後、今回の話は前話よりさらに前の時間なので、主人公が各キャラを呼ぶときの呼称が異なります。
些細なことかもしれませんが、一応お知らせします。
ではでは、お楽しみいただければ幸いです。
※ほんの一瞬ですが、日刊ランキングに載ることが出来ました!
応援して下さった方々、本当にありがとうございます!!
綺麗な花も、何事もないのなら咲き誇る事は無い。
日差しを浴び、風を受け、水を、栄養を取り込んで育ってゆく。
同じように人の心も、何事も無ければ動くことはほとんど無い。
――――特に、恋心というものは。
桜の花は、どのような切っ掛けで咲き誇ったのだろうか――――?
「はぁー……」
勇者部の活動も終わった後の帰り道――。
今日は俺と結城さんと東郷さんの三人で帰っている。
「はぁー…………」
通学路が違うのでいつもは校門から出てしばらくして別れるのだが、今日は部の活動が長引いてしまい、もう大分暗いので二人を家まで送ることにした。
最初は遠慮していた二人だが、犬吠埼先輩も送ってもらいなさいと口添えしてくれたので、結城さんも東郷さんも恐縮しながら受け入れてくれた。
「はぁー………………」
「……?」
さっきから結城さんの様子がおかしい。いつもの溌剌とした感じはなりを潜め、溜め息ばかりついている。
その姿はまるで、疲れ切った社会人の様ですらある。
余りにも普段と違うその姿に、俺と東郷さんは顔を見合わせて首をひねる。
そして、見かねた東郷さんが心配そうな表情で結城さんに尋ねた。
「友奈ちゃん、一体どうしたの?」
「ぅえっ!? え、あ、と、東郷さんか……。ええと、な、何かな?」
「それを聞きたいのはこちらよ、友奈ちゃん。さっきから溜め息ばっかりついて。……何か、悩みでもあるんじゃないの?」
「うぅ……そ、それは……」
珍しく歯切れの悪い結城さんの様子に、俺と東郷さんはますます首をひねる事となった。
確かに彼女はあまり人を頼ることはしない方なのだろうが、かといってここまで言いにくそうにするだろうか。
俺が疑問に思っている最中にも、東郷さんが結城さんを説得する言葉を紡いでいく。
かなり、本当に言いにくそうにしていた結城さんも、東郷さんの熱意と誠意に心を動かされたのだろう。
ぽつぽつと、小声で話し始めた。
「……じ、実は……今日、部活に来る前に……その……」
そわそわと落ち着きがなくなってきた結城さんを前に、俺と東郷さんは急かすことなく、ゆっくりと頷いて続きを待つ。
すると、結城さんの口から意外な言葉が飛び出してきた。
「……わ、私の事、好きだって……こ、告白されて……」
予想外の言葉だったのだろう、東郷さんは両手を口元に持っていって目を見開いている。
俺も確かに驚いたが、告白されたという事自体は別に不思議ではなかった。
結城さんは明るいし、性格もかなり良いと思う。それに誰とでも分け隔てなく接し、何より笑顔が元気をくれる。
そんな彼女に惹かれてしまう男子がいたとしても、別に不思議でも何でもない。
「すぐ返事は出来ないだろうから、明日の放課後に返事を下さいって言われて……それでずっと悩んでて……」
「なるほど……それじゃ言いよどんでも仕方ないって。相当にデリケートな問題だしなぁ」
「○○君の言うとおりね……ごめんなさい、友奈ちゃん。問い詰めるようなことをしてしまって……」
「そんな! 謝らないで、東郷さん! 私の事を心配してくれたんでしょう? すっごく嬉しいもの……ありがとう」
曇っていた結城さんの表情にも、多少は余裕が出てきたように見える。
「それで、東郷さん……本当に、どうしたらいいんだろ……?」
「……難しい問題だけど、私の意見は――」
東郷さんが自分の考えを結城さんに披露していく。
結城さんは真剣な表情で東郷さんの言葉に耳を傾けており、一言も聞き逃すまいという意思がうかがえる。
うんうん唸りながらも光明が見えてきたからか、声のトーンがいつもの調子に戻ってきたように感じられる。
「うん、ありがとう、東郷さん! 何とかなりそうかも!」
「力になれたのならよかったわ、友奈ちゃん」
笑顔を見せながら東郷さんにお礼を言っている結城さん。もうほとんどいつもの調子だ。
そうこうしている内に、結城さんと東郷さんの家の前まで来てしまった。
名残惜しいが、ここでお別れだ。
「じゃあ、また明日、学校で」
「ええ、○○君。また明日、学校で会いましょう。送って貰って助かったわ」
「うん、送ってくれてありがとう、○○君。じゃあ、また明日ね!」
そう言って、東郷さんは家の中に入っていった。
結城さんも自宅に入って行こうとしたのだが、立ち止まってこちらを振り返り、言葉をかけてきた。
「あ、そうだ。……○○君は、どう思った?」
「どうって……結城さんが告白された事?」
「うん。今回の事について、○○君の意見も聞けたらなぁって思って」
ふーむ……と、俺は一瞬考え込んだ。……が、するりと考えは浮かんできた。
「そうだなぁ……。おめでとう、ってところかな」
「――――――え」
俺の返事に対して、気の抜けたような表情で声を漏らす結城さん。
おかしなことを言ってしまっただろうか? 別に問題は無かったと思うのだが……。
「わ、私が告白された事についての感想が、それ?」
「うん、やっぱり結城さんは人気者だなーって思ったし、仲のいい友達が人に好かれるって嬉しい事じゃん」
「……な、仲のいい……友達……」
ぼそりと何事かを呟いた結城さんは、顔を伏せてしまった。表情はうかがえないが、一体どうしたというのだろうか。
「結城さん……?」
「――――――○○君のバカッ!!」
ありったけの大声で突然叫んだ結城さんは、そのまま俺に背を向けると玄関の戸を開けてくぐり、それを荒々しい音をさせながら閉ざした。
ほとんど一瞬の出来事だったために、馬鹿みたいにぽかんとしながらそれを見送ってしまったが、冷静に考えて相当マズい事態だと思い至った。
何が結城さんの気に障ったかは分からないが、彼女があんな風に怒鳴るなどただ事ではない。
「……明日、誠心誠意謝るしかない、か」
現状、それしか手が無い。
こういう場合、直接会って真剣に話し合うしかないが、今すぐは絶対に不可能だ。
結城さんも頭に血が上っているし、そもそも俺が彼女を怒らせた原因に思い至っていない点がまず話にならない。
足りない頭を捻りながら、俺は家路に着くのだった。
入浴を済ませた友奈は、髪をかわかすとベッドサイドに座って溜め息を着いた。
「あんな風に怒鳴るなんて……どうしてあんなことしちゃったんだろ……」
友奈は、自分がしでかしたあの時の事を心から後悔していた。
自分を心配してくれて、悩みまで親身になってきいてくれた友達にバカと言って怒鳴るなんて……絶対やったらいけないことだ。
だが○○から、告白されておめでとうと言われ、さらに自分のことを友達だと言われた時、何故かとてつもないショックを受け、心が軋むような痛みを感じた。
そして、それが収まるとカッとなって頭に血が上り、あの言葉が口をついて出てきてしまったという訳である。
「私と○○君は友達……それで正しいはずなのに……何であんなに……」
――――――悲しくなっちゃったんだろう
友奈は、あれからずっと自問自答していた。
自分と○○君は友達。勇者部所属の部員同士。一緒にお役目をこなす仲間。色々な関係が頭に浮かぶ。そのどれもが正しい。
「○○君はその中の一つを言っただけなのに……私は○○君を大切な友達だと思ってないの……?」
樹海の中に迷い込み、星屑に襲われそうになっているところを私が助けたクラスメイト。
遭遇した出来事を忘れて日常に帰る事も出来たのに、私達のことを放っておけない、手助けしたいと言って、勇者としての仲間になってくれた。
クラスメイトとしては殆んど関わる事も無かったから、最初は緊張することもあったけど、○○君の方から歩み寄ってくれた。
樹海でも、日常でも……いっぱい助けてもらったし、私が助ける事もあった。
お役目のときも、普段の生活の中でも助け合っている、大切な人。
友奈はそこまで考えて、おかしな事を考えている自分に気付いた。
――――――――――大切な人?
「え……あ、あれ、何だろ、これ……」
○○の事が大切だと思った瞬間、胸の奥に締め付けられるような感覚が走った。
ただ、今日○○と別れた時に感じた、軋むようなものではない。
疼くようで、とても切ない……甘い痛み。
「○○君……○○くん……」
友奈は○○の名前を呼びながら、胸に手を当てる。
鼓動が速くなり、頬も上気してうっすらと色付く。
友奈の脳裏に、色んな○○の表情が思い浮かぶ。
初の実戦に緊張して、ガチガチになっていた時の表情。
一緒に宿題をした時の、真剣な表情。
体育の授業で勝負している時の、闘志をむき出しにした表情。
うどんをみんなで食べに行った時の、満足そうな表情。
私が怪我をしてしまった時の、心配そうな表情。
全部全部、大切で――――――愛おしい。
「○○君……好き……大好き……」
愛おし気に○○の名前を呟き……桜の少女は、想いの花を咲かせた――――――
翌日の放課後、告白の返事を済ませた友奈は勇者部の部室へと向かっていた。
もちろん、告白は断った。
――――――自分には、好きな人がいると言って。その人以外は考えられないと、そう言って。
幸いにも、告白してきた少年は縋るようなみっともない事をする人間ではなかったので、話は早く済んだ。
昨日、返事の仕方にあれだけ悩んでいたのが嘘のように手早く終わってしまった事に拍子抜けしたが、早く終わるならその方が良いと友奈は思い直した。
――――――早く○○君に会いたいなぁ……今日はどんな事を話そうかな?
つい先ほど、告白という一大事に当事者として関わったとは思えない事を考えている友奈。
これでは友奈に告白した少年はまるで……というか道化そのものだが、自分の想いを自覚した友奈にとっては、その程度の出来事でしかなかった。
足取りも軽く部室を目指す友奈。
少し行くと、今まさに自分が考えていた想い人が曲がり角から姿を見せた。
「あっ、○○君ー!」
軽かった足取りがさらに軽くなり、まるで羽でも生えているかのようにウキウキしたものに変化する。
そのまま○○の目の前に行き、蕾が花開くような満面の笑みを浮かべて○○を誘う。
「部室まで行くんだよね? 一緒に行こうよ!」
あんな別れ方をしたというのに、異常なほど機嫌のいい友奈に困惑している○○は、恐る恐る尋ねた。
昨日の事を怒っていないのかと。
「うん? あぁ、あれはね……私が悪かったんだよ。○○君は全然悪くない……むしろ、私が謝らなくちゃいけないの。本当に本当に、ごめんなさい……」
そういって頭を下げた友奈に、○○は慌てて頭をあげるように言う。
結城さんが何の理由も無く怒鳴るなんて考えられないから、きっと自分にも落ち度はあったに違いないと、そう言って。
「○○君……。じゃあ半分こ、半分こにしようよ。私と○○君の、どっちにも理由があったってことで。良いよね?」
勿論だと頷く○○。それを受けて、友奈もにこりと笑って頷いた。
「うん、じゃあこの話はこれでお終い! ……優しいなぁ○○君、これ以上好きになっちゃったらどうしよう」
最後に何か聞こえた気がして○○は友奈に尋ねるが、彼女は何も言っていないといって笑顔を向けた。
「ううん、なーんにも言ってないよ? それじゃ、行こう?」
そうして連れだって歩き出す二人。しかし――
「――――――あっ!?」
友奈が突然よろめいて転びそうになる。何故かその場所だけ廊下が水で濡れていて、滑ったらしい。○○は驚きながらも咄嗟に友奈を受け止め、彼女は何とか体勢を立て直すことが出来た。
「あ、ありがとう○○君……」
友奈は前に倒れそうになったので、○○は咄嗟に彼女の前側に回って受け止めた。
なので、自分の胸で友奈を受け止める形となってしまった。
彼女は○○の胸にすっぽりと収まってしまっている。
思わぬアクシデントだったが、友奈にとっては思いがけない幸運だった。
(○○君……私おかしくなる、おかしくなっちゃう。……離れたくない、でも離れないと○○君に変な子だって思われちゃうし……)
葛藤しながらも○○の胸から離れた友奈は、名残惜しげな表情はカケラも見せず、いつもの様に快活に言った。
「もう大丈夫だよ、○○君。さ、気を取り直して行こう?」
――――ここで、最後の引き金が引かれた。
○○は、躓いた足がもし痛むなら、自分につかまって歩くといいと友奈を気遣ったのだ。
以前の……想いを自覚する前の彼女なら、この気遣いに対し礼は言っても、最終的には断っただろう。
実際、友奈の足には何の問題も無いのだ。全力疾走してもお釣りがくる程度には。
「――――――――じゃあ、腕につかまらせてもらってもいいかな?」
――――彼女は、ごく自然に嘘をついた。
以前までの彼女なら、考えられない行動。
自分の想い人と触れ合いたいがために……心配してもらいたいがために。
(○○君、私の事心配そうに見てる……私の事が大切なの? そうだったら嬉しいなぁ……)
友奈が○○の腕をつかんで歩き出す。……つかむというよりも、もはや組んでいるといった方が正しいような格好になっているが。
(○○君の腕、固いなぁ。やっぱり男の子なんだね、私達とは全然違う。…………幸せだなぁ……この時間がずっと続けばいいのに……)
部室に到着するまでがタイムリミットだと、友奈も理解している。
だが、それでも、この瞬間が永遠に続くことを彼女は夢想してしまっていた。
○○は友奈を気遣いつつ、ゆっくりと歩いて行く。
そんな○○の気遣いに気付いた友奈の心は更に歓喜の渦に飲まれ、○○への好意一色になっていく。
想いの花を咲かせた少女は、想い人の腕を抱き寄せ、大事そうに抱える。
離れないように、離さないように。
――――――ぎゅっと。
……砂糖を吐きそうになりました。
ああ~、口の中が甘い事甘い事……
前書きでも書きましたが、応援してくれた方々、本当にありがとうございます!
こんな、勢いで突っ走ってる小説を評価してもらって感謝に耐えません。
本当に、感謝感激です!