アリシアさんのホグワーツ勤務録   作:ELK

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魔法陣魔法

 

教室のすぐ横に位置する私室で、だんだんと教室に生徒たちが集まり賑やかになっていく気配を感じながら、逸る気持ちを抑えて水の入ったコップを傾ける。

 

私の受け持つ魔法陣魔法の授業はルーン文字を扱う、なので履修できるのは選択科目をとる三年生からだ。従って私が教えるのは3年生〜7年生、同じく新任のロックハート先生よりもスケジュールには余裕があり初授業は2限目からだった。

 

いつも通りを心掛けようと特に急ぐ事もなく朝食を済ませて、教室を整えたりして過ごした。フリットウィック先生に話したように緊張は程よいもので、それを上回る楽しみに思う気持ちを鎮めるのに苦労したものだ。

 

1限目が終わる時刻になったことを確認して姿見の前に立つ。軽く払って服のシワを伸ばし、杖が腰のホルダーにあることを確認して、教科書を小脇に挟んだ。そして最後に鏡の中の自分と向き合って大きく深呼吸、キュッと口角を上げて笑みを浮かべて意識を切り替えた。

 

「よし、行きますか!」

 

教室に通じる扉を開け一直線に教壇に向かう。お喋りに勤しんでいた生徒たちは私を視界に入れると皆一様に口を閉じ、私がどんな人間なのだろうと好奇の目を向けてくる。それを隠そうとしない辺り青いと思いつつもそれは同時に可愛らしい。

 

「ここで君達は魔法陣魔法を学ぶ。ホグワーツに入って3年目の君達が覚え使えるようになった魔法は多いだろう。この先7年生まで今までのように学べば最終試験、そしてその先の就職には十分なはずだ。では魔法陣魔法を学ぶことにどんな意味があるのか。わかる人は?」

 

言葉を一度区切り、ゆっくりと生徒の顔を見渡していくとレイブンクローの男子生徒が手を挙げた。

 

「知識を得ることによって僕達の選択肢が広がるから、です」

 

発言を促すと自身の答えにイマイチ自信が持てないのか段々と声は窄んでいった。ハッキリ言ってこの問いに明確な答えはない。だが、これを意識しているかしていないかで得た知識が実になるかならないかで大きな差となる。

 

この場で自分の考えを述べることができた彼は及第点だ。

 

「良い答えだね。君、名前は?」

 

「ハロルド。ハロルド・マーク、3年です」

 

「ミスター・マーク、ありがとう。レイブンクローに5点」

 

隣の席の男子に軽く小突かれ小さく賞賛の言葉を貰い頬を緩ませていたハロルド・マークだったがすぐに授業中だということを思い出したようで友人を宥めて前に向き直った。

 

「魔法陣魔法は私達魔法族が杖を使い始める前から用いられて来た魔法。即ちこの学問を学ぶことは魔法族のルーツを辿ることと同じ」

 

現代の魔法族の弱点は杖がないと魔法が使えないこと、これはちょっとした誤解なのだ。その昔、魔法使いと魔女と呼ばれる者達は極少数だった。神秘の業として秘匿された魔法はその血族だけに伝えられた。誰もが使えたわけではない魔法という奇跡はいつしか杖を用いることによって魔法力を持つ者は誰もが扱える業となった。

 

その過程で魔法族が杖を所持することは当たり前となり杖を用いる魔法も発展した。だが、その華々しい発展とは逆に杖を用いない魔法は人々の記憶から置き去りにされた。その一つが魔法陣魔法だ。

 

失われた魔法も多いという。ホグワーツの創設者達の魔法が未だに解明されない理由の一つとされているのだ。

 

杖を用いることによって、それまで選ばれた者だけが使える奇跡の業だった魔法は広く民衆に広まった。杖を用いない魔法の存在は人々の記憶から忘れられていき、杖無くして魔法使用は不可能だという認識が広まった。

 

「君たちは今一度過去に立ち戻り、そこから違う道へと続く扉を開けるための鍵を手に入れる。そこからどうするかは君達次第だ」

 

過去にああしておけば良かったと思ったことはないだろうか。魔法陣魔法とは、現在から逆算して知識を蓄えその過去に立ち戻り新たな道を切り拓くものだ。その当時に見つからなかった道を未来の者が探すための道標なのだ。

 

「魔法族が歩めたかもしれない異なる未来を探す未開拓の学問だ。遅くなりましたが、今年度から一緒に勉強していくアリシア・フォードです、よろしく」

 

今じゃなくてもいい、全員でなくてもいい、いつか自分の世界を飛び出した時に少しでも私が伝えたかったことが心に残っていることを祈って。

 

 

 




ウィズリー双子がいるクラスで初授業にしようかと思ったけど、2人って秘密の部屋の時点で4年生だと気づき、楽しみは後にとっておくことにしました。

来年ハーマイオニーの睡眠時間が余計になくなってしまう、なんて考えていましたが彼女ならきっと乗り越えてくれますね。
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