この位の間隔での投稿がデフォになりそうな作者です。
それと、今回で最終話のつもりでしたが……終わらなかったorz
という訳で……もうちょっと、あと少しだけお付き合いください(懇願)
「ふふ……懐かしいな」
○○の居る病室で、絶望的な未来予想図を聞かされてから数日が経ったその日。
その日、○○の世話役では無かった若葉は、自宅から持って来ていたり、ひなたから渡されたりしていたアルバムを引っ張り出し、過去の自分たちの姿の懐かしさに笑みを浮かべていた。
「そうですねぇ……今でも、昨日の事みたいに思い出せます」
その隣には何時もの如くひなたが座っており、一緒にアルバムを覗き込んでいる。
二人でパラパラとアルバムを捲りつつ、思い出話に華を咲かせていく。
そうなると、今の二人の、いや、彼女たち全員の心の状態を考えれば、話される事柄はある事に集中してしまう。
「これは……四年生の時、私達と○○の三人でうどんを作ってみた時の写真か」
「ああ、あの時の。楽しかった事は楽しかったですけど……うどんの出来は、正直微妙でしたよねぇ……よく覚えています」
「ああ、アレかぁ……まあ、何というか……うん、コメントに困る味だったな。不味くはなかったが、かといって美味い訳でもなく……こうして改めて考えると、本当に言葉に困るな……」
曖昧な表情で笑っているひなたと同様に、若葉もその時のことを思い出したのか、何とも表現しづらい微妙な表情で頷いた。
「それにしても……あの事件の後からだな。ひなたが○○と仲良くなったのは」
「えっ! ……え、ええっと、そうでしたっけ?」
不意に放たれた若葉の言葉にひなたが一瞬だけ上擦った声を上げるが、何とかそれだけで気持ちを静めてとぼけた様に若葉に問い直す。
「写真を見れば分かるさ。事件前は真ん中に私がいて両側がひなたと○○だったが、事件後は中央に○○がいて、両側を私たち二人で挟んでいる写真がほとんどだからな」
「ほ、本当ですね……気付きませんでした……」
思わぬところで自分の気持ちを見抜かれた様な気がして、何とも恥ずかしい気持ちになってしまうひなた。
その後も、自分たちの、そして○○の昔の思い出を話していく若葉とひなた。
楽し気に話し続ける二人だったが、不意に若葉の口が閉じられ、僅かにその顔が俯けられた。
「若葉ちゃん……?」
そんな彼女に対し、ひなたが心配そうな表情で様子を窺う。
「本当に……本当に、楽しかった……○○とひなた、そして私の三人で過ごした一年間。それに、五年生の七月のあの日の事があって、もう二度と会えないと思っていた○○と再び会う事が出来て、本当に嬉しかった……」
ぽつぽつと……静かな、しかし心の籠もった優しい声音で話す若葉。
「○○が勇者になっていると聞いた時は驚いたが……勇者の条件は人間が推測しただけのものだから、そういう事もあるのだろうと深くは考えなかった。むしろ、一緒に戦える喜びの方が強かったと思う」
「……」
ひなたは黙って若葉の独白を聞いていたが、そこで若葉の声に悲痛なものが混じり始めた。
「これは……私への罰、なんだろうか……」
「……若葉ちゃん?」
「○○が勇者になった事を喜ぶ心が私の中にあったから……今の状況を招いたのだろうか……」
若葉の声に震えが混じり、自嘲気味になっていく。
「次第に強くなっていくバーテックスに効果的な手段も打てず、ただ対処療法的に、攻めてきた奴らを倒していくだけ……無為もいい所だな」
「それは違います! 若葉ちゃんを始めとして、勇者の皆さんがその命を賭けてバーテックスと戦ったから今の四国が保たれているんです! そんな……今までの若葉ちゃん達の頑張りを否定するのは、例え若葉ちゃんだとしても言ってはいけません!」
「気休めは止してくれ、ひなた……!」
「気休めなんかじゃ――!」
「大切な人の一人すら守れなくて、何が勇者だッ!!」
「……ッ!?」
ほとんど怒鳴る様な勢いで声を荒げた若葉に、彼女を叱咤しようとしていたひなたの言葉が止められる。
悲壮感に顔を歪ませた若葉は、ひなたの悲し気な表情に気付き、ハッとした表情になるとそのまま更に顔を歪めた。
「す、済まない、ひなた……お前に当たるなんて、私という奴は本当にどう仕様も無いな……」
「そんな事は……」
ひなたの言葉にも、若葉は首を振るのみ。
「ここに来てからの○○は、本当に……物語の中に登場する『勇者』そのもので……そんなあいつの姿を見ていたら、昔の……ひなたを誘拐から守ってくれた、あの時の姿を思い出してな。それで、アルバムを見てみようって思ったんだ」
「そうだったんですか……急に私に、昔の写真を見せて欲しいと言ってきたから何事かと思ったんですが……そんな理由が」
いきなり話が変わったが、ひなたは若葉の話を遮ることなくその言葉を聞いていく。
「昔の事を思い出していたら、○○は昔から私達にとって勇者だったんだなぁと思ってな……ひなたは余計にそう思うだろう?」
「そうですね……あの誘拐未遂の恐怖は未だに覚えていますけど……それでも、○○君が身体を張って私を助けてくれたあの姿は、今でも忘れられない……いえ、忘れたくない事の一つですね」
ひなたが懐かしそうに語ると、若葉もこくりと頷く。
「そんな風に、○○の事ばかり考えていたからだろうな……今まで気付かなかった事に気付いて……自分の事ながら呆れたよ」
「……」
若葉の言葉の続きが何となく予想できたひなたは、やっぱりそうだったかと思うと同時に、こんな風に気付くなんて余りにも残酷だと、親友の心の内を慮って涙が出そうになった。
「私は、自分が○○に……あいつに、憧れてるんだとばかり思っていたんだが……どうも違ったらしい」
自嘲気味に嗤っている若葉は、そのまま言葉を紡いでいく。自身へ向けた、嘲りの言葉を。
「私は――あいつが好きだ。……いや、好きで好きで仕様が無くて、これから先もずっと○○の隣に立って歩んでいけたらどんなに幸せだろうかと、そんな風に思ってしまった……」
「若葉ちゃん……」
泣き笑いの様な表情の若葉に、ひなたも慰めの言葉を持たない。何を言っても若葉の心には届かない様な、そんな気がしたから。
「だが、そんな贅沢な悩みとはもう関係ないからな……。私は、あ、あいつを……この手で……ッ」
若葉の瞳に涙が浮かび、その声が詰まり、途切れ途切れになってゆく。
「○○を……あいつの、い、命を……ッ」
「若葉ちゃん、もういいんです!」
ひなたは止めようとしたが、若葉は激しく頭を振ってそれを退けた。
「あいつを、この手で――この手で、殺し! そうして四国を守り! 勇者としての責務を……責務、を……は、果たさな、けれ、ば…………う、ぐ……ぐぅ……ッ」
若葉の瞳に浮かんでいた涙が遂に零れ落ち、それが呼び水となって止め処なく流れていく。
「う、う……あああああああああぁぁっ!! なん、で……! どうし、て……! 好、き……○○……なのにっ……いや、だっ……!」
「若葉、ちゃん……」
自分の気持ちに気付いたその瞬間には、愛する人の死が望まれ、確定されている。それも世界が存続するための、人柱として。
その上、その愛おしい人に、直接の死を与えるのが自分自身なのだから。
嗚咽を漏らす若葉に対し、流石のひなたも咄嗟に言葉が出ない。
どんな慰めの言葉も、今の若葉にかけるものとしては相応しくないと、そう思えたから。
結局、ひなたには親友と同じ思いを共有し、一緒に泣く事ぐらいしか出来なかった。
「若葉ちゃん……これから、○○君に会いに行きませんか?」
「○○にか? だが、私は……」
二人でひとしきり泣いた後、ひなたがそんな事を言い、若葉は戸惑いながら顔を上げた。
「大丈夫ですよ。今回の事があるからと言って、○○君が若葉ちゃんの事を遠ざけたり、嫌いになったりすると思いますか?」
「それは……無い、のだろうか……?」
「あり得ませんね。むしろ若葉ちゃんが塞ぎ込んでいるなんて知ったら、罪悪感を抱くに決まっています! ですから、自信を持って下さい! ……それとも、若葉ちゃんは○○君に会いたくありませんか?」
「そんな事は無い! 何時だって、どんな時だって……○○に会いたいさ」
「それじゃあ問題ありませんね? では早速行きましょう。善は急げ、ですよ!」
「わ、分かった、分かったから押すな!」
困り顔の若葉の背中を急き立てる様にひなたが押し、彼女たちの部屋を後にする。
会う事による気まずさや困惑より、嬉しさや楽しさが優っている事に気付いた若葉は、自分はこんなに現金な人間だったのだなと呆れ交じりに思ったが、それでも心は偽れなかった。
――早く○○に会いたい、と。
「さて、今日も○○君は元気でしょうか?」
「いつ行っても、変わらない雰囲気だからな……弱音とか、零してくれてもいいんだが」
「そこまで踏み込んでも良いのか、難しい所ですね……。でも今は、難しい雰囲気は切り上げましょう。○○君が心配しちゃいますし」
「そうだな。この頃は、私達の雰囲気まで察する様になってきているし……」
「目が見えないから、第六感的な部分が鋭くなっているのでしょうか?」
そんな他愛も無い話をしつつ、病院の廊下を歩き、○○の特別病室へと近づく若葉とひなた。
そして彼の部屋に着く直前の曲がり角で、今日の世話役に付いている二人と鉢合わせた。
「あれ、若葉ちゃんにひなちゃん? どうしてここに?」
「……今日は私達が当番の筈だけど。何か○○に用事かしら?」
今日の○○の世話係の友奈と千景が、急にこの場に来た若葉とひなたに問い掛ける。
「ああ……まあ、その……○○に急に会いたくなってな」
「私はお供です」
「ふぅん……ま、今のあなたの立場なら、○○を遠ざけるか、何時もより会いたくなるかのどちらかでしょうけど」
「じゃあ、一緒に行こうよ。付き添いの泊りは二人までしかダメみたいだけど、面会時間終了まではお話もできるし」
そんな感じで合流した二組四人は、○○の部屋へと歩みを進める。
しかし、若葉と千景の間に微妙な空気が生じている事に、ひなたと友奈の二人は気付いていた。
○○が死んでしまう事について、六人の誰もがショックを受け、納得など到底できないでいるが、千景はその感情が一際大きい。
幼き日の事が根底にあるその感情によって、介錯同然の頼みをされた若葉に対し、冷たい感情を抱いてしまっている事を本人が苦悩している。
若葉と○○、憧れの対象と恋慕の対象の二人への感情を持て余し、消化出来ずに苦しんでいる。
そんな千景の苦悩に友奈は気付きつつも、一緒に居ること以外に出来る事を見つけられず、彼女もまた苦しんでいた。
しかし、千景がどんな決断をしようとも、自分は彼女の味方をしようと友奈は決めていた。
他愛ない会話の中で、千景は小さな頃に○○に救われたと聞いた。
同じく自分も○○に心を救われたのだから、と。
ひなたもひなたで、大切な親友と大切な人、その双方への感情に翻弄されている千景の事は、見ていられなかった。
何とか穏便に事を収められないかと考えを巡らすが、そんなに簡単に解決策が見つかれば苦労は無い。
とはいえ、諦めるつもりもひなたには無かったが。
それも含め、いい考えが浮かべばと思い○○と会って話すことを若葉に提案したという訳である。
そんな内心を互いに抱えているとは露知らず、四人は○○の病室の目前に迫り、扉を開けようとした。
「あれ、少しだけ開いてる?」
「……それに、○○の話し声?」
「神様の声も聞こえるな」
「何か話しているのでしょうか?」
病室の中で、○○と神様が話しているのが聞こえてきて、四人は立ち止まった。
「何の話を――」
しているんだろうな、と言いつつ扉を開けようとした若葉たちは、次に聞こえてきた○○の言葉に身体を硬直させた。
「神様……やっぱり、もう一つの方法を取りましょう」
「「「「――――――――っ!?」」」」
扉の取手に手をかけようとしていた若葉の手が止り、それと同時に他の三人の身体も硬直する。
他の方法……?
今のこの状況で他の方法という話になれば、若葉が迫られている選択とは別の、何かしらの手段があるという事だろうか?
そんな風に考えてしまった四人だったが、別に不自然な思考回路ではない。
早くなる鼓動を抑えるように深呼吸をした四人は、はしたないと思いつつも立ち聞きに徹することにした。
○○の事だから、自分達六人に何かしら害があれば、その手段を取らない可能性があるだろうと、そんな考えが浮かんだからだ。
そうこうしている内に、○○と神様の話は続いていく。
『またその話か……なあボウズ、お前、恐怖って感情がイカれてんじゃないだろうな?』
「別に壊れてなんかいませんよ。これが一番、誰も傷付かずに済む方法です」
『……お前が直接、クソ姉貴共の所に生け贄になりに行くのが、か?』
ドクン、と……四人の心臓が、嫌な感じに鼓動を刻んだ。
これ以上聞いたら、取り返しがつかなくなる……そんな予感が拭えない。
しかし、聞かなければ、どれだけ後悔してもし足りない位の事態を招く予感もある。
そんな感情の鬩ぎ合いで行動を起こせない四人を尻目に、一人と一柱の会話は続いていく。
「俺が一人で壁の外に向かい、天の神に赦しを乞えば、若葉が辛い思いをする必要も無くなります……若葉の手を借りようなんて、やっぱり虫の良い願いだったんです」
『……ボウズ、オレはお前の事を気に入ってるけど、そういうトコだけはキライだわ。自己犠牲って言葉すら生ぬるい、そういう行動はな』
「自己犠牲なんて、そんな……大袈裟ですよ。俺は皆に辛い思いをしてほしくないだけの臆病者ですから」
苦笑しながらそう言う○○に、神様の表情が歪む。
『ま、ボウズの言う通りではある……。お前がクソ姉貴のトコに赦しを乞いに行けば、あの嬢ちゃんたちは辛い思いをせずに済む……というか、ボウズに関する事の一切合切を背負わずに済むな』
「そうでしょう? 良い事尽くめです」
『ボウズ……お前、嬢ちゃんたちの記憶から自分が消えるのが、そんなに良い事だってのか?』
若葉、ひなた、友奈、千景――――四人全員の頭の中が、真っ白になった。
今、神様は何て言った?
頭が言葉を認識しても、感情が理解を拒む。
だが、そんな四人の感情を置き去りにして、無情にも話は続いていく。
『直接クソ姉貴のトコに行けば、ボウズの魂は囚われになり、筆舌に尽くし難い責め苦の挙句に消え去るんだぞ? 分かってんのか? 魂を! 直接焼かれて! 輪廻の輪に戻ることも出来ずに! 消えるんだぞ! 死ぬんじゃない、お前は最初から存在しなかった事になるって事だ! 元から存在しないんだから、嬢ちゃんたちの記憶にも最初から居なかった事になるんだぞ!』
「でも、俺のやって来たことは無駄にはならない……そうですよね?」
『……クソが。ああ、そうだよ。過去にボウズが起こした出来事は、辻褄が合う様に改変される。諏訪からお前が護衛してきた避難民は奇跡的に嬢ちゃんたちが助けた事になるだろうし、あの趣味の悪い人形共も嬢ちゃんたちが撃退した事になるだろうさ……』
「なら良いじゃないですか。みんなが心安らかに居られる……それ以上に大切な事なんて、俺にはありません」
『こんのッ……バカ野郎が……!』
「はは……褒め言葉として受け取っておきます」
『処置無しのバカが言ってろ……分かった、何とかしてやる。……ただし、嬢ちゃんたちには絶対に説明しろ。説得しろとは言わねぇ、だがお前には伝える義務がある。これだけは譲らねぇからな』
「……分かりました」
『そんな苦い顔すんなら止めときゃいいってのに……』
本当に処置無しなボウズだな、と……呆れと悲痛が混じった言葉が聞こえてきたのが、若葉のその日の最後の記憶となった。
気付いたら宿舎の自室へと戻っており、散々泣いたのか、涙で濡れた枕に顔を埋めていた。
無意識で戻って来たためか、ひなたや友奈、千景がどうしたのかは全く分からない。
そんな事を考えながらベッドから身を起こした若葉は、大事に立て掛けられていた生太刀を手に取ると、その鯉口を切った。
刀身の半ばまで鞘をずらすと、鏡の様に自身の顔を移すそれをじっと見詰める。
やがて静かに刀身を収めると、迷いを振り払い、決断した。
――私が、終わらせる。悲しみも何もかも、全て持って行く。
悲痛な……悲しみと痛みに満ちた、そんな決断を。
「○○……そん、な……嘘……ダメ、そんなのダメ……っ」
暗い部屋の中、千景は蹲って震え続ける。
○○が言っていた言葉が、頭を離れない。
彼の事を忘れる? 最初から無かったことになる?
「ぅ、ぁ……あ……っ!!」
心が壊れそうな程の痛みに、悲鳴すら上げられずに悶え苦しむ。
だが何も解決策は浮かばず、無為に時間ばかりが流れていく様な、そんな感覚。
と、そんな時――――
彼女のスマホの勇者アプリが、独りでに起動した。
千景の姿は変わらない……が、唐突にその震えが止まる。
そして代わりに、ブツブツと独り言を漏らし始める
「あ、は……ふふ、あはは……そう、そうよね……彼が守った世界だもの……うん、私もそう思うわ」
蹲っていた千景は、ゆらりと顔を上げ……天啓を得たような、晴れ晴れとした表情で微笑む。
「この世界が滅んでも、私達が滅んでも……○○さえ生きていれば、それで良い。○○の命と世界なんて、○○の命の方が重いに決まっているんだから……♪」
全ての感情の鬩ぎ合いから解放された千景は、暗闇の中で笑い続ける。
その頭部には狐の耳、そして背後には九本の尾が幻影として浮かび、千景と同調して力を与え続ける。
千年近く前に生きた、悲劇の女性の魂が。
鏡写しの様な境遇の彼女に、想いを遂げよと言わんばかりに――――
はい、前書きの通り……終わりませんでした。いや、終わらせられなかったと言うべきか(白目)
○○が皆を大切にすればする程、若葉たちへの負担となっていく悪循環。
さて、若葉はこの負の連鎖を断ち切れるのか?
千景は……うん、○○が何とかするんじゃないっすかね?(適当)
最終決戦以降の話がこんなに続いてしまうとは……
キャラが爆走するとプロットは壊れるのですね分かりたく無かったです(悲鳴)
……次! 次が最終話になります!(多分)