居候は吸血鬼   作:流離う旅人

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展開早いかもです。文才が欲しい……。
では、どうぞ!


吸血鬼と休日

 今日は完全な休日。

 学校もなく、バイトもない。

 そして、ドS吸血姫様の鬼畜修行もない。一日中ゴロゴロすることを決めていた浩太は、惰眠を貪っていた。

 しかし、その至福の時間も長く続くはずもなく。

 

 ガチャリ、と部屋の扉が開く。

 入ってきたのは、もちろんエヴァである。

 イタズラを思いついた子どものように無邪気な笑みを浮かべて、そろりそろりと浩太へと近づいて行く。

 彼女が黙って彼を寝かせておくだろうか? いや、あり得ない。

 

 浩太が寝ていることを確認すると、ニヤリとエヴァの口角が三日月のように鋭く持ち上がった。彼女は飛び上がると、そのまま彼の腹の上に落ちる。それも体重を乗せたイイものを。

 当然、眠っている彼がそのことに気付くはずもなく、彼女の体は無防備にさらされた腹へ沈み込んだ。

 

 浩太は突然の衝撃に肺の空気が漏れ出して、「グボァ⁉︎」という何とも間抜けな悲鳴を漏らした。その反応に満足したのか、エヴァはより一層笑みを深くする。

 

「ゲホッ、ゲホッ⁉ いきなり何しやがる! 今日は何もないからゆっくり寝れると思ってたのに!」

 

「私は暇なんだよ。だから、お前で暇を潰そうと思ってな」

 

「なんて傍迷惑な奴!? 暇ならお前も寝ればいいじゃないか!」

 

「目が冴えていて今からじゃ眠れん。だから構え」

 

「無理にでも寝てください。おやすみ」

 

 腹に乗っていたエヴァを放り投げて、再び眠りに落ちるために浩太は目を閉じる。彼女は取り合おうとしない彼に苛立って拳を握って振り上げるが、突如その行為をやめた。

 そして、顎に手を当てて何かを思いついたようで。また悪い笑みを浮かべているではないか。

 

「わかったよ、お前がそこまで言うなら仕方ない。大人しく寝るとしよう。お前と一緒に(、、、、、、)

 

「そうそう。俺と一緒に………は?」

 

「それじゃあ、失礼するぞ」

 

 言うや否や、浩太が抗議する前にエヴァが布団の中へと滑り込んでくる。それだけでは飽き足らず、足や腕を絡めてくるではないか。

 

「おい! 足を絡めてくるな。てか、布団から出てけ!」

 

「お前が寝ろと言ったから寝ようとしてるんじゃないか? それとも何か? 私と密着して興奮でもしたのか?」

 

「俺はロリコンじゃねぇ!」

 

「前にも言ったが、私は不老不死の吸血鬼だ。こんななりだが、六百年を生きてるからな。合法だぞ?」

 

「事情を知らない世間からしたら十分アウトだからな!?」

 

 この状況が世間に知れ渡れば、浩太の社会的地位が失墜するのは、まず間違いない。それをわかってやっているエヴァは、もちろん確信犯である。揶揄うと面白い反応をするものだからついついやってしまう、と彼女は後に語る。

 

「ふぅ……」

 

「ひゃあ⁉︎」

 

「…………」

 

「……何か言えよ」

 

「いや、随分と可愛らしい悲鳴を出すと思ってな」

 

「おい、ニヤニヤするな。徐々に近付いてくるな!? やめてくださいお願いします!」

 

 断る! と言って、エヴァは浩太を辱めるべく、耳に息を吹きかけていく。更には、耳に舌を這わせてきた。

 ゾクリと鳥肌がたつ。やられる側の彼からすれば堪ったものではない。

 逃走を試みたが、すでに彼女が先手を打ち手足を絡めていて、身動きが取れなくなっている。もはや、彼は蜘蛛の巣に引っかかった蝶も同然だ。

 

 このあと、休日の住宅街に悲痛な悲鳴が聞こえたと噂になるのだが、まだ彼はそのことを知らない。

 

 

 

 

 

 

 

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 結局、あのあと街に出かけるという条件で、解放してもらった浩太だったが、すでに疲れ切ってしまっていた。

 ロリコンではない彼だが、息を吹きかけられたり、耳を舐められたりされることに耐えられなかったようだ。

 

 現在、浩太とエヴァは街にあるショッピングモールに向かっていた。

 彼の服装は黒のパーカーとジーンズの簡単な組み合わせ。チラリと横を見ると、彼女も自分に合わせたのか黒のゴシックドレスを着ている。

 時折、風が吹く度にスカートが靡いているのだが、その度に周囲の男どもがどよめく。珍しい服装に驚いているのか、はたまたはこの街の男はロリコンしかいないのか。

 ……おそらく後者だろう、と浩太は結論付けた。

 

 ちなみにこのゴシックドレスは彼女の手作りだったりする。

 最初は服を買おうとしていたのだが、服ではなく布と道具を買わされて、彼女自ら仕立てたのだ。服を作れることには素直に驚いたが、普通に服を購入するよりも高くついたため、財布の中身が軽くなってしまった。

 密かに根に持っていることは、自分の心の中に留めておく。知られてしまえば、修行で何されるかわかったものではない。ただでさえ辛い修行なのに、これ以上何かされたら堪ったものではないのだ。

 

 浩太の思いも知らずに、隣を歩くエヴァは先ほどのあくどい笑顔ではなく、嬉しそうに顔を綻ばせている。

 エヴァの浮かべる笑顔に、思わず浩太は見惚れてしまった。

 その笑顔は、とても綺麗だった。いつもこんな風に笑っていればいいのに、と思うぐらいに。

 そして、視線に気が付いたエヴァと、目があった。

 両者固まる。

 最初に動いたのは、顔を正面に戻した浩太。それを見て、今朝と同じように悪い笑顔に変わっていくエヴァ。

 

「んんっ? どうした? まさかとは思うが、私に見惚れてたのか?」

 

「……そうだよ。見惚れちゃ悪いか? 普通にそのドレスは似合ってるし、可愛いよ。――黙ってればだけど」

 

「え、あ、いや、そうか。私に、見惚れてたのか……」

 

 ――え、何その反応。

 浩太は思わず、口から出かけたその言葉を呑み込んだ。

 彼の言葉――最後の方は聞こえていない――に動揺したエヴァは頬を赤く染めて、恥ずかしそうに手で口元を押さえる。

 まるで、初心な少女のような反応。彼の隣には普段堂々としている吸血姫の姿はなく、見た目相応の美少女がいた。

 周囲には吐血する者、何故か満足したように倒れ伏す者が続出。彼女の普段の態度を知っている分、とても可愛らしいとは思う。

 しかし、それよりもこの街の男たちにロリコンしかいなかったというショックの方が、酷く重く彼の心に突き刺さっていた。

 

 

 

 その頃のエヴァの心中はというと、

 

(服、似合ってるって言われた。こういうのが好きなのか? クソッ、もう少しスカートを短くすれば良かったか? いやしかしそれだと他の男どもにも見られることになる。それは避けねばなるまい。そ、そそそそういえばか、かわ、可愛いって言われた⁉ そんなことナギにも言われたことない!)

 

 ――と、いろいろとおかしくなっていたことをここに記しておく。

 

 

 

 

 二人が落ち着いた頃。ようやくショッピングモールに到着した。

 エヴァはまだ頬がほんのりと赤く、チラチラと浩太を見ている。

 しかし、今の彼には彼女の視線に気付けるほど心に余裕がなかった。原因は周囲の視線だ。

 

 エヴァがいるので、好奇の視線や愛でるような目を向けられるのは仕方がない。そのほとんどは彼女に向けられているからだ。

 では、何故彼は疲れているのか?

 それは、嫉妬や殺意を込めた目を向けてくるロリコン()どもが原因だった。

 

「お、おい? その、迷惑だったか? やっぱりその、家にいた方が良かったか?」

 

「……はぁ」

 

 浩太がため息を吐くと、エヴァの肩がビクリと跳ねた。

 六百年を生きた吸血姫の彼女だが、その反応はまるで叱られた子供のよう。

 彼女の潮らしい姿を見ていたら、周囲の目を気にして気疲れしていた自分が馬鹿みたいだな、と彼は苦笑する。

 

 浩太はエヴァを安心させるために頭をひと撫でして、手を差し出した。

 

「んなことねぇよ。周りの目が鬱陶しいだけで、お前のこと迷惑だなんてこれっぽっちも思ってない。ほら、折角来たんだ。早く行こうぜ」

 

「ッ、ああ!」

 

 満面の笑みを浮かべたエヴァは、浩太の手を取ると流れるように腕に抱きついた。これには彼も驚いたが、彼女が本当に嬉しそうにしていたので甘んじて受け入れた。

 傍から見れば兄妹に見え、とても微笑ましい光景だ。……周りにいるロリコンどもの視線が強くなったのは、きっと気のせいだろう。気のせいだと、思いたい。

 

 

 

 

 

 

 二人は来たのはいいのだが、特に当てもなくブラブラと歩いて回った。

 行くと言った張本人であるエヴァが目的もなく、来たいと言っていたのだ。何故か問いただしたら、顔を赤くして怒鳴られてしまった。解せない、と浩太は思う。

 当の本人は何の気なしに、少し前を歩いている。

 

 こうして見ていると、どこからどう見ても普通の女の子だ。

 けれど、彼女は六百年を生きる吸血姫である。

 六百年。

 言葉にするのは簡単だけれど、それは一体どれほど途方もない時間なのだろうか。

 

 きっと、浩太にはわからない。

 それはエヴァと同じ時間を過ごしたとしても、わからないだろう。共感できるものはあるかもしれない。でも、過ごした環境が違えば見てきたもの、体験してきたことは全く違うのだから。

 本当の意味で、エヴァのことを理解できる奴なんてこの世には存在しない。

 

 そして、エヴァは異世界の人間だ。いつか元の世界に戻ることになる。

 そうしたら、以前彼女が話してくれた麻帆良という場所に『登校地獄』の呪いで、ずっと囚われたまま。

 誰も、彼女を救う者はいない。そう、誰も……。

 

 ギリッと、歯を噛み締める音が聞こえた。

 浩太は知らず知らずのうちに拳も強く握っていたようで、血が止まり白く染まっていた。

 ふう、と一息吐いて、心を落ち着かせる。

 幸いなことにエヴァには見られていない。見られていたら、どう言い訳をすればいいか、分らなかったから。

 

 そう言えば、と浩太は思う。

 何故こんなにもエヴァのことを考えているのか、と。

 自分にとって、彼女とは何なのか?

 そう聞かれたら彼は居候兼師匠、と答えるだろう。それにしてはエヴァのことをよく考えている。

 その答えは考えるまでもなく、すぐに出た。

 

 きっと、俺は――。

 

 

「……い。おい!」 

 

「ッと、悪い。どうした?」 

 

「どうした、じゃない! 声をかけても反応がないから、無視されているのかと思ったんだぞ……」

 

「悪い悪い。無視なんかしてないさ。ちょっと考えごとをしてただけ」

 

「本当か?」

 

「本当だ」

 

 ならいい、とエヴァは無視されたことに憤りが収まっていないようで、ずかずかと歩いていく。

 その背中を浩太は小走りで追いかける。

 

 

 ――今出した答えを、胸に秘めながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 まだ興奮冷めやらぬエヴァの機嫌を直すために、彼女の新しい服作成の布を買ったり、アクセサリーショップや可愛らしいぬいぐるみを見て回った。

 意外と少女趣味なんだな、と浩太は胸中で呟く。

 口に出したら最後、酷い目に合うのは必至だろう、と考えながら。

 回っている内にお昼時になったので、適当なファミレスに入ったのが数分前。今は注文した料理を待っているところだった。

 浩太の正面には、仏頂面で紅茶を啜るエヴァがいる。

 最初に頼んだ紅茶を飲んでから、ようやく直った彼女の機嫌は下降してしまった。

 

「どうしたんだよ? 不機嫌そうな顔して」

 

「ここの紅茶は駄目だな。まだお前が家で淹れる方が美味い」

 

「それはありがたいけど、あんまり大きな声で言うなよ? それにファミレスにそれ以上を望むのは厳しいだろ。家に帰ったら、俺が淹れてやるから機嫌直せって」

 

「ふんっ、約束だからな」

 

 浩太は頬杖をつき、ふんっと、鼻を鳴らすエヴァを見て苦笑した。

 どうやらここの紅茶は、彼女の舌に合わなかったようだ。

 

「お待たせしました。カルボナーラがおひとつ。ドリアがおひとつでよろしいですか?」

「はい、そうです。ありがとうございます」

 

 

 スタッフが料理と伝票を置くと、頭を下げて戻っていく。

 浩太がドリア、エヴァがカルボナーラだ。

 いただきます、と目の前のドリアを口へと運ぶ。しっかりと咀嚼して、呑み込む。味に関しては、美味いのだが、まあまあと言ったところ。それはエヴァも同じようだった。

 

「やはり浩太が作る方が美味いな。ここのは、お前の料理の足元にも及ばない」

 

「だから、それはすごくありがたいけどさ。スタッフたちに聞かれるかもしれないんだから自重してくれ」

 

 エヴァは文句を言いつつも、しっかりと食べている。浩太が作る方が美味いだけで、不味いわけではないのだ。それを口に出してしまうものだから、こちらとしては冷や汗が止まらない。

 

「ふむ。そういえば最近、まさにこの瞬間を再現したようなドラマを見たな」

 

「そうなのか?」

 

「ああ。ドラマだと、この後強盗が入って来て占拠するありきたりな展開だったな。こっちもこの後強盗が入ってくれば面白いのだがな」

 

「縁起でもないこと言うんじゃありません。だいたいそんなことが現実に――」

 

 エヴァが突飛な話をし出したので、浩太がやんわり否定しようとした瞬間。

 店内に轟音が鳴り響く。

 それは日常には程遠いもので、誰しもがあまり聞きなれない音。

 ――銃声だ。

 

 静まり返った店内に、砕けた照明の破砕音だけが空しく響く。

 転瞬。浩太とエヴァを除いた客やスタッフが、パニックを起こして騒ぎ出した。

 しかし、再び放たれた銃声に悲鳴はかき消されてしまう。

 

「うるせぇ! 大人しくしろ。お前らには人質になってもらうからなぁ。あまり傷つけたくはないんだよ。わかったな?」

 

 覆面を被った男が銃を向けて、脅しかける。他にも同じように覆面を被った仲間が二人銃を持つ男の後ろに控えていた。

 こんな状況にも関わらず落ち着いていられることに、精神が図太くなったなぁ、と感慨深い思いを抱く浩太。それもこれもエヴァのおかげだ。修行で痛めつけられることに比べれば、てんでたいしたことはない。

 チラリとエヴァに目を向けると、浩太を見つめて悪い笑顔を浮かべていた。

 

「そんなことが現実に、なんだって?」

 

「やめろ。その言葉は今の俺に効く」

 

 浩太はため息を吐きながら頭を抱えた。強盗が現れたことに対してではなく、強盗の出現に爛々と瞳を輝かせるエヴァに。

 強盗が銃を持って現れることよりも恐怖を感じた、と後に浩太は語った。

 

「浩太」

 

「……何でしょうか、マクダウェルさん」

 

「あのバカ共を潰してこい」

 

「拒否権を行使します」

 

「そんなものあると本当に思っているのか? ある訳がないだろう。だが、私は寛大だから選ばせてやる。ここで奴らを打倒して修行のレベルを上げるか、ここから逃げ出して修行のレベルを上げるか。二つに一つだ」

 

「どっちを選んでも俺の未来が地獄に繋がっている、だと。理不尽な二者択一だ⁉」

 

「早くしろ。更に過酷なものにするぞ?」

 

 この吸血幼女……! と浩太が恨めしく睥睨するが、エヴァは飄々と笑うだけだ。

 ちなみにエヴァが覆面を倒せといったのは、折角の浩太と二人の休日を邪魔したからだったりする。完全な八つ当たりである。

 ならばエヴァがやればと思うかもしれないが、浩太の成長具合を確かめることが目的なので、今回彼女が出張ることはない。

 

 もう何を言っても無駄だと諦めた浩太は強盗たちを観察する。

 敵は三人、覆面で顔を隠しているだけ。武装は銃だが、先頭の一人しか所持していない。後ろの二人は黒い棒状のもの、警棒を見せびらかすように持っている。

 出来るか出来ないで言えば、鍛えられた浩太であれば十分対処することは可能だ。

 

 浩太は瞑目して呼吸を整える。

 丹田の辺りを意識して()を練り上げて身体能力を強化すると、体が羽のように軽くなるのが分かった。

 気による強化を手早く行う浩太を見てエヴァは感心すると、自分が教えているのだから当然とばかりにうんうんと頷く。

 そんなエヴァを尻目に浩太はそっと、体を下げて前傾になる。

 

「瞬動のコツは、大地を掴むように……」

 

 足に力を込めて、気を爆発させる。

 ふっ、と浩太の体がエヴァの前から消えた。

 そして、次の瞬間には銃を持つ男の懐に飛び込んだ浩太が現れる!

 男が浩太の存在に気付く前に銃を叩き落して、そのまま鶴頭で顎を跳ね上げた。脳揺らされた男は呆気なく意識を失い、地面に沈む。

 

 

 男が倒れたことにようやく気付いた二人が警棒を振り上げて迫る。

 強化された浩太にとって、その動きはあまりに遅く、スローモーションを見ているようだ。先頭にいる覆面の動きに合わせて、側頭部に上段蹴りを叩き込む。その一撃は、男を容易に吹き飛ばし、窓ガラスを突き破った。

 

「やば……」

 

 大の大人を容易に吹き飛ばす脚力に、浩太は感嘆の息を漏らした。同時に、気で強化された体は凶器になり得ることを理解する。今まで比較対象がエヴァしかおらず、どれほどの力があるのかわからなかったので、仕方ないと言えば仕方ないのだが。

 

「お、お前ら⁉ テメェ何しやがった!」

 

「眠ってもらっただけだが? いや、まあ一人やり過ぎたけど」

 

「クソが! お前は危険だ、死ねぇ!」

 

「いや、武器持ってるやつに言われたくないんだが……」

 

 男は警棒を激情のまま振り回す。

 我武者羅な攻撃が、浩太を捉えることはない。気で強化された動体視力の前では、全て躱されて空を切る。

 このままでは埒が明かない、と浩太は振り回される警棒を難なく掴み取ると、男をこちらに引き寄せて腹に掌底を叩き込んだ。

 男は胃の内容物を吐き出しながら、膝をついてそのまま動かなくなった。

 

 ふう、と一息吐く。

 エヴァに目を向けると何が面白かったのか腹を抱えて笑っていた。この状況で笑えるのは彼女ぐらいだろう。

 

「私の弟子なら、たかだか雑魚三人一秒で倒してみせろ」

 

「まだ俺には無理な話だな、それ。それよりも早くここ出ようぜ? もうそろそろ騒ぎを聞きつけた警察も来るだろうし。面倒なのはゴメンだ」

 

「それもそうだな。よっと、よし行くぞ」

 

「はいはい。わかりましたよ、お嬢様」

 

 浩太は背中に飛び乗ってきたエヴァをしっかりと支えて、店を後にしようとした時、

 

「待ちやがれっ!」

 

 怒声に振り替えると、最初に沈めた男が血走った眼と銃口を二人に向けていた。

 強化された一撃を生身で受けたにも関わらず、まだふらふらとしているが男は立ち上がったらしい。存外、タフなようだ。

 

 

「これは私も想定外だ。まさか、ここまでタフだとはな」

 

「しっかりと決めたと思ったんだけどな」

 

「今後の課題だな。まあ、私以外と初めての対人戦にしては良くやった方さ」

 

「無視してんじゃねぇよ! こっちは銃向けてんだぞ⁉ 怖がるもんだろうが!」

 

「いやー、今更銃程度では怖いと思わなくなってまして」

 

「何なんだよお前っ。俺たちの邪魔しやがって! 折角の計画が台無しだ。このまま警察に捕まるぐらいなら、お前だけは殺す‼」

 

「気持ちいいぐらいの逆恨みだな。どうせ私たちがいなくても失敗していただろう」

 

「うるせぇ!ガキは黙ってろ!」

 

 あ、バカお前。

 

 浩太から滝のように冷や汗が噴き出す。

 目の前の男は気付いていないが、エヴァを背負っている彼だからこそ分かった。

 いま、エヴァはキレている、と。

 彼女から漏れる威圧を一身に受けている浩太は泣きたくなった。

 

「……浩太」

 

「はい!」

 

「アイツ、ツブセ」

 

「イエス、マム!」

 

 エヴァは、冷ややかな声で命令を下す。

 浩太は考えるよりも早く返事をしていた。浩太も、命は惜しいのだ。

 

「最後の別れは済んだか?」

 

「ごめんな。俺も自分の命は惜しいからさ、少し本気で行くから」

 

「は? 本当に意味分かんねぇことばっかり言いやがってよぉ、さっさと死ねや!」

 

 男は狂ったように叫ぶと、引き金を引いた。

 発射された弾丸は真っ直ぐに浩太へと飛んでいく。

 撃った男と見守っていた人々も、誰しもが浩太の死を疑わなかった。

 しかし、当然そんなことが起こる訳もなく。

 

 放たれた弾丸を浩太の強化された目は、しっかりと捉えれていた。

 彼は瞬時に気で手をコーティングすると、人に当たる危険のない天井に向かって弾丸を跳ね上げる。

 次いで腕を引きながら瞬動で一気に距離を詰める。男は何が起こったのかわからないという顔をしていたが、その呆けた顔に勢いの乗った拳を叩き込んだ。

 しんっと静まる店内。

 そして、ようやく状況を飲み込んだ人々から歓声が沸き起こった。その歓声に紛れて二人はそそくさとその場を後にした。

 

 

 

「はあ……今日は酷い目にあった」

 

「いいじゃないか。暇よりかよっぽど楽しめたぞ」

 

「お前は見てただけだからな。全く普通銃持ってる奴と戦わせるかね」

 

「この私が鍛えているんだからあれぐらいできて当然だ。喜べ、明日から無事修行のレベルが上がるぞ」

 

「おいおい、勘弁してくれよ……」

 

 浩太には背に乗るエヴァの顔が見えない。

 それでもいつものように面白そうに笑っているんだろうな、とため息が漏れるが、そんな浩太の顔にも、薄っすらと笑みが零れていた。

 




戦闘描写もっと上手くなりたいなぁ。
では、また次回お会いしましょう。


12月9日加筆・修正しました。
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