ある転生者と勇者たちの記録   作:大公ボウ

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連載形式に変更しました。

と言っても、短編連作みたいな形になると思いますが……

今回は、前回の話の前日譚みたいな感じでしょうか

視点が結構変わるので読みにくいかもしれませんが、一応行間はかなりとっている……つもりです

では、お楽しみいただければ幸いです




ガマズミとアイビー

いつも通りの朝がきて――――

いつも通りに詰まらない授業を受けて――――

放課後には勇者部の部室に集合し、いつも通り人助けの活動をする――――

そんな、普段通りの一日が始まると思っていた――――

 

…………のであるが。

その日の俺は、そこに爆弾が放り込まれるとは、思ってもみなかったのだった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふあぁ~~~……」

 

いつも通りに登校してきた俺は、あくびを噛み殺そうとして失敗しながら校門をくぐった。

 

そのまま下駄箱に向かい、いつも通り上履きを取り出そうとしたのだが……。

 

「ん……? 何だコレ?」

 

見慣れた上履きと共に、封筒が一通。シンプルながらも可愛らしいデザインで、大抵の女の子が好むような感じに見える。

宛名は……『□□ ○○君へ』となっている。同姓同名の人間はこの学校にはいないはずだから、これは間違いなく俺宛だろう。

 

書かれている文字も、女子が書いたと思われる丸っこい文字で、よほど手の込んだイタズラでなければ女子がこの封筒を入れたと思われる。

 

導き出される結論は――――

 

「ラブレター……? え、ホントに? ドッキリとかでなく?」

 

「――何がドッキリなの?」

 

「……っ!?」

 

いきなり背後から声をかけられた俺は飛び上がる様にして驚き、その勢いで封筒を取り落としてしまった。

 

「い、犬吠埼先輩? と、い、樹ちゃん? び、ビックリした……」

 

「おはようございます、○○先輩」

 

「あ、ああ、おはよう樹ちゃん。……先輩、どうかしたんですか?」

 

俺と樹ちゃんのやり取りを、先輩がむくれながら見つめている。……主に俺の方を見ながら。

 

「……名前」

 

「え?」

 

「樹のことは名前で呼ぶのに、あたしのことは名字で呼ぶんだー。そっかそっか、つまり○○はそういう人間だってことかぁ。残念だわー部長として無念だわー部員の心を開けてないなんて情けないわー。……女子力が足りないのかも(ボソッ)」

 

最後の一言は聞こえなかったが、俺がせんぱ……風さんの機嫌を損ねた事だけはハッキリしている。

 

樹ちゃんに目を向けると、苦笑しながら俺と風さんを交互に見やっている。

 

「ごめんなさい、風さん。もうしませんから、許してください」

 

俺がそう言うと風さんはふくれっ面が嘘のように霧散して、いつものさっぱりした笑顔を俺に向けてくれた。

 

「よし、それならオッケー! で、さっき落としたこれって何?」

 

「あっ……!?」

 

風さんが、さっき落とした封筒を拾い上げる。樹ちゃんも近くに来て、風さんと一緒に不思議そうに封筒を眺めていたが、二人とも見る見るうちに表情が引き攣ってきた。

 

「お、お姉ちゃん……これ、これって……」

 

「ラブレター……日本語で恋文、かしらねぇ……」

 

口元をひくひくと震わせながら風さんが言う。

樹ちゃんは何故か血の気が引いており、恐ろしいモノでも見たかのように身体が震えている。

 

「ふーん……いやー、○○って、も、モテるのね! あたしも部長として、は、鼻が高いわー!」

 

いつも以上のテンションでまくし立てる風さん。かなり大きな声だったので、周りに聞こえやしないかヒヤヒヤしたが、幸いにも周囲には俺たち三人しかいない。

 

「……そ、そうですよね。先輩は優しいし、かっこいいし、誰にでも親切だし……ら、ラブレターの一通くらい、も、貰っちゃいますよね!」

 

普段の樹ちゃんらしからぬ、上擦った声。無理やり浮かべたような笑顔で俺に賛辞を送ってくれているが、少し目が潤んでいる様に見える。血の気も引きっぱなしで、今すぐにでも倒れそうな感じだ。

 

しばらく無理やり気味なテンションで俺を祝福してくれていた二人の姉妹は、段々と、潮が引くように、花が萎んでいくかのように黙り込んでいく。陰鬱な雰囲気というのも言い過ぎじゃないほどの空気を纏ってしまった。

 

「あは……あはは……うん、じゃあ○○は頑張って……て言うのも変ね……とにかく、真摯に回答するように。……ゆ、勇者部の……ぶ、部長としての、お願いね?」

 

「そ、その子も……きっと勇気を出して、○○先輩に、手紙を出したんだと思います。……だから……だから……先輩も、真剣に返事を……」

 

「ふ、二人とも……?」

 

俺が何か言葉をかけようとすると、風さんが樹ちゃんの手を引いてあっという間に遠ざかって行ってしまった。

残された俺は、しばらく自分宛のラブレターを眺めていたが、一つ息を着くと、それをカバンに仕舞って自分の教室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

その日の昼休み――――

 

集まった勇者部の少女たちは、みんなで昼食をとっていた。しかし――

 

「風先輩、どうしたんです? さっきから、お箸で突いてばっかりですけど……」

 

「樹ちゃんも全然食が進んでいないし……二人とも、具合が悪いのでは?」

 

普段とは打って変わって食の進まない風を心配する友奈。

そして、姉と同じように溜め息ばかり着き、全然食べていない樹に声をかける美森。

 

「イッつんは兎も角として~、フーミン先輩まで全然食べないなんて、どうしたんだろうね~?」

 

「二人とも、明らかにおかしいわよ。……何かあったわけ?」

 

いつものゆるふわな表情を曇らせて二人を心配する園子と、ぶっきら棒ながらもやはり仲間は大切な夏凜が姉妹の様子を窺う。

 

問われた姉妹は顔を見合わせ……ため息をつくと、やがて風がぽつぽつと語り出した。

 

「今日の朝、○○と下駄箱で偶然会ったんだけど……そのとき、ちょっとした事があってさ……」

 

「本当にちょっとした事なら、風がそんな拒食症モドキになんてなるはずないでしょうが」

 

「わーお、相変わらず夏凜は厳しいわねぇ……。うん……でもその通りかも。結構……、いや、相当ショックを受けたことがあって、さ……」

 

「一体何があったんです?」

 

「○○君との間に、何かあったんですか?」

 

○○の事と聞いて、友奈と美森は身を乗り出すようにして風に問いかける。園子と夏凜も同じように興味深々だ。

 

その問いに答えたのは、顔を伏せていた樹だった。

 

「○○先輩……ラブレターを貰ったんです」

 

ラブレターという言葉が出たとたん、姉妹以外の4人は思わずぽかんとしてしまった。

 

え、ラブレターを貰った? 誰が? ○○君が? 何で? どうして? いったい誰から?

 

そんな仕様も無い考えが4人の頭の中をグルグルと回るが、ちっとも考えが纏まらない。

 

「あ、あはは……もー、樹ちゃんってば……エイプリルフールはとっくに終わってるよ?」

 

「ホントに今日がエイプリルフールなら良かったんだけどねー……。現実逃避してもむなしいだけよ、友奈……」

 

「て、手紙の宛先が間違っていたとか、そういう事は無いんですか?」

 

「東郷先輩……。封筒には間違いなく、□□ ○○君へと書いてありました……。女の子の丸文字で。□□ ○○という名前の人は、この学校には○○先輩一人しかいませんよね……?」

 

否定する要素が見当たらない。実際に手紙の文章を見た訳ではないから、イタズラの可能性も無くはないが、限りなくゼロに近いと……不本意ながら全員が納得している。

 

何の覚悟も知識も無く樹海に取り込まれ、もう少しで訳も分からないまま殺される所だったのだ。ごく一般的な精神をしている少年なら、全てを忘れて逃げて当然だし、むしろそれが普通だろう。

 

だが、○○は違った。自分達への手助けを志願し、戦場でも日常でも本当に精一杯尽くしてくれた。本人は直接の戦闘に関われないことが無念だといっていたが、少女たちにとってそんなものは些事でしかなかった。

 

世界の為に自分をすり減らして戦う少女たち。そんな少女たちを損得抜きで、公私に渡って誠心誠意支える同年代の異性が居たらどうなるか……その結果は火を見るより明らかだろう。

 

そんな、自分たちにとって何よりも大切な少年に、何も知らない他人が告白しようとしている。……少女たちの胸に黒いものが湧き上がってくる。

 

しばらくの間、全員が言葉も無く黙り込んでいたが……園子がスマホを取り出すと、どこかに連絡を始めた。

 

「園ちゃん、○○君にかけてるの……?」

 

「ううん、違うよ、ゆーゆ。……ちょ~っと、お仕事を頼みたいなって」

 

「仕事……? ちょっと乃木、あんた何するつもり? ○○に迷惑かけるようなことじゃないでしょうね?」

 

「風先輩の言う通りなら、そんな事したら駄目よそのっち。……○○君の事は、気になるけど」

 

「でも~わっしーもみんなも本当は気になるよね~? ……このまま放っておいて、本当にいいの? ○○君が私達から離れていっても」

 

「「「「「――――――――――――――」」」」」

 

ひっ、と……誰かが息を呑む音が聞こえた。一人だけかもしれない。又は全員が息を呑んだのか。

 

最悪の想像だった。

 

○○が自分たちから離れていく?

 

もう私達に関わってくれなくなる?

 

私達と思い出を共有できなくなる?

 

そして――――――あの笑顔を、自分たち以外の誰かに向ける?

 

「イヤ……」

 

ぽつりと、樹が絞り出すように言葉を紡ぐ。

 

「イヤだよぉ……お姉ちゃん。○○先輩が私達から……は、離れて……もう、笑いかけてくれなくなるかも、なんて……そんなのイヤ……!」

 

「ちょっ、樹!? まだそうなるって決まった訳じゃないし……そんな、泣かないでってば……! あ、あたしまで……泣きたくなって……くるでしょうが……!」

 

姉妹は実際にラブレターの現物を目撃したせいか、よりリアルに想像してしまったらしい。樹はしゃくり上げながら涙をこぼし、風も妹を慰めながら目には涙を滲ませている。

 

「どうしようどうしよう、東郷さん!? ○○君が……○○君がぁ!」

 

「落ち着いて、友奈ちゃん!? 予定は未定にして確定に在らずだから、何とか彼を引き留める方法を……考えて……どうやって……? どうやって○○君の心を繋ぎ止めるの……? あああぁぁぁぁ……!」

 

瞬時に地獄絵図の如き大騒ぎになる少女たち。冷静さを欠いている者を見ると逆に落ち着くというのは本当らしく、興奮しつつも最低限気持ちを落ち着けた夏凜が園子に問いかけた。

 

「園子……あんた、こうなるって分かってて焚き付けたわね……?」

 

「え~、ひどいよにぼっしー。こんなになるなんて私も思わないってば~」

 

「……まあ、そういう事にしておきましょうか」

 

夏凜はジト目で園子を見やったが、本人はいつもの態度を崩さなかったので、溜め息を着きつつ騒ぎが収まるのを待つことにした。

 

 

 

 

「じゃあ~、○○君のことを私達は見守る、という事でオッケー?」

 

園子がまとめる様にそう言う――――――誰からも、反対意見は出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラブレターには放課後に校舎裏に来てほしいとあったので、その通りの時間に俺は校舎裏に向かっていた。

 

何と返事をするかはすぐに決まったのだが、どういう感じで伝えようかと授業中も悩みっぱなしで気も漫ろだったため、先生に一度注意されてしまった。

 

昼食後の午後の授業に入る前に友奈と美森、それに夏凜と目が合ったのだが、不自然に目を逸らされた。

 

風さんと樹ちゃんは俺が例の手紙をもらった事を知っているので、そこから勇者部のみんなに伝わり、それがあのおかしな態度の原因になったのだろう。

 

三人とも、こちらが気になって仕方ない様子でしきりに俺の方を見てきたのだが、俺が彼女らの方に目線をやるとすぐさま顔を逸らしてしまう。

 

このくらいの歳の女の子にとって、恋愛は関心事のトップを占めるものなので、どう返事するのか聞きたいが、でも口出ししてもいいものなのか迷っていたのだろうと思う。

 

結局、午後は一言も言葉を交わさずにいてしまい、約束の時間に近くなったので、俺は急いで教室を後にした。

 

――――――物理的な力さえ込められていそうな視線には気付かずに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、勇者部の少女たちはすぐさま部室に集合した。

 

スマホをいじっている園子以外の全員がそわそわしており、固唾をのんでその時を待っている。

 

「よ~し、これで準備完了だよ~」

 

その言葉と共に全員が立ち上がって園子のもとに集まって来て、目当ての物を見つめる。

 

「そのっち、本当にうまくいくの?」

 

「大丈夫だよ、わっしー。その辺は任せてね~。……はい、映ったよ~」

 

そう言った園子のスマホには、○○の姿が映し出されており、音もかなりハッキリと聞こえてくる。

 

「す、すごい。乃木先輩、これどうなってるんですか?」

 

「ドローンってすごいよね~。高性能なものはこんな事も出来ちゃうなんて~」

 

「やらせた張本人がそれを言う? 反対しなかったあたしには、何も言う資格はないけど……あたし、乃木だけは敵に回さないようにするわ……」

 

「賢明な判断ね、風。……実際、乃木家を敵に回したら四国じゃ生きていけないでしょうしね」

 

「……あっ! 女の子が来た!!」

 

思わず叫んだ友奈の言葉に全員がおしゃべりを止め、目を皿のようにしながらスマホに映る映像を食い入るように見つめる。

 

一気に静まり返った部室の空気は張りつめ、誰かの固唾を呑む音がやけに大きく聞こえる。

 

映像の中の○○の前には少女が立ち、「来てくれてありがとう」とお礼を言っている。○○は「気にしていませんから」と敬語で答えた。

 

「○○君、敬語使っていますね……。ということは3年生かしら」

 

「風先輩、心当たりあります?」

 

美森と友奈は風に尋ねたが、風は信じられないモノを見たような様子で、スマホから目を離さない。

 

「嘘でしょ……? マズいマズいマズい……!?」

 

「お姉ちゃん? 一体どうしたの?」

 

尋常でない様子の姉に只ならぬものを感じたのか、樹が風に尋ねると、焦りを滲ませた風が苦々しい口調で言った。

 

「多分、3年で一番人気のある子だと思う。……3年にあがってからもう何人も男子が告白してて、でも誰とも付き合ってないって話だったんだけど……」

 

「そのモテる先輩は○○にご執心だったって訳ね……。悔しいけど、女の私から見てもそこそこ綺麗だし……○○、もしかしたら転ぶかも……」

 

夏凜の最後の一言に、部室の空気が軋んで悲痛なものになっていく。

 

実際、少女たちの目から見ても手紙の送り主は綺麗に見えていた。内面までは流石に分からないが、○○が転ぶことは十分に考えられる可能性である。

 

「でも、何で急に告白する気になったのかしら? 今の今まで動かなかったのに……」

 

「多分、私たちが原因かな~」

 

疑問を呈した風に、園子がすぐさま答えた。

答えが返ってくると思っていなかった風は目を丸くしていたが、友奈が引き継いで園子に質問する。

 

「園ちゃん、それってどういう事なの?」

 

「その前にゆーゆに質問させてほしいんだけど、○○君って特に目立つことのない男の子だったんでしょ~?」

 

「え、うん、そうだけど……。何時も一人で本を読んでるような、大人しい感じの男の子だったかな……?」

 

「クラスの人気者だったり、女の子にモテているなんて事も無い、悪く言えばクラスに埋没しているような感じの~?」

 

「まあ、悪く言えばそんな感じかしら……。私達も、あの時偶然出会わなかったら単なるクラスメイトの一人で終わっていたと思うから……」

 

友奈の言葉を美森が補足していく。ふんふんと納得したように園子は頷いていたが、痺れを切らした夏凜が急かすように園子に問いかけた。

 

「で、それがどうして私達のせいってことになるのよ?」

 

「考えてみてよ、にぼっしー。自分の好きな人がある日突然、複数の女の子と仲良くなり始めて~。しかもそこには同級生だけじゃなくて、先輩と後輩まで含まれていました~」

 

まるで歌う様に詳らかにしていく園子の語り口に、全員が顔を引き攣らせる。何となく予想がついてきたからだ。

 

「時間が経てば経つほど、自分の好きな人とその女の子たちは仲良くなっている様に見えます~。対して、自分は全然その男の子と接点を持てていません~。このままでは不味いと考えたその女の子は~」

 

「告白を決意した……という事ですか?」

 

「イッつん大正解~! ……という事で、この事態は私達のせいでもあるのかな~って」

 

園子が開陳した答えに、全員が黙り込んでしまう。自業自得とは言わないまでも、原因の多くが自分達からの物だと判明したのだから。

 

かといって、このままあっさりと尻尾を巻けるはずもない。こんな事で止める位なら、最初からこの様な覗き行為など行っていない。

 

気を取り直した少女たちは、スマホに映る映像に集中した。どうやら告白はクライマックスらしく、手紙の送り主の少女は想いの丈を語っていた。

 

「違うもん……○○君の事が一番好きなのは私達だし……」

 

「ふふふ……笑止千万とはこの事。……○○君の何を知っているというのかしら」

 

「ふーん……。まあ気持ちは分かるけど、でも所詮上っ面しか見てないような好意よね?……ぜっっっっったいにあたし達の方が○○の事分かってるし!」

 

「そうじゃない……そうじゃないもの、○○先輩の良い所は……」

 

「あはっ……、全然ダメね。○○の事、まるで分かってないじゃない。的外れもいいところだわ」

 

「だよね~。恋に恋してるのが丸わかりだもの~」

 

勇者部の少女達の表情に、優越感を含んだ笑みが浮かぶ。

 

今、○○に告白している少女よりも、自分たちは彼の事を分かっている、理解している――――――そんな確信が、六人の胸の内を駆け巡っていた。

 

――――――が、そんな優越感も長くは続かない。

 

○○が、告白の返事をする段階に入ったからだ。

 

自分たちの方が彼を想っているのは確実だと、勇者部の少女たちは何の疑問も無く確信している。全く当然の事だからだ。そこに疑問の余地はない。

 

だが、かといって○○にそれを伝えた事は無い。彼の傍は居心地が良すぎて、いままでそのあたりをハッキリさせたことがなかったのだ。

 

世界の命運の為に戦ったとはいえ、未だ中学生の身である彼女たちには、種類の違うその類の決意が出来なかった。

 

そのツケを今、支払わされることになったというわけだ。自分たちの想い人は、誰とも知れない女の告白を受け入れてしまうのか……?

 

そんな絶望感に、胸が張り裂けそうになっていると――――――

 

○○は、告白をしてくれた事に感謝はしたが、その好意を受け入れる事はしなかった。

 

勇者部の少女達の胸に歓喜が迸った。今すぐ叫び出したいような、抑えきれない喜び。

 

そんな少女たちの感動を他所に、告白していた少女は○○に縋りついた。

 

その映像を見た勇者たちの表情から、先程までの歓喜がきれいさっぱり霧散し、一瞬にして無表情になり殺気すら漂い出す。

 

「――何してるんだろ、この人」

 

「見間違いでないなら、○○君に縋りついているわ、友奈ちゃん。……身の程を弁えるべきね」

 

「……ッ!(ギリッ)…………こっ、この……この……っ!!(ギリギリギリッ)」

 

「お姉ちゃん落ち着いて! 確かに絶対許せないけど!」

 

「ちょっと何やってんのよこの女! ○○に軽々しく触るんじゃないわよ!!」

 

「――――――――――――あはっ」

 

まるで氷結地獄が現出したかのような、何もかも凍り付きかねないほど冷え冷えとした雰囲気を醸し出す六人の少女。

 

今誰かが彼女らの姿を目撃したら、勇者というより魔王じゃないかな?と疑問に思う事だろう。

 

が、このまま飛び出していくほど彼女らの精神は弱くない。一つ息を着いて、とりあえずまた映像に集中することにした。

 

……地獄の様な空気はそのままだったが。

 

○○は告白した少女を引きはがし、今自分には支えたい人達が居るから付き合えないと、真摯に説得した。

 

告白した少女も、そんな気はしていたが、でも諦めきれなかったと涙ぐみながら言い募る。

 

それから暫らく○○と少女の話は続いたが、そこからの話は勇者の少女たちの頭の中には入ってこなかった。

 

今○○は何と言った? 支えたい人たちがいるから付き合えません? その支えたい人たちって誰?

 

 

 

 

―――――――――――わ た し た ち の こ と ?

 

 

 

 

一瞬にして、あらゆることが彼女たちの頭の中から抜け出ていく。――ただ一つ、あるものを除いて。

 

 

 

――すき、スキ、好き、大好き

――キミの事が好き、スキ、大好き、心から好き

――○○君、○○君好き、本当に大好き、何でもしてあげたいの

――キミが大好き、私たちを受け入れて、キミなしじゃもうダメなの、生きていけない

――愛してる、私達を見て、私たちはキミの為に存在してるの

――すきすきすきすき好き好き好き好き大好き大好き大好き大好き愛してる愛してる愛してる愛してる

 

 

 

好意が過ぎてショートした頭で、ただひたすらに○○の事を想う少女たち。

 

多幸感でいっぱいになり、立っていられなくなって全員が座り込んでしまった。

 

「あ……ぅ、○○……くん……」

 

「う……くぅ……はあっ、はあっ……○○君……」

 

「ほんと……もう……○○ってばぁ……どうしてくれるのよ……」

 

「せんぱい……○○先輩ぃ……」

 

「……ッ!…………うぅ……○○……」

 

「はーっ、はーっ、はーっ……! んぅ……あはぁ……」

 

肩で息をしながらも、その表情は至上の幸福を噛み締めていて、今にも天まで上りそうなほど夢心地なのだろう。

 

それもひと段落して息を整えた少女たちは、互いの顔を見合わせた。

 

「さて……じゃあ代表として部長のあたしが訊くけど……もう分かりきってるけどさ、みんな○○の事、大好きでしょ? ……離れるなんて、考えられない位には」

 

風の問いかけに、全員が頷く。ここに居る少女たちは、冗談でも何でもなく、○○が居なければ生きていけないだろう。

 

しかし、彼女たちは六人。○○は一人しかいない。五人があぶれる事になる。

 

となれば、誰が○○を射止めるかという話に普通はなるが、彼女たちの仲間意識は普通でないことを可能にさせるほどのものを秘めていた。

 

ではどうやってそれを可能とするのか?

 

「ふふふ~、こんな時こそ私の出番なんじゃないかな~?」

 

園子がいつもの笑みを浮かべて、全員を見回した。

 

「園子……あんた、まさか」

 

「おっ、鋭いね、にぼっしー。うん、大体当たりなんじゃないかな~」

 

「??? どういう事なのかな、園ちゃん?」

 

「つまり~、私の家は乃木さんちだって事だよ~」

 

「なるほどね……でも結構……いや、かなり無茶苦茶な言い分になるけど、通るものなの?」

 

「フーミン先輩、通る通らないじゃないの……絶対に通すんだよ~」

 

「まあ、それはそのっちを信じるとしても……○○君に何て言うの?」

 

先程までの明るい雰囲気が、一瞬にして陰る。普通の感性をしていれば、彼女らの提案は常軌を逸しているとしか思われないだろう。

 

「だ、大丈夫なんじゃないでしょうか……? ○○先輩は私達を支えたいと言っていましたし、可能性はあるんじゃ……」

 

自信無さげに言った樹の意見を、各々が吟味していく。そんな中――

 

椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった友奈が、全員を見渡して言った。

 

「そんな心配なんて、する必要無いと思います! 上手くいく保証が無いから○○君に想いを伝えないなんて、上手く言えないけどそんなの何か違うと思うんです!」

 

多大な熱量が込められた友奈の言葉に、全員が圧倒される。

 

「絶対上手くいく告白なんて、そんなものありません! だけど、私達は○○君の事が好きで好きで……これを伝えないなんて、もう無理でしょう? 私は絶対に伝えます! 正面からまっすぐ!」

 

もはや友奈の独壇場である。彼女の溢れんばかりの想いが、皆に伝播していく。

 

「断られたら……って考えたら、私も本当に怖いです。おかしくなっちゃうかもしれないけど……でも、一度断られたくらいじゃ、きっと諦められないと思うんです。そのくらい大好きだから……」

 

ふつふつと、全員の心に火が灯っていく。

 

「だから……だから、勇気をだして、想いを伝えましょう! 私達は、勇者部なんですから!」

 

完全に迷いを捨てた友奈の言葉が、全員の弱気を拭い去り、道を示した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここから先は、以前俺が語った通りである。

 

彼女たちは、俺に想いの丈をぶつけてきた。小細工抜きで、まっすぐに。……いや、園子がちょっとした裏工作をしたみたいだが、告白そのものとは直接関係ないので今は置いておく。

 

前も言ったが、今考えてもやはり彼女らの行動は常軌を逸している。……一人の男に六人まとめて、実家の権力まで使って告白したのだから。

 

当然、こんなことはおかしい、間違っていると俺の理性は訴えた。だが、感情は何の問題があるんだ?と嘯いた。

 

そして結局は、彼女たちを受け入れた。……何の事は無い、俺も彼女たちに対して狂っていたのだろう。

 

世界の為に命を懸けて戦った、勇者と呼ばれる少女たち……彼女たちの、その輝きに。

 

さも俺の方が彼女たちを受け入れた、みたいに言っていたが……実際は逆かもしれない。

 

そのくらい俺は彼女たちに対して、首ったけなのだから。

 

……まあ、流石に6人全員に告白されるなんて、想像の埒外だったけども。

 

 

 




……何でこんなに長くなったんだろう?

あと、そもそもこれ、ヤンデレに見えます?(根本的な疑問)

そのまま突っ走った私が言う事じゃないでしょうけど……

さて、それではタイトルの植物についてですが、ちょっとこわい花言葉がついてます

ガマズミ・・・『無視したら私は死にます』
アイビー・・・『死んでも離れない』

彼女たちの心境にマッチしているかな、と思ったので使ってみたのですが……狙い過ぎでしょうか(苦笑)


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