居候は吸血鬼   作:流離う旅人

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――――お久しぶりです。


少年と修行

 

 

「さあ、逃げまどえ!こちらの魔力は、お前から吸い上げた分しかないのだから限りがある。せめて一分程度は持たせてみせろ!」

 

「無茶言うんじゃねえ⁉︎ っていうか、この状況で逃げられるか!」

 

 クハッ!と、悪の魔法使いモード全開のエヴァが魔方陣を展開。

 それを四方五〇メートル間隔に配置することで、そこから無数の氷塊を乱れ撃つ。

 氷塊は拳ほどのものから、浩太の身長を優に超えるものが入り混じり、緩急をつけて浩太に襲い掛かる。

 まさに戦々恐々とした面持ちで、浩太は氷塊を避けていく。

 

 浩太の世界では、魔力を扱えるものないし精霊が存在しない。そのため、エヴァですら精霊を介さない低級程度の魔法しか使えない、はずだった。

 

 では、何故エヴァが魔法を行使できるのか。

 あれは、先日のこと。

 いつものように魔道具を捜索していたところ、新たに魔道具の回収をすることができた。

 魔道輪。それが魔道具の名だ。

 この魔道具(ゆびわ)には、中級の精霊が封じ込められていた。それも、エヴァが最も得意とする"氷"と"闇"属性の内の一つである氷の精霊だ。

 まさに、今のエヴァのために用意されたような一品だった。

 

 魔道輪を手に入れたからこそ、エヴァは魔法を行使できるようになったのだ。

 そのため、今まで魔法が使えなかった鬱屈とした思いの反動か、修行の時は思いっきりはっちゃけるようになった。

 浩太の修行がより苛烈なものになったのは、言うまでもないだろう。

 

来たれ(アデアット)ッ!」

 

 次々と放たれる氷塊の軍勢に、避けるだけでは対処が困難になり、浩太はすかさず叫んだ。

 禍太刀を呼び出し、抜刀。

 迫る巨大な氷塊を無理に壊すことなくいなし、小さなものは斬り払う。

 そのまま氷塊を対処しながら、少しずつ移動。

 向かう先には、魔法陣。

 

 エヴァの魔力切れを狙うのは難しい。

 やはり、六百年生きてきたのは伊達ではない。浩太の血から得た魔力が残りわずかとはいえ、彼女の魔力運用は一切の無駄がなく効率的だ。

 このままでは、先に自分が潰れると判断した浩太は、少しでもエヴァの攻撃を減らす選択をした。

 

 氷塊に対処しながら、距離を詰めていく。

 残り一〇メートルほどまで迫ったところで、地面を強く踏み込み瞬動。それと同時に気を練り上げ、性質変化させることで生み出した炎を、全身から波状に放出した。

 高火力の炎の波が壁となり、小氷塊は瞬時に溶け消える。大氷塊は溶けるまでには至らないが、勢いを削ぎ落とすことに成功。

 そのまま突っ込み、通りすがりに禍太刀で魔方陣を切り裂いた。

 禍太刀の異能の無効化により、魔方陣が消滅していくのを確認しつつ、次の行動へと移る。

 

「ハッ!」

 

 残り三つの魔方陣に向けて、禍太刀を三度振るう。

 ーー我流、斬空閃。

 炎により威力の弱まった魔法陣へと、螺旋状に回転する斬撃が見事に三つの魔法陣の中心点を捉え、破壊する。

 納刀。一呼吸し、調息。

 

「マジで、危なかった……。おい、エヴァ! お前絶対に俺を殺す気だったろ!」

 

「それぐらいやらねば強くならん。死んだならすぐに生き返れ!」

 

「無茶苦茶だ⁉︎ 俺は不老不死じゃねぇんだぞ!」

 

「ふん。まあ、流石にそれは冗談さ。――ああ、それと頭上注意だ(、、、、、)

 

「お前のは冗談に聞こえな、頭上?」

 

 浩太は言われるがまま、上を見上げる。

 上にはなんと、巨大な魔法陣が展開されているではないか(、、、、、、、、、、、、、、、、、、、)

 全身から冷や汗が滝のように流れる。

 浩太は魔法陣を指差し、顔を引き攣らせながら口を開く。

 

「あ、あの、これは?」

 

「いったい、誰が設置した魔法陣が四つだけだと言った?」

 

「は、はは、確かに、そうだったな。でも、ちょーっとこれは大き過ぎではないでしょうか?」

 

「くふ、ふふふふふ――さて、神への祈りは済ませたか?」

 

「会話の余地すらない⁉︎ クッソ、こんなの耐えられるわ――」

 

「フハハハハ! 喰らうがいい! 氷槍弾雨!」

 

「ちょ、ま――」

 

 次の瞬間。人気のない山の中に、浩太の断末魔が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、最初に受けていた氷塊よりも早く、頑強な氷槍群が一斉に浩太へと降り注いだ。

 魔法の範囲から離脱、氷槍群を打ち壊すことも出来ないと瞬時に判断した浩太は全身を気で最大強化、併せて形態変化による炎も最大火力で身に纏い、防御態勢を取って耐え忍ぶ。それでもやはり氷槍が炎を抜けて、全身に鈍痛が走る。魔法の発動から数十秒ほど経っただろうか。そこでようやくエヴァの魔力が切れたため、全身擦り傷だらけにはなったが、何とか凌ぐことが出来たのだった。

 

 

「痛え……もう少し、加減というものをだなあ」

 

「もちろん、十分に加減してやったさ。そうでなければ、お前は今頃ボロ雑巾のように地べたに這いつくばっていたさ」

 

「今もボロボロなんだが?」

 

「かすり傷程度だろう。そんなものでボロボロとは、片腹痛い」

 

 

 木陰の中、浩太は木に背を預けて傷の手当てをしながら、愚痴をこぼす。

 クハッ、とそれを面白そうに笑うエヴァ。

 ああ、そういえばこういう奴だったわ、とげんなりした気分でエヴァが作ったおにぎりにかじりつく。

 

「うん、美味い」

 

 程よい塩加減がいい塩梅で、形も綺麗に整っているおにぎり。

 ついこの間まで、ロクに料理をしてこなかったエヴァが作ったとは思えない出来だ。

 

「当然だ。ほら、おかずも作ってきたからこっちも食べろ」

 

 眼前に差し出される弁当箱の中には、おかずが綺麗に並べられている。どれもとても美味しそうで、おおっ、と浩太の口から感嘆する声が上がった。

 エヴァから箸を受け取り、弁当箱から卵焼きを取って口に運ぶ。

 

「甘いな」

 

「ん? ああ、お前は卵焼きは甘めの味付けの方が好きだろう。だから、そうしたんだが違ったか?」

 

「いや、そんなことはないけど。よく見てるんだな、俺のこと」

 

「…………ええい! お前はさっさと黙って食え!」

 

「モガァ⁉」

 

 顔を赤くしたエヴァは卵焼きを箸で取ると、勢いよく浩太の口内へと突っ込んだ。

 突然のことに、対応できなかった浩太は、急に箸ごと卵焼きを突っ込まれて苦しそうに悶えている。

 

 そう、何を隠そうこの吸血姫。

 毎食中、常に浩太の反応を見るべく、気付かれないよう細心の注意をはらい、観察していたのだ! それも、浩太に直接料理の好みを聞くと、浩太のことがすk――好ましく思っている、と思われるのが恥ずかしいという理由で。

 

 そのためエヴァは浩太に指摘され、羞恥に顔を染めながら、これ以上何も喋らせない、聞かせないために料理で口を塞いだのだ。喋らせないどころか、永遠に口を封じそうな勢いだったことは、現状の浩太を見れば明らかだろう。

 照れ隠しで殺されそうになるとは、浩太も災難である。

 

「ゲホッ、ゲホッ⁉︎ おいエヴァ! お前俺を殺す気か⁉︎」

 

「うるさい! うるさーい! お前は黙って食べていればいいんだよ!」

 

「だから、無理やり食べ物を口に突っ込むな! 喉が詰ま、ちょ、モゴォ⁉︎ ンンッ――――⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

「酷い目にあった……」

 

「ふんっ! 飯を食べさせてやっただけでその態度とは呆れたものだな」

 

「お前、あれでどうやったらそんな態度取れるんだよ。もう、なんか一周回って尊敬するわ」

 

 腕を組んで横柄な態度を取るエヴァを横目で見つつ、浩太は水筒の水を飲んで喉を潤す。

 

「まあ詰め込まれたことは、置いとけないが置いといて。普通に弁当は美味かったよ。ごちそうさま」

 

「お、おお、ありがと…………急にそんなこと言うのは、反則だ」

 

「何か言ったか?」

 

「何でもないっ!」

 

 弁当のお礼を告げると、エヴァは先ほどとは打って変わり、急にしおらしい態度に変わる。最後に何か呟いた気がしたので、聞き返すが怒鳴られてしまい、浩太は怪訝な表情で首を傾げるのだった。

 少しして、ようやく落ち着いたらしいエヴァが口を開く。

 

「さて、今からさっきの反省会でもするとするか」

 

「りょーかいです、師匠」

 

 先の修行の講評を聞くため、居住まいを正したところで、浩太の横にいたエヴァが立ち上がる。

 何だ? と怪訝そうに浩太がエヴァを見ていると、浩太の上にドカッと腰を下ろし、寄りかかってくるではないか。上に乗られたことで、エヴァの柔らかい感触がダイレクトに伝わる。寄りかかり、胸にかかる艶やかに煌めく金髪からは、整髪剤の甘い香りが漂っていた。

 顔に、血液が集まっていくのが分かる。鏡を見るまでもなく、俺の顔は真っ赤になっているだろう。

 

「おい、何のつもりだ?」

 

「ここにちょうどいい椅子があったからな、座っているだけさ。何だ、何か問題でもあるのか? うん?」

 

 

「別に、なんも問題ねえよ」

 

 エヴァは挑発するように、頭をぐりぐりと押しつけながら、こちらを見上げてくる。その顔にはあくどい笑みが浮かんでいた。

 

(こ、この野郎っ! 絶対にわかってやってやがる!)

 

 正解。この吸血姫、確信犯である。

 

(よ、よしっ! 浩太も、少しは私のことを意識してる。い、勢いでやってしまったが結果オーライというやつだな! こ、こんなことナギにもしたことがないのだから意識してもらわねば困るんだがな!)

 

 表にこそ出さないが、内心羞恥に悶えているのは、エヴァも同じであった。この吸血姫、余裕ぶった態度を取っているが生きてきた六〇〇年間マトモな恋愛をしてこなかったせいで、かなり初心なのだ。

 

「と、とにかくさっさと反省会始めようぜ」

 

「そ、そうだな……」

 

 二人の間に、なんとも言えぬ空気が漂い始めたところで、その空気を払拭するように浩太が切り出す。エヴァもそれは同じだったようで、素直に頷く。

 慣れないことは、するものではない。エヴァは一つ、教訓を得たのだった。

 

 

 

 

 

「お前の気の制御や形態変化、瞬動や身のこなしはだいぶ様になってきたな。修行を始めて半年でこのレベルならたいしたものだ」

 

「そうなのか?」

 

「ああ。基準となるものがないからわからないだろうが、今のお前なら麻帆良の中級魔法生徒を圧倒できる。アーティファクトの禍太刀を使えば、上級ともいい勝負ができるだろうな」

 

 ふーん、と気のない返事が出る。

 気の力によって身体能力が向上し、鉄を難なく破壊できる膂力や手加減されているとはいえ、エヴァの魔法にも耐えられる強靭な肉体へと強化することができる。また、気の形態変化や瞬動術などの技術も併せて教えてもらっているので、エヴァの言うように遅れを取ることはないのだろう。

 

「だが、お前は魔力感知ならびに周囲を見る目が足りないな。この間まで一般人だったことを考えれば、仕方のないことだが」

 

「うっ、まあ、確かに。魔力は少しは感じられるようにはなってきたけど、まだまだだし。周りを見るのも、どうしても目の前のことに集中しちまって、周りが見えなくなるっつーか」

 

「今後も魔道具の回収をしていくのなら魔力感知は要練習だな。以前のように戦闘になることもあるだろうし、周囲を見る目も鍛えていかねばな」

 

「はは、お手柔らかに……」

 

 

 エヴァの言う通り、今後も魔道具探しを続けていくのなら魔道具から微かに発せられる魔力や魔道具を手にした者の魔力を把握するために、魔力感知やは必須技能だろう。戦闘の際もエヴァがいなければ周りを把握できないのも痛手になる。

 いつも、エヴァがいるわけではないのだからこれは要練習だ。

 

 

 ――とは言ったものの、エヴァと一緒に行動していない自分を全く想像できないのは、一体何故なんだろうか。

 

 

 そんな疑問が、浩太の脳裏を過った。

 

 

「まずは魔力感知から鍛えていくとしよう。お前が覚えれば、私も少しは楽ができるしな」

 

「おい。……周りを見る目はどうするんだよ」

 

「それに関しては、先のようにお前の知覚範囲外から攻撃することで養っていくさ。今後、お前が全体を俯瞰し行動できるようにならない限り生傷が絶えることはないだろうな」

 

「ああ、死ぬの確定したわこれ……」

 

 これから起こる回避しようのない未来に対して、遠くを見ながら絶望する。

 この時、既に考える余裕が無くなった浩太の頭には先の疑問など、綺麗さっぱり消え去っていた。

 

「早速教えていく――と思ったが、今日はこのぐらいにしておくか」

 

「え、どうしたんだよ」

 

「私の魔力を使って訓練するつもりだったが、生憎と魔力が切れている。今日は修行のためにいつもより血を吸ったことだし、お前もボロボロだからな。そんな状態では修行に身も入らないだろう」

 

「……明日は槍が降りそうだな」

 

 思わず、本音がポロリと漏れてしまった。

 瞬間、ギロっとエヴァのつぶらな瞳が吊り上がり、こちらを射殺さんばかりに睥睨する。突如として発生した剣呑な雰囲気に、浩太の全身から滝のような冷や汗が吹き出す。できるのなら、数秒前の自分を全力で殴り飛ばしたい。

 

「ほーう? もうボロボロで、今から何をやっても身にならんからと貴様を労ったつもりだったが、どうやら余計な気遣いだったようだなあ。え? 浩太」

 

「め、滅相もございません」

 

「まあ、私は寛大だからな。この程度でいちいち腹を立てはせん」

 

「本当ですか?」

 

「ああ。――今後の修行は、覚悟することだな」

 

「……サー、イエッサー」

 

 腹を立てるどころではない。エヴァは、完全にブチ切れていた。

 この怒りをぶつける先が、修行になるのも仕方のないことだろう。何故なら、合法的に痛ぶることができるのだから。

 原因である浩太は、力なく敬礼を返すことしかできないのだった。

 

 

 

 

 

「今日はパスタの気分だ」

 

「美味しいものを作らせていただきます」

 

「食後にはデザートもつけろ」

 

「イチゴのショートケーキをご用意いたします」

 

「今日の修行で疲れてしまったなあ」

 

「マッサージをさせていただきます」

 

 哀れ。

 今の浩太が、エヴァに逆らうことなどできない。それが分かっているからこそ、エヴァもどんどん注文をつけていくわけだ。現に今エヴァはクツクツと笑っていた。

 だが、それでも浩太は従うのみ。全力で媚びを売って、エヴァの機嫌を取り、少しでも修行の苛烈さを和らげるために!

 

 そう浩太が心内で誓っていると、エヴァは笑みを消して、真っ直ぐに来た道を見つめていた。

 怪訝な顔をした浩太が首を傾げる。

 

「エヴァ?」

 

「ーーいや、何でもない。それよりも早く帰るぞ。私は腹が減った」

 

「りょーかい。帰ったらすぐに支度するよ」

 

 材料まだあったかな、と冷蔵庫の中を思い出しながら浩太は帰路に着く。その後を着いて行かずに、エヴァは再度来た道へと振り返る。

 風が吹き、木々がざわざわと揺れ動く。

 遠くからカラスたちの鳴き声が聞こえ、そこはかとなく不気味な雰囲気が漂っていた。

 

(……一瞬ではあるが、視線を感じた)

 

 先の浩太とのやり取りの際、舐るような視線を感じ振り返ったが、すぐに消えてしまった。周囲の野生動物や山に来た人間ではない、何かの視線。

 一抹の懸念が残るが、まだこちらに危害を加えられたわけではない。

 エヴァは頭の片隅に留めておくことにして、踵を返すと浩太の下へと走り、その勢いで背中へと飛びついた。

 

「っと、いきなり飛びつくなよ」

 

「私のような美女をおぶれるのだから役得だろう」

 

「自分で言うな、自分で」

 

「うるさいぞ。ほら、さっさと歩け」

 

「……仰せのままに、お姫様」

 

 エヴァの不遜な態度に辟易としたように返す浩太だったが、その口元は僅かに持ち上がっていたのだった。

 

 

 

 

 

 





大変長らくお待たせしてしまいました……(汗)
ここからまた少しずつ投稿を再開していく予定ですので、どうぞよろしくお願いします。
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