私生活のあれこれでかなり進行が遅くなってしまっています……すみません……ボリューム増えてますのでお許しを……(次回からはもうちょっとだけ文章量が抑えめです)
さて、今回からは、前書きにあらすじを入れさせていただこうと思っています。ストーリー展開に分かりにくいところがある、という方にも安心していただけるよう、簡潔なものです。
では、どうぞお楽しみください。
前回のあらすじ
〈マインドキャンサー〉と呼ばれるそれは、人間のネガティブな感情を誘発し、喰らい、生存する生物であった。
間一髪、『雷神さま』に助けられた暁葉。自身の
そんな彼女を再び救ったのは、先日出会った、天宮幸乃であった。
∀ 201X年 11月18日 X県A市
幸乃の怪我が回復した後、
「いいか、幸乃。〈マインドキャンサー〉と戦うにあたって、大切なことがある。『ネガティブな感情を出さない』ってことだ。殺意はもちろん、怒り、悲しみ、恨み、慢心、焦り──これらは全てアウト。
もう一つ、今から説明することだが、〈マインドハザード〉に
相手の動きを冷静に観察する。
そうすれば、余程のことがない限りは達成できるはずだ、と続ける。
数分後……
「──さて、実践に入っていくぞ。まずは攻撃を捌いてみろ。おまえの持病が悪化しない程度のレベルで行う」
Code:U.N.K.N.O.W.N. (other)
No.146 11月21日 a.m.2:48 更新
ハローみんな!
元気にしてたかい? 初めましての人もいるかな?
初めてここへ来た人のために説明しておくと、このブログは、世間で起こってる、でもニュースにはならない、なんて話を取り上げているんだ。
主に、都市伝説的な話を面白おかしく語るブログなのさ。
ああ、裏社会とかそのへんの事情を書くとコンクリートに詰められて東京湾に沈められるからさ、それはしないよ(笑)
じゃあ、本題に移ろうか。
前回は、『闇に潜む! 〈マインドキャンサー〉ってなに?』というタイトルでお送りしたんだけど、実は今回、この続きの話をしようと思うんだ!
だんだん面白い話になってきてる! 期待してスクロールしてみてほしい!
興味深いことばっかり起こってて、僕としてはほんとにワクワクとドキドキの連続かつ興奮もののアツいバトルだったんだけどね、
ああ、本題に入るって言ったのに……僕ったらお茶目さんだなぁ(*´∀`*)
今度こそ本題に入ろう。
〈マインドキャンサー〉っていうのは、人のネガティブな感情をより多く生むために行動している、ヤバい怪物──って話を前回やったよね。
そこに数奇な糸が絡まりつつあるんだ。
しかも、聞いて驚け、なんとなんと、高校生! ただの高校生が関わってきたんだ!
え? なんだそのフィクションじみた展開は、って? HAHAHA、心配はいらない!
だって、この話を信じるかどうかは君しだいだからさ!
また始まったよwって気楽に楽しむのもOK! もちろん没頭してみるのもOK!
で、その高校生がなんで関わってきたかっていうと、願いを叶えたいと思っているからなんだ!
人知れず〈マインドキャンサー〉を倒すために活躍する、「ヒーロー」たちの冒険譚……いやあ、カッコイイなぁ……!
お人よしそうな少年と、カワイイ娘と、イケメンの先生がいてね、これがかなり面白い話で──
(中略)
さて、今回はここまで。楽しんでもらえたかな?
うん? そもそも俺は何者なのか、って?
そうだねぇ、強いて言うなら、しがない情報屋さん、ってヤツさ。
∀ 201X年 11月20日 夕方ごろ X県A市
幸乃は、暁葉がいるという病院に来ていた。
『ネビュラ』という、外資系製薬会社が運営しているらしい。
時嗣が言うには、国連の特別な認可を受けているらしく、〈マインドキャンサー〉についての研究も行われている、とのことだ。
「すみません、藤堂時嗣先生の知り合いの、天宮幸乃という者です。
應地暁葉さんのお見舞いに参ったのですが、許可をいただくことはできますか」
受付で応対してくれた看護婦は、少々お待ちください、と言いつつ、資料らしきものを取りに向かう。
しばらくしてから、幸乃の顔写真──おそらく時嗣が事前に渡したもの──を持って戻ってきた」
「藤堂時嗣さんからのご紹介ですね。
──はい、確かにお伺い致しております。
当院では、機密保護や、関係者を騙った、関係者以外による当院への侵入などを防ぐため、初めてお越しになった方には、左奥の部屋で顔写真と、指紋と声紋、網膜認証を受けていただくことになります。
──それでは、私がご案内させていただきますね。こちらへどうぞ」
ややあって、幸乃は再び受付に戻り、面会の手続きに移る。
「
五分ほどで戻る、とおっしゃられていたそうですが、それまで当院でお待ちになりますか?」
「ええと、少しこの辺りを歩き回って、見てきます。入れ違いになるかもしれませんから、数分で戻ります」
結果として、この判断が暁葉の命を救うことになる。
∀ 201X年 11月20日 X県A市
「暁葉さん。あなたの能力は、時間制限付きで精霊のような存在を
これに対し
「は、はい。だから、あなたが来てもらえてとても心強くて……」
それを耳にした幸乃は微笑み、言葉を紡ぐ。
「ありがとう。──当面は僕の能力で時間を稼ぎます」
再召喚までの時間は七分だ、と『雷神さま』が知らせる。
「──っ、魔力回復に集中します。どうか、持ちこたえてください……っ!」
暁葉は、回復の手段がない腹部の裂傷に耐えながら、精神統一を始めた。
それを確認し、幸乃は自身の武器を顕現させる。右手に打刀、左手に脇差。
これこそは、〈
その総称を、
肺の痛みを押し殺しながら、幸乃が
傷を負わせた鋼鉄の騎士──独裁型〈マインドキャンサー〉ステージ
鋼鉄の騎士も対応するように、幸乃を超える
先程のように、【地獄道】の炎の奇襲によるダメージを受けないよう、ということだろう。
──相手の動きをよく見て、捌く!
左切り下ろしに対応し、鎌の外側を脇差で受け流す。
対する独裁型は流された分のパワーを乗せ、鎌で弧を描き、正面から斬り下ろす。
バックステップで対処。
無防備な鋼鉄の騎士の首に斬撃を見舞う。少し浅いものの裂傷がはっきりと見える。
迅速に返し刀で一閃。
さらなる首の傷で、ヒュウウウ、と鋼鉄騎士が呻く。
ここで距離を置き、呼吸を整え集中。
油断なく幸乃は間合いを測る。
もう一体の〈マインドキャンサー〉は、何を思ったのか東の空を凝視していた。
──まずいな。さっきから嫌な気配がする。
やや優勢のこの状況でそう考えたのは、『雷神さま』だった。だが、幸乃の戦いのことを指しているのではない。
──来る…………!? 場所は……東京か!
焦りを隠さないまま、漆塗りのような雲が二人の脳内に語りかける。
──今、壊滅的な被害を与えうる〈マインドキャンサー〉を感知した。ステージは……
「Ⅷ!? そんな……」
困惑を隠せないまま少年が呟く。
──俺が向かう。藤堂くんが向かうより俺のほうが早い。出現した地点は東京。間に合わなかったら、その時は……。──ごめんね、行ってくる。
語り終えた次の瞬間には、雷を
『雷神さま』が飛び立った数秒後、二体の禍騎士の猛攻が幕を開けた。
一体が脚を狙い斬りかかる。
反応が遅れたものの、後ろに跳躍し、
二本の刀を交差させ辛うじて直撃を防ぐも、反動で二、三m吹き飛ぶ。
「──っ!」
あまりの膂力に両腕が痺れ、更に体勢が崩れる。そこに手負いの鋼鉄騎士からの追い打ち。
着地する寸前、またも脚に一刀。
──避けきれない……!
賭けに出る。至近距離で【地獄道】──業火を放つ。狙うは禍々しい甲冑──頭部。
爆発音と共に、またもや幸乃は後方に飛ばされる。街路樹にぶつかり、数秒呼吸が止まったものの、大事には至らなかった。
「──っ、は……っ」
半ば無理やりに酸素を取り入れながら、状況確認のために周囲を見渡すが、
「──!?」
肌が粟立つ。後ろ──禍騎士の一体が街路樹ごと頭蓋を刈り取ろうとしていた。
倒れ込むようになんとか回避する少年。死神が鎌を薙いだ、その数秒後にみりみり、と軋みを上げる街路樹。大音量で横に倒れる。
その影響で起きた地鳴りに気を取られたのを好機と見たか、追撃の鎌が前方から迫る。
フリーズを望む脳をリセット。
切り上げを回避──できない。
右肩を数センチ抉られる。寒々とした感覚。次いで灼けるような痛み。初めて〈マインドキャンサー〉と戦った時を思い出す。
思わず顔を歪め叫びたくなるが、
距離が足りていなかったことが幸運か、完全に注意をもぎ取られてはおらず、追撃されぬよう左側への前転回避でやり過ごす。
だが、離れていた〈独裁型〉の方の接近があまりにも早い。木をへし折ってから追撃に向かう行動までのタイムラグがゼロに等しい。
そのまま幸乃の回避方向を遮るように横薙ぎを一斬。
さらに、追い打ちをかけるが如く右肩を抉った禍つ騎士も鎌を振り下ろす。
迫る逆三日月の
両膝を叩きつけることとなったアスファルトが、どん、と悲鳴をあげ、亀裂を入れた。
「は──ああああああッ!!!」
裂帛とともに地獄よりの業火が唸りを上げる。
爆炎で仰け反った二体を焼却せん、と立て続けに焔が躍る。
忌憚なく述べるならば、幸乃の疲労は着実に蓄積している。じわりと蟻地獄に
パワーが衰え、スタミナも減衰。俊敏さも失われつつある。
「まだだ──ッッ!!」
精神を侵す癌の切除のために。
煌々と燃え盛る。
あの怪物に殺される前に。
二体のステージ
──これなら、押し切れる……!
あくまで油断なく、慎重に、だが同時に大胆に、ひと時の地獄を顕現させる。
──まだ、まだいける、もっともっと、強く!
ここに来て獄炎はその勢いを増した。やはり主の想いを忠実に体現する。
血管が至るところでぶちり、ぶちりと切れていく不快感。
手を休めない代わりに、全身が叫びを上げる。それでも、それでも──。
戦闘は続行する。してみせる。そう身体に言い聞かせ、駆動する。
両眼が光を受け取らなくなってきた。視界が曇る。肺が激痛に
まだ、まだ、まだ──。
終わるわけには、いかない──のに。
何かが、切れる音がした。何なのかはわからないままだ。しかしただ一つ、勝敗を決するのに充分なこと。それだけはわかった。
幸乃は、倒れ伏した。
指一本動かすことすらままならない。
ひどく、全身──特に肺が痛む。
「あ──天宮さん!!?」
魔力回復のための集中が途切れ、星霊を使役して戦った
ただでさえ罪悪感と心配だらけ。
それを無理やり押さえつけて
駆け出し、救出したい気持ちに駆られるも、二体の死神が邪魔をし、行けない。
二つの甲冑が幸乃のもとに近づいてくる。
そのまま幸乃を囲むように立ち、ロックオンするように手を向ける。そして、
黒と、赤と、紫と、少しの白。
四色のオーラが猛烈な勢いで幸乃から吹き出した。
「──ぁ、ぁ」
本来ならば声が出ないほど
だが声を出さずにはいられなかった。
苦しかった。痛かった。泣き叫びたかった。
身体が痛めつけられているのではない。
実際にその感覚があったわけでもない。
そんな状況でも明確にわかったのは、『心が痛い』ということだった。
奪われていく気がする。
意識が、どこか遠くへ連れ去られる気がする。
黒い
苦しい、悔しい、恨めしい。
悲しい、悲しい、悲しい。
渦巻いて、取り込まれて、ああ、これは。これこそは。
地獄だ。
∀ 201X年 11月18日 X県A市
〈マインドハザード〉は、例えるなら、『「うつ病」が激しい負の感情の動きを伴う』ようなものだ。
〈マインドキャンサー〉が『負の感情』を摂取するときに行うもので、場合によっては、重大な心の傷を負う危険性がある。
と、幸乃の学校の担任──藤堂
「恨み、苦しみ、悲しみ、妬み、恐怖、後悔。そういったものが一気に押し寄せる。
数秒間ならまだしも、数分にわたって〈マインドハザード〉が続くようなら、精神が汚染される可能性が高い。」
だから、絶対にこれは回避するように。
何がなんでも逃げろ。
と、口早に続けられた言葉を、しかと肝に銘じた幸乃だった。
∀ 201X年 11月20日 夜 X県A市 某路上
悲しいかな、そう言われたことすら、いまの天宮幸乃には思い出せなくなってしまっていた。
どうして、どうして、どうして。こんなところで。あとすこし、もう少しで守り切れるのに。
また無力なのだろうか。また、誰かに手を差し伸べてもらわなければ、いけないのだろうか。時嗣先生がいなければ、何もできないのだろうか。
また、大切な人を失うのだろうか。
『──ゆうくん』
声が聴こえる。どうせ帰らぬ人となったのに。天宮幸乃が、自分自身に見せる
みっともなく
帰らぬ人と、なったのに。
無念と
怪物が二匹。少年を
至るところに損傷が見られ、そこそこのダメージは与えられているのだろう。それでも、もう、そんなことも関係ない。
死んでしまうのだから。ここで、終わるのだから。
ああ、恨めしい、憎たらしい。苦しい悲しい辛い妬ましい。
温かい家庭で、ぬくぬくと生きていられる、ほかの人間どもが憎らしい。恨めしい。妬ましい。でも、どうして。
『僕』はこんなにも悲しいのに。苦しいのに。辛いのに。でも、どうして。
そうだ、わかってくれないのだ。『あの人』以外は誰も。そうだ、その通りだ。でも、どうして。
『俺』のことなんて、
──どうして。『僕』ばかりが辛い目に遭わないといけないんだ。
〈独裁型マインドキャンサー〉・ステージ
満足しているのだろうか。嘆きを聴いて。久々に捕食する、極上のご馳走に。
美酒に酔っているのだろうか。
かたかた、かたかた、と鎧が震える。
しばらくの間、途切れることはなかったものの。終わりを告げる金属音が幸乃を切り裂き。
倒れ込んだ少年の身体を数センチ刺したところで、バケモノは吹き飛んだ。
文字通り、なんの比喩もなく。全身を空中に
だし抜けに起こったことへの驚愕があったのだろうか。二体の悪魔は、着地してから数秒間、呆然と立ち尽くしたように思えたのである。
「よかった……本当に、本当に、間に合ってよかった」
少年が立っていた。
緑のパーカーが、風に吹かれてゆらゆらと揺れている。
二体の〈マインドキャンサー〉が動きを止めているのを確認してから、パーカーのポケットから何かを取り出す。
それから
ボトルの中で
そのまま幸乃の口に、ゆっくり、ゆっくりと、液体を流し込む。
決して見間違いなどではないだろう。
些細な変化ではある。と同時に、見ればそれとわかること。
先程まで苦痛に歪んでいた少年の顔が、穏やかになった。
「よく頑張ったね、幸乃。もう大丈夫だから、ゆっくり休んで」
安心して、幸乃は暫しの眠りにつける。
意識はないけれど、
ただ一つ、ぼんやりと視えたものが、『安心』と『少しの怒り』だったから。
絆を結んだ、生涯の友だったから、きっと──。
∀ 201X年 11月20日 夕方ごろ X県A市 S高校
「突然で申し訳ないんだが……この前話した、
身の回りの心配がないように、警戒をしておきたくてな」
呼び出されるなり、
「ああ、あの人ですね。えーと、何も持たずに行って怪しまれませんか?」
「ごもっともだ。だから、お前の素性がわかるように、今からお前のスマホで
なるほど、ボクを
「はい、わかりました。じゃあ、どうぞ」
数分後……
「よし、これで大丈夫だろう。すまないな、面倒をかけてしまって」
「いや、これくらいはお安い御用です! ──あ、先生はこれからどうするんですか?」
一、二秒の沈黙のあと、時嗣は顔を僅かに
「『王』たちとの
「……!!」
思わず自分が息を呑んだのを、はっきりと覚えている。
だってそれは、
「……死なないでくださいね、先生」
「任せろ。あいつらなんかに殺されやしねぇよ」
時嗣先生と話していたときには五時近くになっていた。
外資系製薬会社・メビウスが運営する病院に着いたのは、五時を少し過ぎたくらい。
それからボクは、
いきなりの雨に驚いたいたものの、特に大事はなかった。
∀ 201X年 11月20日 夜 X県A市
──ここに来るまで、何か一つでも、厄介な困り事があったら。
幸乃は助けられなかったかもしれない。
……いま、心から自分の幸運に感謝してる。
これによって、運命は、また一つ歩みを進める。選び取られた運命はどこへ帰着するのか。
いまはまだ、誰にもわからない。
二体の〈マインドキャンサー〉に立ちふさがった人物は、幸乃を慎重に宙に浮かせる。
ふわり、ふわりと暁葉のもとへ幸乃を運び、
ひとまず安全圏へ離脱したのを確認してから、二体のバケモノに向き直る。
静かに、声を届かせた。
「ここからは選手交代。この
今度は間を置かず、二体の〈マインドキャンサー〉が駆ける。
既に全員が広い路地に出ているが、それでもなおスピードと迫力には目を見張るものがある。
逃がさぬという意思の表れか、挟み撃ちを試みる二体。対して
──どうして動かないの!?このままじゃ……。
暁葉の心配をよそに、
「大丈夫!二体なら、いける!」
どん、と空気が鈍い音を立てた。
突進していた〈マインドキャンサー〉の動きが止まり、鋼鉄の身体が抗うようにカタカタと揺れている。
「はっ!」
玲真が腕を押し出すと、またしても鋼鉄の騎士が吹き飛ばされる。
少年が身体の前で手を叩くと同時に、怪物は互いに正面から衝突した。
間髪入れずに駆け出し、
立ち上がろうとする方の独裁型を再び跳ね飛ばし、ガードレールに叩きつける。手応えがあったのか、玲真の顔には笑みがあった。
「あれは……
暁葉が呟いたことが耳に届いたのか、返答があった。
「いや、ボクのARTSは……!」
言葉を途切れさせ、倒れ込んだもう一体を見
起き上がれないものの、反撃の意思があるのを確認し、小さな空気の動きを作り出す。
道路の中心に陣取ったそれは、みるみる大きくなっていき、完成した。
生き物のように渦を巻いて、唸りを上げるのは──
正確には、小さな竜巻。
されどそれは、数メートルの道路を覆うのに
「ヒュウウウウウ……!!」
二体の〈マインドキャンサー〉が呻く。竜巻に引き込まれまいと踏ん張るが、徐々に引きずり込む力に負けていく。
ついに足を踏み外し、一体が巻き上げられた。振り回され、空高く上昇する。
残る一体も同じようにして仲間とともに昇っていった。
「す、すごい……!」
暁葉は幸乃を抱え、必死に踏ん張りながらも思わず呟いた。
距離をとっているからか、玲真が何らかの対策をとっているからか、あの怪物たちのように飛ばされることはない。
一方その化け物はというと、抵抗も虚しく、勢いに呑まれざるをえない。もがいてみるものの、結果は変わらないのである。
玲真は、最も深刻なダメージを与えられる一手をチョイスしたということだ。
つまりそれは──
どんどん地面が近づいてくる。何秒なのか数えたくもない。盛大に衝撃音が響き渡る。墜落し、動けない悪魔たち。
ようやくと言うべきか、独裁型〈マインドキャンサー〉・ステージ
「ふう、これで大丈夫かな。──應地さん、ですよね。ケガは大丈夫……ですか?」
すぐ駆け寄って、心配そうに尋ねる玲真に、暁葉は、
「助けていただいて、ありがとうございました。ほんとうに助かりました。──ええと、私より、幸乃くんの傷が……」
「ああ……そうですね……幸乃…………」
不安げに幸乃を見つめて、
「あ、それと、失礼になってしまいますけど……幸乃くんのお知り合い……ですか?」
その問いには微笑みが返ってきた。
「はい、中学校からの付き合いです!」
「ああ、そうなんですか!じゃあ、幸乃くんも安心ですね!」
「────っ、ぁ──」
呻きながら幸乃がわずかに瞼を動かす。ゆっくりと瞼を開いて、苦しそうではあるが、途切れ途切れに言葉を紡いだ。
「りょう、ま──あきは、さん、」
思わず二人はほっと息をつく。
「幸乃くん……!!」
「幸乃……! よかった……ほんとによかった……!
──無理はしないで、大丈夫だから。ボクたちがすぐ病院に連れていくよ」
「私が運んでもらった病院に行きましょう。たぶん、いまなら
玲真が幸乃を背負い、病院へ急ごうとすると、
「ヒュウウウウウウウウウ!!!」
うつ伏せになっていた残りの一体。それがすでに立ち上がろうとしていた。
まだ生きていたということか。
最後の力を振り絞るかのように手に持つ鎌を思い切り投げつける。
狙うは無防備な玲真──。
「……!? 玲真さん!」
「あ、っ──」
∃ 五年前 G県T市
「いいですか、お嬢さま」
昔、憧れの人が言ってくれたことが、いまも忘れられない。
「人には、大切な人を守るときが来ます。
そのとき、一生懸命になって、その人のことを守ってあげてください。それが『愛』です」
「うん、わたし、頑張るよ!」
大切な人──守りたい。けれど私は、守れるのだろうか。
∀ 201X年 11月20日 夜 X県A市
深く深く、傷がつく。
やはりそれは、灼けるような痛みだ。冷たくはなかった。
「あ……っ──」
痛みを押し殺す。耐えて、心配ないと伝えなければ。
「だい、じょうぶ。ですから──」
「應地さん……!で、でも、ボクの、せいで……」
少年が呻く。少女が痛みに耐える。
玲真を庇ったその傷は背中を切り裂いていた。
暁葉の全身が震える。声が出なくなってきた。
そんなときに〈マインドキャンサー〉は三人目掛けて迫り来る。
この際なんでも構わない。人間三人分の、死ぬ間際の負の感情を喰うのだ。
三人もの生命を奪えば──運良く生き残れるかもしれない、と。
──身体が、勝手に動いていた。
──動くはずもないのに、動いていた。
──ふたりを見ることも叶わない。
──それでも僕は、二人を守りたい。
──あと十秒、いや、三秒でいい。……僕に、力を。
顕現せし刀一振り、そして、咆哮。
天宮幸乃の持ちうる全てを賭けて。
いざ、解放。
『ああ、そうか。
天宮幸乃。やはりきみは、また、運命を越えるのだね』
時が緩やかに流れる。されどそれは刹那。
総身の駆動が明瞭。されどそれは掴み取った力。
ニトロを加えたかのように疾駆する。されどそれはこれまで不可能であった。
己が人生の結晶。ソレに秘め、■■■■た六道が一つ、『修羅道』に在る
今、此の時、唯ひたすらに斬るのみ。
唸る一刀。翔ける剣閃。
そして両断。
──暗転。また一つ、運命がヒトを呼ぶ。
Code:U.N.K.N.O.W.N.『s』.
戦場から数百メートル離れた、ビルの屋上。先程──喜悦に浸っていた男一人「だけ」が嗤っていたとき──とは違って、二人分の声が聞こえる。
そのうちの一人が、スマートフォンを片手に
「──で? お前さん、結局来なかったな。期待してるって聞いてたから、『生で戦闘を見たい』って来ると思ったんだけど」
すると、一人目の男とは打って変わった声音で、もう一人が口を開く。
「いやあ、こっちはこっちで『満喫できる』からね。
ま、『雷神さま』? だっけ?
ふふっ、ネーミングセンスがアレな
もっと言えば興ざめだったね」
「ふーん。まあそれについては俺も同意見だぜ。あの行動がなかったら俺たちが死んでた、ってことを除けばな」
「うん、ま、そうだろうね〜」
いい加減な返答をした男の手元で、ガチャガチャと音がする。ルービックキューブを弄んでいるようだ。
その様子に、ほんの少し青筋を立ててしまいそうになってしまった男は深呼吸をする。
それから数秒の沈黙。
あ、そう言えば、と、思い出したかのように、電話の向こう側の声が言うには、
「いま、クライアントとお話しててさ。こっちはこっちで久々に楽しいし。
このクライアントさん、幸乃くんたちのことも気になってるみたいで」
クライアントの前で電話していいのか。
あとオモチャ弄ってんじゃねぇか。
何より顧客の情報を
と一人目の男は軽くため息をつく。
「──アンタは色々とよくわからねえよ。俺が『社長』に拾ってもらった時からそうだ。
一体、何考えてんのか」
対して、もう一人の男は嬉しそうに微笑んだ。
「『楽しいこと』だよ。人間って面白いからさ、いくらでも楽しいことが出来る。
例えば、そうだなぁ、仮面ライダーみたいに改造人間となって戦う!みたいな
──あまりに人気すぎて王道になっちゃったけど」
紡がれた言葉を聞いて、一人目の男が眉を
「やめてくれよ、冗談じゃねえ。アンタさあ、嫌味言ってんのか?」
明らかに険を帯びた声に、ああ、いやいや、それは違うよ。とスマートフォンの向こうで
「俺はただ楽しみたいだけさ。そのために幸乃くんたちの『協力』が必要なんだよね。それに、」
君だって幸乃くんに興味があるだろ? という問いかけを耳にして、思わず肩をすくめる。
「……まあ、いいさ。お互い観察対象には事欠かないってことが言いたいんだろ?
お前さんは
適切な言葉を選択できずに、またもや肩をすくめる。
「そんなに肩をすくめなくてもいいじゃないか。
人の『悦』のカタチは流動するし、逆に何かしらに固執する場合もある。
何が快楽なのかがわからないことだってあるし、それも含めて楽しいんだから」
「流石はプロフェッサー。立派な哲学を持っていらっしゃるぜ」
「おいおい、からかわないでくれよ。それに俺はプロフェッサーじゃなくて──」
もう一人の男は、口元に弧を描きながら、ゆっくりと、言葉を紡いだ。
「しがない情報屋さんさ」
To be continued……
お楽しみいただけましたでしょうか。やはりそうであったなら、心の底から幸せです。
最後に、登場人物、並びに用語の解説の欄を設けたいと思います。
ARTS名は不明(決めてはいるが、明かされていない)。花のイメージはネコヤナギ。
〈
ARTS:〈
〈マインドキャンサー〉:人間の負の感情を誘発し、食料とする存在。人類の社会に脅威を与えうる存在として各国から排除対象に指定されている。
特殊な空間に住んでおり、〈成しうる者〉や〈マインドキャンサー〉に干渉するための器具を使わない限り、一般人には認知も干渉も困難。
それでは、今回はここまでということで。ご縁が続けば、また。