閃の軌跡の果てに   作:キクイチ

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ほのぼの日常回。


4月 自由行動日

 

 

 ――4.17

 

「よしっ……」

 

 鏡を見て身なりが整っていることを確認する。

 

 今日の教科は……と。うん、ちゃんと準備しているな。

 

 忘れ物が無いよう、前日に用意して、当日も確認する。

 

 ガチャンと、扉を開けて部屋を出る。

 下の階まで、歩いて行けば―――アルトリアも今出るところだったらしく、扉の前に立っていた。

 

「やあ、おはよう。アルトリア。今出るところか?」

「はい。シロウも?」

「ああ」

 

 二人一緒にドアを開けて出る。

 自然と歩む速度は同じになり、横に並ぶ。

 

 最近はどうか、と頭に疑問提起を行えば。近日の様子が思い出される。

 

 ―――なんか、少しぎすぎすした空気が部屋の中に漂っている。平民と貴族の対立構造がクラス内にも生まれつつあるというか。

 アルトリアは至って、隔てなく接してはいるが、マキアスには苦戦しているようだ。

 ただの貴族嫌いではなさそうなのだが。やはりなれ合わないというか喧嘩腰だ。

 俺は平民だからか、マキアスともよく話すが、そこまで悪いヤツというわけではなかった。何気なく聞き出そうとは試みたが、躱されてしまうし。今は、彼らの関係の改善は無理そうだ。

 

 次点で気になるのは、リィンとアリサ―――ダイナミックセクハラの被害者の関係か。入学から数日と立っているのに、未だに関係の改善ができていないようだ。リィンが振り向けば、アリサは顔を背けるという感じで、マキアスとユーシスの関係レベルの溝はできていない。

 以上が最近のクラスの様子である。

 

 朝早くのせいか、少し肌寒く感じる。しかし、ライノの花は花弁が開いており活動期のようだ。もうすぐすれば、暖かくなるからだろう。

 

「鍛錬の調子はどうですか? 朝早く起きては軽くランニングしているでしょう?」

「――気づいてたのか。まあ、ぼちぼちかな。スタミナはそれなりについてきた…とは思うんだけどさ、やっぱ……」

「剣の腕、ですか」

 

 どういうわけか、昔から弓は無駄に出来るのに、剣の才能はゴミカスといっても過言では無い。そこらにいる子供の方が剣ができる………そう考えると落ち込んできた。

 

「そういえば、アルトリア。君は、クラブとか決めたのか?別に入らなくてもいいらしんだがー――」

 

 クラスに着くまで、そんな他愛もない話を繰り返した。

 

 

 

 

 授業は滞りなく終り帰路に着こうと席を立つ。後ろを見れば、三人の男子が話しあっている。

 

「よ。何話してるんだ? 俺も混ぜてくれよ」

「ああ、今エリオットがクラブに入ったって話をしてたんだ」

「へぇ~、何処の入ったんだエリオット?」

「吹奏楽部だよ。といっても担当するのはバイオリンになりそうだけど」

「てことは、バイオリン弾けるのか?」

「えへへ、まあね」

 

 そうはにかんで笑うエリオット。なるほど、趣味を活かしたクラブ活動ってわけだ。

 

「ねぇねぇ、ガイウスはどの部に入るか決めたの?」

「ああ、オレは美術部という部に入ろうかと思っている」

「へぇ……意外だな」

「てっきり乗馬部とかに入るのかと思ったんだけど」

 

 ガイウスは、ノルド高原出身の留学生と言っていた。あそこは軍馬の生産地だし、部族出身とあらば馬に乗るのも達者。ならその能力を活かせる乗馬部とかに入ると当たりを付けていたのだが。

 

「ガイウス、絵とか描くんだ?」

「故郷にいた頃にたまに趣味で描いていた。ほぼ我流だから、きちんとした技術を習えるのはありがたいと思ってな」

「そっかぁ……」

 

 彼の故郷――ノルド高原は蒼穹の大地があるときく。さぞ雄大な景色が広がっているのだろう。

 

「ちょっと見てみたいな、ガイウスの絵」

「いいの描けたら教えてくれよ、ガイウス」

「ああ、約束しよう」

「シロウは? 部に入ったの?」

 

 エリオットがそう尋ねてきた。

 

「俺は、釣皇倶楽部に入った。昔から結構釣りしててさ。川釣り、海釣りよくやってたから」

「確か、シロウの出身地って――ラマール州の北の方出身だったけ?」

「ああ、ペンドラゴン辺境伯の治める……まあ、最西北だな。文字通り辺境出身だよ」

 

 まあ、俺の住んでいた都市は隣接していた()()()し、そこで幼年

時代は釣りをしていたのだろうと思う。

 

 なにか考える仕草をリィンはして。

 

「ひょっとして―――」

 

 そこから先の言葉は―――がちゃり、という音に止められた。

 

「おや……?」

 

 音がした方向にガイウスが振り向きそうこぼす。

 扉から入ってきたのはサラ教官だった。

 すたすたと足早に俺達がいる場所に歩いてきた。

 

「よかった、まだ残ってたわね」

「サラ教官」

「どうしたんですか?」

 

 そうエリオットが聞けば、サラ教官は頭をかいて話し出した。

 

「いや~、実は誰かに頼みたいことがあったのよ。この学院の《生徒会》で受け取ってはほしいものがあってね」

 

 それは何かと尋ねれば、学院生活に欠かせないものと返ってきた。

 この場で答える気はないらしい。

 

「―――だったら、俺が受け取ってきますよ」

 

 そう答えたのはリィンだった。

 

「いいのか…?」

「ああ、三人はこれからクラブのほうに行くんだろう? 俺はまだ決めてないし、見学がてら受け取ってくるさ」

「そっか……じゃあ、お願いしようかな」

「よろしく頼む」

 

 “それじゃあ、よろしくね”と意味深に言って去っていった。

 

「そういえば、生徒会室ってうちの部室もある学生会館だったような?」

「あ、そうなのか。じゃあ、一緒に行くか。」

 

 リィンと共に学生会館に向った。

 

 

 

 

 放課後、釣った魚を釣皇倶楽部の部長――ケネスに見せて、互いの成果や季節でとれる魚などを話し合った後に部活を終え、寮への帰路につく。

 釣皇倶楽部の部活内容はこんなふうに捕った魚を週一辺りで見せ合う活動だったりする。あとついでに、釣りの楽しさの布教。結構ふわふわな活動内容であるが、それをまじめにするのが釣皇倶楽部。まあ、楽しんで釣りをするのがモットーということなので、それでいいのかもしれない。

 

 ―――来週には実技テストなるものもあるし。

 

 どんなものかはわからないけど、無様はみせられない。

 かちゃりと揺れる鞄に入った得物を思い浮かべる―――彼女がプレゼントしてくれた得物。中華剣と彼女は言ったが、どこの意匠かはわからない。風の噂で特注だと聞いた。

 なぜそこまでしてくれたのかはわからないが、彼女は自分にプレゼントした時、『シロウには、やはりこれが似合う』と言ってくれた。

 なら―――使いこなせないと、なんて言うか、嫌じゃないか。せっかくもらったのに。

 

 絶対の自信のある弓を使う気が無いのは、そう言う理由もあってだ。貰った瞬間に、いつか持ったことがあるような、不思議な感覚があったのもある。なんというか、しっくりきたのだ。彼女の見識眼には、恐れ入るばかりだ。

 

 もう外は夜になってしまって、街灯が赤々と輝いている。

 

 寮に着き扉をあけて、自分の部屋に向う。

 

 すると―――。

 

「シロウ、今帰ったのか? ちょうどよかった。部屋にはいなかったから出直そうと思っていたところだったんだ」

「ん? ああ、リィンか。どうした? 何か用か?」

「ああ、ちょっと渡すものがあってさ」

 

 振り返ればリィンがいて、その手には何か赤いもの―――葉書サイズの物がある。

 それを手渡された。

 

「――これは?」

「学生手帳。トワ会長――生徒会長から渡すように頼まれてたんだ」

「そうなのか。ありがとう、リィン」

「シロウは、こんな時間まで部活か? たしか釣りクラブに入ってたって聞いたけど」

「あー、いや部活じたいはもうちょっと前に終わったんだけどな。農具がすこし痛んで困ってる人がいて、色んな所に掛け合ってたりしたらここまで遅くなっちまったんだ」

「まさか、こんな時間まで人助けを?」

「つい、な」

 

 学食によれば、導力不全おこして上手くつかえなくなったコンロとかあったし。片手間に修理したりしてたのも遅くなった理由かな。

 

 そんな話をした後、リィンと別れて自分の部屋に帰って―――。

 

 

 

 

 さて、今日は何をしようか。

 

 休日、というか自由日とよばれるこの日。

 部活に撃ち込むもよし、休息をとるもよし、鍛錬するもよし、という日である。

 まあ、部活しろよって話なのだが、釣皇倶楽部というのは釣りさえ楽しめば良いという部なので、週一回部室で話す日はあっても、代替の日は釣りしてようっていう活動なのだ。そっちが部長の本音かもしれないが。まあ、部室は開いているらしいが実質暇といっても過言では無かった。

 

 どうせだから、いろんなところを回るのもいいかもしれない。

 

 寮を出て、空をのぞめば綺麗な青。耳を澄ませば小鳥の声と何処かで楽器でも弾かれているのか音楽がかすかに聞こえてくる。

 寮から広場に続く“食品・雑貨”と描かれた看板が目に入った。

 

 そういえば、寮には一応自炊スペースがあったんだっけ。と思い至る。

 なら――。

 

 店の名は《ブランドン商店》―――ブランドンさんが経営しているお店。基本的な食材や文房具やなぜかぬいぐるみ、小物まで売っている品揃えのいいお店だ。帝都にほど近いというのも品揃えのいい理由かもしれない。

 

 扉を開け、店の中に入れば――奥にブランドンさんがいるのが見える。腕を組んではいるものの優しい人だ。

 

「いよう、シロウ。なんか入り用か?」

「おはよう、ブランドンさん。今日は…えっと、とれたて卵と粗挽き塩、しゃっきり玉ねぎとにがトマトを二セットずつお願いします」

「おう、しめて……400ミラだな。なんだ、サンドイッチでもつくるのかい?」

「まあ、そんなとこ。ありがとう、またくるよ」

 

 食材を購入し、寮へと持ち帰る。

 寮の入り口から左の部屋に入ると、大テーブルがどーんとあって、その奥にキッチンがある。

 一応、と自分の部屋から料理器具を持ってきた。

 寮暮らしと聞いて、自炊用にと故郷からもってきたものだ。

 包丁をとりだして、部屋に買い置きしてあったパンをスライスして―――フライパンに油を引いてっと。そのうえに卵と砂糖、塩をひとつまみいれる。

 カチリ、とスイッチを入れればちゃんと導力コンロが起動させる。

 

 火力は中火。細いはしで軽くゆったりと――だいたいに火が通りだしたら一旦火を消してフライパンに蓋をする。余熱で火を通すのだ。これでふわふわとした食感になる。

 その間にちゃっちゃと玉ねぎとにがトマトをスライスする。

 ちょうど良く、火が通った卵を箸でとき崩して――軽く味見する。

 

 よし。いい出来だ。

 

 それをパンの上に全て挟んでいき閉じる。これで完成っと。

 

 五つ作ったサンドイッチのうちの一つを食べる。

 しゃきしゃきとした玉ねぎの食感とぴりりとした味。トマトから伝わる甘さと酸味。それをしっとりと甘い卵が抱擁する。

 

 ―――ちょっとした自信作だな。

 新鮮な食材あってこそだとは判っているが、他の人に食べさせて反応を見たいところだ。いつもなら呼んでもないのに、金のくせっ毛を暴走させながらくるアルトリアとかいるのだが、彼女は今乗馬部中である。

 

 そう思っていると、背後の扉が突然開いた。

 入ってきたのはエリオット――ていうか、お前寮にいたのか。そういえば、音楽少し聞こえていたような。

 

「良い匂いすると思ったら、料理してたんだ」

「おっ、いいところにきたなエリオット。ちょっと味見してくれないか?」

「いいけど……へぇ、サンドイッチかぁ」

 

 そう言ってサンドイッチを手にとって、はむっと食べた。同時に聞こえるしゃきしゃき音と共に頬をほころばせた。

 

「おいしい~~!すっごく、おいしいよコレ!」

「そうか、ならよかった」

「あら~、何の騒ぎ~?」

 

 と、登場したのはサラ教官なの…だが。

 

「く、くさい! うぅ、お酒の匂いだ……」

「ちょ、失礼ね! ちょっとお酒をはんだだけじゃない!」

「……昼間っから酒飲むのは流石にどうかと思うんですけど……ほどほどにしておいてくださいね」

「あ、それサンドイッチ? あたしも食べて良い? 朝からずっと飲み続けたせいかお腹が減ってるのよね~」

「いいですけど……聞いてませんね」

 

 了承をきいてからすぐに手を伸ばして食べるサラ教官。目の前に立たれてわかる何という酒臭さ。ビール六杯は飲んでるな。

 

「あら、美味しいわね。どっか料理店ででも働いてたの?」

「働いてませんけど……そんなに美味しかったですか」

「ええ、なかなか……で、ちょっとした相談なんだけど」

 

 相談? 教官の相談―――なんだろうか? 前、言っていた自習関係だろうか?

 

「ね……ちょっと辛くて香ばしい――つまみ作ってくれない?」

 

 やっぱりな! そんな気はしてたよ! だって今もジョッキ片手に持ってるし!

 

 正直、この人のため…というと、気が進まないが―――けっこう酔いが回っているようで、すこしだが、いつもの歩き方にくらべてふらついている。ほっとくと、そのまま飲み続けそうだし。

 

「いいですよ……部屋に持って行くので、先行っていてください」

「あら、いいの? 断ってもいいのに」

 

 なら頼むなよ、と思わんでもないが。

 

 “じゃ、お願いするわよ”と言って、ちょっとふらつきながらキッチンから出て行った。

 

「よかったの、シロウ?」

「ああ。どうせ暇だったし、すこし腹を膨らませないとあの人ずっと飲み続けそうだしな」

 

 あのままほっといて、自滅されても困る。

 ずっと飲み続けていたってことは――あの人は作業、おそらく書類なんかの作業がてらに飲んでいたのだろう。

 

 さて、どんなものをつくろうか。そう頭を悩ませるのだった。

 

 

 

 

 サラ教官の介護がてら酔いつぶれるまで付き合った。なんとか作業自体は終わらせたようだが、今、太陽は中天から斜め下にずれている。

 あの人、作業終わったら終わったで“お腹減った~”の上に“くぁ~、やっぱ仕事後の一杯はいいわぁ~”と飲みだす始末。 おまけにさっき、見に行ったらぐで~と机に向かって倒れて眠っていた。正直いらっと来たが、下敷きにしていた書類をクリップでまとめて他のところにどけておく余裕はあった。あんなに酒を飲みながらも、まなざしは真剣にやっていたのだ。よだれだらけにして台無しにはしたくないだろう。

 しかしおかげで、いろんなところを回る時間がなくなってしまった。

 

 まあ、材料費も枕元に置いておいたのでそれで手打ちにして置いておこう。あの人もちゃんと教官していることがわかったし。

 

 あとかたずけをしていると、がちゃりと背後で扉が開く音がした。

 振り返ると、黒い髪——リィンが入ってきた。

 

「あっと、今いいか?」

「ちょっとまってくれ」

 

 なにか用事でもあるんだろうか。

 

 手の水気をタオルでふき取とった。

 

「で、なんか用かリィン」

「えっと、よければなんだが—————旧校舎に一緒に行かないか?」

 

 それは、探索の誘いだった。ちょっと疲れがないわけではないが。せっかくだし。それに旧校舎では、魔獣が出る。

 来週に控える戦闘訓練のいい練習になるかもしれない。

 

 当然、俺の答えは—————。

 

「いいぞ、行こうか。すぐに準備するからそこで待っていてくれ」

 

 

 




シロウ働きすぎでは...?
これが...善意の家畜...ッ!
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