在が、勇者を……神樹の力を振るう人間を、確実に消し去る機会を逃がすはずが無かった。

 

間一髪避けたはずの反射射撃――それを、再び反射させ、その逃げ道は射手座が再度行なった射撃で塞ぐ。

 

さながら十字砲火を受けたような状態になった千景に、最早成す術は無かった。

 

「あ―――――がっ――――――っ!!??!?!?!?!」

 

何とか間一髪、攻撃を回避したと思ったら身体全体に激痛が奔っていた――千景は、そうとしか認識できなかった。

 

全身を針で滅多刺しにするような、気が狂う様な激痛に襲われたが、それは程なく消え失せた。

 

これ以上の痛みは精神が破壊されると認識した脳が、痛みをシャットアウトしたからである。

 

倒れ込む千景、広がっていく血溜まり――明確な、死を思わせる光景。

 

常人なら既に死んでいるだろうが、彼女は勇者で、今現在は強力な精霊まで降ろしているため、何とか命を繋いでいた――それが幸運か、それとも不運かは分からなかったが。

 

うつ伏せに倒れ伏し、首だけ横を向いた状態で、千景はひゅー、ひゅーと、風が鳴った様な音の息をしていた――虫の息、という奴である。

 

そんな状態の千景に、射手座は追撃を――しなかった。最早あの人間は、脅威に成り得ないと認識しているのだろうか。

 

「ぐんちゃん!!」

 

「千景!! 友奈、千景を――ぐっ!?」

 

千景の事を友奈に託そうとした若葉だったが、そうはさせまいと射手座がその攻撃の矛先を彼女に向けた。

 

雨霰と降り注ぐ射手座の射撃に、大天狗の飛行で何とか着いて行っている若葉だが、友奈に言葉を伝える余裕も無い。

 

しかし、若葉の意を汲んだのか、友奈は千景に向けて走り出した。

 

それを見てホッとした若葉だったが、次に視界に入ったものを見て顔を顰めた。

 

「ぐんちゃん、今助け――っ?!」

 

ぞっとした感覚のままに後ろに飛び退った友奈の眼前に、数珠を繋いだような尻尾の大型――後世で蠍座と呼ばれる個体の尻尾が叩き付けられた。

 

大地をすら大きく揺さぶる勢いで叩き付けられたそれは、例え勇者だとしても、まともに喰らえばただでは済まないと想起させるには充分すぎる。

 

あの時、友奈に敗れた蠍座が、完全な状態となって再び彼女の前に立ち塞がった。

 

「くっ……早くぐんちゃんを助けないといけないのに……っ」

 

今も彼女の視線の先には、血溜まりに倒れ伏し、浅い呼吸を繰り返している親友が映っている。

 

友奈は焦りを募らせ、拳を握り締めると――そのまま真っ直ぐに蠍座へと突っ込んでいった。

 

普通ならば絶対にしないはずの、フェイントも何もない愚直な突撃。早く千景を助けなければ――そんな焦りに捉われてしまったが故の、無謀な行動。

 

そんな絶好の、攻撃の的になるしかないと思われた友奈に対し、蠍座は無慈悲な一撃を――加えなかった。

 

それ所か、友奈の前に立ち塞がって進路を邪魔する以外は何もしない。

 

「勇者ぁっ……パ――――ンチッ!!」

 

そんな、友奈の全力を籠めた渾身の一撃は、蠍座を――――打ち砕かなかった。

 

それ所か、球子や杏の時と同様に、何の痛痒も与えたように見えない。

 

ただ、友奈が千景を助けに行く邪魔をするのみ。

 

「一回で無理なら、何回でも……効くまで繰り返すっ!」

 

その言葉通り、拳の連撃を蠍座に浴びせかける友奈。

 

何回も、何回も――眼前の敵を排除するまで、何度でも。

 

「はぁ、はあ……何で、どうして……っ?!」

 

酒呑童子の力を宿した友奈の攻撃が、全く効いていなかった。何度攻撃を加えても、少しの効果すら無い。

 

そして、更に焦りを募らせた友奈に対し、蠍座はついに動きを見せた。

 

焦りで隙を見せた彼女へと、その巨大な尾を振り下ろしたのである。

 

「あっ……いぎっ!? がっ……ぐぅ!!」

 

その巨大な手甲で何とか受け止めたが、尾の質量と勢いを同時に受けている訳で、長くはもたなかった。

 

「う、あっ……腕、が、ぁ……! ――――がっ……うあぁ……っ!?」

 

衝撃を何度も受けた腕は、ついには上げていられなくなり、防御できなくなった友奈は横薙ぎに薙ぎ払われた尾の一撃をまともに喰らい、盛大に吹き飛ばされた。

 

「う、あぐ……ぐん、ちゃ、ん……い、行か、ない、と……っ」

 

仰向けに倒れ、自身も激痛に苛まれながらも、それでも親友を助けるべく起き上がろうとする友奈。

 

鈍い動作で何とか起き上がろうとする彼女を睥睨していた蠍座は、自身の尾を、そしてその先端にある尾針の照準を彼女に向けた。

 

そして、尾を振り上げ、その先端にあった尾針は――――狙い過たず、起き上がろうとした友奈の腹部を貫いた。

 

「えっ……?」

 

ズドン、と……人を刺したとは思えない位の轟音が鳴り響く。

 

まるで他人事であるかのような声を漏らした友奈だったが、ようやく認識が追い付いてきたのか、その表情が苦痛に歪みだした。

 

「あ、あっ……うあああああぁ……っ!」

 

友奈を刺した蠍座は、彼女に尾針を刺したまま尾を持ち上げ、そのまま空中まで持って行く。

 

「……っ! …………ッ!?」

 

最早苦痛の余り声すら出せず、口をパクパクとさせるしか術のない友奈。

 

それでもその瞳は蠍座を睨みつけていたが、そんな彼女に斟酌する様子も無く、蠍座は高々と彼女を掲げた後、勢いよくその尾を振り切った――――まるで、友奈を投げ捨てるかのように。

 

凄まじい速度で空中に放り出された友奈は、そのまま地上へと激突、砂埃を上げながら何度も地面を跳ね跳び、ようやく止まった。

 

「ぅ…………ぁ…………っ」

 

力なく地に横たわる彼女からは、普段の快活さの一切が失われていた。

 

自身が助けようとした親友と同じ様に、か細い虫の息を零すのみ。

 

腹部に空いた大穴、そして地面に衝突した際の衝撃で、全身の骨という骨に異常を来たしている。

 

最早、自力でどうにかなる限度を完全に超えていた。

 

そして、若葉はというと――

 

「くっ、はあ、はあ……っ」

 

「ちっくしょうめぇ……!」

 

「お願い、効いてええぇー!」

 

友奈と千景の二人から引き離した射手座と蟹座相手に、散々な苦戦を強いられていた。

 

合流してきた球子と杏も加わり、かなりの勢いで攻勢をかけたのだが、未だに有効打はゼロである。

 

二体のやっている事は、単純の一言に尽きる。

 

ただ若葉たちを狙い撃ち、先回りして死角に反射板を配置し、避けられないと思われる方向から奇襲染みた反射射撃を行う。これだけだ。

 

ただし、それを行なっている存在の強大さにより、若葉と球子、杏の三人はまるで猫に弄られるネズミさながらである。

 

しかも、相手が強大過ぎて窮鼠になる事すら無意味ときている。

 

それでも何とか持ちこたえていたが……友奈が致命傷を受け、それに三人とも気付いた。

 

「友奈っ!? 若葉、友奈が……っ!」

 

「くそっ……友奈、千景……っ!」

 

「友奈さん、千景さん……っ!」

 

致命傷を負い、命の危機に瀕している仲間の存在が、三人から冷静な思考を少しずつ奪っていく。

 

そして、ついにその時が来てしまった。

 

「――――つぅっ!?」

 

今まで散々無理をして飛んできた若葉の身体に、ついにひずみが生じてしまった。

 

その痛みで空中で一瞬動きが停止し、そこに射手座の射撃が降り注ぐ。

 

「ぐっ、おおおおおおおおおおっ!!」

 

手にした生太刀を振り回し、射撃を斬りはらうという神業を見せる若葉だったが、そこで力尽きてしまった。

 

何とか身体の重要な部分は守り切ったが、機動力の要である翼は射撃で穿たれてズタズタになり、そして何より――

 

「若葉さん、腕が……!」

 

「ホントだ、血塗れになってるぞ!」

 

「ぐっ……本格的に、まずいな……」

 

若葉は、両腕共にズタズタにされ、もう太刀を握れるほどの握力が無かった。

 

手から零れ落ちた太刀を拾おうとしても、まるで力が入らずに再び落としてしまう始末である。

 

だが、そんな状態だからと言って敵が手加減してくれるはずも無く、むしろ熾烈な攻撃を仕掛けてくるようにすらなっている。

 

「うあああああああああっ!!」

 

「球子!?」

 

「タマっち先輩!?」

 

三人目がけて豪雨のように降り注ぐ射手座の射撃を、旋刃盤をかざして何とか弾いていく。

 

ただし、友奈と同様に腕への負担が半端ではなく、後が続かない方法でしかない。

 

それでも、もともと防御に使えるものなので、友奈より多少マシではあるが。

 

「へ、へへっ……何だよ、この程度かぁ……?」

 

不敵な笑みを浮かべ、射手座を見遣る球子。

 

それに対する返事の様に、無慈悲な射撃の嵐を加える射手座。

 

既に球子の脚はがくがくと震えており、いつくずおれてもおかしくない状態だが……それでも、彼女は立ち続けている。

 

大切な仲間を、友だちを守るために。

 

そんな想いを胸に、気力だけで立ち続ける……だが、それにも限界という物は必ず訪れる。

 

「球子!」

 

「タマっち先輩!」

 

ついに腕が上がらなくなり、膝まで着いてしまった球子を、若葉と杏が両側から支える。

 

「ごめ、ん……も、うで、上がんなくって……」

 

悲痛な表情で謝罪する球子に、二人も同様の表情で首を横に振る。

 

「ぐ、おおおおおおおおっ!!」

 

何とか仲間を守ろうと、若葉は限界を超えた力を振り絞って太刀を拾い上げるが、拾えただけでしか無く、何が出来る訳でもない。この状況を覆すなど、とてもではない。

 

「ふ……ぐぅ……っ」

 

極限まで追い込まれ、それでも心は折れずにいた杏の頬を涙が伝う。

 

引き結んだ口から悔しさに、無念さに溢れた声が零れ落ちるが、それを気にする余裕も無い。

 

ぽろぽろと涙を零しながら思う事は、残してきた友達と、想い人の事。

 

「ごめん、なさい、ひなたさん……私たち、勝てな……っ……ひ、ぐ……っ」

 

自分たちが勝てる様に、何より生きて帰れるように全力を尽くしてくれた。そんな彼女の思いに応えられなかった。

 

「○○、さん……偉そうに、あんな事、言って……待って、もらってたのに……っ」

 

涙で歪んだ視界に、幻の様に○○の姿が浮かんだ。

 

心も身体も打ちのめされ、弱り切った心が見せた、都合のいい幻影だろうか。

 

でも、たとえ幻だとしても、最期に好きな人に会えてよかったと、杏は心から思った。

 

それでも、あの時自分を助けてくれたヒーローを求める心は止められず――愚かしいと思いながらも、こんな言葉を口走ってしまった。

 

「みんなを、助けて……!」

 

眼前に迫る、射手座の射撃――ああ、これで終わっちゃうんだと、全て諦めて受け入れようとした杏。

 

「――――助けてってのは、冗談だったのかな?」

 

聞こえるはずの無い声が耳に飛び込んできて、思わず目を開けた。

 

自分よりも背の高い、しかし少年らしい線の細さを残した背中。

 

「――――――ぁ」

 

思わず漏れ出たか細い声は、彼が射手座の射撃を弾きとばした音に紛れて消えていく。

 

「なん、で……」

 

「どうして、ここに……」

 

球子と若葉も、信じられないようなものを見た表情で呆けている。

 

射手座の射撃を完封した○○は、少し困ったような笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「あー、うん……神様の御加護……?」

 

命懸けの戦場に相応しくないような語調だったが、そんな当たり前のような調子で紡がれた言葉に、若葉も球子も緊張の糸が切れ、涙を零しながら○○に縋った。

 

「ふ、ぐっ……○○っ……千景が、友奈がっ……私の、私の、せいで……うああぁ……っ!」

 

「ごめ、ごめん、○○……みんなの事、守れな……っ!」

 

「うん……うん……でも、ちーちゃんと友奈は大丈夫だから、安心して?」

 

思わず顔を上げる若葉と球子に対し、指で方向を示す。

 

すぐ近くに寝かされていた千景と友奈は、とても命に係わる様な重傷を負っている様には見えず、実際安らかな寝顔を見せている。

 

「かなり血を流したみたいだから、安静が必要なのは確かだけど……すぐに命の危機がどうこうって事は無いはずだから――――って!!」

 

千景と友奈の無事を説明していた○○諸共攻撃すべく、射手座が容赦なく攻撃を加えてくる。

 

結界を敷いて射撃を防いだが、話の邪魔をされて煩わしい事この上ないと云った表情である。

 

「ったく、喧しい奴だな。……ごめん、説明は帰った後にした方が良さそうだね」

 

「○○、だがお前は――」

 

攻撃手段が無い事について若葉が言及しようとしたが、○○は手を翳してそれを止めた。

 

「まあ、何とかするよ。――という訳で、皆のを貸してね?」

 

「え……一体、何を……?」

 

杏の疑問には答えず、少女たちの武装を借り受けると、テキパキと身に着けていく。よくよく見れば、千景の大鎌は背に負っているし、友奈の手甲も腰に吊るしている。

 

そして、一通りそれらを確かめた○○は、鋭い目つきで射手座と蟹座、蠍座を睨んだ。

 

「取り敢えず、ご挨拶に一発ぶち込みましょうかね」

 

そう言って蟹座の反射板にクロスボウを向けると、そのまま引き金を引いた。

 

無造作に放たれた矢は、だが的確に反射板を捉え――――的中すると同時に、それを粉砕した。

 

『――――――――――』

 

余りの光景に、若葉も球子も杏も言葉を失った。

 

自分たちがあれだけ攻撃を加えてもビクともしなかったあのバーテックス達に、一撃であれだけのダメージを与えるなんて、とても信じられないと。

 

しかし、現実は彼女たちに余りに都合が良い光景を映し出している。

 

その後も、反射板を釣る瓶打ちにして破壊した○○は、蟹座の本体にクロスボウを向けた。

 

が、蟹座本体はその重厚な装甲のお陰か、クロスボウでも穿てない。

 

「成程……流石に固いな」

 

射手座の射撃に晒されつつも、余裕を持ってそれを避けながら、○○は一人呟く。

 

そこでまた、信じ難い事が起きた。

 

何事かを念じる様に○○が呟いた瞬間、彼の右腕に半透明の腕の様なものが生じたのだから。

 

○○はその腕の具合を確かめると、生太刀の鯉口を切り、居合の体勢に入った。

 

「――――――――――ふっ」

 

そうして構えを取ると、一つ息を吐いた瞬間に一気に蟹座に近づいて刀を抜き放ち、そのままの流れで鞘へと納めた。

 

数瞬、蟹座は動きが停止していたが……やがて、幾つかの切断面からバラバラに崩れ、そのまま跡形も無く消滅した。

 

「ん……そうですか、婿殿は大切に扱っていたのですね。……自分の義理の息子なのだから、それ位は当然? ふふ、厳しいですね」

 

何やら彼がとんでもないことを話しているような気がしてきた杏だが、意図的に意識から外す事にした。真剣に考えると、とんでもない仮説を思いつきそうだからして。

 

その○○の不意を突いて、蠍座が彼の背後から串刺しにしようとしてきたが、背負っていた千景の大鎌が自動で迎撃してその尾針を弾きとばした。

 

間髪入れずに蠍座の懐に飛び込んだ○○は、装備した友奈の手甲をその尾に全力で叩き付けた。

 

握り込まれた拳が蠍座の表層を打ち砕き、粉々になった体組織が零れ落ちていく。

 

何とか尾を振り回して○○を排除しようとする蠍座だったが、彼はあっさりとそれらを躱すと隙だらけになったその尾に打撃を叩き込んでいく。

 

ついには完成する以前の様なスカスカの体内に逆戻りしてしまい、くずおれて消え失せる事になった。

 

「ふう……これで一段落か」

 

少女たちをあれだけ苦しめた三体を短時間で片づけた○○は、超大型を中心に遠くに展開している残りの大型バーテックスを見遣った。

 

そして、未だ動かないそれらの一団を前に、なにやら独り言を呟き始めた。

 

「ええと……はい……はい……分かりました。確かに伝えましょう」

 

そして今度は、不可解な言葉をバーテックスの一団に……いや、その奥に居る何者かに投げかけ始めた。

 

「なあ……お人形遊びがだ~い好きな根暗クソ姉貴よぉ? もういい加減にしねぇ?」

 

いきなりそんな事を言い始めた○○に、事態を見守っていた若葉たち三人は呆気にとられた。

 

普段の彼とは余りに違う口調に戸惑ったが、杏は先程の彼の独り言から、この言葉は○○が誰かの言葉を忠実に告げているのだと気づき、若葉と球子にもそう伝えた。

 

「あと姉貴の太鼓持ち共もな。何考えてんだろうなぁ……いや、何も考えてねぇか。何せ太鼓持ちだもんな、鉢で叩いたらいい音がするくらいには、頭空っぽなんだろうさ」

 

くっくっく、と心底可笑しそうに笑っている○○。演技が忠実すぎやしないだろうかと心配になってくる若葉たち三人。

 

「てなわけでまぁ? クソ姉貴には愛想が尽きたから、オレは嫁とか娘、あとついでに義理の息子のトコにお邪魔するんで。そこん所よろしく。……あ、もしオレの事が怖かったら、また穴蔵に引きこもってもいいからな? ま、趣味の悪~いお人形で、弱い人間をいたぶるしか能のない根暗姉貴はさぁ、引き籠りしながらかまってちゃんをやってんのが相応し、どわったぁ!!?」

 

誰かに対する聞くに堪えない罵詈雑言を並べ立てさせられていた○○だったが、それは強制的に中断させられた。

 

超大型バーテックスが一瞬光ったと思うと、巨大な高速の火球が○○目がけて放たれたのだ。

 

球子の旋刃盤で何とか軌道を逸らし、上空に向けて打ちあげたが、間一髪と云った風情だった○○は何者かに抗議していた。

 

「言うのは俺なんですからね!? 攻撃の的にされるのも俺なんですよ!? ……力の代償? ……今適当に思いついた事言ってますよね? ……無視ですかそうですか」

 

溜息をついた○○は視線を超大型へと移すが、再び何らかの動きを見せ始めたそれに、警戒感を露わにする。

 

険しい表情で超大型を観察していると、他の大型バーテックスを取り込み、力を増していく。

 

そして、他の全ての大型バーテックスを取り込んだ超大型――後世で獅子座と呼ばれるそれは、その威容を露わにした。

 

こうして離れていても威圧感を感じる程で、気を抜けば膝が砕けそうなほどにジリジリとした空気を感じる。

 

その合体した獅子座の周辺に、何やらポツポツとした明かりの様なものが灯り――――次の瞬間には、全てを飲み込み、焼き尽くすかのような極大の火球が○○へ向けて放たれた。

 

高速で○○へと接近するその火球を、避ける――――事は出来ない。

 

躱せば、そのまま遮るものも焼き尽くしながら神樹に向かってしまう事が分かっているのだから。

 

何とか劫火球を受け止めた○○は、自身の力による結界と、神の加護によって一時的に使いこなせるようになっている少女たちの武装の内、球子の旋刃盤を展開して被害が出ない方向へと逸らそうと試みる。

 

「ぐっ……おあああああああああああっ!!」

 

身体が焼ける様な熱を感じつつも、何とか間一髪で被害の出ない方向へと火球を逸らせたが、こんな曲芸染みた事を何度もやれるものでは無い。

 

「はあ、はあ……やっぱり、そうするしか無いですか……」

 

疲弊した様子を見せながらも、力強く頷いた○○。

 

決意の色を瞳に宿して、生太刀を抜き放ってそれのみを携える。

 

「何をするつもりだ、○○……?」

 

尋常でない様子の○○に、不安に思った若葉が問いかける。

 

「このままじゃ、ジリ貧だからさ。――――合体したあの超大型を倒すしかない」

 

「それは……その通りですけど、でも……!」

 

○○の危険を考えて言い募ろうとした杏だったが、手を翳した○○の仕草に、口を引き結んで言葉を飲み込んだ。

 

あの規格外と思われる合体バーテックスを放置する事は、絶対に出来ない。それをすれば、人類の終焉と同義である。

 

少女たちから視線を外した○○は、そのまま超大型へと視線を移してしかと見据える。

 

一瞬の静寂――――そしてそのまま、弾かれたように超大型へ向かって駆け出す。

 

背後に置いてきた少女たちが小さくなっていく中、○○の背中へと球子の声が掛けられた。

 

「絶対、ぜっっっったいに帰って来いよ――――ッ!!」

 

皆が待っていてくれるなら帰って来られる――その心の中で思った○○は、そのまま限界を超える速さで駆け続ける。

 

声も無く、ただ歯を食いしばって、ひたすらに目標を見据えて。

 

当然の如く、超大型から迎撃の火球が放たれるが、本来の持ち主の影響で全力を発揮している生太刀は、火球すら切り伏せる。――が、○○自体は至近での火球の爆発に、そう何度も耐えられるものでは無い。

 

切り伏せるものは最低限に絞らねば、超大型の元に辿り着く前に倒れ伏すことになる。

 

回避し続け、どうしようもないものだけ切り伏せる。

 

そうして駆けて駆けて、駆け抜けたその先――超大型を、ついに射程へと捉えた。

 

「はあああああああああっ!!」

 

裂帛の気合と共に跳躍し、その巨体へと生太刀を叩き込む。

 

「ぐっ……あ、づ…………っ!」

 

至近まで潜り込まれた獅子座は、体表から膨大な熱を放出して自身に纏わりつく、小さくも驚異的な人間を振り払おうとする。

 

「ぐうううううぅ…………っ!」

 

熱で身体が焼けるが、そんな事はどうだっていいとばかりに叩き込んだ生太刀を獅子座の体にめり込ませていく。

 

「俺の力が足りないのなら――――――持って行ったって良い! ……だから、力を! 俺にもっと力を!!」

 

その声に応えたのか、生太刀が眩い光を放ち、獅子座の体にさらにめり込んでゆき……○○の両脚の感覚が消失した。

 

ガクンとバランスを崩しそうになるが、何かしらの力が働いたのか、攻撃の体勢を崩すことはせずに済んだ。

 

「まだだ、まだ足りない……っ! もっと、もっと、もっとだ!」

 

生太刀が更に輝きを放ち、獅子座の体を断ち割らんばかりの罅を入れ――――○○の呼吸が止まった。

 

「――――――ッ。か、はっ――――――う、げほ……っ!」

 

数瞬、強制的に止められた呼吸は、何らかの力の影響か、正常に持ち直した。

 

「ぐおああああああっ! まだまだぁ…っ!」

 

獅子座の体に入った罅が、更に広がりを見せていく――――○○の心臓の鼓動が停止した。

 

「――――――ッ。ぐ、きぃ…………っ!? くはっ……ぜっ、はー……流石に死んだかと思った…………っ!」

 

鼓動も同様に、何らかの力を受け、正常に戻るが……それは呼吸共々、本来臓器が持つべき役割を他が代替しているに過ぎないものであった。

 

「ぐおおおおおおおお……っ! まだだ……何度でも、何回でも持って行けばいい! こいつを倒すまで!!」

 

その声と共に破砕音が響き、生太刀が更に獅子座の体内にめり込んでいく――――そして、○○は光を完全に喪失した。

 

「うっ……ぐ、あ……もう少し……あと、少し、で……こいつ、を……っ」

 

だが、ここに来て○○の身体に限界が訪れていた。

 

短時間で、複数回にわたって自身の身体を捧げた弊害か、それとも以前からの蓄積か、あるいはその両方か……。

 

生太刀を弾きとばそうとする獅子座の抵抗を抑え込んでいるその腕に、限界が迫っている。

 

「く……そぉ……俺は、結局……っ」

 

――また、護ると誓ったものを、護れないのか……?

 

そんな考えが頭を過ぎり、絶望に沈みそうになる。

 

獅子座からの抵抗を抑えこめず、生太刀を握っていられなくなると思われた……その直前。

 

 

 

 

 

○○の左手に、二つの何かが添えられた。

 

 

 

 

 

「これ、は……」

 

知っている……○○はこれを知っている、覚えている。

 

年頃の少女にしては硬くて、しかし多くの人の命をその手で守り、大地からの命を育んできた優しい手。

 

必至に自分の出来る事を探しつづけ、嫌いな自分を抱えながらも自分のやるべき事をやり抜いてきた手。

 

自分と共に、あの地で戦ってきた二人の手。

 

目が見えなくなった○○には見ることは出来ないが、すぐ隣に二人が居るのを感じる。

 

 

 

 

 

『ネバーキブアップ、○○君! 私たちが着いてるわ!』

 

『○○君は負けないよ! だって……私たちのヒーローだもん!』

 

 

 

 

 

懐かしい……もう会えないと思っていた二人の声が聞こえ、左手の震えが止まる。

 

限界を超えた力が湧き出て、生太刀を更に押し込んでいく。

 

「ははっ……神様、見てますか? ……確かに、人間は弱くて、どうしようもないほどに愚かなのかもしれません。でも――」

 

更に力強く生太刀を握り締め、力いっぱい押し込むと、獅子座の方から更にひび割れが奔り出す。

 

「でも、神様には無い力があるんですよ。……そして、これが――」

 

獅子座のひび割れから光が奔り出し、膨大な力の奔流が溢れ出してゆく。

 

「これが……! 人間の心の、魂の力だあああああああああああああ――――――っ!!」

 

渾身の力で押し込まれた生太刀の刀身が完全に埋まり、その身に宿した膨大な力を解放して、内側から爆発するような勢いで獅子座の体を崩壊させていく。

 

その力の奔流に、今度こそ吹き飛ばされた○○は、左手に感じていた二人の少女達と手を握り合う。

 

あの時言えなかった……最期の別れを、告げる為に。

 

「ありがとう……歌野、水都……」

 

万感の思いを込めて……

 

「さようなら……」

 

○○の瞼の裏に、かつて少女達と笑い合った光景が浮かんでは消えていく。

 

そんな何気ない、普通の日々こそが……いざという時の支えとなるのだろうと。

 

そんな事を思いながら、○○は二人の手をゆっくりと離した。

 

それと同時に、○○の意識も薄れていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『――ずっとずっと、キミの事を想っています』』

 

最後にそんな言葉が聞こえたのが現実なのか、幻なのか……意識が飛んでいた彼には、もう分からなかったのだった。




千景の切り札・玉藻前は、のわゆ下巻後書きからそんな文があったので採用しました。……が、玉藻前について調べていると、千景の切り札として誂えたかのような意見を見つけて唸りました。
大体が傾国の美女、権力者を堕落させる悪女とあったのですが、ある意見の中に『愛情を求め、運命に翻弄された悲劇の女性である、とする説も存在する』という趣旨の記述があり、目ん玉かっ開きました。……まんま千景じゃんかよコレェ!(白目)

球子と杏の切り札、風神と雷神は他三人の妖怪に知名度で負けていないものを手当たり次第に探した結果、これが二人には一番嵌まるだろうなと思い選びました。風神と雷神は二つでワンセットみたいな風潮もあるので、尚更球子と杏にはいいかなぁ、と。

難易度の急上昇は予定通り。
西暦に神世紀のバーテックスが現れたらそりゃあ歯が立ちませんって(真顔) 犠牲マシマシの主人公以外は!
そして、スタクラがラスボス。FEをやっていたら、いきなりスパロボ並みのダメージを叩きだすユニットが登場したようなもの(白目)
……無理ゲーですな。

そして、主人公に多大な影響を与えた諏訪二人組の再登場(?)
以前から、というかのわゆ編をやろうと決めた時から、これは絶対にやろうと決めていたので満足しました(イイ笑顔)
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