少し明るい話をしよう。
なんと、ルーキー日間で14位になってました!
これからも頑張っていきます!では、どうぞ!
平日の学校の教室ではいくつかのグループが、和気藹々と学友と話に花を咲かせていた。
だが、教室の窓側の一番後ろの席にはそんな教室の明るい雰囲気とは真逆で、暗く沈んでいる。
その席の主は、浩太であった。
みんな一様に関わったら面倒だと思っているようで、誰も声をかけようとする者は誰もいない。
そんなことを思われているとは露知らず。というよりも、周りの状況を確認する余裕がない浩太は、机に突っ伏して死に体になっていた。
それもこれも、昨晩の修行で行われた瞬動マラソンが原因だ。
休むことなく一〇キロを十セットもする羽目になり、体力も気もすっからかんの状態が今朝になっても続いていた。その上、家を出る前にエヴァに血を吸われたことによって、貧血も重く圧し掛かっていた。
しかし、その修行によって瞬動術がだいぶ形になってきたということもあって、文句を言おうにも言えない。
きっと、今日もキツい修行を用意していることだろう。あくどい笑みを浮かべるエヴァが目に浮かんで、浩太は大きなため息を吐いたのだった。
「お前ら、席につけー。朝のホームルーム始めるぞー」
教室に入ってきた教師の呼び声で、ぞろぞろと席に戻って行くクラスメイトたち。
それを見届けた教師から諸連絡が報告されていく。
「それから、最近学校で飛び降りが多発している。だから、そういうやつを見かけたらすぐに助け出してくれ」
「それ、自殺を図ってるってことですか?」
先生の報告に、委員長が質問を返す。先生はその質問に首を振ることで返した。
「いや、飛び降りた生徒たちの話を聞く限り自殺を図ったわけではなさそうだ。飛び降りた本人たちは『体が勝手に動いた』と、口を揃えて言っているらしい」
「えー! それってつまりお化けとかだったりして⁉︎」
一人の生徒の声を皮切りに、ざわざわと教室中が騒ぎ出す。
「ヤバくない?」「てか、そんなことってあり得るのか?」「マジでお化けだったりしてな」「やめてよ! そういうの無理なんだから」
だんだんとヒートアップしてきたところで、教師が教卓を叩くことで生徒たちを諌める。
一瞬で、ピタリと静かになる生徒たち。
「とにかく、そういったことが多発している。全員気をつけるように」
こうして朝のホームルームは終わりを迎えた。
教師が教室を出ていくと、すぐに先ほどの話題で持ちきりになっていた。さまざまな憶測が教室中に飛び交っていた。
それを傍観していた浩太は頬杖をついて、顔を外に向ける。
(飛び降り、ね……)
飛び降りの多発。
教師は簡単に言っていたが、一度ならまだしも、何度も起こるものだろうか? 仮にクラスが騒いでいるように幽霊の仕業だとして、何故今になって奇妙な事件が起きているのだろうか。この学校に通い、三年が経過するが今まで、そんな話は聞いたことがなかった。
考えても、答えは出ない。
だるいうえに、更に憂鬱な気分になった浩太は本日二度目のため息を吐く。
そんな浩太を嘲笑うように、窓の向こうには青空が広がっていた。
☆☆☆☆☆
午前中の授業は体力と気の回復に努めていたので、ほとんど寝て過ごした。何度か各担当の先生方に注意されたが、全て右から左に受け流していたので、正直何を言われたのか覚えていない。
昼休みになると、朝の友人グループが席をくっつけて弁当を広げていた。
浩太も友人から声をかけられたが、それに加わることはなくやんわりと断ると、弁当を持って屋上に移動する。
教室を出て、階段を軽快に駆け上がり屋上に出ると、回復した気で軽く身体強化を施して塔屋の上に飛び乗った。
ここは浩太が最近見つけたベストプレイス。
ここに登るための梯子は存在しないので、現状気の強化を使える浩太しか使用するものはいない。
壁に寄りかかって胡座をかくと、早速弁当を広げて黙々と咀嚼していく。今回は特に唐揚げの出来が最高だ。朝の朝食に出したら、エヴァからも好評だった。
ちなみに、この弁当は手作りだったりする。
エヴァが居候になる前までは購買のパンで昼は済ませていた。けれど、エヴァは料理ができないため、浩太が学校にいる間は昼食にありつけない。そのため、エヴァの昼食を作り置きすることになったので、ついでに弁当も作っているというわけだ。
最近になって、何故かエヴァが料理を教えてほしいと言い出したので教えているが、突然習いたいと思った理由は全くわからない。
一度だけ気になって理由を聞いたことがあるのだが、顔を赤くしたエヴァに襲い掛かられてしまったので、理由を聞くのは諦めた。
浩太としては、自分の負担が減るならそれでいい、と思っているので別段理由は気にしていない。
――もしそれをエヴァの前で言おうものなら、今までに経験したことのない地獄を、その身に受けることになるだろう。鈍感は罪なのだ。
ものの数分で弁当を空にすると、仰向けに寝転んで青空を眺める。心地良いそよ風が髪を揺らして、頬を撫でた。
いくらかだるさと憂鬱な気分が晴れて、多少気が楽になっていく。
そこで、今朝の話題に頭を切り替える。
「今朝の話、なんか引っかかるんだよな……。自殺じゃないなら、度胸試しとか? いや、今更高校生にもなってそんなことやらないか。幽霊、だとして何で今になって? 駄目だな、皆目見当がつかない」
うんうんと頭を悩ませる浩太だったが、結局答えは出ない。
しかし、それも仕方ないだろう。今回の事件はオカルト寄りで、その世界を知ったのもエヴァと過ごしたこの半年しか経っていない。
こういった非常識な事件はエヴァに出会うまで一度もなかったので、いざ考えるとなると何も浮かばない。どうにも腑に落ちない蟠りを晴らすべく、放課後になったら地道に調べてみることにしよう、と浩太は決めた。
――決してエヴァの修行から逃げるためではない。そう、決して。
心地よい風が吹き、ぽかぽかとした陽気に当てられて、大きな欠伸が漏れた。このままでは寝てしまい、午後の授業に遅れてしまいそうなので、弁当を片付けて屋上を出た。
教室までの廊下をぼうーっとして歩いて、ふいに外に目を向けた。すると普段人通りの少ない場所で、人ひとりを複数人が取り囲むようにして立っていた。
遠目から見ていると、時折手を振り下ろしたり、蹴りを入れているのが見えた。どうやら寄ってたかって、虐めを働いているようだ。
「はぁ……見て見ぬフリはできないよなぁ。ああ、もう! 本当に今日は最悪だ!」
浩太は顔をしかめて、吐き捨てるように叫ぶ。
そして、窓を開けると躊躇うことなく
ここは三階。だんだんと加速して風が鬱陶しいが、その分すぐに地面に到達する。
着地する瞬間、全身を気で強化。
スタッと地面に降り立つと、そのまま目的の場所へと走り出した。
――浩太が虐めの現場を目撃する数分前。
「ほらほら、悔しかったら反撃してみろよ!」
「お前、いつも教室で人形ばっかり弄ってて気持ち悪いんだよ!」
「うっ、う……」
暴言を吐かれてなお、言い返すこともなく震えるように蹲る少年。少年の胸に抱えられているのは、壊れた人形。
人形は見るも無惨なほど、損傷が激しかった。おそらく、もう復元は不可能だろう。
惨めに蹲る少年を見て、高嗤いする集団。
その目には愉悦の色が見える。彼らは少年を見下ろしながら、痛めつけて楽しんでいた。
認めたくはないが、これが人間だ。
自分よりも劣っている
人間が集団として存在する限り、虐めが無くならないのも、当然と言えるだろう。
暴行を繰り返す中で、集団のひとりが虐められている少年と目が合った。
なんてことのない偶然。
しかし、少年と目が合った瞬間。言い知れぬ恐怖が背筋を冷やす感覚が走った。バッと、慌てて後ろに振り返るが、誰もいない。
何だよ? と仲間に声をかけられて、なんとか平静を保つ。
彼が前に向き直ると、またもや目が合い少年の口が三日月のように弧を描いて笑っているようだった。薄気味悪くて、今度こそハッキリと恐怖を感じた。
彼はその恐怖を一刻も早く払拭するために、少年の顔面に拳を振り落そうとして、
「おい、お前ら。もうその辺にしとけよ。大人数でひとりを虐めるとか、かっこ悪いぜ」
振り落とされる瞬間に腕を掴みあげて、間一髪間に合った浩太が、そう言った。
浩太は面には出さないものの、振り落とされた拳を止められたことに安堵していた。すでに少年はボロボロで、これ以上暴行が続いていたら虐めの範疇を越えていただろう。
「離しやがれ! テメェ、いきなり現れたと思ったら何しやがる。正義の味方気取りのつもりか?」
「そーそー、俺たちはこいつのことを思って教育してるだけなんだぜ? 止められるのは心外だなー」
「いやいや、どう見ても虐めだろ。寄ってたかって複数でひとりを虐めるとか、器ちっさ」
『ああっ⁉︎』
ビキリっ、と音が聞こえそうなほど青筋が浮かべる虐めっ子たち。
そこまで激しく反応すると、器が小さいと認めているようなものだが、彼らは気付かない。
腕を掴まれていた男が、空いている方の腕で殴りかかってくる。
それが合図だったのか、他の男たちも浩太を排除するべく牙を向けた。
いくら一人でも複数人で襲いかかれば、一瞬で袋叩きにされるだろう。それには
彼らは気の毒にも
――彼らの冥福を祈るばかりである。
一分後。
案の定、彼らは浩太に瞬殺されて地面に転がっていた。
返り討ちにして、すぐに虐められていた少年の方に目を向けるが、そこにはもう誰もいない。彼にも話を聞いておきたかったのだが、乱闘に乗じて逃げたようだった。よくあの身体で動けたな、と少し関心する。
そして、時間が経っていたようで、午後の授業の予鈴が鳴り響く。
遅れないようにと思っていたのだが、もう遅刻は確定だ。別に虐めを止めたことに後悔はないのだが、虚しさが心を占めていた。
浩太は痛くなってきた頭を押さえて、空を仰ぎ見る。
「……最悪だ」
吐き捨てられたその言葉は、誰の耳にも届くことなく、空気に溶けて消えた。
☆☆☆☆☆
午後の授業を終えて、放課後。
虐めっ子たちを蹴散らした後、教室に戻ると背後に般若を携えた先生が立っていた。午前中寝ていたこともあって、こっぴどく叱られてしまった。
完全に自業自得なので、ぐうの音も出ない。
もぬけの殻になった教室には、浩太ひとりしかいない。
何故誰もいない教室にひとり残っているかというと、先生から罰として教室掃除を言い渡されてしまったのだ。
友人たちに助けを求めたが、バイトや部活を理由に断られてしまい、絶望した。何人かはニヤニヤと笑っていたので、密かに私刑による復讐を誓う。
いくら何でもひとりで教室掃除はやり過ぎなような気もするが、この程度で許してもらえるのだから、ありがたいと思わなければならない。たった一回の掃除で許されるのなら安いものだ。
作業の三分のニ程度が終わった頃、教室の扉が開かれた。顔を向けると、そこには担任の先生が立っていた。
「しっかりやってるか、佐藤」
「ちゃんとやってますよ。あともう少しで終わります」
「そうか。ちゃんとやっているようで何よりだ。終わったら真っ直ぐ家に帰るんだぞ」
「言われなくとも。先生はどうしたんですか? 俺の監視にでも来たんですか」
「それもあるが、今朝話した通り飛び降りがないか見回りのためにな。他にも見回りをしている先生方がいるから、俺はここに来たのさ」
なるほど、と浩太は呟いた。
浩太はエヴァのように認識阻害の魔法が使えない。先生ひとりなら動きやすかったのだが、複数人となるといささか動きづらくなる。
可能な限り気配を消して、慎重に行動するしかないだろう。
掃除をしながら、今後の予定を固めていく。
それから数分後。ようやく掃除を終えて、ちょうど道具を用具箱にしまった時だった。
『うわぁああああああ⁉ 誰か助けてくれぇええええ!』
閑散とした校舎に、絶叫が轟く。
瞬時に意識を切り替える。そして、すぐに走り出す。
「先生! 俺先行きます」
「あ、待て佐藤! 勝手な行動を取るな!」
浩太は先生の制止を振り切って、声が聞こえた場所に全力で駆けていく。
これ以上、面倒ごとはごめんだ! と、顔を険しくして。
☆☆☆☆☆
彼――浩太に腕をつかまれた男――は放課後になっても、まだ校舎を出ていなかった。否、
虐めっ子でも人間。未知は怖いもの。
多発しているという飛び降りの奇妙な事件に加え、昼間のアイツの不気味な笑みが脳裏に張り付いていて、気分が悪い。
だからこそ、早急に帰りたかった。
けれど、帰ろうとしても体が全く言うことを聞かないのだ。意識はハッキリしているし、思考もできるというのに。
教室を出てから身体が自分の意志に反して勝手に動き出し、人気のない教室へ来ると、そのまま椅子に腰を下ろした。座ったまま動かせる部位を確認したが、口しか動かすことができずに、かなりの時間が経ってしまった。
すでにほとんどの生徒が下校したようで、校舎の中は静謐そのもの。時折、足音が聞こえてくるが彼のいる教室までやってくる気配はない。
夢を見ているのではないか、とも思った。
しかし、クラスメイトが帰り際に軽く肩を叩いていったことを思い出す。
あの時の感触と軽い痛みは本物だった。だから、夢でもない。
やがて、彼は一つの考えに至ってしまう。
これではまるで、まるで人形になってしまったようだ。
そう考えて、再び脳裏に昼休みの光景がフラッシュバックする。
壊れた人形を抱えて、こちらを見上げる口元を三日月形に歪めたあの顔を。
思わず、ひっと、小さな悲鳴が漏れる。
冷や汗が止まらない。
時間が経つにつれて、呼吸がどんどん荒くなっていく。
恐怖に身体が震えて、心臓が早鐘を打つ。
頭にけたたましく響く警鐘が鳴り止まず、嫌な予感が止まらない。
そして、その予感が当たった。当たってしまった。
今まで言うことを聞かなかった体が嘘のように、ゆっくりと動き出した。
もちろん、彼の意思通りに動いているわけではない。
彼は席から立ち上がり、ゆっくりとした足取りで教室から出るとそのまま廊下を歩いていく。
勝手に動く身体のその行き先に思い至り、彼の顔が青を通り越して白く染まった。
この先を行けば、三階への階段がある。
「おいおい、嘘だろ……」
彼から悲痛な声が漏れる。けれど、足は止まらない。
階段が、見えてきた。
「嫌だ、頼む誰か! 誰か助けて!」
彼は助けを求める。けれど、誰も助けにこない。
ゆっくりと、階段を登っていく。
「うわぁああああああ⁉ 誰か助けてくれぇええええ!」
彼はついに恥も外聞も捨てて絶叫した。
三階にたどり着くと、突き当たりを右に曲がっていく。
そのまま直進していくと、奥に窓が見えてきた。何故か窓が開いている。
あれが、終着点だ。
「嫌だ! 嫌だ! 死にたくない⁉ お願いだ! 助けてくれぇえ!」
窓にたどり着く。
手を置いて、そこから身を乗り出していく。
地面が見えた。三階なだけあって、とても高い。ここから落ちてしまったら、きっと大怪我ではすまないと直感した。
そして、ついに彼の体が窓から離れて――
「間に、あっ、たぁあああ!」
落ちるはずだった彼の襟首を掴んだのは浩太だった。
強化された腕力は軽々と人ひとりを持ち上げて、なんとか落ちる前に救出することができた。
ここまで来るのに一直線だったので、瞬動で一気に距離を詰めることができたのが幸いしたようだ。
彼は九死に一生を得て安心したのか、気絶していた。浩太も座り込むと、盛大に疲労のため息を吐く。
しかし、それも一瞬。浩太は目を鋭くして後ろに振り返った。当然そこには
「こんなふざけた真似しやがって……。悪いが、この事件。個人的に俺がぶっ飛ばさないと気が済まなそうだ」
その瞳に怒りを宿して、浩太は無表情に、そう言った。
読了ありがとうございました!
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