いや喋るけど「」はつきません
日が暮れた。
「いっそのこと観光気分で」とこの街をみて回っていたが、事態が好転するわけもなく。
そろそろ途方にくれてきた。
ああ、桜の笑顔が恋しい……
しかし、マズい。
あたりまえだが、泊まる所がない。
このままだと野宿だろうか?
…………確かあっちに公園が。
考えてみると、お金もないのか。
見事に一文無し……
あの王様がこの状況をみたら、きっと、ハサン ハサンと言うだろう。
……そういえば、結局、あの成金王を見返しハサンと言い返す事が出来なかった。
在りし日の事を思い出し現実逃避する頭を振り、意識をはっきりさせる。
行き当たりばったりはいつものことだ。
SE.RA.PH(セラフ)でも基本的に追い詰められていたじゃないか。
きっと何とかなる。
桜を心配させるわけにはいかない、なんとしても戻る方法を探さないと。
そう決意し、再び歩き出そうとした瞬間。
「きゃあぁぁぁ!!」
そんな悲鳴が聞こえた。
あたりを見回す、しかし、道行く人達は悲鳴に気付いていないようだ。
だが、確かに聞こえた。
もしもこれが自分の勘違いだったとしても見に行かないよりはいい!
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人気のない路地を悲鳴の聞こえた方へ進む。
---見つけた。
見つからないよう、慎重に覗いてみる。暗がりでよく見えないが、人影が二人、いや三人か?
「う、ぁあ…」
なんだ、あれは……
人影の一人が恐らく悲鳴の主であろう少女の首筋に顔を埋めている……?
いや、あれは、血を吸っている……?
雲に隠れていた月が顔をだし、薄暗い路地を照らす。
…………!?
暗がりで見えなかった姿がハッキリと見えた。
血を吸っているのは紫色の長髪で長身の、両目を異様な眼帯で隠した女だ。
その人間ならざる雰囲気ですぐに分かった。
あれは---サーヴァントだ。
何故?という疑問。
どうして?という焦燥。
聖杯戦争は終わっていないのか?
……いや、これは、この時代の聖杯戦争、なのか?
少女の安否は気になるが、ここは引いた方がいいだろう。
もうサーヴァントがいない自分では為す術がない。
気付かれないように、移動しようとした瞬間。
「そこにいるのは分かっています、出てきなさい」
ぞくり、と背筋に悪寒が走る。
まずい、まずい、まずい……!
バレた、いやバレていた……!?
逃げる?
---無理だ、サーヴァントから逃げ切れるとは思えない。
立ち向かう?
---それこそ無理だ、どうあっても人間がサーヴァントに勝てるとは思えない。
コードキャストも使えなくなった自分では何もできない。
「出て来ないつもりならば、こちらから……」
サーヴァントが此方に歩いてくる。
自分では何も出来ない今、大人しく姿を表した方がいいだろう。
意を決してサーヴァントの前に出る。
「おや、出てきましたか」
サーヴァントを見据える。
気を抜いてはいけない……!
「へぇ、何かと思えばただの一般人か」
サーヴァントの背後、もう一人の人影がそういいながら歩いてくる。
この、声は……
「まぁ、見られたからにはタダで返しはしないけどねぇ」
シン、ジ……?
間違いない、あれは間桐シンジだ。
月の聖杯戦争の一回戦で自分と戦い。
そして、月の裏側で自身の体を囮に活路を見いだし消えていった、自分の友人そのものである。
「はぁ? 誰お前? どっかであった事あるっけ?」
その反応からして、きっとこのシンジは自分の知っているシンジではないのだろう。
そういえば現実(リアル)の彼は8歳だったはずた。
過去(仮定)にもこんなに見事なワカメがいたというのか。
「わ、ワカッ!? お、おい!ライダー! こんな失礼な奴さっさとどうにかしろ!」
「分かりました、マスター」
シンジがサーヴァント-ライダー-に命令する。
ライダーは鎖のついた杭のような武器を構え此方へと近付いてくる。
これは本当にまずい!
逃げる。
無駄かも知れない、だが桜を悲しませる訳にはいかない、死ぬわけには、いかない!
瞬間。
世界が暗転した。
----!?!?
激痛。
見ると、足にライダーの杭が深々とくい込んでいる。
ジャラジャラと鎖が音を立てる。
「ははははは!!
運がないよねぇ? ここに来なければこんな目にあわなかったのに!」
シンジの笑い声が響く。
ワカメェ……
しかし、まずい、こうなった以上、逃げる事も出来なくなった。
「ライダー! トドメをさしてやれよ!」
「分かりました」
ここで、死ぬのか……?
目が覚めたらいきなりこの街にいて、わけの分からないまま、こんな場所で死ぬのか?
もう、二度と桜とあえずに?
二度と、あの笑顔を見れずに?
二度と、あの声を聞けずに?
『センパイ、大好きです』
……………………ダメだ。
ダメだダメだダメだ!!
こんな所で死ねない!
自分の事を愛しくれて、最期まで自分を守って消えていったBBのためにもこんな所で終わらない!終わらせない!!
左手に鋭い痛みにも似た熱を感じる。
そこには、冷凍睡眠から目覚めた時に無くなっていた令呪が赤く輝いていた。
「!?」
ライダーの息を飲む声が聞こえた。
「は?な、なんだよそれ!? ま、まさか、マスターなのか!?」
シンジの焦りの声が聞こえた。
来る。
いや、来てくれる。
勘違いかもしれない、調子に乗っているだけかもしれない。
でも、必ず来てくれる。
「ら、ライダー!! はやくソイツを殺せぇ!!」
---来い! ギルガメッシュ!!
令呪が一際大きく光り、目が眩む
そして、ガキンッ!とライダーが放ったであろう杭が弾かれる音がした。
目を開けると、そこには--
「雑種、どうやら貴様は我を寝かせる気がないようだな」
月の裏側をサクラ迷宮を共に駆け抜け、神になろうとした魔人をも打ち倒した、黄金の英雄王がそこにいた。