リアルが忙しく投稿が遅くなってしまいました……。
少しずつ書いて投稿速度は遅くなってしまいますが、投稿は続けていきますのでよろしくお願いします!
時間はあっという間に流れ行く。
気付けば、学校祭は明日が本番。
浩太たちのクラスは細やかではあるが、景気付けにと装飾等が施された教室で前夜祭を行なっていた。軽食を摘みながら、みんなが明日への思いを吐露し、笑顔が溢れている。
みんなのその様子を見ながら、この二ヶ月の準備期間は本当にいろいろなことがあったな、と浩太は感慨深く今日までのことを思い返す。
例えば、メイドカフェで出す予定の料理を試作してみんなで食べたり。
「はーい! みんな味わって食べてね。それで感想聞かせてね!」
「うめぇ、うめぇよぉ……」
「生きててよかった……」
「母さん。俺を産んでくれてありがとう……」
「もー、みんな大袈裟だよー」
男子たちが涙や鼻水で顔をグチャグチャに濡らしながら、女子お手製の料理を食べている姿はとても悍ましいのなんの。教室を通りがかった生徒たちが悲鳴を上げて逃げていくほどだった。
「ダメだコイツら。重症だ。飯作ってもらったくらいで、何だってんだよ」
「佐藤キサマァ! お前にはわかるまい。女子の手料理にはなあ、どれだけ金を出しても足りないぐらいの価値があるんだよ! お前はいつも篠崎さんの手料理を食べることができるからわからないだろうがなぁ! ……クッソ羨ましいです! その立場代われくださいコノヤロー!」
「桐島、お前が何を言ってんのか全然わからないんだが」
桐島は浩太の反応に対して、怒髪天を衝く形相となって捲し立てる。
何故か隣にいるエヴァも、霧島に同意するように深く頷いているではないか。
「何だよ雪姫」
「いえ? 貴方も料理を食べると時、みんなのようにもっと反応してくれてもいいじゃないか、なんてこれっぽっちも考えてないから」
「いや、それはもう考えてるようなもんだろ。それに、コイツらみたいな反応はちょっと、いやかなり嫌なんだが。……大した反応はないかもしれんけどさ。いつも美味しいと思ってるし、これでも作ってもらって感謝してるんだぜ。まあでも、こういうのはちゃんと言葉にしなきゃか。いつもありがとな雪姫」
「えっ、あ、その、ど、どういたしまして……」
なんか照れくさいな、と浩太はうっすらと熱を持った頬に手を添えて笑う。
少し小言を言って揶揄ってやろうと画策していたエヴァだったが、思わぬ
「全く君たちは。今日まで女子の手料理を食べてこれなかったのかい? 可哀そうに。ま、僕ほどとなれば女子の手料理なんて両手じゃ数えられないぐらい食べているけどね」
やれやれといった様子で呆れた声を上げるのは池崎だった。
ついこの間。男子と女子にボロボロにされたばかりだというのに、相変わらずキザな態度を崩さないその
「どれどれ、せっかくだから僕もご相伴に預かろうかな」
そう言って、池崎はまだ残っていたオムライスを手に取る。
「いただきます。うーん、卵の殻のジャリジャリとした硬さとお米のぐちゃぐちゃとした柔らかさが奏でる不協和音。そして、砂糖の強烈な甘さの後に襲い来る苦味はまるで炭を直接口の中に頬張っているような錯覚を覚えて――――グボァ」
「池崎――!」
池崎がオムライスの感想を述べたと思ったら、急に顔を青くして泡を吹いて倒れてしまった。
何事かと確認すると、本来オムライスにはケチャップライスがあるはずなのだが、彼が食べたオムライスの卵の下には
「おい雪姫。何だこの化学兵器は。一体誰がこんなものを生み出したんだよ」
「い、いや、私もこれについては知らないのだけど……」
「あ、それ私が作ったやつだね」
「「委員長が作ったの(か)⁉」」
「そうだよ。おかしいなぁ。今回は上手く行ったと思ったのに」
何が駄目だったんだろう、と本気で考えている委員長。
池崎の感想と見た目を見る限り、全部が駄目だと思う。
それは周りのクラスメイトも同じことを思ったようで、全員が顔を顔を引き攣らせていた。
「……とりあえず、委員長には料理をさせないということで」
『異議なし!』
「どうして⁉」
池崎という尊い? 犠牲により、委員長の料理の腕が発覚したため、満場一致で委員長には料理をさせないということが決まった。本人は納得いかない様子だが、学校祭を楽しみに来たお客さんの命が危険なため、当然の措置だろう。
委員長のことも強烈ではあったが他にも、クラスの男子たちに事前調査という名目でメイドカフェに連れていかれたっけ。
「「「「「おかえりなさいませ、ご主人様♡」」」」」
『ただいまー!』
「馬鹿しかいねえ……」
メイドたちに囲まれてだらしない顔を晒す男子たちに、遠い目をする浩太。
そもそも何故自分たちがここにいるのだろう。メイドに扮するのは女子たちなのだから、来るとしたら女子たちが正解のはずだ。
女子がここに来るのはハードルが高いだろうから、自分たちが調査しよう。なんて桐島が宣っていたが、調査にかこるけてメイドカフェを存分に楽しもうとしている魂胆が透けて見える。当然他の男子も考えることは同じようで、誰も異を唱える者はいなかった。
浩太はエヴァや女子たちに知られた後が怖かったので、辞退したのだが桐島たちに拘束され、あれよあれよという間にここまで連行されてしまった。
(どうかバレませんようにっ!)
浩太は天に懇願した。
「ご主人様。ご注文はお決まりでしょうか?」
「え、あ、じゃあパンケーキを一つ」
来てしまったからには、何も頼まないわけにもいかず。浩太はメニュー表を手に取り、すぐ目に入ったパンケーキを頼むことにした。
注文を取ったメイドは「少々お待ちくださいね♡」と猫撫で声で言うと、厨房へ消えていく。それと入れ替わるように、メイドたちが桐島たちの注文した料理を持ってやってきた。
「こちらのオムライスにケチャップでお絵かきしていくんですが、何かリクエストはありますか?」
「『桐島くん大好き♡』でお願いします!」
はーい、とメイドは手慣れた手つきでケチャップを巧みに動かし、あっという間に桐島の要望通りかつ綺麗に書き上げていく。
やはり、場数が違う。一朝一夕で、できる芸当ではない。
メイドの立ち振る舞いに言葉遣いと他にもやらなければならないことはたくさんだ。こういった練習をする時間もないので、ハート等の簡単な記号系で対応するべきだろう。
浩太は思ったことをメモに書き記す。
「それでは最後に美味しくなる魔法をかけますので、ご一緒にお願いしますね! 美味しくな~れ! 萌え♡ 萌え♡ キューン♡」
『萌え♡ 萌え♡ キューン♡』
駄目だ。こいつら、全力で楽しんでやがる。一応事前調査という名目で来ているのだから、少しは取り繕えよ。
浩太はジト目で桐島たちを見やり、諦観のため息を漏らした。
「ご主人様。お待たせいたしました、パンケーキです!」
「ありがとうございま、うわぁ……」
写真など見ずに文字だけを見て、適当に選んだパンケーキにはこれでもか、というほど大量の生クリームがかけられていた。その上からチョコレートもふんだんにかけられていて、パンケーキの姿がほとんど見えなかった。
途轍もなく胃に重そうなパンケーキを前に、思わず圧倒されてしまう。
「ご主人様もご一緒に魔法をお願いしますね! 美味しくな~れ! 萌え♡ 萌え♡ キューン♡」
「萌え、萌え、キューン……」
……恥ずかしすぎる。メイドも桐島たちもなんで全力でこんなことができるのだろう。俺が彼らと同じことをするには恥も外聞も全て投げ捨てないと無理なんだが? いや、考えるだけ無駄だな。きっと理解なんてできっこない。あいつらは俺とは違う生き物なんだと思っておこう。
考えることを放棄し、パンケーキを食べようとフォークを探すが、見当たらない。恐らく持ってくる時に忘れてしまったのだろう。持ってきてもらおうと、メイドへと顔を向けて止まる。
何故なら、メイドの手に探していたフォークが握られていたから。
「あの、フォークもらっても?」
「ご主人様がご注文になった『〜チョコとクリームの海に溺れたい〜パンケーキを添えて』はメイドからのあーん付きなので、私が食べさせてあげますね♡」
「それそんな名前だったのか。というか、メインがチョコと生クリームに盗られてるんだが? もはや申し訳程度についてるパンケーキは要らないのでは」
浩太の呟きなど気にも留めず、あ〜ん、と差し出されるパンケーキ。
メイドはニコニコと笑顔を浮かべていた。浩太が受け入れて食べるまで、てこでも動かないという気迫が感じられる。
これは、さっさと平らげて帰ろう。
そう考えた浩太は大人しく受け入れることにした。
何故かはわからないが、最近食事の際にエヴァがやたらとあーんをしてくる。エプロン姿だったり、わざわざ膝上に乗ったりとシチュエーションは様々。一体どこのバカップルだよ! と、何度も恥ずかしい思いをしてきた
「それでは、あ~ん」
「……あー、ん」
一口。
瞬間。想像通り襲い来る甘味の濁流。これを頼むお客は純粋にパンケーキを楽しんでいるのではなく、メイドに食べさせてもらえることに意味を見出しているのだろう。そうでなけれな好き好んで
メイドとのやり取りを見ていた男子たちから熱くギラついた視線を送られているが、いちいち反応していては疲れるだけなので、浩太は無視を決め込む。
その後も男子たちの殺気に晒されながら、差し出されるパンケーキを親鳥からエサをもらうひな鳥のように粛々と食べ続け、食べ終える頃にはあまりの甘さにやられて案の定気持ち悪くなってしまっていた。
「最後まで食べられてすごいです! これを最後まで食べきれる人なかなかいないんですよ」
「あはは。そうなんですね……」
いや、それなら商品として出すなよ。もったいないだろ。
思わず、出かけた言葉をなんとか飲み込んで、浩太は愛想笑いを浮かべた。
「おい桐島。俺はもう帰るからな」
「メイドさんにあーんしてもらったお前を殺したいほど妬ましい(そうか。あとは俺たちがしっかりと調査するからいいぞ)」
「おい。絶対に本音と建前逆だろ」
桐島に帰る旨を伝え、会計を済ませて店の外へと出た浩太は胃を擦りながら、今日の夕飯はさっぱりしたものにしようと決めた。
「はあ……エヴァたちに見つかる前にさっさと帰ろ」
「ほう? 誰に見つかる前に帰るって?」
「だからエヴァに………………エヴァさん、いつからそこに?」
「お前がそこのメイドカフェに入った時からだが」
「わあ、最初から……」
帰ろうと一歩を踏み出そうとしたその時。背後から今一番聞きたくない声が聞こえ、冷や汗が流れる。浩太はギッギッギッと首が錆びついたロボットのようにゆっくりと振り返る。
果たして、そこにはエヴァが触れられるほど間近に無表情で立っていた。
あまりの恐怖に悲鳴を上げなかった自分に対して、浩太は内心で褒め称える。
「私たちが服の準備やメイドになり切るための練習をしている間に、お前はメイドカフェを満喫していたわけか。――いいご身分だな?」
「あ、のですね。一応メイドについて調査して、みんなに共有しようとしていまして」
「ほう? メイドにあーんされて鼻を伸ばしていただけではないと言うわけか」
「いや、鼻は伸ばして――」
「あ?」
「何でもありません」
完全にエヴァの目が『口答えするな。殺すぞ』と物語っている。弁明をしても無意味だと悟った浩太は瞬時に押し黙る。この現状を招いた原因である桐島たちへの復讐を密かに誓いながら。
「今日からの食事は私が食べさせるから」
「はい」
「浩太も私にちゃんとあーんで食べさせること」
「はい」
「もちろん学校でもしてもらうからそのつもりで」
「え、流石に学校は人の目が――」
「あ?」
「わかりました」
無表情に、淡々としているエヴァが怖い。とにかく怖い。
逆らわず、黙って、素直に従う。それが唯一生き残る道だ。
この後、本当にエヴァの言う通り。家でも学校でもお互いに食べさせ合うことになり、その光景を見ていたクラスメイトひいては学校中の生徒たちから『バカップル』と認定されるのだが、それはまた別のお話。
――――本当にいろいろなことがあったなあ。
遠い目をしながら、浩太はしみじみと今日までのことを思い返す。
大変ではあったが、まあ充実したものになった、と心からそう思う。あとは明日の本番で全てを出し切るのみ。
「どうしたそんな遠い目をして」
「雪姫。いや、まあ、いろいろと思い返してただけ」
「それは明日からの本番が最高するまで取っておけ。どうせ思い返すことが増えるからな」
「あー、確かにそうかも。無事に終わってくれるといいんだけど」
「あまりそう口に出すなよ。フラグになる」
「りょーかい」
隣にいるエヴァと話していると、周りがそろそろお開きにする流れが出来始めていた。浩太たちはゴミ等や出していた物を手早く片付けると、明日に備えてそれぞれ帰路へとつく。
「いよいよ明日が本番かぁ」
「そうだな。ま、ここまで準備したんだ。せいぜい楽しませてもらうさ」
「全員分の服の調整してたもんな。お疲れさん」
「まあ、趣味の範疇だからな。そこまで苦でもなかったさ」
「そっか。……明日、頑張れよ」
「ああ。
「え? お、おう」
ニヤリとエヴァが笑う。
背筋に何か冷たい感覚が走り、ゾワゾワとする。
けれど、その正体には皆目見当がつかず、浩太は首を傾げるだけで考えることをやめた。
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学校祭当日。早朝の教室。
全員が各々の衣装に着替えている中。絶賛浩太は、今にもここから逃げ出したいという思いに駆られていた。
女子たちはもちろんメイド服に。
あくまで女子のメイドがメインではあるが。男子たちだけ制服では格好がつかないため、男子たちもギャルソンに身を包み、給仕として女子たちのサポートに入る手筈になっていた。
もちろん、男子のギャルソンについてもエヴァが一口噛んでいる。
男子たちは今日ようやく服をもらい、始めて袖を通す。事前にサイズ等は測っているし、エヴァが手を加えているため、今日まで試着はしていなかったが全員問題なく着ることができていた。
桐島たちが「カッケー‼︎」「これは女子たちからモテまくるぜ‼︎」「篠崎さんの愛情を感じる……」と、騒いでいる姿に呆れつつ、浩太もエヴァから服を受け取る。そして、渡された服を見て固まった。
「どうしたの浩太? 固まったりなんてして」
エヴァがそれは、それはもう愉快そうに話しかける。
「……冗談はこのぐらいにして、さ。早く服をくれないか」
「あら? 一体何が冗談なのかしら」
「いま俺の腕の中にあるメイド服のことだよ!」
浩太は、諸悪の根源であるエヴァを睨みつけながら叫んだ。
こんなことをするのは、エヴァしかいないという確信があった。現に本人もそれを認めるように、愉しそうに嗤っているではないか。
クッソこの合法ロリ吸血鬼がッ!
「俺にもちゃんと男子用の衣装をくれよ!」
「残念だけど買い出しの時点で、男子のものが一つなくてメイド服が一つ余分にあったのよ。買い直そうにも他にも買わなきゃいけないものはたくさんあって、予算がなかったの。だからこれは仕方のないことなのよ」
「くっ! なら俺は裏に引き篭もって調理をしてるから。わざわざ着る必要ないだろ」
「それはダメよ。ちゃんとローテションで役割を振ってあるし、何より女子に乱暴する人もいるかもだし守ってもらわないと」
「そのために、他にも男子を配置してるじゃないか」
「あら? あなた以上に心強いボディーガードがこのクラスにいるとでも?」
どんどん最もらしい理由を並べ立て、逃げ道を塞がれていく。
今日、この日を迎えてしまったことで、もはやどんな言葉の応酬を交わしても自分の不利が覆ることはない、と浩太は悟り始める。
こうなったら、もう逃げるしかない。
そう思考し、意識がエヴァから逸れる。逸れて、しまった。
「逃げることは許さん」
その致命的な隙を見逃すエヴァではない。
周りにいる生徒に怪しまれない程度に出力を抑えた瞬動で目の前に肉迫、肩を掴まれる。次いで、浩太の足を踏みつけることで機動力を奪った。
流れるような動作に周囲からおっー、と感嘆の声が漏れる。
耳元で底冷えするような声が響く。冷や汗が滝のように流れ、浩太は自分が釣り上げられた魚であり。もう逃げ場がないことを、理解した。
「黙って、大人しくこれを着ろ。でなければ――」
「な、何だよ」
「今後の修行は死ぬギリギリを攻める。死ぬか恥ずかしい思いをするか。二つに一つだ」
「――――着させていただきます」
それがトドメだった。
浩太は一切の抵抗を止めて、自らメイド服を着ることを選んだ。これ以上の抵抗は無意味であり、まだ死にたくはないのだ。大人しくエヴァに従うことで、延命するしかない。
今後揶揄われることや写真に収められるリスクが頭にチラつくが、それはもはや栓なき事だ。
諦観がこもりにこもった乾いた笑いが溢れる。同時に、瞳から何か光るものが流れ出るが、誰もそのことに触れることはしなかった。
「すごーい! え、本当に佐藤くんなの⁉︎」
「ええ、そうよ。私にかかればざっとこんなものよ」
「本当にすごいよ篠崎さん! もう男の子って最初に言われなかったら全然気付かないレベルだよ!」
(いや、それはそれで俺の男としての自信がなくなるんだが……)
女子たちに持て囃されて、まんざらでもない様子のエヴァがふふんと得意げに胸を逸らす。その拍子に豊満な胸が揺れ、男子たちからおおっ! と鼻息が荒くなり、興奮した声が上がった。
騙されるな男子。それは偽物だぞ。
(いや、しかし本当にすごいな。エヴァがやったからってのもあるけど、メイク一つでここまで変わるのか……)
ウィッグをつけることで髪はセミロングほどの長さ。顔も男子にしては小顔の部類に入るため、つけまつ毛やファンデーション、口紅を使って整えることで街行く人十人に聞いて十人が女性だと答えるほどの仕上がりだ。
目の前に置かれた化粧鏡に映る自分を見て、浩太は女子が騒ぐのも納得できるな、と首肯する。
「ほら、男子たちの感想も聞いてみましょう」
「いや、そんなの聞くまでもないだろ? さっきまで俺が女装させられているのを本人が目の前にいるのを憚らずに腹抱えて笑ったたんだぞ。俺が黒歴史晒して終わりだろ」
「さて、どうかしら」
エヴァは聞けばわかるわ、と浩太を立たせて振り返らせる。
するとどうだろうか。そこには、浩太の予想とは大きくかけ離れた光景が広がっているではないか。
振り返った浩太が見たのは、顔を赤らめてもじもじしたり、胸を押さえて崩れ落ちる男子たちだった。
状況が飲み込めず、呆然と立ち尽くす。
「……何だよ、その反応は」
「いや、その、な? 揶揄ってやる気満々だったんだが、思ってた以上にすごくてさ……」
「佐藤だって、わかってるはずなのに、一体何なんだこの胸の高鳴りは……」
「黒髪高身長スレンダーメイドとか俺の性癖にドストライク過ぎてヤバい。ヤバすぎる」
「はっ⁉︎ 佐藤は最初から男じゃなくて女だった、ってこと⁉︎」
「んなわけねーだろ! 生まれた時から男だわ!」
とち狂ったことを抜かし始めた男子たちに、なんとか状況を飲み込んだ浩太が怒鳴り返した。
「ね? 聞いてみないとわからないものでしょう」
「こんなことなら知りたくなかったよ……」
「まあ、正直私もここまでの出来に仕上げられるとは思わなかったわ。……本当は揶揄うつもりだったんだがな」
「おい、聞こえてるぞ」
何でもないわよ? と、エヴァは目を泳がせる。目は口ほどに物を言うとはよく言ったもので、動揺を隠しきれていない。むしろ、コイツ隠す気などないのではなかろうかと邪推してしまう。
このロリ吸血鬼、どうしてくれようか。――俺が料理当番の時はしばらくにんにくをふんだんに使った料理を出すことにしよう。それもマシマシで。
浩太はささやかな復讐を誓った。
「おや、これはこれはマドモアゼル。クラスの子、じゃないけれどどうしてここにいるのかな?」
野生の池崎が現れた!
「おっと、そうかそうか。君、僕に会いに来てくれたんだろう。いやー参ったなぁ。カッコ良すぎるのも罪、考えものーーおや、急に抱きついてくるなんて情熱的ーー」
「ふんっ!」
「グハッ⁉︎ な、何故……」
いまだ喋る池崎などお構いなしに、首元に腕を回して引き寄せ、無防備な腹へと膝蹴りを叩き込む!
浩太が繰り出した膝蹴りは、正確に鳩尾へとめり込み、池崎は苦悶の声を出しながら床へと崩れ落ちた。
「ハッ⁉︎ しまった。あまりの気持ち悪さについ膝が」
「問題ないよ佐藤くん。むしろ余計なことする前に対処できてよかったよ」
来店する人たちの目が届かないところに捨てといて―、と委員長が支持を飛ばし、男子たちが池崎を引き摺っていく。全員の池崎に対するあまりにもぞんざいな扱いには流石に同情こそしてしまうが、普段の行いが行いなので助ける気が起きなかった。
「待てよ? 池崎が死んだのなら奴が着ている衣装を俺が着れば――――」
「浩太と奴の背丈が違うから無理だぞ」
「ガッデム! そうだったよ。何でアイツは俺より身長が低いんだよ!」
「アイツ、165だものな。こうして考えると顔しかいいとこないな、マジで」
いや、本当にどう思い返してもアイツの良いところは顔以外出てこないな。顔以外も磨く努力をすればもう少し周りも態度を改めて――――無理か。ここまで酷い目にあっても、あのスタイルを崩さないのだからこれからも奴が改心することはないだろう。
朝から疲れることしかない。と浩太は深い溜息を漏らしたのだった。
――こうして、先行きに不安が残る学校祭がいま始まる。
・浩太
メイド服を着ることになった不憫な主人公。
今回の女装で新たな扉を少し開きかけている。
・エヴァ
浩太にメイド服を着させるために暗躍していたヒロイン。
思っていたよりも女装姿が様になってしまい、揶揄うに揶揄えなくなってしまった。
学校祭後の食事を泣きながら食べる未来が待っている。