ある転生者と勇者たちの記録   作:大公ボウ

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今回の話は、小話的なものを幾つか集めたものです。

そして、最近シリアス気味な話ばかり書いていたので、思い切り反動が出ています(笑)

それでは、始まり始まり~。


たくさんの小さな思い出

【見れば分かるから仕方ない】

 

今日は四月一日、エイプリルフールである。

 

とはいえ、他の何らかのイベントのように騒いだり祝ったりするようなものでも無いので、○○は特に意識せずに――ハッキリ言えばそう言う日なのだという事も忘れて、いつも通り勇者部へと顔を出そうとしていた。

 

今や二十人程があの部室に一同に会することがよくあるので、一人しか居ない男としては微妙に肩身が狭かったりするのだが、全員が全員良い娘ばかりなのでそこは非常に助かっている。

 

そんな事を考えながら部室へと向かっていた○○は、その途中で高嶋友奈と出くわした。

 

「あっ、○○君、おはよー。今から部室に行くんだけど、一緒に行っても良いかな?」

 

「うん、勿論。じゃあ行こうか、友奈」

 

そうして連れだって部室へと歩き出した二人。

 

「そう言えば今日ってエイプリルフールだけど、○○君は何かしようとか思ってたりするの?」

 

「いや、俺は特にそういうのは考えてないかな。大人しくみんなが考えてくる色んな事を楽しんだり、見抜いたりしようかなー、と。風先輩とか園子とか、あとタマっちもそういうの好きそうだし」

 

「あはは、確かに風さんとか園ちゃん、タマちゃんは張り切ってやりそうだもんね」

 

「そうそう。多分、何かビックリするような嘘……というか、ドッキリに近いものを仕掛けて来るんじゃないかと思ってるんだけどさ」

 

「あー、確かに。園ちゃんが脚本、風先輩が監督、タマちゃんが実行。そんな感じかな?」

 

「園子は全部兼任してもおかしくはないと思うけどね」

 

「うーん……目に浮かんじゃうなぁ、ふふっ」

 

そんな話をしつつ歩いていると、○○が友奈に対して世間話でもする様に切り出してきた。

 

「で、友奈。部室に着いたらネタバラシをする算段を立ててるの?」

 

「――え? な、何の事かな?」

 

いきなり訳の分からないことを言われ、困惑しているといった様子の友奈。

 

そんな友奈に対し、○○はいたずらっ子を微笑ましく見守る様な笑みを浮かべて言葉を続ける。

 

「あれ、しらばっくれちゃうのかー。それじゃあ、もう少しはっきり訊こうか。たかしー……いや、ゆーゆ。若葉たちと同じ制服まで着てるけど、それは俺に対してドッキリを仕掛けようとしてるって事でいいのかな?」

 

「や、やだなー、私は結城ちゃんじゃなくて高嶋友奈だよ? ホントだよ? ほら、この目をよく見て?」

 

内心で冷や汗をかきながら、何とかリカバリーをしようと必死に頑張る友奈。

 

もう殆んど失敗しているも同然だが、嘘が苦手な彼女なりに何とか取り繕おうと、涙ぐましい演技を続ける。

 

「…………………………」

 

「…………………………」

 

立ち止まり、無言でお互いの瞳を見つめ合う○○と友奈。

 

○○はいつも通りの態度で平静に見つめているのとは逆に、友奈は心臓の鼓動が聞こえやしないかと緊張しながら彼を見つめ返す。

 

しかし、根が正直で嘘を吐くのに致命的に向いていない友奈は、僅か数分で目を逸らしてしまった。

 

「うう……○○君の言う通り、私はゆーゆです……結城友奈です……」

 

「はは……まあ、ゆーゆにしては結構頑張ったんじゃないかな? だって、ゆーゆ、根本的に嘘を吐くの苦手でしょ? 例え相手を傷つけない類の、笑える嘘だとしても」

 

「はうっ!? うう……その通りかも……」

 

ガックリ肩を落としてうな垂れる友奈。

 

ただ、どうしても気になった事があったので○○へと訊いてみる事にした。

 

「でも○○君、私が高嶋ちゃんじゃないってよく分かったね。 制服だけじゃなくて髪留めとかも交換したし、人の呼び方とかも気を付けてたのに」

 

二人一緒に居る時ならともかく、単独で、しかも服装を入れ替え、人を呼ぶときの呼称まで気を付けていたのだ。

 

何かボロを出してしまったとも思えず、どうしてばれたのかどう考えても分からなかった友奈だったが、○○があっけらかんと言った事に言葉を失った。

 

「んー、どうしてって言われてもなぁ……見れば分かるとしか」

 

「え……? あ、あの、じゃあ最初の一言目からバレてたってこと……?」

 

「うん、そうだけど」

 

「ええー……?」

 

さすがに信じられなくて聞き直した友奈だったが、やはりあっさりと肯定されてしまい、つい小さな呻きが出てしまう。

 

「まあ、俺にも意地がありますので。自分の事を好きだと言ってくれた女の子の事が分からないっていうのは……何というか、格好悪いと思うから……」

 

照れ臭そうに眼を逸らしながらそんな事を言った○○に、友奈は嬉しさを少しも隠さずに○○の手を取って満面の笑みを浮かべた。

 

「えへ、えへへ……何て言うか、上手く言えないんだけど……でも、ホントに嬉しいよ、○○君! すっごく幸せな気分……」

 

そう言って○○と手を繋いだ友奈は、彼を引っ張る様にして歩き出した。

 

○○も、顔を赤くしつつも苦笑しながらされるがままで手を握り返し、それを受けた友奈もより幸せそうな笑顔を彼へと向けるのだった。

 

因みに、二人は恋人繋ぎで部室へと入った為に一悶着あったのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【そんな関係になりたい】

 

○○は部活終了後、もう何回誘われたかも分からない程の夕食に犬吠埼姉妹に誘われ、途中の買い物に付き合った後に彼女たちの家へと歩いていた。

 

「いやー悪いわね、○○。荷物なんて持ってもらっちゃって」

 

「途中で買い物した時はいつもですから……本当にありがとうございます、先輩」

 

「まあ、こちらも美味しい食事をいつも頂いていますし……全くお返しには足りませんけど、この位はさせて下さい」

 

「そんな事、別に気にしなくていいのに。ねぇ、樹?」

 

「うん、お姉ちゃん。私達も楽しいから、お返しなんて気にしなくてもいいんですよ?」

 

「まあ、その辺は後片付けなんかをさせて貰ってるのと同じかな……貰いっぱなしというのは、流石にちょっと居心地が悪いですし……」

 

そんな話をしながら姉妹の自宅へと歩いて行き、そんなに時間もかからずに部屋の前へと到着した。

 

扉の鍵を開けて部屋の中に入って行く姉妹に続いて、○○も最後に室内へと入る。

 

「ただいまー……って、まあ誰も居ないんだけどね」

 

「まあ、帰って来た時の挨拶みたいなものだし、いいんじゃないかな?」

 

そんな会話をしながら靴を脱いでリビングを目指す姉妹に続いて扉をくぐった○○は、自分も靴を脱ぎながら完全に無意識に言葉を紡いでいた。

 

「ただいまー」

 

「「……えっ?」」

 

それを聞いて、風と樹がポカンとした表情で振り返って○○の事を見つめた。

 

呆気にとられた様子で口を半開きにして○○を見ていた彼女たちだったが、靴を脱いで自分達に近づいてきた彼に、ハッとして我に返ると確認する様に尋ねた。

 

「ええっと……○○、さっき何て言って入って来た?」

 

「……? え、何か変な事言いましたっけ?」

 

「いえ、別におかしなことを言った訳じゃ無いんですけど……覚えてないんですか、先輩?」

 

「うーん、殆んど無意識だったからなぁ……いつも通りの挨拶で入った、と思うんだけど……」

 

しきりに首を傾げる○○に、風と樹は彼が完全に無意識に『ただいま』と言ったのだと確信した。

 

そう思うと、二人の心に温かいものが溢れ、次いで表情がどうしようもなく緩んで仕方なくなってしまった。

 

「風先輩、樹ちゃん、二人ともどうしたの? 急に何か笑顔になっちゃってるけど……?」

 

訝し気に問いかけてくる○○に、二人は慌てて見れる位までに笑顔を収めると、早急に誤魔化しにかかった。

 

「いや、別に何でも無いのよ? ちょーっと良い事があっただけだからさ。それじゃ、あたしは料理の支度にかかるから、樹は○○のお相手をお願いできるかしら?」

 

「うん、任せてお姉ちゃん。それじゃあ先輩、私の部屋に行きましょう!」

 

「え、でも下ごしらえの手伝いとかしようと思ってたんですけど」

 

「うん、その心遣いはとっても嬉しいんだけど……今日はあたしだけで作った物を○○に食べて欲しいなぁって。だから、今日はあたしに任せて?」

 

そう言って、パチリと片目を閉じておどける風。

 

「はあ……それじゃあ、お言葉に甘させてもらいます。行こうか、樹ちゃん」

 

「はい、先輩!」

 

そう言って○○は風に背を向けた為、姉妹同士でアイコンタクトをして笑い合っている風と樹には気が付かなかったのだった。

 

そして、楽しい夕食の時間も終わり、そろそろ時間だという事で○○が自宅へと帰ることになった時。

 

いつも通り、自分の家へと帰る○○を見送るために風と樹は玄関まで来ていた。

 

「今日の夕食も美味しかったです。それじゃあ、お邪魔しました」

 

いつも通りにそんな挨拶をした○○だったが、風と樹が言った言葉に思わず振り返って不思議そうな表情を浮かべた。

 

「ええ、行ってらっしゃい、○○」

 

「行ってらっしゃい、先輩」

 

「ええー……急にどうしたんですか、二人とも?」

 

「まあまあ、いいじゃない。それで、行ってらっしゃいに対する返事は何かね、○○?」

 

まるでテンプレの教師の様な口調で冗談めかして○○に訊く風に、彼も苦笑すると冗談めかした口調で返事をした。

 

「行ってきます、風さん、樹ちゃん」

 

そう言って手をヒラヒラと振りながら扉を開けた○○は、外に出るともう一度手を振ってから扉を閉めた。

 

閉じられた玄関扉を姉妹はじっと見つめていたが、やがて風が一息吐くと、樹も同じような仕草をしてからポツリと言った。

 

「先輩、ただいまって言ってたね……」

 

「そして、行ってきますって言って出て行った……ま、こっちの方はあたし達が言わせたようなもんだけど。でも、ただいまの方は無意識に出てきたって感じだったわね」

 

「ここを、自分の家みたいに思ってくれてるって事……だよね?」

 

「そうだと嬉しいし、あたしとしては望むところだけどね。いつか……毎日ただいまとか、行ってらっしゃいとか言い合える……そんな関係になれたらいいなぁ……」

 

「違うよ、お姉ちゃん。なれたらいいなぁじゃなくて、なるんだよ、絶対に!」

 

「樹……」

 

いつもと違い、強気に言い切る妹の姿に驚いた風だったが、確かに自分は弱気だったと思い直した彼女はニカッと笑うと樹の言葉に同意した。

 

「あんたの言うとおりね、樹。友奈達とも協力し合って、そういう関係目指して頑張っていきましょうか!」

 

「うん!」

 

そう言って、笑い合いながらリビングへと戻っていく風と樹。

 

姉妹が夢見た光景が実現するのかどうかは……正直、時間の問題だと思われる。

 

まあ、未成年の間は拙いと、○○が全員を必死で押し止める事も簡単に予想できるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ずっとずっと、いつまでも】

 

「いい天気だな~。こんな日は絶好のお昼寝日和ではあるんだけど……まずは部室に行かないとね~」

 

麗らかな日差しが差し込む廊下をのんびりと歩きながら、園子は機嫌良さそうにそんな事を呟いた。

 

そして、いつもの様に勇者部の部室へとやって来たわけだが、そこで普段は殆んど目にしないと言っていい、珍しいものが彼女の目に飛び込んできた。

 

「あれ~、○○君……?」

 

「…………」

 

園子が不思議そうな表情で○○に問いかけても、彼は一切反応を示さない。

 

椅子の背もたれに身体をあずけて、俯いて微動だにしない。

 

「んん~……? あれ、もしかして……」

 

「…………」

 

「寝てる……のかな~?」

 

○○に近づいて彼の様子を窺っていた園子は、彼から規則正しい静かな呼吸音が聞こえてきたことから、居眠りをしているのだと判断した。

 

「珍しいね~……というか、初めて見たかも~」

 

そう言って、彼の寝顔をしげしげと観察する園子。

 

○○を起こさないように静かにだが、彼の周囲を歩き回って色んな方向からその様子を見て回る。

 

「可愛い寝顔~。……でも、男の子だから可愛いって言われるのは微妙な気分になっちゃうかな~?」

 

微笑ましい気分になりながらそんな事を言った園子は、つい好奇心を抑え切れなくなって彼の頬をつんつんと突っついた。

 

「…………ん……ぅ……」

 

「わっとっと……危ない危ない~」

 

むずがる様な反応を見せた○○に、園子は突っついていた手をすぐさま引っ込めて、彼の反応を窺った。

 

「…………」

 

「ほっ……うんうん、グッスリ眠るといいよ~」

 

再び静かな寝息を立て始めた○○の様子に、園子は安心したように感想を述べるが、彼の口から漏れ出た寝言に鼓動が早まる事となった。

 

「ん…………その、こ……」

 

「え……?」

 

全く予想もしなかった場面で自分の名前を呼ばれた園子はまじまじと○○の寝顔を見つめたが、彼は先程と変わらず一定のリズムで寝息を立てるのみである。

 

とはいえ、想い人から全く予想しないタイミングで、しかも当人が寝ている時に自分の名前を呼ぶという出来事に、園子の平常心は完全に乱れてしまった。

 

「も~……寝てる時にまで私をドキドキさせてくるなんて、本当にズルいな~……ふふっ」

 

そう言いながら、○○の寝顔を覗き込むように見つめる園子。

 

相変わらずきっちりした寝息を立てる○○の様子を微笑みながら見ていた園子だったが、彼の頭を優しく、起きないように撫でると、愛おしさが溢れる様な声音でゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「私の運命の人……これからもずっと、いつまでも傍に居てね……?」

 

彼女がそう言った直後、偶然であろうが○○の首がカクンと縦に揺れ、まるで同意したようになった。

 

「おお~。やっぱり私達ってそうなる運命なんだね~?」

 

偶然から始まった二人の関係だったが……ここまで来ると、最早必然という気さえしてくる。

 

ただ、園子はそれに甘える気はサラサラ無く、ゆっくりと、しかし確実に○○と深い関係になれる様に努力を続ける事を、しっかりと心に刻むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【永久フリーパス】

 

本日は日曜日で、勇者部の活動も休養日という事で無いという、そんな日。

 

朝の九時ごろ、自室の机の上に置かれていた○○のスマホが、賑やかな着信音を奏でた。

 

バイブレーションも同時に機能していたので、それなりの音を発しているのだが、彼が起きる気配は一切ない。

 

変わらずに安らかな寝息を立てている彼を尻目に、着信音はそのまま一分ほど鳴り続けたのだが、やがて切れてしまった。

 

そして、未だに眠り続ける○○。

 

そのまま一時間ほどが過ぎた午前十時ごろ、再びスマホから着信音が流れた。

 

が、しかし……一時間前の光景の焼き直しの如く、○○は起きずにそのまま寝続けてしまい、着信も切れてしまった。

 

相当に眠りが深いのか、午前十時を過ぎ、しかも結構な音量の着信が鳴ったにも関わらず、○○は何の反応も示さなかった。

 

「んん…………ふあぁ~~……」

 

そして更に一時間後の午前十一時過ぎ、ようやく目を覚ました○○は寝床から抜け出すと、そのままトイレを済ませて顔を洗い、そして自室から出て来る時に持ってきたスマホを確認した。

 

「ん……? げっ!?」

 

思わずそんな声をあげてしまった○○は、すぐさま洗面台で身なりを整え、自室に戻って服を着替えると、スマホだけを持って玄関から飛び出し、急いで隣の部屋の呼び鈴を鳴らした。

 

「はーい」

 

「ごめん、夏凜! 何回も連絡してくれたのに、寝てて見過ごしてた!」

 

いきなりやって来て頭を下げる○○に呆気に取られていた夏凜だったが、状況を理解すると表情を緩めて彼に声をかけた。

 

「取り敢えず、頭あげなさいって。……ま、寝てたって言うなら仕方ないわね。特に約束してたって訳でもないし、私からあんたの事は責められないわ」

 

「本当にごめん……。いつもなら休みでも大体八時くらいには起きてるんだけど……どうも寝過ごしたらしくて……」

 

「でしょうね。九時半くらいに呼び鈴鳴らしてみたんだけど、何の反応も無かったし」

 

それを聞いた○○は、申し訳なさそうな表情を驚き顔へと変えて言った。

 

「えっ! ってことは、直接ウチの戸の前まで来たって事?」

 

「驚き過ぎでしょ……隣に住んでるんだし、別に何てこと無いわよ」

 

苦笑気味にそう言った夏凜だったが、少しだけ寂し気な表情をしていたため、一から十まで全く気にしていない訳ではないと、○○は察した。

 

ともあれ、その日は午後から○○にも用事が有ったためにこれで別れる事になったのだが、今回みたいな事は無いようにしようと彼は反省し、夏凜へのお詫びはどうしようかとあれこれ考えを巡らせるのだった。

 

それから数日後、二人一緒に学校から帰って来た○○と夏凜は、挨拶をして自宅に入ろうとした彼女を○○が呼び止めて、ある物を渡そうとしていた。

 

「どうしたの、○○。何か用事?」

 

「うん。夏凜にこれを渡しておこうと思って」

 

そう言った○○は、鞄から取り出した物を夏凜へと手渡した。

 

「これは……鍵みたいだけど、一体どこの?」

 

「ここ」

 

短くそう言って、自分の家の扉を指さす○○と手渡された鍵を交互に見やっていた夏凜だったが、どういう事なのか頭が飲み込むと、泡を食ったように慌てて○○へと問いかけた。

 

「へー、あんたの家の鍵。……って、あんたの家の鍵ぃ!? ちょっ、何てもの渡してんの! というか、どうしていきなり私に鍵を渡そうなんて事になるのよ!」

 

「いや、この前夏凜がせっかく連絡してくれたのに、音沙汰無しで申し訳なかったからさ。だから、そういう事があったらそれを使って遠慮なく入って来て起こしてくれていいから」

 

「いや、気にしなくて良いって言ったでしょ? というか、赤の他人に自宅の合鍵なんておいそれと渡しちゃダメでしょうが!」

 

そう言って○○へ鍵を返そうとした夏凜だったが、○○も首を横に振って受け取ろうとしない。

 

「赤の他人って……家族とか親戚筋とか以外を赤の他人って言うなら、夏凜はそりゃあ赤の他人だろうけど……でも、そんなの問題にならない位、俺は夏凜を信じてるから大丈夫」

 

「なっ……ええと……その……」

 

きっぱりと言い切った○○の言葉に流石の夏凜も言葉を無くし、手に持っている鍵と○○の二つを視線がうろうろと行き来してしまう。

 

そうして夏凜が狼狽えている間に、○○は地面に置いていた鞄を背負い直すと、ひらひらと手を振りながら自宅の扉を開けた。

 

それに気付いた夏凜が慌てて呼び止めようとしたが、彼は屈託のない笑顔を彼女に向けてそのまま自宅へと入って行ってしまった。

 

「ちょっ、○○、まだ話は――」

 

「という訳で、その鍵は夏凜に預けます。自由に使って良いからねー」

 

バタンと音を立てて閉じられた扉を暫らく見つめていた夏凜だったが、一つ溜め息を吐くと自分も自宅へと入って行くのだった。

 

閉じられた玄関扉に背をあずけ、そのままズルズルと座り込んでしまう夏凜。

 

「あいつの家の合鍵……どうしてこんなにアッサリ渡しちゃうかなぁ……ああー、もう! 煩悩退散煩悩退散! 信じてるって言ったあいつを裏切る気なの三好夏凜!? 落ち着いて……平常心、平常心を保つのよ……!」

 

目をきつく閉じて、次々と頭に浮かんで来るあれやこれやといった想像を振り払う夏凜。

 

結局その日は著しく眼が冴えてしまい、翌日寝不足になって勇者部の皆から心配をされてしまうのだった。

 

そして更に後日、夏凜が部室で鞄から合鍵を取り落としてしまい、○○の部屋の合鍵を持っているのがバレて一悶着あったのも別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【肩寄せ合って】

 

「えーと、ここはこうなるから……答えはこれか」

 

「ええ、正解。ちゃんと理解できている様で何よりだわ」

 

学校の図書室にて、二人並んで勉強を行なっている○○と美森。

 

お互いにしか聞こえない様なごく小さな声で話しつつ、美森が行なう解説に彼が相槌を打つ。

 

「でも助かったよ。ここ、特に重要だって聞いてたからどうしようかと思ってたんだ」

 

「仕方ないわ。だって風邪をひいてしまったのだし。こうして私の取っていたノートで挽回できるのなら、特に問題は無いでしょう?」

 

美森が言う通り、○○は数日前に風邪をひいてしまい、その日は学校を休んでいた。

 

そして、テスト期間がもう間近まで迫ってきているという事もあり、彼は美森へとその日にあった授業のノートを貸してくれるようにと頼んだ。

 

美森は彼の頼みを聞き入れたのだが、どうせなら自分が解説した方がより深く理解してもらえるだろうと思ったので、こうして二人して図書室で勉強することになったのであった。

 

そうして順調に理解を深めていく○○だったが、次のページに行こうとノートをめくった瞬間、そのページの端の方に小さく書かれていたものが目に飛び込んできて、思わず目を瞠った。

 

三角形の天辺部分から二分する様に垂直に線が伸び、その線の左右に○○の名前と美森の名前が書かれている。

 

一言でいうと、相合傘のアレである。

 

まず、真面目な美森のノートにそんな落書きめいたものが書かれているのに驚いたし、そしてそれが色恋沙汰に関するものだというのにも○○は驚いた。

 

不意打ち気味にいきなり見てしまったために、驚いてその相合傘の落書きを凝視する○○。

 

いきなり固まってしまった彼の様子に美森は首を傾げたが、その視線の先に書かれているものに気付いて一瞬で真っ赤になって大声をあげそうになったが、何とか自制した。

 

「どうかしたの、○○君? ――――――っ!? こ、これはっ、その……っ!」

 

林檎のように真っ赤になりながらも、何とか小声で言い訳をしようとする美森。

 

しかし、千々に乱れた精神では彼女の明晰な頭脳も本領を発揮できず、てんで纏まりの無い事をぐだぐだと並べ立てるハメになってしまっていた。

 

「これは、そう!……私の心に湧き出た事がつい手を勝手に動かしたというか、無意識と言うか……授業中に目に入ったあなたの後姿を見ていたら、自然と書いてしまったというか……あ、あら?わ、 私ったら、い、一体何を言っているのかしら……?」

 

「……ともかく、一旦落ち着いて」

 

目でも回しそうなくらい混乱している美森の様子に、○○も考えるのを止めて落ち着くようにと促す。

 

「え、ええ……分かったわ……。でも、あれを見られるなんて……ああ、恥ずかしい……このまま消えてしまいたい……」

 

両手で顔を覆って縮こまっている美森が、弱弱しい声でそんな事を呟く。

 

そんなこんなで彼女は平常心を失ってしまい、もうこれ以上は解説も出来ないと自分で判断した美森は、申し訳なさそうにしながらも勉強会のお開きを申し出た。

 

済まなさそうにする美森に○○は苦笑しながら了解し、下校する事となったのだった。

 

しかし、二人して昇降口まで来た時、美森は窓の外を見て少しうんざりした様な声をあげた。

 

「ええ……今日って雨が降ると天気予報で言っていたかしら……?」

 

「ああー……何か所によりとか、この時間帯がそうだとか、そういう事は言ってた気がする」

 

「なるほど……。私、今日傘を持って来るの忘れてしまったのよね……。走って帰るか、止むまで待つか……どちらが良いかしら……?」

 

眉をハの字にして、しとしとと雨を降らす空を見上げる美森。

 

その隣で鞄をごそごそと扱っていた○○は、取り出したあるものを美森に見せて問いかけた。

 

「俺は一応、折り畳み傘を持って来てたんだけど……一緒に入って帰る?」

 

「えっ……? い、いえ、そんな! 厚意は嬉しいけど、流石に悪いわ!」

 

そう言って首を横に振って固辞した美森だったが、○○は冷静に彼女を説得していく。

 

「まあまあ、落ち着いて、美森? まず一つ、にわか雨とは言うけど、実際にいつ止むかなんて分からないよ?」

 

「うっ……」

 

「二つ目、走って帰ると言っていたけど、この時期の雨はまだ冷たいから風邪をひく可能性はかなり高いと思う」

 

「ううっ……」

 

「そして三つ目だけど……俺の心情として、自分だけ傘をさして帰った挙句、美森を放っておくのはあり得ないというか……ハッキリ言って男としてダメでしょう、それは。気分の問題ではあるけど、だからこそ大事にしたいというか……」

 

「うううっ……」

 

理詰めで説得されていく美森だったが、そんな彼女を忍びないと思った○○は一つの手段を思いついたので提案することにした。

 

「あ、そう言えば相合傘でなくてもいい方法が一つあったっけ」

 

「え、今言った以外にそんな方法が……?」

 

「うん。この傘を美森に貸して、俺は全力で走って家まで――」

 

「却下。――○○君、私を傘に入れて家まで送って下さい、お願いします」

 

○○の提案をすぐさま却下した美森は、畏まった様子で彼に頭を下げて傘に入れて貰えるようお願いした。

 

会心のアイデアだと思っていた方法をすげなく却下された○○はほんの少し落ち込んだが、美森のお願いを聞き入れて相合傘で下校する事となった。

 

○○が傘を持ち、肩を並べて雨の降る中を歩いて行く。

 

普通なら会話の一つもあるというものなのだが、勉強中の事と今現在の状況が偶然にも重なり、それが二人の頭にあるのでどこかお互いに相手を窺う様な空気である。

 

そんな微妙な雰囲気の中で美森の家へと向かっていたのだが、途中で美森があることに気付いた。

 

「……あっ! ○○君、あなた反対側の肩が濡れているじゃない!」

 

「ああ……ま、折り畳み傘で小さいから仕方ないかな」

 

○○はそう言ったが、美森はそれが半分は嘘だとすぐに分かった。

 

折り畳み傘が小さいのは事実だが、彼は美森が雨で濡れない様に傘を彼女の方へと寄せてさしていたのだ。

 

それに気付いた美森は、自分の側の○○の腕を取ると、ピタリとくっ付く様に抱き寄せた。

 

「え、あの……美森、さん?」

 

思わずさん付けになってしまう位に慌てた○○だったが、美森の言い分は理屈では正しいものだったので、口を噤まざるを得なかった。

 

「こ、こうすれば、私もあなたも濡れずに済むから。……それとも、それ以外の意図があると思ってる?」

 

「い、いや……俺もキミの言い分は正しいと思います。それ以外の意図は……俺からは、何とも……」

 

「ふふ、照れ屋さん♪」

 

茶目っ気を出した美森の台詞に○○の頬が赤く染まり、思わずそっぽを向いてしまう。

 

そんな彼の様子に気を良くした美森は更に身を寄せ、○○を大いに照れさせる。

 

しとしとと雨が降りしきる中を一つの傘で歩いて行く二人は、偶に目が合うと、恥ずかしさと嬉しさが混じり合った、何とも表現しがたい、しかし幸せであることだけは間違いない表情で笑い合うのだった。




甘い甘いあまーい!

でも、書くのは凄く楽しかったです!(小並感)

今回はゆゆゆヒロインの話でしたけど、のわゆヒロインも同じような形式でいつか書けたらいいなぁ……(予定は未定)
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