魔法少女まどか☆マギカ 別編~再臨の物語~(第2部) 作:マンボウ次郎
「いい? 佐倉さん」
数年前、魔法少女として先輩であるマミは、杏子に戦いの基本を教えていた。魔法の使い方、使い魔や魔女との戦い方など、戦いの中でどのように魔力を使っていくかをひとつひとつ丁寧に伝授した。杏子は才能ある魔法少女だったが、この頃はまだ魔力の使い方に粗が目立った。
「魔法の力は腕力や体力ではないの。魔力のコントロールによって打ち破るべき箇所を突き、身を守り、そして弱き者を救うのが魔法少女なのよ」
マミは狙いすましたマスケット銃の連射で、くるみの黒い身体を撃ち抜いた。マミの射撃は正確かつ的確で、くるみの攻撃の起点となる腕の付け根に寸分の狂いなく命中した。
「そして相手の攻撃は受け止めるのではなく、柔らかく躱し、しなやかに受け流すの」
くるみの腕が伸び大きな黒い掌が振り下ろされると 、マミは再びリボンの反動で高く飛び上がる。
『弾き返すんじゃダメなのか?』
「私たちは力に依存した戦い方は向いていないの。いくら魔力で身体能力が上がっていても、力技では魔女に敵わないわ」
マミは当時の杏子と会話をしているような錯覚を起こした。あの頃、まだ未熟だった杏子の師として、魔女との戦いの指南をしていた。自ら弟子入りしてきた杏子に魔法の手ほどきをしていた記憶が蘇った。
『そうか、力で押し返すよりも上手く避けて隙を突くってことか』
「その通り。特に私のマスケット銃や佐倉さんの槍のように、間合いの長い武器を使う場合は効果的ね」
空中に浮き上がったマミに向かって、くるみの黒い指が長く伸びてくる。指の1本1本が突き刺すように迫るが、マミは流れるように身体を捻り、回転し、時にはしなやかに受け流し、その攻撃を躱していく。優雅で洗練された動きで空中を舞い、隙を突いてマスケット銃を撃つ。力と手数だけのくるみの攻撃と違い、マミの動作には無駄がなかった。
『もっと派手な攻撃もした方がいいんじゃないか?』
「大きな攻撃はこちらの隙も大きくなるわ。だから使うべきタイミングを計って……」
マミは足場を伝ってくるみの腕の死角に回り込んだ。それを無理に追いかけたくるみの攻撃が大きく空振りすると、距離をとり、間を開け、タイミングを合わせる。マミは拘束魔法のリボンを繋ぎ、くるみの腕を螺旋階段に巻き付けた。伸縮自在のリボンがぎゅっと締まり、くるみの腕から自由を奪う。
『ここか!?』
「ええ!」
マミはマスケット銃の数十倍はある大砲を構え
「ティロ……」
左手を伸ばし、打ち金を発火させるトリガーを引く。
「フィナーレ!」
凄まじい轟音と共に、巨大な砲身から放たれた特大の一撃がくるみの身体に命中した。爆音と爆発、大気を揺るがすほどの威力を持ったマミ最大の攻撃は、くるみの片腕を見事に粉砕した。
『すげえ! さすがマミさんだ』
「闇雲に攻撃を繰り返すのは魔力の無駄遣い。魔力をコントロールして、タイミングを合わせる。これが戦いの基本よ」
1対1の戦いにおいて、マミの右に出る者はいないかもしれない。攻撃と防御のバランス、身のこなし、判断力、対応力、そして経験。すべてがトップクラスの魔法少女といえる。それほどマミの戦い方は群を抜いていた。
『なあ、マミさん。あたしもマミさんみたいに強い魔法少女になれるかなぁ』
「ええ、あなたには才能があるわ。きっと私よりも強い魔法少女になる。どんな相手にも決して負けない魔法少女になる。でも、これだけはちゃんと覚えておいてね。魔法少女は敵に勝つためにあるんじゃないの。弱きを助け、人の幸せを守るためにいるのよ。他人を大切にできる魔法少女になってね」
ふたりが師弟関係にあったのはずいぶん前。マミはかつて交わした杏子との会話を思い出していた。
くるみは特大の砲撃を受け、片腕が吹き飛んだ。腕がもげた部分から、黒いモヤがどんどん流れ出ている。痛みを感じていないのか叫び声ひとつあげないが、相当なダメージを受けているのは間違いない。
「くるみちゃん」
マミは心を閉ざしたままのくるみに話しかけた。
「あなたはもう元の人間には戻れない。希望を祈らなければ穢れも止まらない。無限のエネルギーで滅びもしない。このままでは、終わらない螺旋階段を上り続けるだけ。これから何人の魔法少女を殺しソウルジェムを喰いつくしても、何も変わらないわ」
くるみの身体から溢れ出るモヤが、部屋中に充満してきた。止めどなくもうもうと出続ける漆黒の穢れは、悲しみも憎しみも怒りもすべてを受け入れてきたソウルジェムが放つ絶望の澱。
「でも、その穢れの呪縛を解き放つことができれば、あなたは救われる。無限に溢れる穢れの闇を終わらせてあげるから」
『まさか、そいつを殺しちまうのか?』
マミの心の中に、杏子の思念が問いかけてきた。
「いいえ、私じゃくるみちゃんに勝つことはできないわ」
今はまだマミが有利に見えるが、圧倒的な魔力の差は比べものにならない。マミも始めからそれはわかっていた。
「だから私はくるみちゃんを殺すのではなくて、救ってあげるの。私が、彼女を絶望から解放するきっかけになるわ」
『マミ、それはどういう意味だよ』
「円環の理よ」
『え? アイツを円環の理で消滅させようってのか?』
「消滅ではなく、救済。無限の穢れに侵されたくるみちゃんを救う、唯一の手段よ」
穢れの溢れたグリーフシードを救済する円環の理。くるみの魂を浄化し、永遠の穢れから解き放つにはそれしかない。しかし、くるみのソウルジェムはグリーフシードにはならない。だからくるみは、ここまで穢れを溜め続けたにも関わらず円環の理に導かれることなく存在できていた。
『一体どうやって……』
マミが頭の中に描いたのは、暁美ほむらが語った円環の理の真実。
――穢れが溢れてグリーフシードへと変わってしまったソウルジェムを、清浄な魂の宝珠へと相転移させる。その作用の一環として、魔法少女とソウルジェムを救済するのが円環の理
「くるみちゃんのソウルジェムに円環の理は訪れない。だから私が呼んであげるわ。絶望の生ではなく、浄化され悲しみや憎しみのない世界に行きましょう。それが彼女の上るべき救済の階段よ」
『おいマミ、それってまさか……』
「お喋りはお終い。ちょっと、本気を出しちゃっていいかしら」
続く
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