居候は吸血鬼   作:流離う旅人

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なるべく週一投稿を続けたいと思います。


吸血鬼と学校

 

 まだ誰もが寝静まる早朝。

 浩太は一人、庭で素振りをしていた。

 呼び出した禍太刀をしっかりと握りしめて振り下ろすと、閑散とした早朝の庭に空気を裂く音が響いては消えていく。

 これは、エヴァとの仮契約で得た禍太刀を使いこなすために追加された修行だった。

 

 せっかく武器を手に入れても、使いこなせなければ宝の持ち腐れ。

 もしかしたら、戦いに慣れた者が魔道具を所持している可能性もある。前回は何とかなったが、そういつも上手くいくとは限らない。

 エヴァも詳しいわけではなかったが、剣の基礎ぐらいの知識は有していたので、それを叩き込まれた。そのかいもあって、今では浩太も人並みに剣を振るうことができるまでに成長していた。

 ……地獄のような修行を受けた、と言えば後はわかるだろう。

 

 

 今朝は素振りだけで済ませると、禍太刀を戻して、シャワーで汗を流す。そして、朝食の準備に取り掛かる。それが浩太の日課だ。

 しかし、今日はいつもと少し違っていた。

 何故なら、いつもならまだ眠っているエヴァが、朝食を作っていたからだ。

 思わず、浩太は目を丸くして固まってしまったが、すぐに気を取り直す。

 

「おはよう、エヴァ。それで? 何してんだよ」

 

「見て分からないのか? 朝食を作っているんだ」

 

「いや、それは分かるけどさ。どうしてまた?」

 

「いつも世話になっているからな。何よりいつまでも借りを作るのは嫌なんだよ」

 

「別に好きでやってるようなもんだし、気にしなくていいんだぞ」

 

「それでは私が納得できないんだよ。ええい! お前は黙って座っていろ!」

 

 エヴァに言われるがまま、浩太は食卓の椅子に腰を落とす。

 特にすることもないので、頬杖をついて料理しているエヴァを見ていることにした。エヴァは自作したらしい白のフリル付きエプロンを身につけて、必死な表情を浮かべてフライパンと睨めっこをしている。

 普段から自作した服や浩太のワイシャツを着ている姿しか見たことがなかったので、エプロン姿のエヴァは新鮮だった。

 

 ふと、浩太は思った。まるで新婚夫婦みたいだな、と。

 まさに今の状況は不慣れな料理に悪戦苦闘する妻を見守る夫の構図ではなかろうか。

 一度そう思ってしまうと、なかなか頭から離れない。だんだんと顔が熱くなるのを感じた浩太は手で顔を押さえた。

 

「どうしたんだ? 料理を運ぶのを手伝って欲しいのだが」

 

「いや、何でもない。手伝うよ」

 

 いつの間にか作り終えたらしいエヴァは怪訝そうに浩太を見ていたが、追求される前に立ち上がって料理運びを手伝う。

 首を傾げるエヴァだったが、特に追及されることはなかった。

 運び終えた二人は対面に座ると手を合わせて、

 

「「いただきます」」

 

 朝食のメニューは焼き魚に白米、卵焼き、味噌汁といった和食。

 白米は普通に炊けているが、焼き魚と卵焼きは所々焦げが目立つ。味噌汁の具材もまばらな大きさだった。

 浩太はまずは味噌汁を一口。

 エヴァは落ち着かない様子で浩太を見ている。

 

 

「――うん、普通だな」

 

「何だその感想は! もっとこう美味いとか、毎日飲みたいとかそういうのはないのか!」

 

「いや、考えてもみろよ。この間まで料理のりの字もできなかったエヴァが普通の味を出せるようになったんだぜ? 現段階での最高の褒め言葉だろ」

 

「それは、まあ、確かに……」

 

 エヴァは納得いかないと口を尖らせて、そっぽを向く。

 その姿はまるで幼子がいじけているようで、中身と容姿が伴っていないことに浩太は苦笑いを浮かべた。

 

「ちゃんと美味いから安心しろって」

 

「本当か⁉︎」

 

「ああ、美味しいよ」

 

「そ、そうか。それならいいんだ。……良かった。美味しいって言ってもらえた

 

 エヴァは浩太に見えないように俯いて笑った。その笑顔は普段浮かべている不敵な笑みではなく、純真な少女の柔らかな笑顔だった。傍から見ればブラックコーヒーが飲みたくなるような桃色空間を作り出しているのだが、二人は気付かない。

 

 

 

 しばらくして、朝食を食べ終えた浩太は朝食を作ってもらったので食器洗いをしようとしたのだが、またもやエヴァがやるということで渋々引き下がると、部屋に戻って登校準備をする。

 制服に袖を通して、教科書などを突っ込んだカバンを持って階段を降りると、ちょうど食器洗いを終わらせたエヴァがソファに座って寛いでいた。

 

「悪いな、食器洗いまでしてもらって。明日からはまた俺がやるからゆっくり寝てていいんだぞ?」

 

「いや、明日も私がやるからお前は気にしなくていい。それよりも今朝の分、吸わせてもらうぞ」

 

「そういえばまだだったな。……もう制服なんだけど血、つけないでくれよ?」

 

「お前の血を一滴も零すつもりはないから安心しろ」

 

 エヴァは浩太の手を強引に引いてソファに落とす。瞬く間に浩太の膝上を陣取ると不敵に笑って、そう言った。

 艶やかな雰囲気を漂わせるエヴァに、浩太はとっさに顔を逸らしてしまった。彼のために行っておくと、決してエヴァの顔を直視出来ないとか、そういうことではない。そう、違うのだ。

 

 首筋にエヴァの牙が突き立てられ、ズブリと沈む。

 軽い鋭痛に顔を歪ませるが、これも慣れたもの。すぐに痛みに順応した。エヴァはゆっくりと、味合うように血を吸い上げていく。

 浩太としてはエヴァの髪から香るシャンプーの匂いと密着する肢体の柔らかさが理性をぶっ壊しにきているので、早々に切り上げてほしいと切に願っていた。

 

 どれだけ時間が過ぎたか分からないが、ようやく満足したのか牙が首筋から抜かれた。その拍子に噛み跡から血が流れる。制服についたら面倒くさいので慌てて押さえようとしたところに、なんとエヴァが流れる血を舌で舐め取ったのだ。

 ぬめりとした、生暖かい感触にブルリと体が震える。

 

 羞恥に顔を染めた浩太が抗議の目を向けると、舌舐めずりして妖艶に微笑む吸血姫が、そこにいた。

 これが六百年を生きた貫禄。

 漂う色香に、浩太は思わずゴクリと生唾を呑んだ。

 

「どうした、惚けた顔をして」

 

「な、何でもない⁉︎ も、もう学校行くから!」

 

「ああ、またあとでな(、、、、、、)

 

 すぐさま浩太はエヴァを横に下ろすと、カバンを持って家を飛び出して行った。

 だからこそ、エヴァが最後に言った言葉は浩太に届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 家から逃げ出した浩太は消沈とした様子で、教室の机に突っ伏していた。

 浩太はエヴァと仮契約(パクティオー)を結んでからというもの、今までよりもエヴァを強く意識してしまっていた。

 最近では、吸血時以外にもエヴァがくっついてくるようになったので密着する機会が多い。なおかつ、今朝のように料理を作ってくれるようになった。

 これだけされて、彼女を意識しないなんてことがあるのだろうか? ――いや、ない。

 

 浩太は頭を左右に強く振って、一旦エヴァの件から離れると、修行について考える。

 地獄というのも生温い修行を積み重ねてきたお陰で、気と体術、瞬動術についてはある程度習得したと、エヴァからお墨付きをもらっている。

 最近では気の応用技、性質変化も出来るようになった。

 エヴァの世界では気を雷に変えて技に乗せる剣術があるらしく、雷ができるなら他の性質に変化させることも出来るのではないか、と要練習。最初は苦戦していたがイメージを強く持つことで、少しではあるが火と風、雷に変化させることに成功した。

 刀に関しては基礎しか納めていないので、浩太自身が我流の剣術として昇華させなければならないのが目下の課題の一つだ。

 

 そして今現在、最難関の課題であるのが究極技法(アルテマ・アート)『咸卦法』の習得である。

 咸卦法とは本来相反する魔力と気の二つを融合させた技法。究極と言われるだけあり効力は絶大。これ一つで身体強化の最高クラスの効果を発揮して、他にも戦闘方面に必要な要素を補うことが出来る。

 

 発動媒体ないし詠唱が出来ないため、魔法こそ使えない浩太だが、魔力操作は気の操作と並行して修行していたので使えるようになっていた。

 今まで使う機会がなかったが、こんなところで役に立ってくると思うと、エヴァには師の才能があるのだろう。

 これで咸卦法の条件は揃った。けれど、魔力と気を融合させることが出来ずに暴発ばかりくり返しているのが現状だった。

究極技法(アルテマ・アート)と言われるほどだ。習得が困難を極めるのは目に見えていた。

 しかし、こうも失敗が続くと浩太の心に焦燥が募っていく。

 エヴァへの意識を紛らわせるために修行について考えたが、気分が滅入ってしまい、浩太は長いため息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 ざわざわと騒々しい教室の戸が開いて担任の先生がやってくると、朝のSHRが始まるのだが、先生がそれを遮ると生徒に静まるように促す。

 ひとしきり生徒が静かになったことを確認すると、おもむろに口を開いた。

 

「突然だが、今日は転校生がやってくる。早くクラスに馴染めるように、お前ら仲良くしろよー」

 

「先生先生! 転校生は女子ですか? かわいいですか⁉︎」

 

「それとも男子? イケメンがいいなぁー」

 

「あー、転校生は女子だ。しかもなとびっきりの美少女だ! だからと言って男子、あまりはしゃぐなよ」

 

 先生の言葉にクラスの男子が騒ぎ出す。

 中には立ち上がったり指笛を吹く者までいた。このテンションはうざい。女子も男子の熱気に引いていた。これからやってくる転校生も気の毒なものだ。

 

「そろそろ静まれよ。入ってきていいぞ!」

 

 騒いでいた男子がみんな一様に、揃って口を閉ざす。

 閉められた戸がゆっくり開けられると、そこには件の転校生が立っていた。

 端正な顔立ちに綺麗で滑らかな金髪、白く透き通った肌。その美貌に女子が息を呑む。

 そして、彼女が歩くたびに豊かな双丘が揺れ、男子、だけでなく女子の目も釘付けにしていた。先生が言っていたように、確かに美少女である。

 しかし、浩太は何故か既視感を覚えた。

 

(んんん?)

 

「彼女が今日からうちのクラスメイトになる篠崎雪姫さんだ」

 

「篠崎雪姫です。急な転校で私自身不安なことがたくさんあるのですが、皆さんと仲良くしたいと思っています。これから、よろしくお願いしますね」

 

(んんんんん?)

 

 教壇前にいる篠崎は蒼い瞳と金髪こそ今は家にいるであろう居候のエヴァと該当するが、名前が違えばその体型も異なる。篠崎はロリ体型ではなく年相応の体つきだし、何よりエヴァには皆無の胸がある。エヴァがこんなところにいるはずがない。――だというのに、言い知れぬ不安に冷や汗が止まらない。

 

 そして、クラスメイトに微笑んでいた篠崎と浩太の目が合った。

 その瞬間、彼女はクラスメイトに気付かれないようにニヤリと嗤った。一瞬のことだったので、クラスメイトは誰ひとりとして気付いていない。

 浩太には、その笑顔に覚えがあった。というか、毎日見ているとても見慣れたものだった。

 

「篠崎の席は窓側の一番後ろだ」

 

「わかりました」

 

 篠崎は浩太の後ろの席へと歩を進める。

 先生が言ってから、浩太はようやく自分の後ろに席が増えていることに気付いた。エヴァのことで頭がいっぱいだったこともあり、気付かなかったのだ。

 彼女はゆっくりとした足取りで、浩太の横を通り過ぎることはなく、カバンから何かを取り出すとコトリと、机の上に乗せた。

 

 ――それは、いつも浩太が使っている弁当箱だった。

 

 今朝は急いで家を飛び出したので、浩太は弁当箱を持っていない。

 つまりは、そういうことだ。

 浩太は顔を蒼褪めさせて、すっかり錆びついてしまった首をゆっくりと持ち上げる。

 すると、そこには不敵に嗤う吸血姫がいるではないか。

 

「今朝は急いでるみたいで、お弁当を忘れてたよ?」

 

 篠崎、いやエヴァは笑顔で爆弾を落とした。

 しんっと静まり返る教室。

 数秒後、クラスメイトの絶叫が湧き上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――それで、何でエヴァがここにいるんだよ」

 

「転校してきたからに決まってるだろう」

 

「そういうことじゃねえ! 一体何企んでんだよ⁉︎ お前のせいでクラスの男子からは殺意のこもった目を向けられるわ、女子から好奇の目で見られるわで俺の精神的疲労がヤバイんだけど⁉︎」

 

「役得だろう?」

 

「ど・こ・が・だ⁉︎」

 

 浩太は荒い息を吐き、激しく肩を上下させる。

 あの後の休み時間は、当然クラスメイトたちに詰め寄られた。エヴァに質問をするよりも先に、浩太の下へ。

 浩太も突然の事態に困惑しながらエヴァの事情をボカしながら説明する中、エヴァはおかしそうにクスクスと笑っていた。今日の夕食にニンニクを大量に使うことが決まった瞬間である。

 休み時間の度に押しかけてくるので、浩太はこれ以上の追求を避けるべく。昼休みになってすぐにエヴァを教室から連れ出し、屋上のベストプレイスへと逃げ出して、今に至る。

 

「本当に何しに来たんだよ……」

 

「何、家に居ても暇でな。折角だから、高校生活を体験してみようと思ってな。ほら、私は元の世界では延々と中学生を繰り返していたから、高校に興味が出てな」

 

「で、本音は?」

 

「お前が居なくて寂し――フンッ!」

 

「がぁああああ⁉︎ 何故ここで目潰し⁉︎」

 

 エヴァの本音を聞き出そうと誘導したところ何かを言いかけたが、目潰しを喰らい、襲ってくる激痛にのたうち回りそれどころではなく聞き取らなかった。

 

「ぐぉおお、まだ目が痛ぇ」

 

「ふ、ふん。ほら、弁当も私が作ったんだ。説明は食べながらちゃんとしてやる」

 

「……いただきます」

 

 弁当を受け取るとエヴァにジト目を向けながら、黙々と箸を進める。

 うっ、と若干気圧されながらエヴァが口を開く。

 

「高校に興味があったのは本当だ。だからまず、催眠魔法を使って教師陣を洗脳した。戸籍の方も偽造と催眠をかけて来たから安心しろ。そして、元の世界と違って流石に少女の体じゃ問題があったからな。幻術で成長したように見せている」

 

「聞いてて頭が痛くなってきた……。もう何でもありだな、魔法って。これで低級ってマジヤバくね?」

 

「確かにそうだが、それは私という悪の魔法使いだからこそ出来ることさ」

 

「ええい! 胸を張るな、胸を!」

 

「ん? 何だ、触りたいのか。素直に言えば良いものを。ほら、触ってみるか?」

 

「やめなさい、思春期男子にそれは効く!」

 

 エヴァは胸を押し上げて、身を乗り出すと浩太に迫る。

 抗議しつつも目はしっかりと胸に行ってしまうあたり、浩太も男の子ということだろう。たとえ、目の前で揺れる双丘がまやかしだったとしても、ついつい意識してしまうのは男の子として仕方ない。だって、本能だもの。

 

『別にいいじゃねぇか。本人が触っていいって言ってんだから触っちまえよ。そして揉め。揉みしだけ!』

 

 浩太の中で悪魔が囁く。

 

(いや、しかし……)

 

『何だぁ? お前は不能か? それともホモなのか? 違うだろう。健全な男子高校生なら女のおっぱいを揉んでみたいと思うのは至極当然。しかも幻術とはいえ、それはエヴァクオリティー。本物以上の感触がお前を待ってるぜ』

 

(た、確かに)

 

 悪魔の口が裂けて、弧を描いて嗤う。

 彼の言葉に心揺さぶられ、浩太の手がエヴァの胸に伸びかける。

 

『駄目だよ! そんなの不純じゃないか!』

 

『チッ、うるさい天使(ヤツ)が来やがった』

 

 しかし、それは天使の登場により阻止された。

 天使良くやった! と思う反面、残念に思う自分がいることに、がっくりと肩を落とす。

 

『そういうことは結婚してからなんだよ!』

 

『ハッ! 餓鬼め。幼稚園レベルの発言などどうでも良いのだ!』

 

『何だと、この欲望まみれの屑悪魔め!』

 

『褒め言葉だね』

 

 天使と悪魔の口論が続く。

 けれど、それは突然終わりを迎える結果となってしまった。

 何故なら、ボフンッと音を立てて、エヴァが元の少女体型に戻ったからだ。

 

「あ、魔力が切れた……」

 

「ふ、ふふ」

 

「何を、笑っている? いや、いい皆まで言うな。どうせ幻術が解けて元に戻ったことを笑っているのだろう。いいさ、またすぐボン、キュ、ボンな姿になってやるからな。――貴様の血を吸ってなぁ!」

 

「うぉお⁉︎ ちょ、別にお前を笑ったわけじゃねぇ!」

 

「うるさい、うるさい、うるさーい! お前は黙って血を吸われろ!」

 

「理不尽⁉︎ あ、ちょっとほんとにま――アァアアアアアアアア!」

 

 突然エヴァが元に戻るものだから、葛藤していた自分が馬鹿らしくなって、思わず吹き出してしまった。

 けれど、それを馬鹿にされたと勘違いしたエヴァは羞恥と怒りで顔を真っ赤にして、浩太の血を吸うべく飛び掛かる。

 もちろん、日々の修行の疲労と今朝の吸血で貧血気味の浩太にエヴァを止めることなどできるはずがなく、吸血を許してしまうのだった。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「――であるからして、――となる。ここは次のテストに出すからノートに書いて覚えておくように」

 

 カリカリ……。

 

 教師の言葉に従って、クラスの奴らがノートにペンを走らせる。

 それを横目で確認しつつ、私は教科書をパラパラとめくっていく。

 内容は歴史。どうやら、向こうの世界もこちらの世界も辿ってきた歴史(モノ)は同じらしい。すでに知っていることをもう一度聞くということほど、退屈なものはない。

 

 私はため息を吐いて教科書を閉じると、頬杖をついてバレないように横にいる浩太を見やる。血を吸われたことでやや辛そうにしながらも、真剣な面持ちで授業を受けているようだ。

 血を吸ったことは八つ当たりが強かったので悪いと思いつつ、自分の知らない浩太の顔が知れたことが嬉しくて、小さく笑った。

 

(やはり学校に来て正解だったな)

 

 私が学校に通うことにした理由は二つある。

 一つは、家に一人でいることが退屈で、寂しいといことだ。

 寂しいということは口が裂けても浩太に言わないが。さっきは目つぶしでやり過ごしたが、知られてしまった日には、記憶の改竄を検討しなければならないだろう。

 もう一つは、浩太を一人にしない、ということだ。

 きっかけは、あの屋上の戦闘で見せた殺意だった。そして、この間会った戸塚とかいう警官が話していた父親のこと。

 

 浩太の家に住むようになってから、家族の話について一度も触れたことはない。浩太が家に私を運び込んで最初の数日間は、出かけているだけだろうと思っていたが、それは違った。

 浩太が学校でいない間に家の中を見て回っていた時に、私は仏壇を見つけた。

 それが何故か気になった私はゆっくりと戸を開けた。

 ――そこには、浩太の両親と妹であろう人の遺影が置いてあったのだ。

 

 何かがあったと考えてはいたが、私は何も聞かなかった。隠し事の一つや二つ、誰しもが抱えているものだから。

 だからこそ、私は浩太が話してくれるまで待つことにした。きっと、いつか話してくれることを信じて。私は気を遣うことができる大人の女だからな。

 …………今何処かで私のことをロリババアだの幼女(笑)だの言われた気がするが、気のせいか。

 

 この時、エヴァの世界に存在する図書館の地下深くで、くしゅみをするロリコンがいたとかいなかったとか。

 

 とにかく、私は浩太の隣に居続けよう。支えあい、一緒に生きていこう。

 浩太の横顔を見つめながら、そう、思った。

 

 

 

 

 ――だが、浩太と一緒に居たいという私の思いが叶うことなどないことを、この時の私には、知る由もなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





浩太の学校に行くためにいろいろと影で準備していたエヴァさんかわいい。
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